TSクソザコ少女の死にゲー奮闘記   作:天海望月

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DIEジェスト万歳!

「ぉぼあぁぁっ!」

 

 全身に力が満ちる。潰えたはずのこの命が、今ここに蘇った。

 辺りを見渡せば、そこは安心と信頼の初期地点。俺が人生の三十分を無駄にした鏡も、一切変わることなく佇んでいる。

 

 俺は死んだ。あまりにも呆気なく、それはもう無様に死んだ。いくらバーチャルとはいえ、痛みはブロックされているのかあまり感じなかったが、少なくとも意識が遠のいていくのは味わった。

 ──あ、しぬ。それは恐怖ではなく諦めにも似た悟り。人は本当にどうしようもない状況になると、一周回って納得してしまうらしい。

 

 一種の臨死体験。不思議な経験をしたな、と感慨に浸っていた。

 

「っていやいや、進まないと」

 

 そうだ。俺はここで立ち止まっている場合じゃない。ここを突破しない限りは、MMOの醍醐味たるマルチプレイすらさせてもらえないのだから。

 

 反省会だ。──俺はローリング回避に失敗して死んだ。いくらゲームの中とはいえ、ここで動くのは俺自身だ。コントローラーでボタンを押せば勝手に動いてくれる訳じゃない。

 故に激しい動きは出来ず、俺の身体と神経が付いてこれる、簡単な手段のみで戦うしかないのだ。

 

 俺は運動が得意ではない。ボールに遊ばれ、転んでは地を転がる。そんな自分に何が出来るのか。それは、今から死にながら覚えよう。

 なにせこのゲームは、死にゲーなのだ。

 

「そうと決まれば……!」

 

 あぐらをかいて考え込んでいた身体に鞭を打ち、向かうは鬱蒼と生い茂るこの森の先。

 やってやるとも。ダウナー系ジト目銀髪ロリを、マルチの世界へと送り込むために──!

 

 

 

「バックステップで……あっどうも、後ろにもいたんですね──」

 

 YOU DIED

 

「パリィとかしてみたり?……おぁッ盾重っ!?身体持ってかれ──」

 

 YOU DIED

 

「やられるまえにやってやる!……ぜーっ、ぜーっ、そういえばスタミナの概念もあった──」

 

 YOU DIED

 

「なにこの狼っワープしてくるんだけど!?ふざけ──」

 

 YOU DIED

 

 

 

 幾度斃れただろう。その度に俺は、諦めずに立ち上がって挑み続けた。

 自覚こそしていたが、流石に生まれ持った運動センスの無さを呪った。というより、死にゲー主人公たちがいかに化け物かをひしひしと実感する羽目になった。

 ……特に後ろを見ながら走っていた時、急に前から抱き締められたのは恐ろしかった。もちろん始まるのはラブコメではなくただの鏖殺。宙で足をジタバタさせ、敵に囲まれて棒で叩かれた。

 

 それでも心が折れずにいられたのは、ひとえに鏡のおかげだろう。鏡の中でこちらを見つめてくれるロリがいなければ、とっくに投げ出していたはずだ。……まあその子は俺だが。

 しかし俺もただ指をくわえて蹂躙されていた訳では無い。こんなよわよわTS美少女にも可能な、とっておきの秘策を編み出したのだ。

 

「へっへっへっへっ……、どうだァ悔しいかあ?ん~?」

 

 左手の盾に身を隠し、馬鹿の一つ覚えのように殴ってくる敵の攻撃を防ぐ。そして、猛攻の合間に生まれた隙を縫うように、盾を構えたまま剣を突き刺した。

 通称“盾チク”。本来大盾の裏に隠れながら、槍で一方的に攻撃するような姑息な戦法を藁にもすがる思いで真似したのだが……これが強い。

 一体一の戦いなら、スタミナの管理さえ怠らなければ無敵と言っても差し支えない。何度も俺を屠ってきた憎き怨敵の顔面に安全地帯から刃をブチ込むのが、こんなに気持ちいいことだったとは。

 

 もちろん弱点も存在する。数に囲まれてしまえば、結局身動き取れずおしまいだ。

 だからそんなときは──恥も外聞も捨てて、思いっきり走って逃げる。

 古来より、ソウルライクでは走り抜けも立派な一つの攻略手段だった。道中の敵から得られる報酬などたかが知れている。ならば、全てを置き去りにして次のチェックポイント、ないしボスを目指すのは十分に有効だった。

 

「グッバイモブぅ~!悔しかったら追いかけてみろォ~!」

 

 そんなこんなで俺は、早速と言わんばかりに全力の逃走を試みた。世間では闘争の方を求めている輩もいるらしいが、今の俺にそんな悠長なことをしている余裕はない。

 走る走る。発光して存在を示すアイテムを拾いたい欲もぐっと我慢して、ただ逃げ惑う。全ては先へと進むため。緻密な探索など、強くなってからやればいいのだ。

 隠れていた敵に襲われ、幾つもの飛び道具も受けながらも逃げ回ること数分。ようやく、この陰鬱な森とも別れを告げる時がやってきた。

 

「これは……っ!」

 

 森の出口。そこに、明らかな異質さを放つ何かが存在している。

 深い藍色の結晶。それが、地面をえぐるように突き刺さっていた。

 

 ふと、腰にぶら下げていた流星の雫が震える。おもむろに、残り僅かまで減ったそれを結晶へと近づけてみれば、変化はすぐさま訪れた。

 結晶に光が宿る。中心から暁のごとく橙色が顔を出し、遂には燃え盛る炎のように全体を覆い尽くした。

 

『SUPERNOVA EXPLOSION』

 

 そんな文字が視界を覆うと共に、傷ついた身体が嘘かのように癒えていくのを感じる。

 ここがチェックポイントにしてリスポーン地点。プレイヤーの心に安息をもたらす、数少ない休憩の地なのだろう。

 

「ようやくかぁ……!」

 

 安堵からため息が漏れる。ここまで進むのに一時間掛かったのだ、当然の反応と言えるだろう。

 長く苦しい戦いだった。まさか操作方法がコントローラーから己の身体になるだけで、ここまで苦戦するようになるとは思ってもみなかった。

 だが、そんな苦難も終わりだ。目の前に見えるあの橋を渡れば、やっと俺の冒険が幕を上げるに違いない。

 

 うきうきと踊る心のまま、俺は弾むように歩いていく。VRMMO、その真髄に迫る時が来た──!

 

「……?地震?」

 

 橋に近づいた時、異変は起こった。

 なんとなくだが揺れている気がする。地響き──というよりは、空気自体が揺れているような。

 

 嫌な予感がして辺りを見回す。イベントか?一体これから、何が起こるんだ?

 盾を構えて警戒しつつ進む。大丈夫だ、橋にさえ到達すれば俺の勝ちのはずなんだ。恐れることはない……はず。

 じりじりと進む。緊張で唾を飲み込んだその時、

 

 

 

 ──橋への道を塞ぐように、地面が盛大に爆ぜた。

 

「……へ?」

 

 凄まじい衝撃に本能的にしゃがんだ俺は、やがてその所以を知るために顔を上げる。

 巻き上がった砂煙が徐々に晴れていく。刹那、この事態を引き起こしたであろう主が、向こう側からその姿を現した。

 

『星墜の騎士、レサト』

 

 俺の視界の下部に、大仰な名前を提げつつバーが現れる。

 ──森を抜けた新星を阻むもの。第一の関門として初心者に立ちはだかるもの。

 レサトは甲冑を鳴らしながら着地姿勢から立ち上がると、ヘルムの隙間よりこちらを覗き剣を抜いた。

 

 初めてのボス。星墜の騎士との戦いの火蓋が、切って落とされた。

 

「えっなにそれ聞いてな……ぎゃあああっ!!?」

 

 ──ただし、初戦は僅か十秒で決着したのだが。

 

 

 

 

 

 

「そうだよな……。チュートリアルにボスがいるのはお約束だもんなぁ……」

 

 淡い光を放つ結晶、その温もりを感じながら呟く。

 表面上に少しだけ反射する整った顔を眺めながら、俺は途方に暮れていた。

 

 およそ一分前。俺は突如現れたボスに腰を抜かして、何も出来ず見事なまでの完敗を喫した。

 ようやくこのチェックポイントに到達した喜びですっかり忘れていたのだ。死にゲーのチュートリアルには、かなりの確率で初心者殺しのボスが存在することを。

 

 デーモンを倒して回るゲームも、薪になるゲームも、なんかルーンが貰えるゲームですら、操作も覚束無い時から戦わされたのだ。

 負けイベントならまだいい。だが既視感のあるこの水晶の前に戻されてきたあたり、“星墜の騎士、レサト”は必須戦闘だ。

 

 いわゆる灰の審判者ポジション。どこぞの院にいたデーモンのごとくギミックらしいものが無いのであれば、最初からガチ戦闘を強いられることになる。

 

「いやぁ……。──無理だなあ……」

 

 ロリの顔が歪む。それもそのはず、俺はここまでまともに敵と付き合わずに来たのだ。にも関わらず、突然正面切って戦えと言われても絶望しかない。

 実質ローリング縛り、パリィ縛り、バックステップ縛りな現状で、どう勝てと言うのか。

 

「ん……。んん?」

 

 左腕の端末が震える。

 遠い目をしていた俺は、それを受けてハッとした。すぐにコンソールを開けば、ある一件の通知が届いているのが分かった。

 

『ダウンロード終わったか?』

「んーあいつか。……『最初のボスにボコされたぞ』っと」

 

 俺をこの世界へと引きずり込んだ張本人にして友人、“アルマ”。あらかじめ連携しておいたメッセージアプリ、“Thiscode”に彼からの連絡が届いていた。

 

『もうやってたんか。とりあえずキャラクリ見せろ』

「え。……いやいや無理。『スクショの撮り方分からん』」

 

 嘘である。俺のフォルダには既に、ほぼ同じアングル、ポーズの自撮りが数十枚も収められている。

 ただそのダウナー系ジト目銀髪クソ雑魚ロリには一ミリも俺の面影がないので、それを送ったところで冗談以外で受け止められるはずがない。というかバカにされる。

 

『嘘つけクッソイケメンにして恥ずかしいんだろ?まあええわ後で直接見るから』

「あながち間違いじゃないんだけどな……。どちらかというとクッソ可愛いの方なんだよ。うわなんか気まず」

 

 そう。俺とアルマは事前に、ゲーム内で会う約束をしているのだ。つまりどうあがいても知人にこの姿を目撃される。

 結晶に映る顔が青ざめる。ゲームで死に、リアルでもアタマがパーになって死にかねない俺に、更に社会的な死を迎える可能性が増えたことに気がついたからだ。

 

「……。しーらね。とりあえずボス倒してから考えよ」

 

 俺はそんなリスクも後回しにしたまま、ひとまず目の前の脅威に立ち向かうことにした。

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