私は問う   作:Cross Alcanna

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誘われるは、仄昏い神なれば

 

「……とうとうやりましたか」

 

「あの女は……!」

 

 

エデン条約を巡った件にて。

 

アリウスの独裁者こと、ベアトリーチェ。彼女が、”色彩”にこの世界を知らせた。いずれやるだろうとは思っていたので、()()特段驚きもしなければ、憤慨する事も無い。

 

ただ、他のゲマトリアはそうもいかない様子。特に、マエストロ。馬の合わない2人だったが、今回のやらかしで堪忍袋の緒が切れた模様。聞けば分かる声色で、憤慨し散らかしている。

 

それと相対する態度をとっているのが、ゴルコンダ。エデン条約締結の場所を急襲した爆弾やヘイローを破壊する爆弾。それらをどうやらゴルコンダに頼んでいたらしく、恐らく予想はしていたのだろう。

 

黒服もゴルコンダと似た反応を示しているが、どこか他人事のような態度だ。珍しい。

 

この手の話となれば、割と顔をしかめる部類だったと記憶していたが。

 

 

「……本当に、”色彩”が来るのでしょうかね」

 

「……?と、言いますと?」

 

 

私の呟きに、反応を示したのは黒服。顎に手を当て、不思議そうな、怪訝そうな表情を浮かべて私を見つめる。

 

正直な話、”色彩”がこれしきの事で飛来するのかと、私は思っている。ベアトリーチェは「”色彩”に、この世界の存在を知らせました」とは言っていたものの、もっとここに来る候補がいるだろう。

 

絶対なる一にして、全ての時間軸に存在するモノ。銀色の鍵を媒介として、ベアトリーチェの信号を手繰り寄せて顕現する事は、十二分に予測できる。

 

……それに、それにだ。()()()()()()()()()()()()()保証は、無い。私は、”色彩”≠アレという前提式のもとで考察してきた。が、そもそもその前提が覆る可能性だって、ない訳では無い。

 

確証がある訳では無い。が、ない訳でも無い。

 

曖昧なのだ。これが、この問題を論じるにあたって最大の難点だ。

 

 

「詳しく”色彩”とは何たるか、私達は知り得ていない訳です。”厄災を振りまく、形を持った何か”を”色彩”だと定義している訳ですから、要は何でも良い訳ですよ」

 

「……要領が掴めないな。何が言いたいんだ?」

 

 

抑えきれないのであろう苛立ちを少し露わにさせながら、私に問い掛けるマエストロ。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()可能性がある、と言いたいんです」

 

「…何?」

 

 

ゲマトリアの”色彩”の定義は、かなり曖昧。キヴォトスの外において”キヴォトスに唯ならぬ災いを齎すモノ”はかなりの数存在しうる。それこそ、先生がいたであろう世界も例に漏れない。

 

ゲマトリアの定義に乗っ取れば、”色彩”に該当するモノは多岐に渡る。私達の想定外が”色彩”だった、なんて事も別に不思議な話ではない。

 

私が研究しているモノが”色彩”になる可能性もあれば、眼中になかった何か……或いは、該当する複数のモノが”色彩”だった、なんて事すらも考えられうる訳で。

 

 

「”色彩”ではなく、それに近しい何かが呼び寄せられる可能性だってあるじゃないですか」

 

「言われてみれば、それもそうですね」

 

「…………ふむ、一理あるな」

 

 

正直な話、ヤツが来る可能性の方が高いと踏んでいる。勿論、”色彩”が到来する可能性を捨てている訳ではない。

 

しかし、今まででこの世界に(無理矢理にでも)干渉してきたヤツの方が、ベアトリーチェの存在認知を手繰り寄せる事は充分にありうる話だ。

 

 

「して、ヨグ。貴女は何が来るとお思いなので?」

 

 

その問いに答えよう、そう思った瞬間。

 

意識が暗転した。

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

─漸くか。繋がるには、かくも時間を要するとは思わなんだ。

 

 

声。それも、昏く沈んだ声。これまでの生でも、聞き馴染みのない程の低い声。生を感じない、鉛のような重さを感じさせる。

 

私は、その声主を理解した。

 

 

「……やはり、干渉してきましたか。()()=()()()()()

 

─ほう、知覚したか。

 

 

知覚したか。この言葉は、単なる事実確認の意では無いだろう。彼らが語られる物語では、ソレらを知覚した者は正気を保てなくなり、狂ってしまう。

 

常人では、知覚した後の人となりはしれた事。そうならなかった私に、興味を抱いているのだろう。

 

ヨグ=ソトースは、ニャルラトホテプより賢い。私の話術や考えがどこまで通用するか。

 

 

「アナタがこの世界に干渉した理由は?」

 

─興味だ。お前へのな。

 

「…………私?」

 

 

返ってきたのは、思いもよらない言葉。ヨグ=ソトースのお眼鏡に適ったのは、私だった。

 

……考え誤ったか?

 

 

─難しい事はないだろう。私は、知恵のある者を好んでいる。あの世界において、お前はその類いに分けられよう?

 

「”脇役”や”主役”のテクストはさして意味なかった、という事ですか……」

 

 

そうだ。相手はこの世界の存在じゃない。ならば、テクスト云々の土台で論じるのは筋が通らない。私もこの世界に生きてるせいで、テクストの影響力の強弱を思い違えていた。

 

……だとしても。

 

先生への興味が皆無とは思えない。ヨグ=ソトースのいう”繋がる”は、恐らくヨグ=ソトースの世界とこの世界を繋ぐ鍵と関係している筈。

 

なら、外の世界出身である先生(や黒服ら)がより適任だろう。何故、私なのか。

 

 

「何故、私だったので?先生や黒服でも良かったのでは?」

 

()()()()。心当たりはあるだろう?

 

 

─そういう事か。

 

私が直近で検討していた問い。

 

時間とは。

 

これが、私を”鍵”たらしめるキッカケになったのか。それであれば、納得だ。

 

ヨグ=ソトースが何であるか。過去と現在、そして未来全てに存在すると言われている、ある種の時間に関連する存在。であれば、”時間”がヨグ=ソトースを引き寄せる要因になりうる。

 

それに。あの言い方からして、恐らく”先生の外の世界としての要因は弱かった”とも取れる。先生でダメなら、消去法で黒服らも適さない事になる。

 

その点、私には外の世界に関する知識がある。先生らには劣るだろうけど、それを他要素で補った結果、適正として定まったという訳か。

 

 

「……どうして、ここに干渉を?」

 

 

ベアトリーチェが呼び寄せたならまだしも、鍵が落とされたのはその前。ベアトリーチェの呼び寄せが作用して渋々……であれば簡単な話なのだが、それではどうも辻褄が合わない。

 

ならば、ヨグ=ソトースがここに来る何らかの動機がある筈。薄い興味にしろ、キヴォトスへの侵略にせよ。

 

 

─この世界に興味がある訳では無い。全ては、お前だ。

 

「…………と、言うと?」

 

─お前を気に入った、それだけだ。

 

 

言われる人が違えば、そして言う者が違えば青春が始まるであろう一場面。が、今この瞬間でそれが始まる気配は無い。

 

魑魅魍魎に魅入られた気分は、こういうモノなのか。今の私は、その心情だけが渦巻いている。

 

 

─お前は、何処に辿り着くつもりでいる?

 

()()()()。その境地に、私は向かっています」

 

─……一人間が、かくも肥沃な野望を。

 

 

不気味な笑みを浮かべながら、ソレはそう告げる。

 

 

─私の力、望むなら貸してやるが?

 

「……まだ、不要です」

 

─ククッ、じきに借りる訳か。

 

 

まだ、まだその時じゃあない。

 

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