★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版) 作:埴輪庭
◆
「で、おたくらは何なンだい?」
通話を切った後、君はゆっくりと背後を振り返った。視線の先には如何にもガラの悪いチンピラが二人、ヒヒヒだとかグフフだとかいう声が聞こえてきそうな不穏な笑みを浮かべて立っていた。まごう事なきモブである。
『データ照合。ケージ、彼らはルード・ファミリーの構成員です。名前と経歴は省略します。目的は──』
「いや、いいぜ。なるほどな、俺に
君は勘弁してくれよと言いながらチラと背後──元々進もうと思っていた方向を確認する。するとそっちにも何人かの人影があった。すでに回り込まれている様だ。
「逃げられねえぜ兄さん。まあでも俺たちの事は分かっている様だから用件を伝えておく。兄さん次第では無傷で済むかもな」
「用件ってのは何だい? 金ならないぜ」
「別にタカろうって気はないさ。なに、あんたの女について話がある」
チンピラが言うところによれば、要するにザッパーが邪魔だと言う事だった。
「うちの連中も随分やられちまってよ、逆にゴッチの連中から身代金を要求されてる始末なんだ。殺ってくれたほうが楽だってのになぁ」
「ふぅん」
君は軽く相槌をうち──。
膝が沈んだ。
サイバネ脚部のリニアアクチュエータが最大出力を瞬時に立ち上げ、人工筋線維が短縮側へ収縮する。ヒトの大腿四頭筋が出力するピークパワーの十数倍が、君の踵から地面に叩きつけられた。
次の瞬間、君の体は宙空に飛び出していた。
「あ?」
チンピラの間抜けな声が下方に置き去りにされる。
眼前にバラック小屋の波板屋根が迫る。
高さにして五メートル弱。一般的なアースタイプには到底届かない高度であり、しかしサイバネ全身改造済みの君にはせいぜい玄関先の段差程度の話だ。錆の浮いた波板の縁を右手で掴み、その勢いをそのまま回転に変換し、靴底を屋根の上に叩きつける。
ガシャン、と鈍い金属音が下層居住区の天井裏に短く響いた。
次の踏切に入っている。
屋根は終点ではなく中継点だ。
目線の先、二メートル隔てた向こう側に、煤けた雑居ビルの壁面がそびえている。窓は鉄格子、外壁は剥き出しのコンクリート。築年数は分からないが下層に新しい建物などないので、まあ古い。
屋根を蹴った君の体は二メートルの空隙を斜めに切り裂き、つま先からビル壁面を蹴り込み、抉る。
その部分を足場として、膝と腰のアクチュエータを連動させて二回目の踏切に入る。
壁面を駆けるというより、壁面に階段を彫りながら登っていると表現したほうが正確かも知れない。
「おいてめぇ──!」
下方からチンピラの怒声。
声を無視して君は壁を蹴る。蹴る。蹴る──。
◆
「まあざっとこんなもんだな」
君はとあるビルの屋上で煙草をふかしながら、地上の様子を眺めていた。八階建てのビルの屋上からなのだが君の視力は便利な可変型だ。最大八百倍の倍率で物を見る事ができる。ちなみに倍率操作はセミ・オートだ。君がどこまで遠くを見ようとするかによって自動で補正される。
『実力行使で状況を打開するよりも賢い選択です』
そんなミラの言葉に君は鼻を鳴らす。
「実力行使? とんでもない、俺は平和主義なんだぜ」
これは半分嘘で、ただ面倒くさいだけだ。まあ命を懸けるべきシーンなんかじゃないだとか、喧嘩したって得るものなんぞないとか、逆恨みされると面倒だから殺るのが一番だけどザッパーになるべく殺すななんていって自分がホイホイ殺っていたらどうなんだとか色々あるのだが、それらを総じて「面倒くさい」に落ち着いたわけではあるが。
それにしてもな、と君は軽くため息をついて端末を眺めた。
下層居住区のゴタゴタは思っていたより規模が大きいものになりそうだった。
というのも、ゴッチ・ファミリーのボスであるドン・エゼキエルが殺されたと通信が入っていたからだ。送り主はザッパーで、アロンソの何度目かの護衛成功の後にアロンソ自身から聞かされたらしい。