「なっ、なんだい君たちは」
それはあまりに突然のことだった。
「邪魔だなァ兄ちゃん。俺はそこの──あー……妹に用があんだよ。分かったらさっさとどいてくれねえか?」
「いやいやいや違うから!ほんとに違うから!ダメだからねあんな半グレみたいなの信じちゃ!」
青髪の騎士を中心にいがみあう少女と金髪男。どこからともなくやってきた彼らに巻き込まれて、青髪は面白いくらいに狼狽していた。
女の子はそんな動揺している後ろで震えて、対して彼女を追ってきた金髪はチンピラのごとく眼光を光らせている。
こんなカオスの中、騎士は悟った。ここで自分が引き下がれば、この子が危ないということを。
だが彼はこんな面倒事には関わりたくなかった。ただ待ち合わせしてただけなのに、どうしてこんな目に遭わなければならないのか、と。
それでも少女を見捨てるという選択肢はない。面倒事を避けたい気持ちよりも、それを上回る正義感や良心が、そして極めつけに、
──それらを実現できるほどの確固たる実力と自信が、彼にはあったからである。
「君、一体どうしたんだい?」
「えっ!?えっと、おれ……わた…………ボ、ボク?は、ですね?チュートリアル終わって町に入ったら、突然あの人に追いかけられて」
「嘘はいけねえなァ、嬢ちゃ──妹。オラ、駄々こねてねェでさっさと帰んぞ」
男が手を伸ばす。
「ひっ」
この瞬間まで、騎士はまだ二人が兄妹である可能性を僅かに捨ててはいなかった。目の前の彼が、わがままな妹に振り回されるやさぐれた兄ということも有り得るかもしれない。
だが少女のその顔は、親族にはまず向けないような──純粋な恐怖に歪んだものだった。それを見逃さず、青髪の騎士は男の腕を掴んで遮った。
それでもし本当の兄妹だったとしても、ろくな関係ではない。
「──何すんだ、ああ?」
「妹じゃないだろう、その子。怖がっている」
「いい度胸してんなァ、てめェ。どうなんのか分かるんだろうな」
明らかな苛立ちが見て取れる。男は顔を顰めると、手を振り払おうとして力を込めるが──。
「な……ッ!くそッ、離しやがれッ!」
「まあまあ。とりあえず頭でも冷やして落ち着いたらどうだい」
いくら暴れても、腕を掴む握撃はびくともしない。それどころか、騎士の身体はほとんど揺れていないではないか。
チンピラの顔が青ざめた。理解したのだろう、目の前の彼が己よりも圧倒的に強いということを。
「ほら、冷静に」
「がッ!?」
掴まれているところから、たちまち霜が広がっていく。焦茶色の肌が白のヴェールに包まれ、彼の表情が苦痛でひしゃげた。
「ぐゥ……!なめんなッ!」
一矢報いようとしたのだろう、もう一方の拳を愚直に繰り出した。
それすら彼には通用しない。軸足を引っ掛けられた男は、いとも簡単に地に伏せた。
「ごァッ!」
「すっ、すご……」
足掻こうとする男の首筋に冷気溢れる剣、その切っ先が突き立てられる。
敵わないと察したのだろう、少女の感嘆と共にようやく男は大人しくなった。
「町じゃ死ねないからね。ここで諦めておいた方が身のためだと思うよ」
「畜生、青髪の氷使い……てめェ、“氷帝アルマ”かッ!」
「あるま……?」
「おや、私はそんな有名に──」
「闘技場最上位ランクのくせに、その更に上の女どもには手も足も出ないあのアルマだろ?最上位の最底辺ってのは有名な話だぜ」
「…………」
アルマと呼ばれた彼の表情が凍る。気にしているのだろう、男に言われたことを。
ふと少女の顔を見れば、非常に複雑そうな顔をしていた。驚いているようにも飽きれているようにも、焦っているようにすら見える、そんな顔。
「…………まあ、君はその最上位の最底辺に負けたんだ。分かったら早く帰りなさい」
「ちッ、覚えてろよ。──俺は諦めねェからな」
金髪の青年は立ち上がると、唾を吐いてどこかへと去っていった。
改めて、アルマは少女へと向き直る。彼女は未だ何かを恐れているかのようで、現に目を合わせるとすぐにそらされてしまう。
装備を見る限り初心者なのだろう。始めたばかりのうちにあれだけ衝撃的な体験をしたのだ、当然の反応である。
「大丈夫かい?あの人はもういないよ」
「ひゃっ!?……ぁあっえっと、ありがとうございましたそれじゃボクはこれで──」
「ちょっと待って」
「ほぁっ」
そそくさとこの場を後にしようとする少女の手を掴む。驚いたように肩を震わす姿を見て、デリカシーが足りなかったかと少し後悔した。
「ほら。知らないかもしれないけど、このゲームには初心者の女の子って全くいないんだ。だからこのまま町に出たらまたトラブルに巻き込まれてしまうかもしれない」
「は、はあ……」
ようやく落ち着いた今だからこそ、アルマは少女の顔を初めてまじまじと見た。
そこで気付く。彼女の顔は、余りにも整っていると。
シルクのような肌に、エメラルドの瞳。美しい髪は、まるで細いプラチナの糸を一本ずつ丁寧に植え込んだかのよう。気怠げかつ儚げな表情は庇護欲を、あるいは嗜虐心を刺激する。
アニメ調のグラフィックとはいえ、リアルの彼女が相当いい素材たり得なければこうはならない。陳腐な表現だが“絶世の美少女”という肩書きこそが相応しい。
そんな彼女がひとたび町で注目を浴びればどうなるか。結果は明白だ。
可愛い女の子という光を求めて、男たちが暴走を起こす。
「だから、良かったら私が君を守ろう。大丈夫、こんなでもそこらのプレイヤーよりは強いからね」
「え!?……いやでもアルマさんって、何か用事があってここにいたんじゃないんですか?」
「ああ、そんなこと問題ないよ。今は君の貴重なゲーム体験の方が余程大切だから」
「そんなことって……」
実際、このゲームをやり込んだいわゆる上級者たる彼は、初心者の彼女を手助けする責務を感じていた。
そもそもここで待ち合わせしていたのは、アルマが誘った友人を待っていたからなのだ。今更一人初心者が増えたところで問題ないだろう。
そもそも目の前の少女は、その誘った友人が好きそうな──言葉を借りるならロリ、というものだ。むしろ喜ぶに違いない。
「まあとにかく、これから遊ぶにもさっきみたいな乱暴者が襲ってきたら大変だろう?そういうのも含めて、私が色々手助けをしたいんだ」
「ぅ…………。わかり、ました。お願いします……」
「うん、任せて欲しい」
俯きながら、彼女はそう肯定する。先程の事件のせいか、はたまた男性自体を怖がっているのかは分からないが、少女は怯えた様子だ。
アルマはまずその信頼を勝ち取ろうと話をすることに決めた。
「とりあえず、私の名前……は聞いてたみたいだね。君の名前を教えてくれるかい?」
「名前!?ぇ、ええっと、……レーナです」
「レーナ、か。──奇遇だね。私の知り合いにも、いつも自分のキャラクターにレーナって付ける人がいるんだけど──」
「あ、あはは……そうなんですねー……。すごい偶然だなあ……」
反応が鈍い。確かに、出会って間もない人に早々知り合いの話をするのは良くなかったかと、アルマは反省した。
レーナと名乗った彼女は気まずそうに後ろ手を組んでいる。氷帝と呼ばれるものとして、こんな小さな女の子の心すら解かせないでどうする。
「あー、ひとまずフレンド送ってもいいかな。その方がこれから都合もいいだろうし」
「あっはい。大丈夫です」
アルマは左腕の端末からメニューを開いて、レーナへフレンド申請を送信する。
彼女はおぼつかない手つきで操作する素振りを見せると、すぐに受理の通知が返ってきた。
「困った時はいつでも呼んでいいからね。よろしく、レーナちゃん」
「ぶふぉっ──よ、よろしくお願いします」
絶世の美少女、レーナ。フルダイブVRMMO死にゲーとかいう殺伐とした世界に舞い降りた、文字通り生きる世界が違いそうな彼女。
来るゲームを間違えたかもしれない、そんな彼女をせめて不快な思いはさせないよう、アルマは心に誓いを立てた。
──
最近他のTS一次創作も読んでるんですが、TS銀髪ロリめっちゃ多いですわね。
なんかこう、うちのTSっ子がテンプレに見えてきて少し悲しい思いしてます。
なのでこの子にはTSの喜びと死にゲーの苦しみをお腹いっぱい与えることにします(飴と鞭)
小説のレイアウトについて
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画面内の文字密度減らしてくれ
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一話あたりの文字数減らしてくれ
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特にないよ