★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版)   作:埴輪庭

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鋼の愛

 ◆

 

 ヴェンデッタが新ボスを名乗ってから、ルード・ファミリー優勢だった抗争が、双方向の真っ当な殺し合いに変わった。

 

 ゴッチ・ファミリーが反撃に出たのだ。やり方がとにかく派手だった。暗殺などという女子供が好きそうな手は使わない。カチこんで、ぶち殺す──サーチ&キルである。ルードの密売拠点が立て続けに吹き飛び、その夜のうちに幹部の一人が自宅の玄関先で蜂の巣にされるのだ。

 

 とはいえ、組織としての地力でいえば両者の差はそれほど開いていない。そしてルード・ファミリーの連中も黙って殺されてはいなかった。ちなみに彼らのお家芸は刺客を送り込む事だ。

 

 ボスであるドン・コルネオはどういうわけか()()()()()の伝手が豊富で、他のファミリーよりも多くの暗殺者を支度できる。というわけでドン・コルネオは自身の伝手を最大限に活かしてデンジャラスでバイオレンスな連中を集めに集めたのだが──。

 

 ・

 ・

 ・

 

「どういう事だ! なぜこれしか集まらんのだ!」

 

 禿頭の肥えた男──ドン・コルネオが分厚い木製の豪奢なテーブルを力任せに叩いた。指の輪に嵌まった宝石が安物の照明をぎらりと弾く。ドン・コルネオのお気に入りの宝石である。天然ものではないが、硬度はダイアモンド以上だ。この指輪を嵌めたナックルで気に食わない奴をぶん殴ると、大抵死ぬか重傷を負う。ドン・コルネオは泡を吹いて痙攣しつつ失禁する犠牲者を見るのが大好きな粋な男であった。

 

 卓を挟んで縮こまっているのはジェフリーという側近である。如何にも三下といった風情のチンピラだ。従順であるという以外に長所がない典型的な弱者男性である。

 

「だ、旦那、集めようとはしたんで。しましたとも。けど……船が、来ねぇんでさ」

 

「船? 俺は船を呼べと言ったか。殺しの専門家を呼べと言ったんだ」

 

「その専門家が乗ってくる船が、来ねぇんで。腕の立つのは皆、外から流れてくるもんでしょう。その流れがぱったりと」

 

「金を積め。屑など金を積めば寄ってくる。屑とはそういう生き物だ」

 

「積みました。三倍まで触れも回した。なのに先方が渋るんで」

 

「ちっ……消失事故の件か。御時世だと抜かすつもりか」

 

 コルネオは二本目の葡萄酒の壜を掴み、壁へ叩きつけた。壜でジェフリーの脳天をカチ割らなかったのは、昨今の船舶消失事故──あるいは事件の事をドン・コルネオも知っているからである。どうしようもない理由で部下の頭をブチ砕いても仕方がない。

 

 それより、彼にはどうにも気に食わない事がもう一つあった。

 

「……ジェフリー。一つ訊くがな。ゴッチのところは、ブラスターのパックをどう回しとる」

 

「パック、ですかい?」

 

「連中、湯水のように使いおって……どこぞから仕入れているに違いないが、尻尾がつかめん」

 

 この時代、この世界の銃器といえば一般的にはブラスターを指す。銃弾ではなく、高エネルギーの光弾やプラズマビームを発射して標的を撃ち抜く武器だ。出力を調整することで相手を麻痺させたり、あるいは殺傷したりできる便利な武器である。原理としては、高エネルギーのガスを発火させてプラズマへ転化させ、それを撃ち出すというものだ。ただ、発火にはエネルギーセルという──まあ、電池のようなものが必要で、これは消耗品となっている。

 

「エネルギーセルは軍事用品だ。ココでも手に入れる事はできるが、それは伝手を持っている連中だけだ。しかしそういう連中については儂らが目を光らせている。なのに連中はどこからかセルを仕入れている……おのれ……ッ」

 

 ルード・ファミリーが備蓄しているエネルギーセルにも限りがある。それが枯渇すれば、次は前次代よろしくナイフだの素手だので戦わねばならない。それではとても勝ち目などない事くらいはドン・コルネオにも理解できていた。

 

 ならばゴッチ・ファミリーへのセルの供給元を潰せばいいのだが、その供給元が分からないのだ。

 

「ええい! とにかく調べを入れろ! 人員をもっと注ぎ込め!」

 

「へ、へい!」

 

 と、まあそんな調子で少しずつ戦況はゴッチ・ファミリー優勢へと傾いていったのである。

 

 ◆

 

 ところ変わって──。

 

「金属の生き物が、甲殻害虫(ガリガリ)に食われたらどんな音が鳴るんだろうね。鉄を齧る歯がお前みたいなのを齧ったら。聞いてみたいものだねぇ」

 

 嗜虐的な声が響く。

 

 ここは倉庫だ。処刑倉庫、拷問倉庫──まあ呼び方はなんでもいい。元々は武器庫として使われていたが、いまではヴェンデッタが捕虜を拷問する空間としても使われている。そんな物騒な場所で今、二人の女が対峙していた。

 

 一人は無論、ヴェンデッタ。もう一人はザッパーである。端的に言えば、二人は今揉めているのだ。ヴェンデッタの言葉に対し、ザッパーは一貫して沈黙しつづけている。隣にはアロンソが気まずそうに突っ立っていた。

 

「何とか言ったらどうだ? そもそも、そんな意地を張るような事でもないだろう」

 

 ザッパーはアロンソの護衛ではなく、ゴッチ・ファミリーの刺客として働けという命令を拒否していた。

 

「おい!」

 

 苛立ったヴェンデッタが声を荒らげる。

 

 ザッパーは不承不承と言ったていで答えた。

 

「何度言われても、私からの回答はNOです。アロンソ氏の護衛が私の仕事であり、暗殺働きはしません」

 

「アロンソにお前を解雇させる。その上で雇い直す。それならいいだろう」

 

「いいえ、その場合も同じです。アロンソ氏の護衛を解任されても、私があなたに雇われる事はないでしょう」

 

 そう、ザッパーはもう進んで殺しをするつもりはもう無かった。慈悲の精神に目覚めたわけではない。基本的にメタノイドの精神は平坦で、どこか昆虫めいたモノがあるのだ。目的を重視・優先し、それを達成するための手段は選ばない側面が彼女にはある。まあ一般的なメタノイドよりは多少はザッパーのほうが感情豊かではあるが……。

 

 そも、暗殺業などというものに手を染めていたのも、手っ取り早く金を得るためであった。メタノイドはその生態から食費がバカ高くつくのだ。

 

 だが今の彼女の()()は金にはない。

 

 金より価値のあるモノを彼女は見つけ、それを損ねないために殺しは控えている。

 




なれそめ
「鋼の恋」
https://syosetu.org/novel/330575/69.html
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