TSクソザコ少女の死にゲー奮闘記   作:天海望月

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この先、選択に注意しろ

 俺──じゃなかった、ボクの名前はレーナ!見た目はロリ、頭脳は大人のTS娘だ!

 突如現れたNTR同人誌の竿役みたいな男から逃げた先で、助けてと縋った相手はアルマ。つまりはボクの友人その人だった!

 当然向こうはボクの正体に気がついていない。一体、これからボクの冒険はどうなっちゃうんだー!?

 

 

 

 ──違う!!!!!

 こんなはずじゃなかった。本当ならこの姿でおちょくるだけおちょくった後、正体を明かして驚く顔を見たかっただけなのに。……ロールプレイにノリノリになっているアルマの様子は滑稽ではあるが。

 確かに、助けてもらいやすいよう、チャラ男の行動に対して過度に怖がってみたりはした。その一悶着のおかげで、アルマは完全に俺を不憫なロリだと信じきっている様子だ。

 

「元々私はここで友人を待っていたんだ。何も言わずに去ってしまうのも彼に申し訳ないし、少しだけ待っていてもらえるかな?」

「わ、わかりました」

 

 個人的にはこのままロリの振りをしたい。そうすれば彼に色々便宜を図ってもらえて都合がいいだろう。

 だが、それ以前に“俺”は約束しているのだ。このクソデカシャードの麓で、アルマと会おうと。

 

 このままでは、いつまで経っても現れない男の俺に対して怒りを募らせてしまう。リアルでアルマの信頼を失って不幸になるのは、同じく現実サイドの俺なのだ。

 ごめんなアルマ。君の待ち人は目の前にいる。こんな変わり果てた姿になってしまったんだ。

 

 さて、どうする。このややこしい状況に区切りをつけて、リアルの尊厳を守るべきか。それとも、ロリとしてこのまま突っ走るべきか。

 

 いや、逆に考えよう。……両方やっちゃってもいいさ、と。

 俺はThiscodeを開くと、そそくさとメッセージを書き込んだ。

 

『ごめんなんか酔ったから一旦落ちるわ。すまん』

「おや……。ああ、ダイブ酔いか。『それはしゃーないわ。寝ろ』……と」

あっマジでそういうのあるんだ。……アルマさん?何かあったんですか?」

「どうやら友人がダイブ酔いを起こしてしまったみたいでね、来れなくなったみたいなんだ。せっかく待っていてもらったのにすまない。君もどこか悪いところはないかい?」

「ボクは全然平気です」

 

 Thiscodeは外部連携のアプリケーション。つまり、レーナではなく“俺”として連絡を取ることができる。

 名付けて『なんか調子悪いわ作戦』。現実の俺は体調や機器の調子が悪い振りをし続けて追及をのらりくらりとかわし、その隙にローリプレイを楽しむ手はずだ。

 

 無理があるって?いつかはボロが出てバレるだろって?

 ……まあ、その時は現実の俺が頑張ってくれるさ。頑張れ未来の俺、俺のために。

 

「それじゃあ、いつまでもここにいるわけにもいかないね。待たせてしまって申し訳ない、そろそろ君の冒険を始めようか」

「はっ、はい」

 

 そんなこんなで彼は納得した様子。見てろよアルマ、俺が満足するまでは誤魔化してやるからな。

 ここまでやったんだ、お前が中盤で裏切りそうな怪しいイケメンロールプレイをするなら、俺も理想のダウナー系ロリを演じてやる。

 

「さっきの輩は通報しておいたが、とはいえその姿で町に出るとまた別の厄介事に巻き込まれるかもしれない。だからこれを渡そう」

 

 ダイアログが出現する。そこにはそれぞれ“見た目装備:シャドウローブ”と『受け取りますか?』の文字。

 

「それを着れば、レーナちゃんの体格なら全身すっぽり隠せると思う。着てみてくれるかな?」

「ありがとうございます。これ、ですよね……っ」

 

 俺は“承諾”の選択肢を選び、インベントリに現れたそれを装備した。

 身体がほのかな光に包まれる。あっという間にそれはローブを形取ると、やがて影のように黒く染まった。

 彼の言うとおり、このフードを深めにかぶれば顔を見られることはなさそうだ。

 だが──。

 

「……はい先生」

 

 俺は右手を挙げる。

 

「なんだろう」

「これダサい……です」

「……」

 

 アルマが苦虫を噛み潰したような表情になる。

 だって仕方ないだろう。このシャドウローブなるもの、本当にただ無地の布を被せただけなのだ。

 こんな布切れ一枚では、せっかくのご尊顔やロリボディが台無しではないか。

 

「いやまあ急ごしらえのやつだから許して欲しいな。というかそれ一応私のを貸してるだけだからね、あんまり文句言われると流石の私もへこむよ」

「それにしたって、もっとこう他に色々あると思います。ポンチョとかいい感じの帽子とか、もうちょっと何かなかったんですか?」

「聞いてたよね私の話、このゲーム女の子全然いないから注目されると面倒になるって」

「聞いてたけど!それとこれとは別ですから!せっかくバーチャルやってる意味ないですよ!」

 

 アルマよ、貴様の言うことは一理ある。

 だがTSしたら可愛さを追求したくなるのは自然の摂理だ。普段着だろうがそうじゃなかろうがどんな衣装でもこだわりたい!

 

「ああもう分かった、分かったとも。ひとまずバザーに行こうか。いくらか資金を渡すから、それで好きなものを買うといい」

「え!いいんですか?」

「もとよりそうするつもりだったから気にしなくていいよ。……ただし、ちゃんと武器防具も買うんだよ?初期装備じゃちょっと辛いだろうからね」

「やったー、アルマの太っ腹!」

なんか急に馴れ馴れしくない?

 

 待ってろよ野良プレイヤーども。ひそかな噂になってみせる、トゥルース・ノヴァには謎の美少女がいると。

 

 

 

 

 

無理無理無理無理怖い怖い怖い怖い

 

 即落ち二コマとはまさにこのことだ。

 意気揚々と町の広場に戻った俺は、またもやその圧倒的な喧騒の雰囲気に呑まれて萎縮していた。

 アルマに手を握られてぐいぐいとその波に連れられていく。油断すれば一気にぺちゃんこになってしまいそうだ。

 

「手を離さないで。流石に私といえどこの人の波はどうにもできない」

「無理無理無理無理無理、潰され──ひぃっ!?アルマぁ、ちゃんと手握ってるよね?握ってるよね!」

「うっ!?……に、握ってるからとりあえず落ち着こうか」

 

 もはや彼の後ろにぴったりつくのが一番安全だ。俺はアルマの鎧に身を寄せて守りに入った。

 彼の言う通りだった。もしこの場で騒ぎでも起きたら、簡単に俺はぺちゃんこになってしまう。

 

 なんでこんなに人いるんだよ。そこらのゲームの過密サーバーだってこうはならないだろう。

 ただしこんな人だかりの中でも、アルマの声はよく聞こえる。どうやらパーティを組んでいると会話がしやすくなるらしい。

 

「ここは経済の中心なんだ。最初の町のくせして主要施設が一箇所に固まっているせいで、トレードやバザー、パーティ募集までもが全てここで行われている」

「へぇ……。ほかの町に人はいないんですか?」

「いないことはないけど、結局このゲームをやりこんでいる人は皆イェーナに集まってしまうからね。初心者か周回中の人しかいないようなものだよ」

 

 あー、MMOあるあるかもしれない。

 よく使う施設──ショップや倉庫などだろう──はアクセスしやすい場所にあると移動距離が減って便利だ。そうして皆がそのメリットに気付き、少しずつ拠点を移し始めればあっという間に人口密集地の完成である。

 

 というかこの圧迫感の正体がわかった。このゲーム、キャラクター同士重なることが出来ないのだ。

 確かにフルダイブVRなんかで自身の身体に他人が突き刺さっているのを見たら恐ろしくて堪らないだろう。だから衝突するしかない。俺がイェーナに来て初めにぶつかった人が反応すらしなかったのは、いちいちリアクションしていたらキリがないからだろう。

 

「さて、バザーに着いた。専用メニューの表示が出ていないかい?」

「ほんとだ、出てきました」

 

 建物に近づくや否や、端末に浮かび上がってきた表示。俺はそれを見てすぐお目当てのものを探し始めた。

 

「初心者には斬撃属性の武器は使いにくいと思う。慣れていないなら、メイスのような鈍器がおすすめ──って聞いてるレーナちゃん?」

「ん。──あっこれ可愛いな……」

「聞いてないよね?」

 

 見た目装備にソートを合わせ、ずらっと並ぶ項目に目を通す。

 驚いたのが、女性用装備が男性用装備よりも安いことだ。普通のゲームであれば女性用のほうが圧倒的に相場が高くなるはずなのに。

 

「女性用の見た目装備って安いんですね」

「ああ、さっきも言った通りそもそも女の子がいないからね。着ることも着せることも出来ない服に残念ながら価値はないんだ。ハウジングにNPCが追加されると未だに信じられているせいで、捨て値にはなっていないけれど」

「でもたしか男の娘はいるって金髪の人が言ってましたよ」

「彼らは男女兼用の装備を着ているんだ。君にあげたシャドウローブもその一つだね。だから女性用は本当に女性にしか着られないとも」

 

 へー。じゃあこの全財産をはたいて買ったアウターも女の子にしか着られないのか。

 

今すぐ装備しますか?』

 

 なんか邪魔なの出てきた。他にも見てみたい服あったし適当に“はい”押しとくか。

 

「だから装備する時は慎重に、くれぐれも今すぐ装備しないように。なぜなら──」

「……えっ?」

 

 貸してもらっていたシャドウローブが消失する。そして代わりに現れたのは、今買ったばかりのアウター。

 それが、俺の体を包んでいく。

 

 ところで、ここで問題だ。

 女の子がいないはずの空間に、絶対女の子にしか着られないはずの服が突然衆目に晒されたらどうなるだろう。

 答えは、こうだ。

 

「おい、あの服って……」

「What the!?」

「男の娘な訳ないよな、あれ?」

「またバグ……じゃない!?」

 

「……なぜなら、こうなるから」

 

 あれだけうるさかった周りが、一気に静まり返る。

 バラバラだった視線が、一箇所に集まる。

 十人十色、無数の猛者達の顔が、同じような驚きに染まった。

 

 次の瞬間、バザーは凄まじい混沌に陥った。

 

「掴まって!」

「あっえっなっ?うやぁ!?」

 

 アルマに抱えあげられる。俺の足が宙に浮いたまま、凄まじい速度で現場から離れていく。

 パニックがバザーを支配した。ドミノのように人が倒れ、怒号や悲鳴が飛び交っている。

 訳の分からぬまま、俺は布を被せられてその場を後にした。

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