ある日思いついた設定を元に、新作を投稿します。現在執筆中の作品とこちらの作品、どちらを沢山投稿するかは未定です。気ままにお楽しみ下さい。
では、どうぞ。
「ゲマトリアに、入れてもらえません?」
「…………少々お待ちを。理解が追いつかないので」
無理もない。
何故、一生徒が私達の拠点を突き止められたのか。何故、そんなお願いを口走ったのか。
……目を凝らして、目の前の彼女を観察してみる。脳内の記憶を探る。
「…あぁ、思い出しました。貴女、あの学園の生徒でしたか」
その言葉に反応するように、首を縦に振る。例の計画を変更する事になった、元凶でしたか。長い間、情報すら見聞きしなかった為に、存在を忘れていた。
それはそうとしても、何故の連鎖は止まりそうにもない。彼女は、間違いなくアチラ側。少なくとも、私達の側に足を踏み入れるべき者ではない筈。
「何故、我々の下に?」
簡素に、そう尋ねる事にした。この方が、下手に探るよりも効果的だろう。
その予想は、無事当たる事になる。
「知りたいからです」
「……知りたい?何をです?」
「
「…………ほう?」
知る為に。それも、全てときましたか。
動機としては存外面白い。が、その為だけにコチラ側につくとは、果てさて納得するに欠ける。
知るだけであれば、有識者に問えば良い。本や文献でも読み漁れば良い。それらを元に結論を構築する事など、恐らく彼女は容易くこなしうるだろう。
であれば、何故。
「資料や有識者では、不服で?」
「そうです。
「……ほう、ほう!」
成程、これはどうして素晴らしい。思わず、歓喜の相槌を打ってしまう程には。資料や有識者の知恵や立場を、ここまで深く理解しているとは。
であれば既に、この世界の何たるかすらも到達している事だろう。でなければ、知らな過ぎると断言は出来まい。
間違いない、コチラ側の者だ。
「いいでしょう。ただし、他の者の了承を得る必要があります。同行してもらえますか?」
「構いません。ここに所属して好き勝手出来るのであれば、問題ありません」
「好き勝手出来る、訳ではありませんよ?」
「……言葉の綾、です」
淡々と、言葉を返す。この距離感、なんと心地よい具合だ。マエストロもベアトリーチェも、些か情が過ぎる時がある。せいぜい、ゴルコンダ辺りがまだマトモと言えるくらい。そのゴルコンダを上回る程に、彼女との距離感は理想である。
とても、子供を相手取っているとは思えない。それどころか、下手な大人より大人である。
────────
「ところで、我々ゲマトリアがどういう集まりかはご存知で?」
私としては、ここを確認しておきたい。彼女が我々の最終目標と同じモノを志しているのか、それは何でもいい。が、目標を理解しているか否かで、彼女への応対が変わりうる。そこは、はっきりさせねばならないだろう。
いつかのベアトリーチェのような、我々の認識の齟齬が起こす想定外は、いつだって想定を大きく超えて身に降り掛かる。出来る限り無くしておきたいと思うのは、普通だろう。
「知っていますよ。“崇高"への到達とかでしょう?」
「それならば結構。ですが、貴女の目的は、我々とは異なると思いますが?」
「あくまで、動き回る上での都合の良さを重視したまでです。貴方々を敵に回すなら、あっちの甘えに漬け込む方が遥かにマシですし」
「……私の記憶では、貴女は既に学籍無しだったと見受けますが?」
「あのタイプの人間は、そんな垣根を超えてでも踏み込んできます。私が情を煽る事を言えば、有無を言わさず肩入れするでしょう。貴方々に弱味を握られてるとでも勘違いしてくれれば、儲けものです」
仲間にも容赦ない。どこか、ベアトリーチェ味を感じる。が、少し毛色が違うのも、読み取れる。ベアトリーチェが"味方ごと道連れにする事を厭わない"タイプであるなら、彼女は"自分以外が危機ならば、自分は逃げる"タイプだろう。恐らく、わざわざ私達を道連れにしようとは、しない人柄。
提供される"場所"と"立ち位置"に魅力があるだけで、そこに属する個人が最重要。そして、自ずから危機に陥る事はしない、ベアトリーチェよりも合理的な臆病者。言葉通りの臆病ではなく、賢い臆病。
出来るだけ、良い関係でありたいものだ。今でこそ、私達とは違う非合理的な言動を採る先生と良好な関係を、築けるものなら築きたいのだが、彼女が現れたのであれば、話は変わる。ここまで実直で合理的な者の方が、傍に置く分にはずっと良い。
勿論、先生をこちら側に引き入れたい意思自体は変わらないが。
「味方に容赦ないその性根、確かにアチラ側は生きづらいでしょうね。私は好感が持てますが」
「そうでしょう。貴方なら、そう言ってくれると思ってましたよ」
この匣庭には、およそ似つかわしくない子供。振る舞いや口調一つさえ見てしまえば、恐らく誰もが理解出来よう。
この冷たさは、私達と同質。この
一瞬の憐憫が湧き、消える。言葉には、しまい。
「……一応聞いておきたいのですが、”崇高”を目指すつもりは?」
「分かりません。何かを知る事に必要だと分かれば、目指す可能性はあるかと。」
「ふむ……キッカケがない限りは、そのつもりがないと」
「その認識で、問題ないです」
どうやら、今のところは興味が無いらしい。
今までの素振りを合算するに、”生徒として”の彼女は、とっくに捨てたように思う。「私に合わない」「知らな過ぎる」と言ってのける辺り、彼女は”生徒として”の彼女が知れる物事を理解しきった…と結論づけたのだろう。だからこそ、躊躇の欠片もない。
……恐らく、”ゲマトリアとして”の彼女での理解が終われば、颯爽とゲマトリアを去る事だろう。それは、想定した上で判断せねばならない。とはいえ、こちらが困る事はそうないのだが。強いて言うならば、厄介事を持って来ながら去るくらいか。
「着きましたよ。さぁ、会議を始めましょうか」
────────
「……と、言うわけでして。私の一存で決めるのもどうかと思いましたので」
「随分、素直な決断ですこと。いつもであれば、事後報告じゃあありませんこと?」
「軋轢が怖い時でもありますので。人員を増やすのであれば、こうした場を設けてきちんと話をつけておく方が円滑に進むでしょう?」
急な黒服の呼び出しだった。ボイコットして欠席してもよかったのだが、何でも、些か緊急性と重要性の高い事だとのことで。仕方なく、本当に仕方なく出席することにした。
話を聞けば、ゲマトリアに所属したい物好きがいるとか。それが、黒服の横に立っている子供。一見すると、そこらの生徒と変わらない。強いて言えば、綺麗な薄い水色の髪をしているくらいか。それ以外は、キヴォトスにいる子供達とさほどの差は無いように思う。
名前を、
「貴方々の近くでは、知れる事が多いと思いましたので。あぁ、先生に居場所がバレるだとかの心配はなさらず。探られる事は無いので」
やたらと自信ありげに答える彼女の言葉が、果たして真なのかを考えてしまう。のらりくらりとした言葉よりは信用できるけれど、懐疑の念は収まらない。
「…動機などは理解できた。だが一つ、聞きたい事がある」
「…?何でしょう」
マエストロが、彼女に質問を投げかける。何を問うかと思えば、何とまぁ個人的な事だった。
「貴様は、芸術をどう捉えている?」
そんな大雑把な質問に、彼女は声色一つ変えず、そして動揺の素振りも見せずに答えを述べる。
「表現の手法としては、非常に自由なモノだと思いますよ。芸術の一言は、作品や表現に深みを齎す。私はそれを興味深く感じますし、面白いとさえ感じますね」
「…………素晴らしい!芸術をこのように深く解釈しているとは!」
満足いく解答だったのか、一際声量を上げてそう放つマエストロ。
私達では、彼の芸術を理解しきれない。何せ、感性が違いすぎている。ましてや、私とは相容れない感性でもある。ゴンコルダや黒服であれば、上辺くらいならば理解者になれるだろう。それでも、芸術に真に関心を抱いている訳ではない。
そんな状況で、彼女のような理解者が現れたのであれば、どうか。
「黒服!私は異論など無い!このような理解者が近くにいるならば、私の芸術も磨きがかかる事だろう!」
「あぁ……こうなってしまったマエストロの意見は、流石の私でも曲げられそうにありません。私も、異存無しで。元々、これといった異議もありませんでしたので」
「そういうこった!」
勿論の事、こうなる。ゴルコンダも、この事態に乗じて異議なしと唱える。芸術について火がついてしまったマエストロの頑固さには、皆が皆手を焼いている。
「……貴女はどうです?ベアトリーチェ」
と、黒服が私に尋ねる。
……そう聞かれても、私としては意見も大方固まっている。しかし、目の前の彼女に対する情報が、不足しているように感じる。
折角の機会なのだ。いくつか質問しても、誰にも咎められまい。何かあれば、マエストロにでも投げてしまえば良い。
「カタリ、でしたか。我々の活動の邪魔をするつもりは、おありで?」
「いえ。邪魔した後が怖いですし」
その辺りの分別は出来ている、と。
ふむ。
「では、我々の協力要請はどう扱います?」
「私が何かを得られると判断した時は、手伝います。その逆は……言う必要は無いですよね?」
「えぇ。流石にそこまで頭が回らない程ではありません」
いかにもゲマトリアらしい、行動方針。我関せず、不要な干渉をするおそれはなさそうですね。
…で、あれば。最後の質問で、決める事にしよう。
「…私のやり方を知っている体で聞きますが、思う事は?」
「
「…………なるほど」
ならば、最早聞くべき事はないだろう。
「いいでしょう。私も、彼女を歓迎しましょう」
「おや、随分と早い決断ですね」
「私の計画を邪魔するつもりもないと分かりましたので。私に過度な干渉さえしなければ、何でも構いません」
私としては、邪魔さえされなければ何でもいい。分かり合おうなどとは、露も思っていない。その点において、彼女は及第点以上だっただけ。
あわよくば利用出来れば、とは思うが。
「では、彼女はこの瞬間をもってゲマトリアの一員とします。……あぁ、用事はこれのみですので、もう帰っていただいて結構」
黒服のその一言に、マエストロとゴルコンダはその場を去る。私もやるべき事がまだ控えているので、この場を後にしようとする。
が、呼び止める声が一つ。それは、黒服の声ではなくて。
「あ、ベアトリーチェさん。一つ聞きたい事が」
「……何です?出来れば手短にお願いしたいのですが?」
─貴女の計画、もっと良いモノにしません?
……誤算だったかもしれない。私は、静かにそう感じた。
はい、いかがだったでしょうか。
この小説は、今まで手がけた作品以上の文量にしようと考えています。それに加え、作者の考察要素であったり、それに類した論などが展開されます。これから読み続けようと考えている方は、こちらを念頭に置いて作品をお楽しみ下さい。
では、また次回。