私は問う   作:Cross Alcanna

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全なる一(善なる悪)

 

「……ぶつかりましたか」

 

 

ふと、私が放った使い魔が誰かと戦闘を始めた気配を感じる。恐らく、想像より長く保つ事は無いだろう。長い間戦力を削れていれば上々だが、あちらには何でもありな面々がいる。

 

その年に似つかわぬ戦力と思いを秘めた、生徒(子供)。その者達の為には己の身すらも惜しくないとする、奇跡を引き起こす大人(先生)

 

そして、非道を悪と思わない知識人の集団(ゲマトリア)

 

あの2体も、やがては対策されて攻略してくるのがオチだろう。そして、私の前に立ち塞がってくる。

 

この物語は、そう定められているのだろう。

 

気に食わない。憎らしい。羨ましい。

 

私の夢は、この世界(物語)にとっての悪。しかし、私にとっては善。

 

善と悪の表裏性については脳内で何度も考えた事がある。それを、こんな形で実感するとは思わなんだ。

 

だが。だが。悪と断じられようとも、間違っていると説かれようとも、私はやらなくてはならない。

 

でなければ、私はずっと立ち止まったまま。過去に囚われた、哀れな■■(怪物)になるだけ。そんな事の為に、私は生きたのでは無い。

 

私は問う。私とは、誰なのか。

 

少なくとも、何も出来ず果てた者では無いと。私は、私の全てを以て示す。その為の、今だ。

 

 

─Guaaaaa!!

 

「……ッ」

 

 

耳を劈く、怒りにも似た咆哮。それは辺りの砂塵を巻き上げ、空気すらも震撼させる。

 

私はその正体を、知っている。いや、忘れた事など無い。忘れられる訳が、無い。

 

ビナー。セフィラの樹の1つにして、”静観”。この世界では、未知の構造で造られた蛇型の機械生命体。その巨躯から繰り出される物理攻撃は、そのどれもが脅威になりうる。

 

挙句には、”アツィルトの光”。悉くを溶かさんとする熱の光線。アレをマトモに受けようものなら、少なくとも何事も無い様に立つ事は困難だろう。

 

そして、私の最大の()

 

 

「……今の私には、力が有ります。それこそ、アナタを壊す程に」

 

 

返事は来ないであろう。しかし、語り掛ける事を止めはしない。恨みつらみを吐くように、心の泥を示すように。無機物に、語り続ける。

 

冷静になるべきだろう。少し脅して、相手に退かせる判断をさせるのが最適解なのだろう。

 

だが、だが。今の私はそれを許さない。

 

コイツだけは。コイツだけは、何としても討たねば。私の悲願に、コイツは要らない。

 

実に、人間らしい。自分を化け物と言っておきながら、こんなにも人の様な在り方でい続ける自分が、何とも馬鹿らしい。

 

が、よく考えてみればなんて事はない。神々が負ける理由なんて、ちょっとした怠慢や執着等、言えば取るに足らない様な理由。

 

この世界に生きる以上、この世界で織られた物語の生命である以上。この性には逆らえないのだろうか。

 

 

 

─Guaaaaa!!

 

 

 

相手は、それに応じない。目に映る全てを討てとプログラムされているのか、私が敵対認識を受けているのか。真意は終ぞ、分からないまま。

 

だが、そうだろうとは思っていた。

 

 

「ええ。ええ。アナタが私の言葉に反する事は、理解していましたとも。ええ」

 

 

 

─ならば、鏖殺するまで。

 

 

 

寂れた砂漠に、轟音が響き渡り始めた。

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

「何なのよコイツら!見た目が気持ち悪いったら!!」

 

「……こんな醜い獣、本来であれば秘密裏に処理すべきなのでしょうけど…」

 

 

等と、戦闘中であるにも関わらず愚痴のような言葉を零す生徒達。だからと言って皆に余裕があるのかと言われれば、Yesとは言い難い。

 

倒せるのかどうかも分からない相手に対する、フラストレーション。それを、別の面から吐き出しているのだろうか。

 

いずれにせよ、苦戦している事には違いない。何せ、指示を送っている私も困難を極めているのだから。

 

今回の相手は、機動力が高い。ヒエロニムスやグレゴリオなどといった相手とは違い、素早い上に空も飛ぶ。空を飛ぶ相手とくれば、精々ヘリといった無機物で割と規則的な動きの飛行。

 

しかし、今回の相手は己の意思を以て飛んでいる。その動きは規則的とは言いづらく、回避精度も言わずもがな。

 

それでいて、見た目も気持ち悪い。それはもう、相手をする私達からすれば身体的にも精神的にも摩耗していく。

 

ただ、黒服の言う”切り札”は、ここでは使えない。仮にここで使ってしまえば、ヨグとの闘いで詰む。私の切り札(大人のカード)も、使い所は慎重に選ぶ必要がある訳で。

 

 

「他の学園の生徒からの連絡は、どうなってるかな!」

 

「今こちらに向かっているとの事です!それまでの辛抱です!」

 

 

とは言っても。

 

そろそろ、限界が近い。私も、そして生徒も。自分で言うのもあれだが、かなり耐え忍んでいる方だ。何せ、分が悪い相手なのだから。

 

例え鍛錬を重ねている生徒であったとしても、こんな想定外は対応に困る事だろう。相手をして分かる事だけど、アレは随分と知恵のある立ち回りをする。

 

こちらの動きを読んで回避や攻撃をし、こっちが何らかの作戦を立てて行動すれば、それすらも理解されてしまう。辛うじて成功した作戦も、二度目を超えれば避けられてしまう。

 

それでいて、相手に疲労の様子は無い。

 

 

「うわぁぁぁ!?」

 

「ユズ!?」

 

 

前線を張ってくれているゲーム開発部にも、段々と縺れが生じている。気が緩んでいる訳ではなく、疲れや消耗からだろう。一見余裕そうにしているワカモも、戦闘開始時程のキレのある動きはなりを潜め始めている。

 

 

「…?先生!上空から飛翔体が!」

 

「ッ!?」

 

 

ハレから告げられる、悪魔の様な一言。

 

……敵だとしたら、本格的に詰み手前だけど…………。

 

 

「ッ!飛翔体、敵勢力に着弾!!支援爆撃みたい!」

 

─位置情報の提供、感謝します。僅かながらではありますが、私達トリニティも支援させて頂きます。

 

「ナギサ……ありがとう!」

 

 

それは敵ではなく、ナギサ達トリニティからの支援だった。恐らく、アビドスの時の射撃と同じだろう。

 

これは本当に有難い。

 

見えない敵からの砲撃。相手からすれば、困惑待ったナシだろう。実際問題、動きに多少の迷いが生じているように見える。

 

支援を要請する時に、私達の位置座標を聞かれた事もあり、それを伝えていた。まさか、この為だっただなんて思いもしなかった。

 

ただ、長引かせるのは得策じゃないだろう。恐らく、支援爆撃すらも学習してしまいかねない。それだけの知能があると思って動いた方が、良いだろう。

 

が、希望は見えた。

 

 

「先生、お待たせ致しました。シスターフッド、これより戦闘に参加します」

 

「RABBIT小隊、合流しました」

 

 

来た……!

 

援軍として駆けつけてくれた、シスターフッドとRABBIT小隊。人数が増えるだけで、どれだけ戦闘が変わる事か。少なくとも今は、助かる事この上ない。

 

……よし、やろう。

 

 

「ミヤコ達はゲーム開発部の皆と交代!シスターフッドは支援班と治療班に別れて、それぞれ支援と治療に専念!」

 

『了解!/分かりました!』

 

 

さぁ、逆転の時間だ。

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

「よし!こちらRABBIT2、敵勢力の飛行能力の衰退を確認!」

 

「分かりました!後方支援、行きます!」

 

 

シスターフッドとRABBIT小隊の長時間の連携によって、相手の体力にも限界が見えてきた。飛ぶ事自体は健在だけど、動きの精度は目に見えて落ちている。

 

あれから回復に努めたゲーム開発部やワカモも、少し前から戦闘に合流している。

 

万全な私達と、疲弊している敵。そして、ナギサ達の支援爆撃。

 

勝てる。

 

 

「後一歩……っ」

 

 

後一歩。後一歩が、中々どうして踏み込めない。空前の灯火手前だというのに、息絶える様子はまだ無い。どうしたら……。

 

 

「先生よ、よくぞ耐えた。ここからは、私も力を貸そう」

 

 

その言葉と共に、辺りに場違いな音楽が響き渡る。

 

その言葉の主と音楽の主を、私は知っている。

 

 

「…マエストロと……グレゴリオ!?」

 

「そうだ。緊急事態と、黒服からの言葉を聞いた!……一時的ではあるが、手を貸してやろう!」

 

 

普段、敵対している存在。それが、今この瞬間では私達と敵を共にしている。風邪を引いた時の夢かと思ってしまう程に、有り得ない光景だ。

 

が、依然と感じる疲労感や痛みが、それを現実だと肯定する。猫の手も借りたいとは言うが、これはあまりに大き過ぎる。……勿論、嬉しい事ではあるけど。

 

指揮棒を振るグレゴリオ。いつの間にか現れた聖歌隊らしき存在が、その指揮に呼応する様に音を奏でる。その音波が、敵を苦しめる。

 

成程、動きの制御。見てみれば、飛びこそすれど、精度も速さもままなっていない。気の所為か、火力も落ちている様に思う。

 

 

「……助かった!」

 

 

これ以上にない程、今一番に欲していた援助。本来敵ではあるものの、協力を得た以上は礼の一つは言わなければ。実際、これが無ければまだ苦戦していた可能性だってある。

 

それを好機と見た生徒達は、これみよがしに一斉射撃を行う。それらを避け切るだけの胆力は残っていない様で、その多くに被弾している。

 

空前の灯火。大きな一撃を浴びせれば、倒せる所まで来た。

 

 

「─アリス!」

 

「はい、チャージ完了です!」

 

 

 

──光よ!

 

 

 

その巨大な一撃は、2つの龍を包み込んだ。

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

「…………眠りなさい。永遠に」

 

 

時間を掛け過ぎたか。が、ビナーは倒れた。

 

力を使った以上、少し使用を抑える必要こそあるが、不穏分子を早い段階で消す事が出来た。

 

ビナー(”静観”)よ、そこで事の全てを見届けるといい。お前が■したであろう■■■■の■■を、お前を■した私の野望を、静観するといい。

 

私は、進む。少し、速度を落として。気付けば、辺りの歪みは酷くなっていた。私が存立している事が、やはり歪みと関係があるのだろう。

 

たった今、2つの生体反応が消えた。……つまりは、そういう事になる。

 

私と先生達(キヴォトス)の、総力戦。キヴォトスは恐らく、未曾有の有り様に成り果てるだろう。

 

だが、そんなものは知る事か。私には、それを差し置いてでもやらねばならない事がある。今更退くものか。

 

……さぁ。

 

 

「…………今宵の夢は、一雫の硝子。空間に刻まれる今は、”過去”であり”未来”。私は、時を識る者である」

 

 

足掻いてみせろ。踏み越えてみせろ。

 

─私の()を、壊してみせろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全にして一(善にして悪) 巡礼者ヨグ=ハネ=ソトース 顕現。

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