★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版)   作:埴輪庭

93 / 151
51.インベントリ作成

 

 ◆

 

 翌朝、君はいつものように襤褸ホテルで目を覚ました。

 

 窓の外は相変わらずスモッグに覆われている。

 

『おはようございます、ケージ』

 

 ミラが充電ユニットから離れ、ふわりと浮遊する。

 

「ああ、おはよう」

 

 君は欠伸をしながら起き上がった。

 

 昨日の掃除仕事の戦利品は、既に闇市のルートで売却済みだ。

 

 思いのほか良い値がついて、懐は少し温かい。

 

『ケージ、次はこんな仕事はどうですか? 汚船掃除をこなしたあなたに相応しい仕事です』

 

「なんか引っかかる言い方するなあ」

 

 君は苦笑しながら端末を受け取る。

 

 画面には新しい依頼が表示されていた。

 

『依頼:放棄された貨物コンテナ群のインベントリ作成』

 

「インベントリ作成?」

 

『はい。旧時代の商業宇宙航路に放棄されている貨物コンテナ群を調査し、中身のリストを作成する任務です』

 

 ミラが詳細を説明し始める。

 

『コンテナの多くは電子ロックが劣化しており、開錠は容易とのことです』

 

「へえ、つまり合法的な宝探しってわけか」

 

『ただし、一部コンテナ内の保存状態が不明なため、軽微な化学物質の漏洩や、内部で繁殖した宇宙カビ等に注意が必要だそうです』

 

「宇宙カビねえ……まあ昨日の放射線よりはマシだろ」

 

 君は肩をすくめる。

 

 ◆

 

 ミラが端末にさらなる情報を表示させた。

 

『依頼主は惑星T25の貿易会社、カイゼル・ロジスティクスです』

 

「聞いたことないな」

 

『中規模の運送会社ですね。旧時代の航路権を買い取って、放棄された貨物の回収事業を始めたようです』

 

 なるほど、と君は納得する。

 

 宇宙には無数の放棄貨物が漂っている。

 

 戦争や事故、倒産などで回収されなかった荷物たちだ。

 

『報酬は基本給プラス、発見した貨物の価値に応じたボーナスが出ます』

 

「おお、それはいいな」

 

 君の目が輝く。

 

『期限は一週間以内。現地までの移動時間を考慮すると、実質5日程度の作業時間になります』

 

「十分だろ。で、場所は?」

 

『セクターG-77。かつてのゴールドラッシュ航路です』

 

 君は口笛を吹いた。

 

 ゴールドラッシュ航路──約200年前、希少鉱物の発見で賑わった宙域だ。

 

 しかし鉱脈が枯渇すると、企業は撤退し、多くの貨物が放棄された。

 

「お宝がゴロゴロしてそうだな」

 

『可能性はありますが、200年も放置されていたものですから……』

 

「夢がないなあ、ミラは」

 

 君は煙草に火をつける。

 

 紫煙が立ち上り、すぐに体内で分解される。

 

 ◆

 

『それと、今回は単独作業ではありません』

 

「ん?」

 

『同じ依頼を受けた団員と2人1組で作業することになっています』

 

 君は顔をしかめた。

 

「面倒くさいな。誰だよ、相棒は」

 

『まだ決まっていません。現地でのマッチングになるそうです』

 

「ガチャかよ」

 

 君は頭を掻く。

 

 変な奴に当たらなければいいが。

 

『でも昨日のモチダさんのように、意外と相性が良いかもしれませんよ』

 

「あいつは金の話したら急に仲良くなっただけだ」

 

 そう言いながらも、君は依頼を受けることにした。

 

 報酬も悪くないし、何より放棄貨物の中身が気になる。

 

 ◆

 

 出発は明日の朝。

 

 君はシルヴァー号の整備を済ませ、必要な装備を確認する。

 

 宇宙服、開錠ツール、スキャナー、そして──

 

「念のためマスクも持っていくか。宇宙カビとか勘弁だからな」

 

『賢明な判断です』

 

 ミラが相槌を打つ。

 

 準備を終えると、君は久しぶりにセコハン・ローズへ向かった。

 

 情報収集も兼ねて、あの爺さんと話でもしようと思ったのだ。

 

 ◆

 

 店に入ると、いつもの油と錆の匂いが鼻を突く。

 

「爺さん、いるか?」

 

 奥から咳き込む声が聞こえてきた。

 

「おお、小僧か。生きとったか」

 

 カウンターに座った老店主は、相変わらずボロボロの雑誌を読んでいる。

 

「ゴールドラッシュ航路の放棄貨物について、何か知ってるか?」

 

 君の問いに、老店主はニヤリと笑った。

 

「ほう、あそこに行くのか」

 

「仕事でな」

 

 老店主は雑誌を置き、顎髭を撫でる。

 

「あの航路にゃあ、色んなもんが漂っとる。金になるもんもあれば、触っちゃいけねえもんもある」

 

「触っちゃいけないもの?」

 

「軍の実験貨物とか、生物兵器の試作品とか……まあ、噂じゃがな」

 

 君は眉をひそめる。

 

 そんな物騒なものがあるのか。

 

「あとは宇宙海賊が隠した財宝なんて話もある。もっとも、そんなもんがあったら、とっくに持ち去られとるじゃろうが」

 

 老店主は低く笑った。

 

 ◆

 

 翌日、君はセクターG-77へ向かった。

 

 ワープを抜けると、眼前に無数の貨物コンテナが漂っている。

 

 大小様々なサイズの金属箱が、ゆっくりと回転しながら宇宙空間を漂流していた。

 

『すごい数ですね』

 

 ミラが感嘆の声を上げる。

 

「これ全部調べるのか……気が遠くなるな」

 

 そこへ通信が入った。

 

『こちらカイゼル・ロジスティクス。ケージさんですね?』

 

「ああ、そうだ」

 

『パートナーの方も到着しています。ドッキングベイでお待ちください』

 

 指定された座標へ向かうと、小型の作業船が係留されていた。

 

 そして──

 

「げっ」

 

 君は思わず声を漏らす。

 

 ドッキングベイに立っていたのは、見覚えのある外惑星人だった。

 

 鱗のような皮膚に尖った角。

 

 エルカ・スフィア号で肩をぶつけようとしてきた、あの三人組の一人だ。

 

「てめえは……」

 

 相手も君を認識し、顔をしかめた。

 

『おや、お知り合いですか?』

 

 ミラが無邪気に尋ねる。

 

「知り合いっつーか……」

 

 気まずい沈黙が流れる。

 

 と、外惑星人の男が口を開いた。

 

「……仕事は仕事だ。個人的な感情は持ち込まねえ」

 

 意外にプロ意識があるらしい。

 

 君も頷く。

 

「そうだな。金のためだ」

 

 二人は握手を交わした。

 

 ◆

 

 男の名はゲルズ。

 

 惑星Ⅴ2522“ヴェガ”出身の傭兵上がりだという。

 

 惑星ヴェガは鉱山惑星として有名な場所だ。

 

 住民の9割が何らかの形で採掘業に関わっていて、残りの1割は酒場か娼館を経営している。

 

 空気は薄く、重力は地球の数倍。

 

 だから住民は皆ゲルズみたいに筋骨隆々になるか、さもなければ骨折して故郷に帰ることになる。

 

「前は悪かったな。仲間がイキってたもんで」

 

 ゲルズは作業を始めながら言った。

 

「まあ、こっちも大人げなかった」

 

 君は最初のコンテナに取り付きながら答える。

 

 電子ロックは確かに劣化していた。

 

 ミラのサポートで簡単に解錠できる。

 

 扉を開けると──

 

「うわっ」

 

 中から紫色のガスが噴き出してきた。

 

『無害です。ただの着色料の劣化ガスですね』

 

 ミラの分析に安堵する。

 

 コンテナの中には、色あせた衣類が山積みになっていた。

 

「200年前のファッションか。レトロマニアには売れるかもな」

 

 ゲルズが品定めをする。

 

「でも虫食いだらけだぞ」

 

「宇宙蛾の仕業だな。厄介な奴らだ」

 

 宇宙蛾は文字通り宇宙空間でも生きられる蛾だ。

 

 体長は5センチほどだが、繁殖力が異常に高く、有機物なら何でも食い荒らす。

 

 特に繊維質を好むため、倉庫業者にとっては天敵のような存在だ。

 

 二人は次のコンテナへ移動する。

 

 こちらは機械部品が詰まっていた。

 

「おお、これは……旧式の量子プロセッサか?」

 

 君が手に取ると、ゲルズも興味深そうに覗き込む。

 

「骨董品としては価値があるかもしれねえな」

 

 作業は順調に進んでいった。

 

 ◆

 

 3つ目のコンテナを開けた時、異変が起きた。

 

 中から触手のようなものが飛び出してきたのだ。

 

「なんだこりゃ!」

 

 ゲルズが飛び退く。

 

 よく見ると、それは植物だった。

 

 コンテナ内で異常繁殖した宇宙植物が、開放と同時に外へ広がろうとしている。

 

『キメラ・ヴァインですね。放置しても大気中の水分を吸収して勝手に育つので、観賞用植物として人気でしたが、管理を誤ると手がつけられなくなります』

 

「観賞用? これが?」

 

 君は伸びてくる触手を避けながら言う。

 

「待て、これ売れるんじゃないか?」

 

 ゲルズが目を輝かせた。

 

「マニアが高値で買うかもしれねえ」

 

 結局、二人は協力して植物を丁寧に採取することにした。

 

 すっかり意気投合した二人は、鼻歌を歌いながら作業を続ける。

 

 ◆

 

 4日目の朝、君たちは巨大なコンテナの前にいた。

 

 他の10倍はある大きさだ。

 

「こいつは期待できるな」

 

 ゲルズが興奮気味に言う。

 

 しかし、ロックが複雑で開錠に手間取った。

 

『軍用の暗号化システムのようです。解析には時間が──』

 

 その時、君の袖から例の黒い粒子が流れ出た。

 

「お、また出てきた」

 

 ナノマシンはするすると鍵穴に入り込み、カチャリと音を立てる。

 

「便利な体だな、おめえ」

 

 ゲルズが感心する。

 

 重い扉を開けると──

 

『これは……』

 

 ミラが驚きの声を上げた。

 

 中には、整然と並べられた培養槽があった。

 

 その中で、青白い光を放つ何かが浮いている。

 

「生体サンプル?」

 

 君が近づくと、突然警報が鳴り響いた。

 

『警告:バイオハザード・レベル4検出。即座に退避してください』

 

「やべえ!」

 

 二人は慌てて扉を閉め、コンテナから離れる。

 

『軍の生物兵器実験の遺物のようです。これは触らない方が賢明ですね』

 

「だな。報告書には"危険物"とだけ書いておこう」

 

 君たちは次のコンテナへ向かった。

 

 ◆

 

 最終日、調査はほぼ完了していた。

 

 リストには様々な品目が並ぶ。

 

 衣類、機械部品、宇宙植物、骨董品、そして危険物少々。

 

「なかなかの収穫だったな」

 

 ゲルズが満足そうに言う。

 

「ああ。ボーナスも期待できそうだ」

 

 最後のコンテナを開けると、中は空だった。

 

 いや、よく見ると床に小さな箱が一つ。

 

「なんだこれ?」

 

 君が拾い上げる。

 

 手のひらサイズの金属箱で、表面には見慣れない文字が刻まれている。

 

『解析不能な言語です。おそらく未知の文明のものかと』

 

「へえ、お宝かもな」

 

 ゲルズが覗き込む。

 

 箱を振ると、中で何かが動く音がした。

 

「開けてみるか?」

 

「やめとけ。パンドラの箱かもしれねえ」

 

 結局、箱はそのまま回収品リストに加えることにした。

 

 ◆

 

 作業を終えて、二人は別れの挨拶を交わす。

 

「まさかお前と組むことになるとはな」

 

 ゲルズが苦笑する。

 

「俺もだよ。でも悪くなかった」

 

「ああ。また組む機会があったらよろしく頼む」

 

 握手を交わし、それぞれの船へ戻る。

 

 帰路につきながら、君は小さな箱を眺めていた。

 

『気になりますか?』

 

 ミラが尋ねる。

 

「まあな。でも開けない方がいい気もする。俺のギャンブラーとしての勘がそう言ってるぜ」

 

『ポンコツギャンブラーにしては賢明ですね。ところで、今回もなかなかの収入になりそうですよ』

 

「だな。この調子で稼いでいけば……」

 

 君は遠い宇宙の彼方を見つめる。

 

 生身の体に戻るまでまだまだ先は長い。

 

 しかし一歩ずつ前進している。

 

 それだけで今は十分だった。

 

『次はどんな仕事にしますか?』

 

「そうだな……できれば危険なやつは勘弁して欲しいけど」

 

『でも退屈な仕事は嫌なんでしょう?』

 

「バレてたか」

 

 ミラの指摘に君は笑いながらワープ・ドライブを開始した。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。