★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版)   作:埴輪庭

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29.惑星F25①

 ◆

 

 君は開拓事業団支社に向かう途中、どこかそわそわしていた。

 

 直接報告しなくてもいいはずなのに、君はこういう場面で妙に律儀さを見せることがある。

 

 ポケットに手を突っ込みながら、無意識に歩調を緩め、支社の入り口が見えてくると一瞬立ち止まって深呼吸をする。

 

 そうして覚悟を決めてエントランスに入って見れば、アルメンドラの冷たいまなざしが針となって、まるで標本にされた虫けらのように君の総身をその場に縫い留めた。

 

 ただ、別に君を威圧してるという事はない。

 

 仏頂面が常なのだ。

 

「誰かと思えばあなたでしたか。本日はどうされました?」

 

 アルメンドラの質問に君はしどろもどろになって答える。

 

「やあアルメンドラ、あー……実はだな……。おい、ミラ、頼むぜ」

 

『はい、ケージ。報告します。惑星D80におけるチュウニドラビルジングの清掃業務は失敗しました。原因は他の開拓団員が上層部の警備システムを作動させたためです。警備ロボット複数体と戦闘になりこれを撃退しましたが、依頼の継続は不可能と判断して撤退しました』

 

 アルメンドラはそれを聞いて小首を傾げる。

 

 それは分かっているが、と言わんばかりの仕草だ。

 

 この人間の様な所作を特に意識することなく出来るというのは、アルメンドラのエモーショナル・ドライブの性能がそれだけ高い事を意味する。

 

「それは既に報告を受けています。惑星開拓事業団C66人員管理部は、少なくともこの業務に関わった開拓事業団員の依頼失敗を問題なしと判断しています。勿論、失敗の要因となった団員については処分対象ですが、その者たちは既に除籍されており、また、生命活動も停止している為にこれ以上の調査は行われません。本件につきましては既にあなたにも通知が行っている筈です」

 

 アルメンドラの言葉に君は頷く。

 

 しかし──

 

「いやあ、まあな、うん。直接報告しといたほうが覚えがいいかなって思って……」

 

 君がそんな事を言うと、アルメンドラは関節部からきゅる、と音をたてて再び小首を傾げた。

 

 それをネガティブに捉えた君は、更に言い募る。

 

「いやな、中々大変だったんだ、本当に。あの赤い奴がやべえなって。まあでも俺はこう見えても修羅場には慣れてるからさ、こうしてぐいんとやって……跳ねたりね、したわけ。分かる?」

 

「いいえ、全く。しかしあなたなりに 意を示そうとしたことは理解します」

 

「そりゃどうも」

 

 言いながら、君はアルメンドラの人間()()()に舌を巻く。

 

 ──これが全部プログラムだってんだからなぁ

 

 彼女はアンドロイドだ。しかしそれを忘れてしまうほど人間に近い所作を見せる。

 

 君はあらためてアルメンドラを観察した。

 

 透明感のある青い髪、鋭く透き通る瞳、整った顔立ちの全てが人工物だ。

 

【挿絵表示】

 

 なのに、君はアルメンドラを最初に見た時よりずっと彼女が人間らしく見えてしまって仕方がない。

 

 それはアルメンドラの人間仕草がこなれてきた為か、或いは君が()()()()()()()()()()()()()()()か、この時点では分からない。

 

「次の仕事の予定はあるのですか?」

 

 アルメンドラはいつもの冷淡な表情で、君に次の予定について尋ねてきた。

 

 君は一瞬迷ってから答えた。

 

「ドンパチやってきた後だしなあ。のんびりした仕事ならいいかもな」

 

 すると彼女は少し間を置いてから提案をした。

 

「それなら、データ収集の仕事があります。惑星F25で指定された映像データの収集を行ってほしいという依頼です。興味がありますか?」

 

「Fね。そう遠くはないな」

 

「はい。ハイパー・ワープなら1度で移動できる距離です」

 

 地球政府の管理領域にある全ての惑星にはアルファベットが割り振られている。

 

 これは地球からの大まかな距離を示し、Aから順に進むごとに距離が遠ざかっていく。

 

 特別なアルファベット──例えばキラー惑星を示すKなどは一般には使われていないが、その他の文字は単純に距離関係で割り振られている。

 

 また、アルファベット間の距離はおおよそ300AUであり、惑星Fは地球から約1800AU離れている。

 

 ちなみに1AUは1天文単位と言い、地球から太陽までの距離、約1億5000万kmである。

 

 そして、この時代の「遠い」という感覚は、ハイパー・ワープ2回以上──最低でも3000AU以上の距離を指す。

 

「急ぎの仕事だったりするのかな?」

 

 君が尋ねると、アルメンドラは首を振った。

 

「いいえ。しかし手早く済ませていただけるならばそれに越した事はありません」

 

 この言葉に君はどうにもキナ臭いものを感じ、再度尋ねてみた。

 

「それって……理由があったりするのかい?」

 

 アルメンドラは頷き、淡々と詳細な情報を伝え始めた。

 

【挿絵表示】

 

「惑星F25は木星型のガス惑星です。言うまでもなく居住適正ランクはE。居住対象としての価値はありませんが、採取されるガスには一定の有用性が確認されています。しかし大規模な採取事業を展開するためにはまだデータが足りないため、早急な収集が求められています」

 

 惑星F25は木星の40倍以上の質量を持つ巨大なガス惑星だ。

 

 地表が存在せず、常に厚いガスの層に覆われている。

 

 惑星の外観は紫や青、緑のガスが絡み合い、まるで絵画のように美しいがしかし──その内部は非常に過酷だ。

 

【挿絵表示】

 

 ガス層は嵐のように渦を巻き、大型の宇宙生物が回遊している。

 

「どうされますか?」

 

 アルメンドラの問いに、君は少し思案し──

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