★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版)   作:埴輪庭

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見舞い

 ◆

 

「おいおい、なんだよその(ツラ)は」

 

 君は苦笑しながら言った。

 

 君が煽っている相手はジミーである。通称シャブ漬けのジミーだ。下層居住区でケチな売人をやっているろくでもない屑で、君の悪友の一人である。悪友と表現する場合、本当に悪い奴は余りいないのだが、ジミーの場合は違法薬物売買人であるためにちゃんと悪い。

 

 ジミーの顔は控えめに言って潰れたトマトだった。

 

 左目の周囲が紫に腫れ上がり鼻筋は歪み唇の端が裂けている。首から下も大差ない。左腕は添え木で固定され胴体の包帯は所々赤い染みを滲ませていた。肋骨が三本折れたと本人は主張するが医者に診てもらったかと聞けば「金がもったいねえだろ」と返ってくる。金を惜しんで命を落とすなんて下層ではザラなのだが、それでもそういう阿呆が減らないのは金がなければ命を維持できないからだ。

 

 下層居住区のセクター5。ジミーのねぐらである安バラックの一室は不衛生極まっていた。壁には正体不明の染みが模様のようにこびりつき、ヤクの小包装(パケ)がそこここに転がっている。

 

 というかそもそもなぜ君がこんな所へやってきているかといえば、今朝方、ボブから端末に「ジミーがやられた」と連絡が入ったからだ。

 

「またやらかしたのか」程度に思っていたが現物を見ると中々に酷い。

 

「生きてて良かったじゃねえか」

 

「……いいや、死んでるね」

 

 ジミーは汚れたマットレスの上で唸った。痩せこけた体が包帯に巻かれて余計に貧相だ。前歯の不在は平常運転だが、奥歯にも欠員が増えたらしく笑うと歯茎の穴が覗く。

 

「で、何があったんだ?」

 

「ルードだよ。チンピラが三人来やがった」

 

 ジミーは体を起こそうとして顔を歪め、すぐに仰向けに戻る。

 

「俺は悪くねえンだ。ちょっとばかしブツを捌いてただけでよ」

 

「ちょっとばかしねえ」

 

「仕入れ値が異常に安かったんだよ。ゴッチのほうから流れてきたブツでな、いつもの半額以下だ。こりゃいい商売になるぜと思って客を何人か集めたら──」

 

「取引の現場を踏み込まれた」

 

「……そうだよ」

 

 ジミーは曲がった鼻を啜った。

 

「客は散り散りに逃げやがって俺だけ残された。金もブツも持ってかれた挙句にこのザマだ」

 

「おいおい、らしくねえなあ。安すぎるブツには安い理由がある──お前が自分で言ってたセリフだろ」

 

 ジミーは口を開いたが何も出てこなかった。自分の金言で殴り返されると反論のしようがない。天井を睨んでから「まあ……そうだけどよ」と消え入るように呟く。

 

「ケージ。最近の下層はマジでヤバいんだ」

 

「ヤバいってのは? いつもヤバいだろ。一番ヤバかったのは汚染区域の火事だったっけなあ。有毒ガスで何百人もくたばった」

 

「まあそこまでではないけどよ、ゴッチの上の方──幹部連中がやたらとブツを安値で流してんだよ。ルードの客を根こそぎ奪うつもりらしいがな。で、それを買った客や末端の売人をルードが片っ端から潰して回ってる」

 

 ジミーが咳き込んだ。肋骨に響いたのだろう、涙目になって毒づく。

 

「抗争の巻き添えなんざ下層じゃ日常茶飯事だが、今回は無差別なンだよ。ブツを持ってる奴は誰であろうと殴られるか(バラ)される。売人も客も関係ねえ」

 

『補足します。直近二週間でC66下層居住区における暴力事案の通報件数は前月比で三・二倍に増加しています。セクター四からセクター七に集中しており、ゴッチ・ファミリーとルード・ファミリーの縄張り境界に一致します』

 

 ミラが肩口から口を出した。ジミーはミラを一瞥して鼻を鳴らす。

 

「お前んとこのガイドボットは相変わらず物知りだな」

 

「聞いてないことまで教えてくるのが日課だよ」

 

「いいガイドボットじゃねえか。……あと水くれ」

 

 君はジミーの枕元に転がっていた水筒を手渡した。中身は水ではなく安い蒸留酒である。

 

 飲料に適した水というのは下層では案外貴重品なのだ。

 

 ◆

 

 ジミーのねぐらを出た後、ザッパーに通信を入れた。

 

「よう。今日も護衛か」

 

「はい。アロンソと組の倉庫にいます。取引の護衛をしていました」

 

 ザッパーの声はいつもと変わらない。

 

「最近どうだ」

 

「接触が増えていますね」

 

「接触?」

 

「護衛中の襲撃です。先週は四回。その前の週は二回でしたから倍です」

 

 四回。先週だけで四回。

 

「怪我は?」

 

「していません。ただ、狙われているのはアロンソだけではないようです。ゴッチ・ファミリーの幹部が軒並み狙われている様ですね」

 

「ルードの総攻撃か」

 

「そのようです」

 

「そうかい……まあ、気をつけろよ。やばかったらフケちまえ」

 

「ええ、そうします。彼らの為に命を懸けても仕方ありませんから。ただ、あなたの方ももし誰かに狙われているようなら教えてください。命を懸けるならばあなたの為に懸けたいですから」

 

 そういってザッパーは通信を切った。

 

 君はといえば、「むむむ」と変な呻き声を漏らして端末をにらみつけるばかりである。

 

『ケージ、心拍数が微増しましたね』

 

「おう……」

 

 君の返答は冴えない。

 

 

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