★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版)   作:埴輪庭

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6.遊星X015⑥

 ◆

 

 君は人差し指で小型レーザースライサーのトリガーを押し込んだ。

 

 細く、青白いレーザーが青紫の肉へ照射される。

 

『ブロック大に切り取って下さい』

 

 ヘルメット内部の通信装置から聞こえるミラの指示に頷き、君は慎重にレーザースライサーを操作した。

 

 ビームの接触点では照射された部分が強烈な熱で加熱され、焼き切れていく。そしてその過程で蒸着が発生し、霧状のガスが周囲に向かって拡散していった。

 

 ── "バイト" を思い出すなあ

 

 下層居住区(スラム)には様々なバイトがある。

 

 例えば叩き(強盗)、例えば返し(復讐)、例えばガジり(恐喝)

 

 まあ大体ろくでもない非合法のバイトなのだが、君も下層居住区(スラム)のダニの一員として、多少は手を汚した事もある。

 

 といっても暴力的なバイトではなく、バラし(死体処理)だ。

 

 内容は字面通り。

 

 様々な理由によりくたばってしまったスラム住民の死骸を、オーダーに応じて解体していくといったものである。

 

 君の得意な仕事はこすっからい詐欺なのだが、言うまでもなく詐欺には相手が必要だ。

 

 手頃なカモが見つからない時、君はこうした "バイト" に手を染める事が多々あった。

 

 遊星X015の表面に盛り上がる肉を切り取っていた君の脳裏に、当時の記憶が蘇っていく。

 

 ・

 ・

 ・

 

 §

 

 下層居住区(スラム)は、大まかにAからEの5つの区画に分けられている。

 

 A地区は中層居住区に最も近く、そのため比較的治安が良い。

 

 そこからB、C……といくにしたがって悪い意味でスラムらしくなり、E地区に至っては無法地区といって差支えない。

 

 "バイト" の多くはD地区かE地区で目論まれるか、あるいは実行される。

 

 バラし(死体処理)などは非合法な仕事の中でも比較的マシな方であるので、D地区で行われる事が多い。

 

「ええと、 "オーダー" は確か顔を潰して四肢を切り落とすんだったかな? そしてキンタマを切り取って口の中に突っ込む、と」

 

 D地区の一画にある廃工場で、君はそんな物騒な事をいいながら作業に励んでいた。

 

 君の目の前に横たわる哀れな遺体はドミニクと言う中年男だ。

 

 大柄な体躯、浅黒い肌。皮膚の表面に刻まれた幾つもの細かい傷からは、濃密な暴力の匂いが香り立つ。

 

 "暴力" は焦げた鉄の匂いがする。

 

 それは煤けた街の路地裏で火花を散らすナイフの刃と、急速に冷え固まる血液の匂いが混じり合ったような、生と死の境界線をなぞる鋭い香りだ。

 

 暴力のハードルは最初こそ高いが、馴染んでいくうちに低くなっていく。しかし馴染めば馴染むほどに、体と心からは暴力の香りが漂ってくるのだ。

 

 そしてその香りは不幸を呼び寄せる。

 

 ドミニクは朝の挨拶代わりにその太い腕からパンチを繰り出し、哀れな犠牲者の頭をへこませてしまうというような事を繰り返していた。

 

 だがある日、この男が殺めた者の中にそれなりの規模を誇る組織の構成員がいたことでドミニクの命運は尽きる。

 

 結句、最期はこの様だ。

 

 娼婦を抱いていい気分で眠った夜、ドミニクは二度と目覚めない眠りについた。その娼婦は(くだん)の組織が雇った殺し屋だったのだ。眠っている彼の喉を掻っ切って夜の闇に消えていった。

 

 "オーダー" は見せしめの意味も兼ねて、組織が出したものである。

 

 鋸をひいてドミニクの四肢を切り落としながら君は「ハァ」と湿気たため息をついた。

 

 暴力の循環が生み出したこの末路に対して、ただただむなしかったのだ。

 

「馬鹿な男だぜ」と君は思うが、同時にドミニクの哀れな末路は自分のそれであるかもしれない。

 

 そう思うと心底しょうもない気分になってしまった。

 

 君はふと外に目を向けた。

 

 廃工場の外に広がるのは荒れ果てたD地区の風景だ。

 

 壊れた窓ガラス、さびついた鉄骨、積み上げられたゴミの山々。

 

 空は舞い上がる汚染物質だかなにかで常に灰色のヴェールで覆われていて辛気臭い。

 

 ここに生きる人々も、ドミニクも、そして君自身も。

 

 きっと皆ここから抜け出したいと願っているのだろうが──……

 

「まあ無理だよなあ」

 

 諦念の苦味が口中に広がり、君はぺっと唾を吐いて再び作業へと戻った。

 

 §

 

「抜け出したんだなぁ!」

 

 レーザースライサーで紫肉を切り刻んでいた君は、ヘルメットの内側で突然叫び出す。

 

『どうしましたか? ケージ』

 

 君の周囲を浮遊し、作業を確認していたミラが通信をよこしてくる。

 

「あ、悪い。ちょっと昔を思い出してね。俺はさ、前からちゃんとした仕事をしたいって思ってたんだけど、目標の一つが叶ったなぁってさ」

 

 君がそう言うと、僅かな沈黙の後にこんな言葉が返ってきた。

 

『"ちゃんとした仕事" がどういうものかは個々人の判断基準によります、ケージ。あなたがこの作業をちゃんとした仕事だと思うなら、きっとそうなのでしょう。さあ、作業に集中しましょうね』

 

 ──────────────────────────────────

 

 ・下層居住区(スラム).A地区

 

【挿絵表示】

 

 スラムでも比較的マシな地域。中層居住区で生活が成り立たなくなった者が住民の多くを占める。とはいえ底辺の中では多少はマシという程度で、「生き地獄の世界」が「生き苦しい世界」へ変わったに過ぎないが、少なくとも理不尽に殺される可能性は比較的小さいだろう。

 

 

 ・下層居住区(スラム).B地区

 

【挿絵表示】

 

 通称『商店街』。基本的には低品質で合法の、時には非合法の品が手に入る。惑星C66管理政府から商業区画の認可を受けているわけではなく、たまたま商いを生業とする者たちが集まり形成された区画。君がたまに利用する中古品店"セコハン・クローズ"(『惑星C66、準備よし』参照)もこの区画にある。区画の性質上、揉め事はご法度という暗黙の了解がある。

 

 ・ドミニク

 

【挿絵表示】

 

 クソ野郎。

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