私は問う   作:Cross Alcanna

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テクストとは

 

「テクストについて、ですか」

 

 

「はい。貴方についても調べましたが、少々気になった事がありまして」

 

 

私の元に尋ねて来てすぐにそう聞いてきたのは、つい先日にゲマトリアに入った彼女。黒服が大層気に入っていたという、件の。私の第一印象としては、それなりだった。特段気に入るとかいう要素はあまり感じられなかった。それは、すぐに覆される事になる。

 

あのベアトリーチェに認められたのだ。表情や声色に出さぬよう努めていたが、どうにも表に出ていなかったか怪しくてならない。ベアトリーチェに認められるのは、相当な者である。やたらとプライドが高く、自身の理解の範疇外のものには理解を努めようともせず、それがあまりにも反りが合わなければ、敵視する。

 

私ですら彼女に若干煙たがられていると言うのに、彼女に自分以上に思われる目の前の少女に、いつの間にか興味や関心が芽生えていた。それは、実験に用いろうだとか”崇高”の為に利用しようだとかではなく、純粋に。

 

そんな彼女は、知る事をおよそ全てとしている。聞いた事柄が未知であれば熟知するまで深みにのめり込み、それに要する諸々への投資などには惜しむ心を知らないそうだ。一言で言うならば、究極の探究家とでも言うべきか。

 

 

「貴方が”外の世界”を知っているのなら、テクストについての新たな解釈への到達が近くなると思ったので」

 

 

子供らしからぬ、言葉遣いと態度。私は特に何とも思わないが、短気な者であれば、”いけ好かない”と思うのではないだろうか。非常に論理的で難解な言い回し。知る事以外を度外視したその姿勢。どれをとっても、やはり大衆に受け入れられる子供には見えない。

 

先生の知見も、聞いてみたいものだ。

 

 

「…して、どのような事を?」

 

 

「この世界、やけにテクストの意味付与が強く働く場面があると思いまして」

 

 

…なんと。既に、この境地にまでたどり着いていたとは。これは、脱帽ものである。黒服に語っても、完璧な理解を得られなかったもいうのに。

 

私は、テクストという視点から”崇高”に至る事を重きとしている。その上で、この世界におけるテクストの立ち位置を理解しない事はあってはならない。が故に、この地に降り立った私はそれを研究した事がある。その結果得られた事の一つとして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事が挙げられる。

 

一つ例を挙げるのであれば、先生の持つ”大人のカード”。見てくれこそはごく普通のカードに過ぎないのだが、『奇跡』と『代償』のテクストが強く作用されている。換言すれば、起こした奇跡の代償を、使用した先生本人が背負う。

 

このように、この世界ではテクストが強い意味をなしている事が少なくない。”約束”や”契約”がこの世界においてかなりの拘束力を持つのも、この世界ならではとも言える事でしょう。

 

 

「……失礼ながら、どのようにしてその結論に至ったのでしょう」

 

 

このような質問を投げかけたのには、訳がある。

 

()()()()()()()()()()()この命題に、一子供が辿り着けるであろう道筋は、私には理解出来なかった。

 

この問題は、外の世界の目線からの観測が無ければ、本質に至る事は至極困難を極める。……面白味のない言い方をしてしまえば、メタ的思考が無ければ、という言い方になるでしょうか。

 

可愛いと世間で評されるキャラクターを生み出し、それが相応の評価を得られるようになる。それを生み出した理由を問えば、「自分のアイデアで人々を喜ばせたい」という幻想的な理由が返ってくる事もしばしば。

 

しかし、ある人はそれを「金を得たいから」「会社の利益のために」と一蹴するでしょう。非常に合理的な外野も、そう言う人だっているでしょう。

 

そのような思考。全ては結果に帰結する。その過程で生まれるアレコレを、大して意味の無いものだと蹴り捨てる発想。それを私は、メタ的思考と呼んでいる。

 

もっと甘い言い方をすれば、”身も蓋もない思考”。物語のネタバレ、このような展開はこんな結論に落ち着きやすいという、ハラハラドキドキを奪い去るもの。そのような思考が、およそこの世界で養われる事は少ないと、記憶していたのですが。

 

 

「私の神秘の本質、でしょうね。剣先ツルギや鷲見セリナ……でしたか。彼女らの様なものです」

 

 

あまり聞き馴染みのない名前と共に、思いの外重要な真実が吐露される。あまりにも淡々と、そして平然と。

 

私はその分野において、あまり知見が深くない。寧ろ、黒服が得意とする分野でしょう。しかし、多少の理解はあります。何でも、神秘を持ち合わせる者は、時折特異な能力も持ち合わせているという説。その最たる例として挙げられるのが、彼女の言う2人なのでしょう。

 

異常な再生力を誇る、剣先ツルギ。そして、特定の人間の危機に際して音もなく現れる、鷲見セリナ。他にもそれらしいモノを兼ね備えている者はいるらしいのですが、ここでは些細な事でしょう。

 

縁遠いその名を、彼女から聞くとは思いませんでしたね。

 

 

「然るに、貴女にも何かしらの能力があると?」

 

 

「ええ、あります。私の能力は、看破です」

 

 

……成程、彼女の言動や知識の裏付けに相応しい能力でしたか。

 

看破。恐らく、直感的に物事の本質を見破る事が出来るのでしょう。状況証拠などを揃えた上で結論を下す推理とは違う、勘という合理的とはそれなりに遠い情報を用いた、真理へと近付く1つの手段。

 

私達ゲマトリアが、余程の事態でない限り用いる事のないものの、1つ。

 

……トリニティにいる、預言の能力を持つ彼女と近いのだろうか。

 

 

「そんな事は置いておきましょう。さほど重要ではありません」

 

 

「……私としては、そこについて議論を深めたいのですがね」

 

 

「別の機会にして下さい。今日は貴方の分野について聞きに来たんですから」

 

 

彼女、会話の柔軟性は黒服に劣りますね。話しやすさでいえば、マエストロと同等か、少し上辺りですかね。

 

 

「そこでです。別側面のテクストの現出は可能なのかが気になりまして」

 

 

「…………それはまた、随分と」

 

 

彼女の意見は、私達と同じベクトルの提案でした。生徒の犠牲など全く加味していないような、温情の欠片も無いような提案。

 

彼女の言いたい事は、およそ理解できます。

 

生命には、それを特徴付ける”ナニカ”がある。トリニティの生徒であれば”羽”や”派閥”、ゲヘナであれば”角”や”尻尾”など。

 

それは、個人単位でも同じ事が言えます。黒服が気に入ったと言っていた、小鳥遊ホシノという生徒。その特徴は、”キヴォトス最大クラスの神秘”でしょうか。

 

そのモノをそのモノたらしめる特徴。それを、私はテクストと呼んでいる。

 

では、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?彼女の問いは、このようなものなのでしょう。

 

我々が危惧している、”色彩”の到来。それが齎すのは、神秘の反転。彼女の案は、遠からずとも近からず、ソレに似通っていると言わざるを得ない。

 

 

「……誰を対象にするのです?」

 

 

「いえ、まだ検討段階ですので。あくまで、興味が湧いた事を共有しようと思っただけです」

 

 

彼女のソレは、アビドスで小鳥遊ホシノへ行おうとした例の実験と、本質的に変わらない。我々はそのような無慈悲さと合理的思考を歓迎しています。

 

しかし、成功する見込みは不明。彼女も、それを理解しての”共有”という語彙を選択したのでしょう。

 

……黒服が聞いたら、声を上げて喜びそうなのが目に見えますが。

 

 

「そのような実験をするのでしたら、我々にも共有して頂けますか?キヴォトスにどんな影響をもたらすのか、私にも計り兼ねる所があります故……」

 

 

「はい。その時には、貴方にも手伝って貰いたいので」

 

 

……この子供、どうにもくえないですね。

 

……本当に、子供なのですよね?

 

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