「ッ!この弾幕量……避けるのが大変じゃんね…!」
「当たったら一溜りもない……なんて面倒な」
各学園の主力組が揃い踏みのこの状況でも、中々反撃が難しい状態でいた。頭脳戦がそこまで得意ではないミカや、色々な場面をフィジカルで乗り越えてきたヒナも、今回の高火力斉射には足を止められている。
殆ど被弾していないだけでも、充分凄いとは思う。けれど、最終的には勝たないといけない。その為には、どうにかして逆転の糸口を掴む必要があって。
「……ねぇ、先生。アレ、本当に勝てるの?全く隙がないけど」
百花繚乱でも有数の頭脳派とされるキキョウも、解決の糸口を掴みあぐねている。
生徒に任せきりにする訳にも行かず、私も考えてはいるんだけども。
隙がある様に見える彼女は、それでいていつでも反撃に出られる体勢でもある。先程の様な余裕綽々な神の姿は、緻密に思考を重ねられた万全たる神へと変貌していた。
これでもかと、エネルギーの雨が降り続ける。当たってはいけない、トンデモな暴雨。地面は、段々と抉られていく。
「…………ホシノ」
願いを、馳せる。ヨグと生きた、彼女に。
ホシノは、どんな感情で今を生きているのか。予想だにしなかった友の姿に、ホシノは何を想うのか。私では、到底計り知れない。
それでも、悲しい事に。
ソレは、彼女が決心しなければいけない問題でもあって。それが残酷な事であると理解して尚、私はどうしてあげる事も出来なくて。そんな自分が、大層情けなくて。
互いに、必死な眼をしている。1人は、大切な親友を救わんと。もう1人は、たった独りで己の生き様を肯定せんと。この歪みきった空間で、ソレらは宇宙で輝く2つの星の様で。
魅惑的で危険で、それでいて実直的な光。確かに眩しいその光は、尚も朽ちる事を知らない。寧ろ、ぶつかり合う度に輝きは増している様にも見える。
「黒服、そっちの準備は?」
「もう少々掛かるかと。……持ち堪えられますか?」
「やってみる。……いや、やってみせるさ」
身体が、重くなっていく。満足な表情で立っているのが関の山だ。
しかし、膝を崩す訳にはいかない。私が倒れたその瞬間、この闘いの敗北が決してしまうのだから。
未来の命運という重荷を沢山背負うのは、私だけで十分だから。
────────
「………ッ」
「随分、余裕が無くなってきたんじゃないの……ッ!」
カタリが怒りを顕にしてから。明らかに、余裕が無くなってきている。隙こそ殆ど無い様に見えるものの、さっきよりは心に余裕が出来てきている。
余裕がある状況では無い。それは、ハッキリ言える事。ただ、攻撃がさっきより荒くなっている事もあって、避けるのに多少の余裕があるだけ。それでも、私達にとっては逆転の可能性でもあった。
カタリの事だ、私達の戦力を読み違えている事はないだろう。けれど、自分に余裕がなくなってから、私達との差が埋まりつつある事も、把握しているんだろう。
初めて見た、カタリの焦燥の顔。それは、何か生き急いでいる様に見えて。
「私を否定して……貴女達は何がしたいと言うのです!」
「違う!私達は、カタリを否定したい訳じゃない!!」
何も、私達はカタリを否定したくてここにいるんじゃない。カタリのこれまでの頑張りを、真っ向から切り捨てたい訳じゃない。
今度は一緒に。ただ、それだけ。あの頃のように……とはいかないにしても。
失ったカタリとの青春を。
ユメ先輩がいなくなっちゃったアビドスを。
先生がいる、毎日を。
全てを、カタリと一緒に生きていたいから。
「カタリと!一緒に生きたいから!昔みたいな青春を!!送りたいからッ!!」
だから、私は武器を握っている。だから私は、この盾を持っている。
─だから私は、ここにいる。
「そんな甘い現実を夢想しているから!そんな虚像に恋焦がれているから!!あんな惨劇が起きたんです!それを忘れて今を生きるなんて!冒涜も甚だしい!!」
確かな怒り。甘言に絆されまいと言い放つその言葉は、それでいて震えていた。
真っ当な怒り。何を返し様も無いその言葉は、それでいて着飾られていた。
確かな、
そう本当に思うのなら、どうして。
「ならどうして!
ポロポロと、大きな粒となって零れていく涙。それは、カタリの薄汚れた顔の輪郭をなぞる様にして、滴り落ちていく。手で拭っても、拭っても。尚も零れる涙。
それがカタリの本心を物語ると言い切るには、きっと十分な証拠と言っていいだろう。
ここまで1人で頑張って、その為に子どもらしさを捨てて。
そんな子が果たして、どうして
いや、捨て切れる筈がない。心のどこかで、確かに求めている。
子どもとは、そこまで強くないのだから。
私だって、諦められなかったから。
「…っ、こんな涙っ、ウソです!」
「その涙がウソじゃない事!カタリが1番分かってるでしょ!?」
冷徹らしからぬ言葉。自らの本性を殺す、仮初の
そこに、冷酷無情な神の姿は無くて。あるのは、ただ1人の少女。かつてにおける全てを捨てて尚、たった1つのユメを想う、独りの少女。
「カタリ!……もう、いいんだよ」
─黒服!
─……神格を、剥がしましょうとも!
そんな声の数瞬後に、1つの細い砲撃が射出される。
それは、人が神を殺す為の一撃。神が神たる所以ともいえる、神格。それを、肉体から引き剥がす為だけの一撃。
その名を、
それは確かに、孤独な神に向けて放たれた。
「ッ!!」
─そして、命中した。
────────
「ッ!!」
確かに、当たった。
何が当たったのか。それは、分からない。ただ、何かが私を貫いた。それだけが、確かに理解出来た事。
傷は無い。けれど、ナニカが崩れていく。それが肉体なのか、翼なのか、自分なのか。それも朧気になって。
嗚呼、違う。
悪夢を否と断じてきた、
たった独りで道を歩んできた、
禁忌に手を染めた、
ガラガラと、聴こえる筈の無い音を立てながら。跡形もなくなる様に、真っさら灰になる様に。
死んでいく。
研究者としての私が。敵対者としての私が。虚勢を張った私が。
壊れていく。
独り寂しい青春が。正しいと思っていた道が。叶えたかったユメが。
─
私にとっての全てが音を立てて崩れていく様を、私は見たくない。今までの道のりを、無駄だと思いたくない。独りよがりの自分を、認めたくない。
そんな思いを嘲笑う様に、崩れていくナニカ。
─
こんなに簡単に、崩れるなんて。誰が認めてやるものか。
奇跡があるというなら。
私の道のりは無意味じゃないのなら。
「──まだ」
手を、伸ばす。ワタシを、認知する。
それは最早、仮初のチカラでは無い。
これが、私の
「──まだ、立ち止まれない」
倒れられない理由があるから。
貴女達に止まれない理由があるように、私にだって。
─私は問う。
何故、私は立ち上がるのか。
何故、私は友の手を取らないのか。
何故、私はワタシだったのか。
─私は答える。
それは、たった1つのユメの為。
それは、たった独りを認める為。
それは、私なりの答えだから。
─だから私は、ここにいる。
”変幻”は、主が望むモノを与える。
例えそれが、形の無いモノであっても。
例えそれが、己の在りたい姿であっても。
確固たる意思は、己すらも変えてしまう。
──神秘 発現──
神秘:看破、否定。
その神秘の名は、”変幻”。
神秘:変幻
自身の保有する(或いは、自身が行使できる範囲内の外部に存在する)神秘を用いる事で、確固たる意思を抱く事を条件として、望む結果を引き寄せる/発現させる。
尚、外なる神の干渉はこれに関係していない。