今回、今までの中で一番の長さになっております。2つに分けるかどうかを悩んだ結果、まとめた方が内容として良いだろうという結論に基づき、長めの1話としての投稿になります。
では、どうぞ。
「先生、生体反応は段々近付いています。ご注意を」
優しく、それでいていつもより緊張しいなノアの声が1つ。その声が、私の身体を一層強ばらせる。
さっきの激戦からそれなりの時間が経って、今はメンバーを入れ替えている。さっき以上の精鋭が、この場には集まっている。
アビドスの皆に、引き続いてRABBIT小隊。そして、ゲヘナの風紀委員会。ノア達セミナーは、ヴェリタスに変わって索敵等を手伝ってくれている。
さっきの敵と闘った生徒達は、それぞれの学園に帰るよう指示した。あの闘いの疲弊は並々ならないもののはず。その判断から、私はそうした。
が、RABBIT小隊の皆は、「続けて戦闘に参加します」というミヤコをはじめに皆の強い言葉があった事を理由に、”何らかの異常や重症を負った際にすぐに戦線から離脱する”事を条件に続投。
私個人としては、申し訳なさが上回る。あの戦闘、私ですらこれまでに感じた事のない程の疲労を感じた。慣れない状態で戦闘に臨んだ皆が感じている疲労感は、計り知れない程だと思う。
「彼女は、既に我々の常識を超えた存在です。私達に出来もしない事を、易々とやってのける事でしょう」
黒服が言うには、ヨグ=ソトースという”外なる神”がヨグに力を分け、あの様な存在になった模様。私達も黒服も、変化した後のヨグを見た事が無い。
私達が散々見てきた”奇形”の様な見た目なのか、はたまたゲームのラスボスの様な荘厳な見た目なのかは、未だ分からないまま。
それとは別に、ヨグの周りを取り巻く”歪み”の範囲が広がっていると、ユウカが言っていた。その範囲は最早、接敵したら戦闘するであろう範囲のほとんど全てを網羅する程という。
黒服はそれを、”固有空間”とその場のノリで命名していた。……それらしいのが、これまた。
「……見えました!先生、あれです!」
アカネの言葉に耳を貸し、指の指す方を見る。その先には。
ツギハギな宇宙の様な空間が、在った。どこか幻想的で、それでいて不気味で。辺りには、”奇形”が跋扈している。掻い潜って本丸を叩くのは、およそ不可能に近いだろうと分かる。
……そして、その中央にいるのが…………。
「…………ヨグ」
微かに、面影があった。あの時言葉を交わした、ヨグだ。
嗚呼。本当に、私達の敵になってしまったなんて。夢ならば、今すぐにでも覚めて欲しい。
……いや、夢だと言って欲しい。
「…………カタリ?」
驚いたかのように、静かに。そう言ったのは、ホシノだった。
カタリ。誰の事だろうか…………。
─嗚呼、そういう事なのか。
「カタリ……!どうして……ッ」
声を絞り出すようにそう言ったホシノの顔は、酷く様々な感情が織り交ぜられていた。
────────
「…………来ますね」
「ヨグ!」
その声に、聞き覚えはあった。
あの時問うたであろう、先生。あの時から変わらず、揺るぎない目をしている。
後ろの面々を見る。……黒服が直接来るとは。正直、意外だ。対抗手段なりを渡して、後は傍観をきめるのかとばかり。
瞬間。普通の人であれば見切る事もままならないであろう速度で、私の眼前に迫る人影。銃弾も撃っている様だ。
そして体勢を整えたかと思えば、言葉を発する。
「カタリ!どうしてこんな……!!」
あまり聞いた事の無い、
それに。あの目は、かつての彼女を彷彿とさせる。あの、素直になれない頃の彼女を。
それもまた、今では遠い昔の記憶だ。
「貴女は、仲間と共に立ち向かう事を選んだ。それに対して、私は知識を以て独りで立ち向かう事を選んだ。それだけです」
「ならどうして!どうして私と一緒に生きる事を選ばなかった!」
「……貴女のやり方と、私のやり方。馬が合わないのは、こうして明らかでしょう?」
「だからって……!」
私は敢えて、彼女を煽る様な言葉を投げ掛ける。それに応える様に、彼女は段々と怒りのボルテージが上っていく。
実際、私の理詰めな手段では彼女も身が持たないだろう。だからと言って、今の彼女の様なやり方では、私が耐えきれない。
また、同じ事を繰り返すだろう。そんな思考が、脳にこびりついて離れない。
私には、彼女と共に立ち向かう勇気と覚悟がなかった。それを、知識不足という点に向け、自分の空虚な心を埋めたような気になって。
……いや、もうよそう。
今の私は、過去の産物ではない。
「……意外でした。黒服、貴方が直接出向いてくるとは」
「いつもであれば、そうしていたでしょう。が、貴女の旅路の結末を見届ける義務があるかと思いましてね」
「貴方らしくない事を……まるで、先生の様ですね」
随分と黒服らしからぬ言葉が、出たものだ。彼がそんな言葉を口にする事なんて、未来永劫ないものだと思っていたが。
「ヨグ!もう止めよう?」
「…いえ。いいえ。私はここで止まれません。止まってしまえば、いよいよ私には何も残りません」
それこそ、出来ない相談だ。
ここで足を止めてしまえば、これまでの私の道は何だったのか。誰にも理解されなかった、誰にも褒めて貰えなかった、そんな私の生き様を。紛れもない、この私が否定するのか?
否。そんな事、してやるものか。自らの歩みを自分で否定する事が出来る程、私は出来た■■ではない。私がしてやれるのは、そんな歩みをした■に、
それだけは、止めてやるものか。
「今の私は、数多の知恵と少しだけの意地を以て、ここにいます。私を止めたいのならば。貴方達の全てをぶつけなさい」
「……ッ!皆、戦闘態勢!」
…………さぁ、始めよう。
…………さぁ、終わらせよう。
─私の道全てを以て、立ち塞がりましょう。
────────
─…………はぁ。
アビドス高校を退学して、数日。行く宛もなければ、これからのビジョンなんてものも無い。所謂、衝動的な行動、というヤツだ。
ユメ先輩の訃報を知り、数日は高校に行っていたものの、ぽっかりと空いてしまった心は埋まる事を知らない。この穴を埋める方法も、今の私は知らない。
同期を1人置いてきた事には、罪悪感を感じている。ほんとうに申し訳ないとは思っている。
でも、それでも。
あの人の存在は、どす黒い絶望を忘れさせるだけの輝きだった。真っ暗な道をライトなしで歩き続けろとは、私にはどうも困難な話だと思う。
思えば。
私達は、あまりに無知だった。借金の仕組みについても、甘い日々のツケの末路についても。無知が故に、私達は現実から逃げ続けていた。「何とかなる」等と甘言を吐いていた。ユメ先輩の死が、私にその事実を突き付けている様な気がして。
ならば。これからの私が何をするべきか。
知る事、だ。私は、ありとあらゆる事を知り尽くす。勿論、知識を実際に使う事も込みで。
あんな結末は、もう見たくない。
あんな死に様を、もう見たくない。
ましてや、親しい人等は尚の事。
─そうと決まれば。まずは……。
拠点だ。何かをするとして、自分の確固たる拠点が無ければ安定した活動は期待出来ない。
……どこにしたものか。
…………いや、格好の場所があるじゃないか。頭脳とカネでおよそどうにでも出来る、今の私にうってつけの場所が。
情報だって買えてしまう、この時代。その渦中の場所に居を構える事は、私にとっても渡りに船と言うべきか。
他に、案は無いだろうか。
他の学園に転がり込む事も、アリといえばアリなのか。……いや、よした方が良いか。
ゲヘナは知識を得るには対極な環境。混沌と無法が裸で歩いている様な学園。そんな場所で、ろくに情報を集められる気はしない。
トリニティはどうか。一見穏健そうなイメージが先行するかもしれないが、蓋を開けた時には阿鼻叫喚。人間の奥底に眠る泥が、他者へベクトルを向けて襲ってくる。やり方は、ゲヘナよりずっと陰険。……身が保たないだろう。
かと言って、ミレニアムも難しいだろう。あそこはキヴォトスでも指折りの発展具合。その影響もあってか、セキュリティに関してはどの学園よりも厳格。私がアビドスから来た事を突かれでもしたら、面倒だ。
三大校以外……は、まだ検討すべきほどの情報量がないか。
─さて、探しに行きますか。
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─カイザーの金融に関する仕組みは…………こんなものですかね。
あれから。私は、研究と検討に注力していた。それ以外殆どしていないと言っても、およそ過言では無いくらいには。時には太陽が何度も沈んでは昇ってを繰り返して結論を導いたテーマもあっただろうか。
そんな研究者の様な日々を過ごして幾ばくか。私の研究は、次第に抽象的なモノへと変化していく。
”生とは何か”、”空間とは何か”、”自己を定めるものとは何か”等々。今日はたまたまカイザーの社内の仕組みについてまとめたが、最近は概念的なテーマばかり。何故だろうとおのれに問うてみても、最もらしい答えは返ってこず。
研究に没頭する前の自分とは、大分様変わりしたと思う。考える事が考える事なのもあり、達観した心持ちになっている気がしてならない。それに、かなり冷徹に。
─アビドスは……まだ、抗っているんですね。
ふと、最近手に入れたアビドスについての資料が目に映る。見るに、ホシノと……ノノミ、そしてシロコいう生徒がいるらしい。よくあの学校に入学したと思う。
片やどこぞのザイバツ関連の、片や名も知らぬ無銘の。……まだまだ、復興の目処は立たないだろうなと、頭の片隅で思う。
かと言えど、私が力を貸すつもりは、無い。私は私のやり方で、やるだけ。
─…どうして、まだ足掻けるのでしょうね。
時折、その様に思う事がある。
私は、子供のままで足掻く事を諦めた。大人になろうと、子供ではない立場になろうと、そう心に決めて今を生きている。
対して、ホシノはまだ学生らしく生きていようとする。
何故?何故?何故?
あの様な経験をして尚、あの様に眩しく生きられる理由が、私には分からなかった。
”無知は罪である”と心に釘を打って、日々を浪費している。今の私の姿勢は、およそ子供らしさからはかけ離れている事だろう。
だからこそ、分からない。
少なからず、ホシノだって無知が齎す事態を理解している筈。それが理解出来ないほど、彼女の頭は回らない訳が無い。
知っていて尚、どうしてその様に生きれるのか。今の私には、それがどんな問いよりも難問に感じて仕方なかった。
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─もう、1年以上経つんですね。
ふと、カレンダーを見る。気付けば、年の数字が1つ増えていた。研究の合間に、そんなつまらない事を思う。
アビドスにも新たに新入生が入ったと言うし、最近何かと話題に挙がる”先生”とやらが、アビドスにいる事も把握済みだ。
ここらで、今の立場で得られるであろう知見は漁り尽くした。勿論、護身も。少なくとも、あの日の二の舞にはなるまい。
さて、ここからが問題だ。
……ただ、正直に言ってしまうと、私にはそれ以上に都合のいい手段がある事に行き着いた。
それが、
ゲマトリアについても、ざっくりと理解している。
曰く、所属している者同士の行為には、原則として関与しない事を暗黙の不文律としているとの事だ。なんと私にピッタリな事か。邪魔さえしなければ、同様に邪魔される心配もないという。
それに、大人に意見を忌憚無く投げる事も可能ときた。私の研究に一役買ってくれる事には、違いないだろう。
─行きましょうか。ここからは、もう戻れないですね。
理解していた。ここを踏み越えてしまったその時に、もう後戻りなど出来ない事を。それでも、進むしか無かった。
他者の力を借りつつも、明るいかもしれない未来に進もうとしている彼女らとは、もはや同じ道を歩む事は叶わないだろう。
それ程までに、私は子供では無くなってしまったのだから。
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