私は問う   作:Cross Alcanna

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私は■、アナタは■

 

「どうして……何で私に相談の一つもしてくれなかったのさ!?」

 

 

私らしくもない怒号が、無機質な空間に響き渡る。ここまで怒りを顕にしたのは、いつぶりだろう。黒服以来かもしれない。

 

それ程に、私は怒っている。何の相談もなく独りで抱え込んでいたカタリにも、それ程に大きい悩みに気付けなかった私にも。

 

言わば、宛先の分からない八つ当たり。こんな事はダメだと、分かっている。でも、「今くらい良いじゃないか」という甘い考えが、それを許してしまっていた。

 

こんな怒りに溢れた私に対して、まるで気にしないと言いたげな態度で、淡々と言葉が投げられる。

 

 

「無知は、罪だ」

 

「無知は……罪…」

 

 

言いたい事は、分かる。

 

あの頃は、私もカタリも青春らしい青春を謳歌していた様に思う。ユメ先輩と何気なく過ごした毎日、そして時々に添えられたイベント(スパイス)

 

それは、まるでアビドスの現状から目を背ける様な、甘い誘惑でもあった。

 

私達は、知る事から逃げていた。知る事を恐れた。その結果が、ユメ先輩の消息不明()

 

その後の私は、後輩に触れた事で癒えた。勿論、全てがという訳ではない。ないにしろ、「まだ頑張ろう」と思えるくらいには。

 

カタリは、そうじゃなかったんだ。アビドスから去って、きっと沢山の知識を得たんだ。"無知は罪だ"と、十字架(烙印)を背負いながら。

 

輝かしかったあの日々を、押し殺して。

 

 

「……カタリは、知る事で向き合おうとしたんだね」

 

 

不器用な性格をしていたカタリ。負の記憶への向き合い方も、不器用ながら頑張っていたみたい。それを、私が咎めるのは違うかな。

 

……でも。それでも。

 

相談くらいは、してくれてもよかっただろう。離れるなら、一言は欲しかった。幾ら生き急いでいたとはいっても、仲の良かった同級生が急にいなくなるのは、嫌だ。

 

 

「……私はもう、生徒じゃない。人じゃない。……私は、過去を追想するだけの、知識を貪る怪物」

 

 

私を突き放す様な、それでいてどこか縋る様な。悲鳴の様な声色だ。まだ自分に烙印を押して、重荷を背負おうとするその姿。

 

……見ていられなかった。救い出したかった。けれど、今の私では出来そうにない。それこそ、先生でもない限り。

 

 

「……私は、知識の先を見る。それがどんな結果を齎すか、理解もしている」

 

 

その言葉には、生半可では無い覚悟があった。生徒の為に動く先生の様な、確固たる意思。およそ、私の言葉では変えられないであろう決意。

 

止めるべきなのは理解していても、どこか止めるのをはばかられる自分がいる。それが応援の為なのか、はたまた自責の念からなのかは分からない。

 

言葉は、続く。

 

 

「次に会う時は、相入れる事は無いでしょう。なのでどうか──」

 

 

 

──どうか、止めないで下さい(■■■■■■■■)

 

 

 

─嗚呼、私は。

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

「……私の考えだと、時間は変えれても…………」

 

 

あれから。

 

私は数日、拠点に篭もりきり。ゲマトリアには一応、暫くは拠点で研究すると伝えている。加えて、余程の要件以外では呼ばない・この拠点に訪れない事も伝達済み。

 

心置き無く、研究が出来る。

 

あれから聞いた事だが、ベアトリーチェは回収し次第監査処分にするのだとか。あの件はやり過ぎたという判断らしく、ゲマトリアの掟を破ったという結論になったらしい。

 

……私はというと、その議論には参加しなかった。どちらでもいいとも思ったし、私の一声で意見が覆る訳もないと悟ったのもある。

 

いずれにせよ、どうでもよかったのは根底にある。

 

 

「時間と生命を切り離して考えるのは……いや、もしそうなら、誰かしらが試している?」

 

 

それよりも、だ。

 

時間の仕組みを解釈(曲解)した私は、それを利用したある計画を企てている。

 

■■■■の、蘇生。要は、死者蘇生。

 

生命倫理において、最大の禁忌の1つに数えられるモノ。同一人物の複製に肩を並べる、生への冒涜。

 

本来であれば、そんな所業は出来ない。仮に肉体()を蘇らせたとして、その肉体()に入れる魂が無いのだ。

 

空のペットボトルに入れる水が無い為に、”水入りペットボトル”が作れないのと、仕組みは殆ど同じ。

 

現時点では、魂を創る技術は無い。肉体を作るのは、無名の司祭らが出来ている以上、不可とは言えないだろう。

 

時間を遡らせて蘇生を試みるにしても、魂まで戻せるかの保障は皆無。寧ろ、困難を極めるビジョンしか見えないのは、今の私でも分かる。

 

()()()

 

 

「…………だからこそ」

 

 

それが出来てしまいうる、とある手段(地獄への片道切符)が1つ。

 

「今はまだ」と言ったあの時には、凡そこの結論に至るだろうとは思っていた。恐らく、彼も。

 

私が今研究を続けているのは、それ以外の可能性がないかの、最終確認の為。その検討も、じきに限界が来るだろうが。

 

正直に言ってしまえば、私も禁忌は犯したくない(■■■■■■■■■■■■■)と思っている。

 

が、どうにもそれ以外では難しい。ならば。

 

 

「仕方ない、か」

 

 

今の私の脳ならば、恐らく耐えられるだろう。この結論に至るまでの過程で、処理能力や情報収集・紐付け能力は養われた。

 

今ならば。

 

 

「……俗世への、決別の時ですね」

 

 

…………まともなうちに、済ませねば。

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

「…………そう、ですか」

 

「ここで止めるなら、私は抵抗しません。その覚悟も承知でここに来たので」

 

 

ここ数日、研究の為拠点に篭もりきりだった彼女が、ゲマトリアの拠点に姿を見せた。そして言った一言。

 

─私は、かなり危険な賭けをします。

 

彼女の口から、賭け等という言葉を聞く事は終ぞ無いと思っていましたが。しかし、揺るぎない表情は今までのソレよりもずっと強い。

 

そんな表情をした彼女を、私は止めたくなかった。

 

……我々以上に謎めいた彼女の、野望。キヴォトスの危機になるやもしれない事を加味すれば、真っ先に止めるべきでしょう。

 

しかし、この時の私はそれをしたくなかった。

 

見届けたく、なった。彼女がどの様な道を望み、どの様な結末を齎すのか。

 

 

「……いいえ、この場では止めないでおきましょう。興味が無いと言えば、嘘になりますので」

 

 

だからこの言葉は、私なりの餞別。道を共に出来ない私からの、少ないながらの情け。

 

……はて先生とは、この様な面持ちなのでしょうか。

 

 

「────────」

 

「……それは」

 

 

微かに聞こえた声を最後に、彼女は消える。その言葉は、()()()()()()()()()()()()()の様にも聞いて取れた。

 

……何と、不器用な事か。何と大それた、三文芝居か。

 

 

「……嗚呼、でも」

 

 

 

─貴女の事は、嫌いではありませんでしたよ。

 

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