★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版) 作:埴輪庭
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レイフォル・オリビア・サクラという女がいる。絶世の美女である。
ヴェンデッタの母親であり、故ドン・エゼキエル──ゴッチ・ファミリーのボス──の妻であり、そして惑星開拓事業団惑星C66支社の幹部社員である。
開拓事業団の幹部とマフィアが
だがサクラはヤッた。
そして堕とした──ドン・エゼキエルを。
理由は簡単だ。一言で言えば欲ずくである。
ドン・エゼキエルは相当に大きなマフィアのボスであり、下層居住区に対して大きく幅を利かせている。その力を制御する事が出来れば、開拓事業団にとっては非常に大きな利となる。
もっとも治安維持義務などというものは、看板に書かれているほど高尚な代物ではない。
連合政府が開拓惑星の治安を測る物差しは数字だけだ。年次報告に並ぶのは発生件数と検挙率と死亡者数であり、その数字がどういう経路を辿って出来上がったのかを問う者は一人もいない。下層居住区の犯罪発生率は中層のおよそ四十七倍とされているが、これは通報を基にした統計に過ぎない。通報されなかった事件は存在しない。存在しない事件は数字にならない。
であるならば治安を良くする最も安上がりな方法は、住民に通報させない事である。
そして下層において通報を握り潰せるのは警備局ではなくマフィアだ。揉め事は翌日には片がつく。ただし対価として貸しが生まれ、貸しは利子を産み、利子はまた次の揉め事を孵す。搾取ではあるが機能はしている。機能しているものを潰す理由など行政のどこを探しても出てこない。
サクラはそこに目をつけた。
下層居住区の住民の多くは財を持たないが、数だけは多い。この数が重要なのだ。彼女は多くの企業とコネクションを持っているが、いくつかの企業は非人道的な実験を必要とする革新的な技術開発にいそしんでいる。そういった企業に安定して
ならば下層居住区のゴミ共ならどうだろう。
それも問題ゼロというわけにはいかない。彼らには最低限の人権しか与えられていないが、それでも人権らしきものがないわけではない。
むやみやたらに人が消えれば、必ず騒ぎになる。下層居住区の人間を管理する者──マフィア──が騒ぎ立てるだろう。そうなれば治安のさらなる悪化は避けられず、場合によっては暴動になるかもしれない。
そうなれば連合政府、いや、惑星開拓事業団本部から問題視されるだろう。
ならば管理者をくわえこめばどうだろうか。
サクラはそう考えた。
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ところで、彼女はいわゆる絶世の美女である。
ただ、その美は造られた美だ。
骨格から皮下組織から声帯の共鳴特性に至るまで、サクラは自分の肉体を一度残らず解体して組み直している。一度ではない。上層の美容外科が扱う最高級の術式は施術一回あたり下層民の生涯賃金を軽く超えるうえ、効果は永続しない。数年ごとに再施術が要る。維持費という言葉があるが、この場合はもう少し即物的に燃料費と呼んだほうが正確だろう。
ちなみにサクラは今年で七十になる。
見た目は二十代の後半で通っている。五十を目前にして娘を産んだ女が、それから二十年以上を経た今もなお当時より若い顔で歩いているというのは、要するにそういう金の使い方をしてきたという事だ。
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時に、ドン・エゼキエルが下層の玉座に座って十年目の事であった。
玉座というのは座り心地が悪い。十年も座っていれば尻の形が変わる。当時四十を幾つか過ぎていたこの男は、自分の帝国が既に完成してしまった事に薄々気づいていた。敵は残らず片づいた。縄張りは広がるだけ広がった。あとは死ぬまで同じ椅子に座って、同じ報告を聞いて、同じ酒を飲むだけである。
完成というのは行き止まりの別名だ。
そこへ上層から女が降りてきた。
エゼキエルは恋に落ちたのだと信じていた。実際に起きていたのはサクラによる強度の洗脳なのだが。
そして、子が出来た。
ドン・エゼキエルがサクラをレイプしたとかそういう事ではない。計画妊娠というやつだ。サクラは意図的にドン・エゼキエルを咥えこんだ。
サクラは娘を産むと、そのまま下層に置いていった。理由は簡単で、ドン・エゼキエルに対してのある種の楔である。子供──ヴェンデッタはドン・エゼキエルにとってサクラとの愛の証であり、証があるうちはサクラの影響力がドン・エゼキエルに及ぶという計算である。
まあサクラはヴェンデッタを育てはしなかったが。抱きもしなかった。年に一度、成長の記録だけが端末に届く様に手配し、その記録に目を通すだけであった。
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そんなある日、ドン・エゼキエルは自身の「欲」を自覚した。彼がサクラに要求したのは金でも縄張りでも上層の利権でもなかった。
娘の認知である。
ヴェンデッタを自分とサクラの子として公に披露し、ゴッチ・ファミリーの正統な後継として据えたいと思うようになったのだ。
もとより娘として公にはしていたが、後継者としては考えていなかった。まず幹部たちが了承しないからだ。欲も悪くも古き良き──いや、悪き昔ながらのマフィアめいた気質の幹部たちは、女が自分の上に立つことを良しとしなかったし、その親の片割れが開拓事業団の幹部なんて事が明らかになれば反発は明白である。
昔ながらのワルにとって、体制側はどこまでも
ドン・エゼキエルもその辺の理屈は理解しており、だからこそ後継者としては考えていなかったが……老いて考えを変えた。
自身の生きた証、愛の証を世に認めてもらいたい、娘に玉座を、栄光を与えたい──そんな親としての愛情が発露してしまったのである。
しかしサクラにとってはとんでもない話だ。
だが彼女は夫を説得しなかった。
説得より遥かに手っ取り早い方法があったから。
処理は速やかに行われた。
対外的に