★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版)   作:埴輪庭

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12.惑星C66、マッチング・システム②

 ◆

 

「理解はしたけどさぁ」と君ははっきりしない様子で言う。

 

 確かにもっと効率的に大金を稼げれば、生身の体を取り戻す目標にも近づけるだろう。

 

 しかし君には命がけの現場で見知らぬ相手と仕事をすることには抵抗があった。

 

 君は過去に合法、非合法を問わず様々な仕事を経験してきたが、その経験から仕事をする上で何が一番厄介かを知っているのだ。

 

 それは仕事の内容よりも人間関係である。

 

 君はアルヴィ・フィッシャーという男の事を思い出す。

 

 君とアルヴィは建物の解体作業の現場で知り合った。

 

 見た目はただの初老の男だ。賽を振るのが好きで、すぐに素寒貧になってしまい、時々日払いの現場に出ている。下層居住区では真っ当な仕事もないわけではない。

 

 その何ともしょうもない生きざまが君の琴線に触れたのか、アルヴィと君はそれなりに意気投合した。

 

 しかし、生まれるかもしれなかった友情はついぞ花開く事はなく、枯れ落ちる。

 

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 ある日の現場の話だ。

 

「おい! アルヴィのおっさん! なにしてんだ!」

 

 君が叫んだ。

 

 視線の先にはキマった目をしたアルヴィが、口元を朱に染めてにやついていた。

 

 足元には現場監督のアースタイプの男が倒れている……首元から血を盛大に流しながら。

 

 くっちゃくっちゃと咀嚼音が現場に響いていた。

 

 ──喰ってやがる

 

 君は嫌悪感の蟻が全身を這うような感を覚えた。

 

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 アルヴィ・フィッシャー……彼には忌むべき嗜好があった。

 

 彼はレイプや殺人を好まないが、どうしても拭い去れない異常な嗜好があったのだ。

 

 それは食人だ。

 

 君とアルヴィは似た境遇だ。

 

 君は路地裏に捨てられていたが、アルヴィもまた同じだった。

 

 しかし、君が物好きなスラムの住人に拾われたのと違い、アルヴィはそのまま路地裏で育った。

 

 だが、無力な赤子が下層居住区で一刻と生きていられるものだろうか? 

 

 通常、そんな事は考えられない。

 

 神という神が、あらんかぎりの贔屓をしてやっとという所だろう。

 

 しかし無力でなかったら? 

 

 アルヴィは何でも食べた。

 

 土でも、石くれでも、腐った残飯でもなんでもだ。

 

 そして、それらをエネルギーにしてしまうだけの消化能力もあった。

 

 この通常のアースタイプには存在しない特殊な体質は、遺伝子の歪みによって齎されたものだ。

 

 そう、アルヴィは遺伝子工学の犠牲者である。

 

 地球政府はかつて「ウルトラ・ヒューマン・プロジェクト」と呼ばれる計画を進めていた。

 

 それは遺伝子設計の段階から、より優れた免疫耐性や肉体機能を備えた進化した人間を人工的に創出する試みだった。

 

 当然、そんな改良は一朝一夕に行えるものではない。

 

 ヒトゲノムの解析自体は宇宙時代に入る前にほぼ完成していたとはいえ、人を根本から変えるような行為には膨大な時間が必要だった。

 

 時には遺伝子の微妙な歪みが生じることもあった。

 

 パッケージ上は問題ないように見えても、成長するにつれて何か異常が現れることも多かった。

 

 例えば、成長と共に眼球が増える個体がいたり、一切の感情を示さない人形のような個体がいたりした。

 

 何が問題なのか、どこが間違っているのか──……個体が抱える問題はそれぞれで異なり、解析は非常に困難だった。

 

 結局、人類は遺伝子の設計段階からの改良を諦め、サイバネティック技術などを用いた外付けの形で、人間の能力を向上させようとする計画に焦点を当てている。

 

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「ろくでもないやつとマッチングされるのは嫌だ」と君は思う。

 

 もちろん自分のことは棚にあげて。

 

 アルメンドラが君の心を読んだように君に言った。

 

「何もここで決める必要はありません。あなたならこのままこれまで通り仕事を続けても、遅かれ早かれ等級は上がるでしょう。そうなれば、今よりも条件の良い仕事を請け負うことができます」

 

 事業団でのいわゆる良い条件の仕事とは、金銭的にも環境的にもある程度の安全が保証されているものを言う。

 

 アルメンドラは端末のガイダンスを指さしながら説明した。

 

 君は暫時考え込み、ふととあることが気になったので聞いてみた。

 

「あのう、ちょっと質問があるンですけどね。もしかしてこれまで俺が調査に行ってた惑星って……」

 

 アルメンドラがうなずいて答えた。

 

「はい、潜在的な危険か、顕在的な危険が予想されている惑星ばかりですね。特殊な技術や強い運が必要な環境での調査は、低い等級の団員に仕事を割り振ることが多いです」

 

 やっぱりなあと項垂れる君に、アルメンドラは無機質な視線を注いでいた。

 

 ◆

 

 君は一旦、話を持ち帰ってじっくり考えることにした。

 

 君は基本的に行動派で、思い立ったが吉日とばかりにすぐに行動に移すタイプだ。

 

 そのせいで失敗することも少なくないが、次に活かせばいいと割り切ってもいる。

 

 その日の夕方、君はホテルの古びたベッドに腰掛けながら、充電中のミラに意見を求めた。

 

「ミラ、どう思う? マッチングの件だけど。変なのと仕事すると碌なことにならないんだよなあ」

 

 せっかくの話だし一度くらいは、とも思うがそれでも過去の経験を考えると慎重にならざるを得ない。

 

 ミラは一度、二度、三度とモノ・アイを明滅させてから答えた。

 

『マッチングに選出される団員は、一定の信用や実績を積み重ねているものが多いです。ケージが心配しているようなトラブルメーカーが選ばれる可能性は小さいでしょう。なお、この推測は開拓団が公表している基準に基づいたものとなります』

 

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 君は結局、アルメンドラからの提案を受け入れることに決めた。

 

 翌日、朝一番に事業団の事務所を訪れ、自分の意向を伝える。

 

 それを聞いたアルメンドラは、手元のタブレット型端末で何か操作をし、君を見て言った。

 

「宗教上、あるいは種族上の理由で許容できない条件があれば教えてください」

 

 アルメンドラの質問はもっともなものだ。

 

 この時代にも差別はなくなっておらず、特にアースタイプは外種に対して差別的な言動を取ることで知られている。

 

 それが大きな問題になっていないのは、アースタイプが支配的な立場にあるからだ。

 

 もちろん全宇宙がアースタイプの支配下にあるわけではなく、他の種族が支配的な惑星では逆にアースタイプが排斥されることもある。

 

 君はアルメンドラの質問に首を振って答えた。

 

「いや、俺は特にそういうのはないな」

 

 白人だからダメ、黒人だからダメ、黄色人種だからダメ、外星人だからダメ、男は嫌だとか女は嫌だとか──……そういった差別感情は君にはない。

 

 急に狂って人殺しをやらかしたり、生粋のカニバリストだったり、レイプや強盗が趣味だとかそういう者でなければ君としてはどこのだれだって構わないという思いがある。

 

 アルメンドラはそれを受けて、何かを確認するように再び端末を操作した。

 

『3人ほど該当者が見つかりました。マッチングを手配する前にいくつか確認事項があります。まず、同じチームの者に対して詐欺行為やそれに類する犯罪行為を働かない事を誓えますか?』

 

「あ、ああ。誓う」

 

『結構です。では次に、いかなる契約も強要しないことを誓いますか? たとえそれが合法的なものであってもです。あなたは過去、ガムウェイの会員だった事があるようですが……近年、法改正によって対面での製品の紹介なども違法行為となった事を忘れないでくださいね』

 

 君は何か後ろめたい気分を覚えながら、アルメンドラの尋問染みた質問に答えていった……。

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