★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版)   作:埴輪庭

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18.チュウニドラビルヂング①

 ◆

 

 君たちはチュウニドラビルヂングのエントランスに足を踏み入れた。

 

 広々としたロビーにはかつての面影はなく、塗装も装飾も全て剥がれ落ち、床には瓦礫が散乱している。

 

 君の足元でガラス片がカリカリと音を立てた。

 

「ここ全部掃除しろって言われたら、いくらもらっても割に合わねえなぁ」君がつぶやくと、アサミはアハハと笑って「そんな仕事絶対受けないわよ」と返す。

 

 エントランスの奥に進むと、他の事業団員チームがいた。

 

 たむろして、何か話し合っている様だ。

 

 ──男4人か。まあ力仕事だもんな。しかしどいつもこいつも目つきが悪い。この仕事って確かC等級の仕事だったよな? 真面目な連中ばかりでもないってことか

 

 恐らくは育ちが悪いに違いないと決めつけた君は、そういう連中にはまず挨拶だと思い一歩前に出る。

 

 下層居住区出身の君は、その辺の呼吸がよく分かっているつもりだった。

 

 育ちが悪い連中というのは、とかく無視を嫌うのだ。

 

 プライドというグラスに承認欲求という液体を満たしたはいいものの、それを買うだけの金が用意できない──……そういった自身の現状を理解してしまっているせいで、根性が捻くれ曲がってしまっている。

 

 自己評価が低いからこそ他者からの評価に救いを求めるのだが、その他者から無視されると激昂する。

 

 それが君の分析する"育ちが悪いやつ"の生態であった。

 

「やあ、あんたらも開拓事業団のご同輩かい? 見た感じ、かなりのベテランっぽいな。俺たちはそこまでこなれていないから、もしこの現場で注意しなくちゃいけない点があったら教えて欲しいな。酒かタバコくらいだったら出せるぜ」

 

 しかし四人は君の挨拶に返事を返さず、冷たい視線を向けるだけだ。

 

 その視線はすぐにアサミに向けられ、彼らは彼女を舐め回すように見つめる。

 

 具体的には胸、腰、股間部。

 

 君もついでに彼らの視線を追った。

 

 本能に基づいた行動だ。

 

「ちょっとケージ、あなたまでどこ見てるの」

 

 アサミが冷たい声で言うと、君は「ごめんごめん」と謝り、男たちの方を見た。

 

 君の視線を受けて、男の一人が言う。

 

「おう、姉さん。その男、あんたのコレか?」

 

 そう尋ねながら小指を立てる男に、アサミの目つきが険しくなる。

 

「どういうつもりか知らないけど、喧嘩売ってるって言うんだったら買うわよ」

 

 そんなアサミの言葉に、君は「ええっ」と驚き、この場に漂う雰囲気をまるで無視したかのようにヘラヘラと笑いながら軽口を叩いた。

 

「おいおい、アサミ。この兄さんらは別に俺たちに喧嘩なんて売ったりしてないよ。だって俺たち、誰も殺されたりしてないじゃないか。俺たちだってこの兄さんらの誰も殺してない。喧嘩になりようがないよ」

 

 下層居住区(スラム)では命が大分安く買い叩かれる。

 

 喧嘩……即ち個と個の争いは、多くの場合命のやり取りを伴う事が多い。

 

 ただこれはあくまでも君の価値観に過ぎず、他の者と共有できるとは限らない。

 

 アサミも男たちも、一瞬たじろいだように君を見る。

 

 ◆

 

 男たちは君の態度に、錆びてはいるが鋭いナイフを連想した。

 

 錆びたナイフは一見鈍らに見える。

 

 だが、その刃が実は鋭かったとしたらどうだろうか。

 

 錆びた刃が肉に食い込み、その錆が全身に回る──……恐ろしい破傷風菌を連想してしまう。

 

 男たちは君たちを侮るのをやめ、それ以上近づこうとはしなかった。

 

「行くぞ」一人がそう言って、四人の男たちは階上へと去って行く。

 

 ・

 ・

 ・

 

「気をつけた方がいいかもね、あの連中。もしまた見かけても話しかけないこと」アサミが警告する。

 

 そして声に出さず内心で、「それとケージにも気をつけること」と付け足した。

 

 ◆

 

 男たちが完全に去ったのを確認し、アサミはエレベーターに向かった。

 

 操作パネルを確認するが、どうやら動作していないようだ。

 

「エレベーターは壊れているみたい。階段で16階まで行くしかないわね」

 

「なあ、ミラが浮いて俺がそれに掴まるっていうのはどうだい?」

 

 君がそんなことを言うと、抱えていたミラが『当機は一時的な反重力場を発生させて浮遊することができますが、ケージが当機にぶら下がった場合、数分と持たずにエネルギーが切れるでしょう。実行しますか?』と答える。

 

「また今度の機会にしておくよ。例えば地震が起きてこのビルから飛び降りなきゃいけないという時とかさ」

 

 君の言葉にアサミはウッと呻き、君を軽く睨んだ。

 

 レミーも無言のまま君を見ている。その空洞となった眼窩から発される視線はどこか冷え冷えとしていて、君は責められたような気持ちになって「悪かったってば」と謝罪した。

 

「まあいいけどね」とアサミが言い、ふと思い出したように語を継ぐ。

 

「行くことはないと思うけど、20階以上では警備ロボットがまだ動いているらしいから気を付けてね。それも仕事内容のページに書いてあったけど……念のため、一応ね」

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