気が付けば、今話もかなり長くなっていました。恐らく、この間に投稿した長い一話よりも長くなっているかと思われます。お時間のある時に、ご一読頂く事をオススメします。
では、どうぞ。
「ッ!攻撃が止まない……!?」
地獄絵図。正しくそんな表現が1番適しているであろう、目の前の光景。先程まで攻勢の姿勢だった皆が、防戦しか出来なくなっていた。
弾幕の嵐。生半可な火力ではなく、1つ1つが戦車の砲弾……いや、もしくはそれ以上かもしれない。それ程までに強力な一撃が、幾百幾千と落ちてくる。これを理不尽と呼ばずして、何と呼ぶのか。
どうにか回避し続けている皆だけど、体力が尽きるのも時間の問題に思う。それでいて、こっちはマトモに攻撃なんて出来やしない。こっちの体力だけが削れていく、蹂躙劇。
あの膨大な力を使って、こんな暴力を向けられるとは思っていなかった。「殺してやる」という、確固たる意思を感じる。
問題は、この状態で攻撃が通るか否か。さっきは時間を弄って攻撃を通さなかった(らしい)ヨグだったけど、これ程の力を駆使して尚、あの回避が出来てしまうなら。
詰みだ。こんな事を考えたくもないけど、
黒服の言う通り、私達の役目は”ヨグの無力化”。倒す云々の前に、マトモに戦力を削げる気はしてこない。だって、やっとの思いで届いた攻撃すら、理不尽にも無かった事になるのだから。
その可能性が無い事を願って。勝てる可能性を捨てないで。
生徒達は、立ち続ける。理不尽にも尚、抗う姿勢を崩さない。
「皆!隙を縫って反撃出来る!?」
「ッ!……やろうと思えば、少し」
弾幕を避けながら、シロコが言う。こんな状況でも勝つ事を諦めていない彼女達が、今までのどんな時よりも頼もしい。
皆の目から、闘志は消えていない。”やってやろうじゃないか”と言いたげな目線。負ける事を考えてすらいないその姿は、さながらキヴォトスの英雄の様で。
「……よし!反撃開始!」
空元気な号令が、歪な空間に響き渡った。
────────
「他愛も無いですね」
回避に専念していたさっきとは打って変わって、攻勢に出てから。マトモにこっちを攻撃出来ないままに、防戦ばかりの立ち回りに。
正直、ここまでの力を出されるとは思っていなかったが。かと言え、賞賛に値する程の強さかと問われれば、怪しい。
この弾幕1つ1つが、超高密度なエネルギー弾の様なモノ。マトモに受けて尚立ち上がれる者は、そういない。それ程までに過剰な暴力。
だが、これでいい。
これまでの私を否定しろと、彼女らは言ったのだ。その一言は、私の最後の情けを殺すには十分過ぎる言葉だった。
これまで沢山のモノを積み上げた上で尚、それを自らの手で崩せと言う。そんな事、少なくとも今の私には許されない。
私とは、こう在らねばならないのだ。でなければ、これまでの私を一体誰が認めてあげられると言うのか。私を認めてあげられるのは、最早私のみ。それすら手放せる程、私は広量なニンゲンでは無い。
「…………っ」
弾が、飛んでくる。質量を持った、確かな鉛玉。頭を軽く動かして避ける。
…………何故。ここまでの差を見せつけて尚、どうしてその様な顔が出来るというか。
”諦めてなるものか”。微かに見えるその顔には、一片の曇りも無い。勝つ気で満たされている。
何故。
何が、貴女達をそうまでして突き動かす?
「……何故、何故?」
分からない。解らない。判らない。
その満身創痍な心身に、何が宿っていると言うのか。
「…ッ!」
肩に、痛みが通う。
当てられた……?反撃に転じた……?
何が貴女達を、駆り立てるというのか!そうまでして私を否定して、何を成したいという!
私がユメを願う事は、かくも傲慢というか!?それでいて、私の
憎らしい。
憎らしい。憎らしい。
憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。憎らしい。
嗚呼、
「…ッ!?地面の振動…?」
そんな言葉が、僅かながらに聞こえてくる。その言葉を契機として、私への攻撃の手は収まる。
見れば、大きな砂埃が巻き起こっている。
……面倒だ。
─Guaaaaaa!!!
…………嗚呼。お前も。
お前も、最後まで私を邪魔するのか。
─ビィィナァァァァァァ!!!!!!
私の頭は、臨界点を超えた。
────────
「あれは……ビナー?」
「……にしては、色が違うような…?」
地響きが起こったと思えば、そこからその巨躯を地上に現したのは、ビナーだった。
しかし、今まで見てきたソレとは見た目が違う。
銀河と、闇。そう表現するのが適切な、そんな見た目。どこか、神々しさと禍々しさ、そして不気味さを思わせる。
─Guaaaaaa!!!
耳を劈んとする、激烈な咆哮。歪なこの
「……彼女の神秘に触発されたのでしょうか?いえ、憶測で語るのは、特に今だと早計でしょうね」
声を揺らしながら、黒服の声。どうやら黒服も、あのビナーについて知らない模様。とすると、アレが敵である可能性の方が高いと見るべきか。
こちらの反撃がヨグに効く事も分かった矢先に、敵が増えるなんて。こちらとしては、後1つ選択を間違えれば一巻の終わりだという状況。
思わず、溜息を漏らしたくなる。
─ビィィナァァァァァァ!!!!!!
それは、無機質な咆哮にも負けず劣らずの、怒号。その主は、ヨグ。
最早怒りを隠す事もせず、この世全ての悪と相対したかの様な表情。私達に向けたソレとは、一線を画す怒り。
まるで、獣。理性や枷を捨て去った、本能の獣。知性に富んだヨグが、あそこまで感情を剥き出しにして大声を上げているこの状況に、今も尚夢なのではないかと錯覚してしまう。
綺麗に彩られていた虹色の瞳は、いつの間にか赫と黒に染まりきっていた。その眼光も、殺意に満ちている。
瞬間、私達に浴びせられた以上の弾幕が、ビナーに降り掛かる。ビナーに着弾した弾幕は、恐ろしいまでの爆発と爆風を引き起こしている。
いつも鉛玉を喰らってもピンピンしているビナーが、既に体勢を崩し始めている。ある訳の無い眼を、ヨグに向けるようにして。
「カタリ…………」
「…ホシノ……」
そんな光景を前に、静かに呟くホシノ。とても複雑な表情をしている。
かつて同じ学校の友達だった彼女から見て、ヨグはどう映っているのだろうか。一体、何を思うのか。
それでも、ビナーは抗い続けている。無慈悲を前に、そんなものを知らないと言わんばかりに。さっきまでの私達の様に。およそ意思を持たない機械であるはずなのに、その姿には、確かな意地があった。
「──ならば」
冷たく、鋭い声。
向けば、何やら溜めているヨグと一層歪み始める辺りの空間。遠いはずの私達にも、揺れが伝わる。地面が揺れている訳では無い。
─
「お前に、決して癒える事の無い傷をくれてやりましょう」
何を言っているのか。
どんなトンチを使って、そんな事をするというのか。彼女の挙動1つ1つが、益々私達の常識を跨いでくる。それはまるで、”お前らでは私は測れない”と宣告されている様で。
─空間が、揺れている。
「──
その一言を皮切りにして、魔法陣らしき何かがビナーの周りに展開される。一定の速度でソレは回り、ビナーを嘲笑っている様にも見える。
摩訶不思議な光景。それは、キヴォトスでは見ないだろうと思っていた景色。ファンタジーが、満ちていた。銃や戦車のようなミリタリーは、この空間では違和感すら感じさせる程。
まるで、異世界。
─そして、轟き渡る爆音。
─GuaaaaaAa!?
並大抵の装甲なら砕け散るであろう、数多の砲撃。まるで、魔法が当たり前の世界での攻撃の様だった。そんな攻撃をモロに受けたビナーは、あわや身体を地面につけそうになっている。
そんな中で、未だに足掻き続けている。必死に、神に喰らいつかんとして。
大怪獣決戦、とでも言うべきか。
「…どうして、ビナーはヨグに執心なんだ……?」
これが、分からない。
昔にホシノと過ごしていた事もあって、ビナーに縁がある事くらいは、想像に難くない。が、あれ程までビナーが必死になる理由が、何とも理解出来ない。
ホシノがビナーに思う所があるのは、薄々ではあるけど理解している。が、当のビナーはさして興味を示していない事実がある訳で。
考えれば考える程、訳が分からなくなる。
「…………まさか」
思考の中、黒服の声がやけに響く。
何かと思って聞けば、
……確かに、私達と闘っている時も、多少ではあるものの、自ら修復はしていたように思う。非常に僅かではあるが。
時間の経過の問題では無いかとも思うが。
「………………彼女のあの攻撃、もう一度撃たせてはいけません」
長考の末なのか、重々しく口を開いた黒服。それは、ヨグの一撃について。曰く、2度撃たせてはいけないのだとか。
「あくまで仮の話にはなりますが……あの攻撃、
「……………?」
時間的な攻撃?何だそれは。
少しこちらに耳をすませている生徒も、何のこっちゃと言いたげな表情を浮かべている。誰一人として、例外無く。
「彼女は先程、”今のビナー”に攻撃していました。が、彼女のあの攻撃は、
「………………つまり?」
「未来の対象も同じ怪我を負っているという結論が算出される技とみて良いでしょう。とどのつまり、未来に同じ怪我を齎しているから傷が癒えないという結果が残る、という訳です」
……………………反則級だ。
要はこういう事なのだろう。
今この瞬間に生きてるビナーに傷を負わせる。ただ、それでは未来が確定していないから、修復が可能になる。だから、あの攻撃はそれを防ぐ為に、
それが結果的に、”その先のビナーも傷を負っている未来”を確定させる事になり、治癒を不可能にするというカラクリという訳だ。
……勝てる筈が無い。
恐らく、何かしらのデメリットはある事だろう。が、こちらにはそれを暴く為の手段が無い。デメリットを突いて攻める事が、急に困難になる訳だ。
一定時間あの技を撃てないだとか、撃った後の自身の能力が著しく低下するだとか、思いつくのはそんな位だが、全部がたられば。確定された論拠なんて、何一つ無い。
そんな状態で、戦いに臨まないといけないと思うだけで、ゾッとする。
「……あの一撃が放たれる前に無力化しなければ、我々は為す術がなくなる事でしょう」
「……無力化した後にそっちの切り札が効かない、なんて許さないからね」
「……その点はご心配なさらず。それよりも……」
気付けば、ビナーは既に横たわっていた。元気の一欠片も感じない姿で、その機能を停止している。
空には、こちらを見下げるヨグ。相も変わらず、冷え切った表情だった。
「頼みましたよ、先生?」
「……勿論」
──出し惜しみは、もうナシだ。