★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版)   作:埴輪庭

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23.惑星U101④

 ◆

 

 居住適正ランクがB。これが意味する所は、人類の新たな生存圏として必要十分な環境を有する "可能性がある" という事だ。

 

 即ち安全を意味する訳ではない。

 

 この惑星の場合、危険の予兆は空に顕れる。

 

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「おい、何か音がしねえか?」

 

 ペルリスタイプの男、ジリが問う。

 

 アースタイプの女、トキコは怪訝な表情を浮かべながらも周囲に耳を澄ませた。

 

 確かに音がする。

 

 腹に響くような低い音で、それは巨獣の唸り声にも似ていた。

 

 しかし音の出所がいまいち掴めない。

 

 周辺の何処かから音が響いている様でもあるし、極端な話だが星全体に響き渡っている様でもある。

 

「確かに何か聞こえるけど、どこから聞こえるのか……っ!」

 

 不意にトキコの頭部がまるで銃撃を受けたかの様に跳ね上がった。

 

「おい、ブス……トキコ、どうした。何処を見て……なんだぁ、ありゃあ!?」

 

 ジリが叫ぶ。

 

 空だ。

 

 空が、渦を巻いている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

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「嫌な予感がするぜ……おい、ここを離れるぞ!」

 

 ジリの声色からは焦燥の()えた匂いが立ち込め、大気に薄っすらと溶け込んでいった。

 

 危機に際してこの様な態度は悪手である。

 

 焦燥という微毒まじりの大気はたちまち周囲に拡散し、その場にいる者に伝播するのだ。

 

 トキコもまたこの毒にやられたか、瞳に分厚い憂いの雲がかかる。

 

 しかしまだ冷静さを全て失ってはいないのか、トキコは荒々しい口調でジリに言い返した。

 

「離れるって……パオロはどうするんだい!?それにこんな草原の真ん中でどこへ行こうっていうのさ!」

 

 トキコが不安そうに上空を見上げると、渦の規模はますます拡大している。

 

 ジリは忌々しそうな目でキリコを睨みつけ、ぶるりと一度大きく震えた。

 

 もよおしてきたわけではない。

 

 気温が下がってきているのだ。

 

 ◆

 

 その頃君は、速度を片時も落とす事なく草原を疾走していた。

 

 胸中で膨れ上がっていく "良くない感じ" に急き立てられる様にして足を動かし続けており、片時も休む事はなかった。

 

 君はチーター以上の速度で、光源さえ十分ならばそれこそ一日でも二日でも、なんだったら一週間でも走り続けられる。

 

 走れば走るほど "良くない感じ" が小さく、薄くなっていくような気がしていた。

 

 これはアレに似ているな、と君は思う。

 

 借金だ。

 

 方々からの借金。

 

 そこからしからの借金を放置した結果、コミュニティからの排斥の気運が高まりつつある時のアレである。

 

 要するに、こいつは言っても返さないからぶっ殺しちゃって債権者で財産を山分けしない?金目の物がないならブローカーにうっぱらって人身代をわけよう……というとても合理的な思考からなる気運である。

 

【挿絵表示】

 

 君の知っている者で、この憂き目にあった者の数は一人や二人ではなかった。生きているものなどいやしない、皆が皆、碌でもない末路を遂げている。

 

 ──だから俺はあれ以来、借りた金は返すようにしてるんだ。ま、結局こんな体になっちまったけれどな

 

 そう、君はなぜか "あの時" 、勝負をしなければいけないような気がしていたのだ。大勝負、人生を賭けた大勝負なのだと本気で思っていた。

 

 結句、散々な大敗北を喫したが。

 

 君の勘も、持ち前の悪運の強さも、あの時ばかりは君を助けてはくれなかった。

 

 ──まあいいさ、過去の事は過去の事だ。過去、俺はクソみたいな暮らしをしていた。つまらない詐欺、つまらない売人みたいな仕事で小銭を貯め込んだが、それじゃあ人生が変わらないって分かってた。でも人生を変える大勝負を受けるチャンスが来た。その時に俺の脳みそがビリビリしたんだ。この話を受けるべきだってね。そしてこんな体になった。オーケー?

 

 全然OKじゃねえよ、と自身に突っ込みつつも足は休めない。

 

 その時、胸に抱くドエムがピーガーと何かを言った。

 

「え。もう少しで目的地だって?オッケー、ついたら教えてくれ、ありがとう。それにしても変な音がするな。空からか?よくわからねぇな」

 

 君の独り言にビガガガと応じるドエム。相変わらず君以外の者には何を言っているか全くわからない。

 

「え、ああやっぱり空から?なんだか感覚が狂うぜ、空に海があるみたいだ」

 

 と言っても君は海がどういうものか、デジタル情報でしか知らないのだが。

 

 ◆

 

 ジリの視線が空に釘付けになった。

 

 ──あれは、なんだ?

 

 空が墜ちてくる様にジリには見えた。

 

 胸に広がる不安の黒雲が急速に膨れ上がっていく。

 

【挿絵表示】

 

 ジリとトキコは何か言葉を発する余裕もなく、神話の世界にしか存在しないような巨人がその蒼い剛腕で地表を殴りつけた様な光景が広がる。

 

 もの凄い音と共に爆発的な衝撃波が広がった。

 

 水の塊が地表に打ち付けられた衝撃は、周囲の土砂を巻き上げ、草木を根こそぎにし、周辺の地形を一変させるほどの物だった。

 

 ジリ、トキコ、そしてパオロは何が起こったのか理解する間もなく、大地の染みとなり、その染みすらもが衝撃波によって吹き飛ばされる。

 

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 この惑星を覆う水の膜は常に安定しているわけではない。

 

 当然荒れる事もある。

 

 局所的に水の膜が分厚くなったり、膜から剥がれ落ちたりする。

 

 水蒸気の循環が大きく変動し、物理的な破壊力を伴う程の激しい降雨が起きたりもする。

 

 後に「Caelum Vortexs」(カエルム・ヴォルテクス)と名付けられたその恐るべき気象現象は、惑星開拓事業団のこの星への入植計画を頓挫させた。

 

 だがしかし、この現象は惑星の全域で発生するわけではない。竜巻などが一定の状況下でしか発生しないように、Caelum Vortexsも発生しやすい地域としづらい地域がある。

 

 例えばジリ達が探索を終えた地域では "剥がれ落ち" などは発生しない。

 

 それこそ都合よくと言ってはおかしな話だが、彼等三名がCaelum Vortexsの発生しづらい地域で、しかも "剥がれ落ち" にピンポイントで圧殺される様な事などは天文学的な確率といっていいだろう。

 

 君は以前から運が良かった。

 

 ただ運にも種類があり、素直なものとひねくれたものが存在する。

 

 君の場合は後者であるのかもしれない……

 

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