私は問う   作:Cross Alcanna

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外界の双児

 

マズイ事になった。

 

ついさっき、コタマから私に通信があった。各学園の一部の生徒には、緊急時にすぐさま連絡が取れるようにと無線を渡している。それは、分析を担当しているヴェリタスにも同様に。

 

そんなヴェリタスから、電話やモモトークではなく無線を使っての連絡。余程の事があったのだろうかと思って報告を聞けば。

 

 

「先生!新たな生体反応を感知しました!その生命体は、シャーレ方向に進行しています!」

 

 

普段滅多に聞く事のない、コタマの焦る声色。その事実が余計に、私の危機感を煽る。

 

聞けば、今まで感知されなかったレベルの高い生体反応が検知されたと。更には、急に出現してその場に停止していた後、突如としてシャーレ方向に急進したと言う。

 

……非常に、マズイ。

 

ただでさえ高エネルギー体との戦闘について考えないといけないというのに、その前に戦力を大幅に割かないといけない事態になるのは、場合によっては詰みになりかねない。

 

が、その戦闘を避ける事は、恐らく不可能だろう。真っ直ぐこちらに向かっていると言う以上、同じ方向の、シャーレ以外の目標がある事を祈るくらいしか出来ないだろう。

 

追加の情報として、ビナーレベルの生体反応の強さとも言っていた。接触してしまえば、甚大な被害は免れないと見ていいだろう。

 

…………どうしたものか。

 

かく言う私は、書類に忙殺されている。いつものシャーレ関係の書類や、各学園の”奇形”調査書類、そしてミレニアムの様々な分析結果。目を通すべきものが、多い。

 

私がやらねばならない事なのは、理解している。けれど、頑張っている他生徒の事を考えると、私にも何か出来ないのかを考えてしまう。

 

 

「先生、少し話したい事がありまして」

 

 

その声を聞いて、私は咄嗟に後退る。

 

黒服だ。

 

 

「……どうして、シャーレに」

 

「黙秘権を行使させて貰います。それよりも……」

 

 

今はそんな暇は無いと言わんばかりに、私の言葉を遮る。どこか、少しの焦りの様なものを感じる。

 

 

「貴方方も知っているであろう、アビドス砂漠の生命体についてです」

 

「…………」

 

 

何故知っているのか、等とは問わない。ゲマトリアの情報網が私の想像を優に超える事くらい、考えるまでもない。特に今回の様な、オカルトめいた事においては。

 

正直な話、今の私に黒服の話を遮ろうとするだけの余裕は無い。精神的に余裕がないのもあるが、1番は情報の不足。私達に足りないものは、今に限っては手が出る程に欲しい。

 

黒服自体には、信頼を置いていない。が、情報の核は芯を通っている。それを見極める事さえ出来れば、確かな情報が得られるだろう。

 

癪ではあるが、止むを得まい。

 

 

「あの生命体……面倒なので、()()()()()()()()()()()()

 

「…………待って」

 

「…おや、どうしたのですか?」

 

 

……待て。待て。

 

()()()()()()()

 

 

「…………アレは、ヨグなの?」

 

「おや、てっきり知っているものだとばかり思っていましたが」

 

 

……まさか。想定していたうちの最たる最悪を引いてしまった。

 

僅かにその可能性は浮かんでいたものの、これといった確証も無かった事と、そうであって欲しくないという願望があった。それは、かくもあっさりと覆された。

 

 

「なら、どうして放置していた?」

 

「事情が変わった、という理由が全てです」

 

 

分かるはずもない表情が、一瞬真顔になった気がした。

 

 

「そんな事はいいのです。まずはこちらに向かっているモノをどうにかしなくては……」

 

 

続ける黒服の言葉を遮るように、無線の音が響く。察したらしい黒服は一旦喋るのを止め、私が無線に反応するのを待っている。

 

 

「どうしたの?」

 

「ッ!先生!シャーレ付近に”奇形”が出現してる!」

 

 

さっきのコタマ以上に、焦りを含んだハレの声。その報告を聞いてすぐ、私は窓から下を見る。

 

それらは、いた。しかも、並ならない数で。

 

コタマの報告から今の報告まで何も無かった。という事は、ヴェリタスから報告を受ける直前にシャーレに出現したという事か?……まさか、こっちに近付いているヤツにも、歪みを発生させる力がある?

 

……だとすれば、尚の事放置する事は出来ない。

 

いつの間にか切れた無線を確認したのか、黒服が言葉を放つ。

 

 

「そういう事です。シャーレが崩壊してしまえば、今のキヴォトスは壊滅すると言っても過言ではないでしょう」

 

「……それの対策を、共有しに?」

 

「それもあります。が、私がお話したいのは彼女についてです」

 

 

彼女。……恐らく、ヨグの事だろう。どうしてああなってしまったのか、私達にはまだ分からない。だからこそ、世界を壊してしまう罪悪感を背負わないようにしなければ。

 

いつの間にか、私は黒服に言葉を促していた。

 

 

「彼女を止める方法は、1つ。()()()()()()()()()()()()

 

 

神格を剥がす。それは、()()()()()()()という事を暗に意味していた。

 

神の神たる所以。それは、作り上げられた挙句に、何らかの形を経て得られるようになった崇拝の積み重ね。外部から「その様に在れ」と祭り上げられた結果の、生物としての格。

 

それを、剥がすと言う。御伽噺でも無いのに、それが出来るとは思えない。

 

 

「……手立てはあるの?」

 

「ええ。ただ、そう何度も使える様な代物ではありません」

 

 

チャンスは、一度。

 

黒服は、確かにそう告げる。

 

 

「先生方には、彼女の無力化を頼みたいのです」

 

 

随分な無茶を言う。が、私達がしようとしていた事も、さして変わりがない。

 

やるしか無い。それだけなのだろう。

 

 

「キヴォトスを守る為なら、仕方ない」

 

「それは何よりです」

 

 

私は結局、生徒(ヨグ以外)を取った。この選択に悔いが無いかと問われれば、素直に頷く事は難しい。もっとやりようはあったんじゃないかと、呵責の念に囚われそうだ。

 

ただ、キヴォトスの命運が、私の行動全てに掛かっている。やらねばならない。討たねばならない。

 

 

「……許してくれなくて、いいよ」

 

 

君の夢を、君の道を。

 

踏みにじり、ねじ伏せる選択をした私を。

 

どうか、どうか。

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

「間もなく、接触します!」

 

 

シャーレの付近。なるべく被害の少ないであろう場所を選んで、私達は戦う事にした。

 

緊急にも関わらず、私の召集に応じてくれた生徒の数々。トリニティの補習授業部やミレニアムのヴェリタス、そして百花繚乱のワカモ。戦力としては、かなり申し分ないと言える。

 

それでも、不安は拭えない。黒服の予想が正しければ、私達が敵対するのは彼女の眷属。複製(ミメシス)等とは比にならない、何ならビナー等にも匹敵すると言う、浄化の赤と黒。

 

私達の常識を超えた、最早概念と呼ぶに近しい怪物。

 

今から私達は、ソレと対峙する。

 

 

「緊張なさらないよう……とは、酷な言い方でしたか」

 

 

全くもって、その通りだとも。

 

 

「…相手の実力が測りきれていないんだ。緊張しない方が、無理な話だと思うけど」

 

「それもそうでしたね。かく言う私も、その全貌までは知りませんし」

 

 

……コノヤロウ。

 

んん……抑えないと。

 

 

「……全なる一の、忠実なる仔。それは、奇なるモノ達と共に現れ、如何なるを浄化するでしょう」

 

 

かつて、私に説いた様に。淡々と、毅然と。

 

まるで、つまらない物語を語る様に。起伏も無ければ、当然興味もありはしないだろう。

 

しかし、それは続く。

 

 

「ですが我々は、浄化などに屈してはならない。……何故か」

 

 

重い言葉が、空気を支配する。重苦しい現実が、私を包む。

 

しかして、屈してなるものか。足掻かずにいられるものか。

 

 

「我々は、浄化などを必要とはしていないのです」

 

 

転起。

 

言葉に、弾みが生まれる。

 

 

「さぁ、先生。彼等を否定しましょう。我々を肯定しましょう。……まだ、貴方の落陽には早いでしょう?」

 

 

 

─勿論だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─滅浄の”赤”と”黒” ナグ&イェグ、顕現。

 

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