─我の力を剥がす、か。
面白い。その様な感情が、私を支配している。
あの女がどうなろうと、別に構いはしない。ただ、その進んでいる道に興味があっただけ。あの様な人間の末路がどうなるのか、それを見たかっただけ。
そんな茶番劇で、人間が、人間には過ぎたる業を成した。私の興味は、どうもアチラコチラに浮いていくらしい。
さて、あの女はどんな
─対概念、か。
私の干渉を殺すのに、”概念を殺す”という発想に至るとは。しかしどうして面白い着眼点か。
人とは、往々にして既存を超える発想を生み出す。それは、知識として知ってはいた。
が、こうして目の前でそれを見せられると。なんとまぁ、笑いの収まらない事か。
本来、私はこの事態に乗じてこの
その目論見は成功し、私はこの世界への干渉が可能になった。いざ支配に乗り出そうと思えば、接触したあの女の、なんとまぁ狂った事か。
だから、面白かった。私に、
─せいぜい、足掻き続けるがいい。
あの女がどうなるかは、どうだっていい。そんな狂人が描く物語が、そんな狂人の生き様が、私は観たいのだ。
行け。地獄の轍を。
後は、お前のみの力で征け。
─私は、最早傍観者である。
────────
「ッ!?確かに神格は剥がれ落ちた筈……!」
「…………カタ、リ?」
パタリと意識を失ったかと思えば、今私達の前で立っているカタリ。
カタリに力を貸していた何かの、力を剥いだと言う。それで、カタリは元の姿に戻って、互いに話し合えるだろう。そんな算段だった。
その筈、だった。
けれど、確かに立っている。
白く、眩く。輝いて靡いているその髪を携えて。神々しくも神秘らしい虹色の瞳には、確かな光が灯っている。
眩しい。
まるで、主人公の様だ。本で読んだ様な、想いの強さで強くなっていく、皆の憧れたヒーロー。そんなヒーローが持っている、確固たる正義。
カタリの正義は、これまでに光り輝いている。私達の正義が、どこか間違っていると言われている様にも感じられて。
私だって、自分が全て正しいなんて思わない。カタリが全て間違っているなんて思わない。ただ、私とカタリの正義が合わなかっただけ。皆の描く理想とカタリの描く理想が、交わらなかっただけ。
正義が悪に果てる瞬間なんて、そんなちっぽけな理由がキッカケで。
あの光を前に、”果たして私達は本当に正義を掲げているのか?”と。そう思ってしまうのも、無理はなかった。
「─私は、もう止まれないから」
その言葉を放ってから、カタリは私の目の前に現れる。
咄嗟に、避ける。
私がいた場所には、幾つもの銃撃が放たれていた。乱雑なそれではなく、確実に仕留めるつもりの銃撃を。
手に握られている、カタリの愛銃。確か、”
「その銃……捨ててなかったんだね」
「いえ、道半ばで捨てました。ですが……」
私の夢の道を征くには、やはりコレですと。そう言いのけるカタリは、どこか柔らかい雰囲気を纏っている。
これが、本当のカタリなんだと。直感から、そう思った。あの頃の面影も、感じる。
この空間が、この歪に塗れた世界が、どこか昔懐かしい感覚を齎す。それは、あの頃のカタリがいるからなのだろうか。私には、それを判別するだけの余裕が無かった。
互いに、鉛玉を撃つ。相殺し、回避し、被弾し。それは、真っ当な戦場。不条理の無い、たった2人の戦闘。
「…っ、銃を使ってなかった割には……上手いね」
「どうにも、身体が覚えている様なので」
互いに、言葉を吐く。どちらにも、それ以上の言葉を吐くだけの余裕は無い。
銃を撃って、相手をねじ伏せる。ただそれだけの戦闘行為の筈なのに。
私とカタリは、ずっと本音をぶつけての喧嘩をしなかった。大きな喧嘩をしなかった事もあるけど、これだけ自分を曝け出して衝突する事も無かった。
カタリと会えなかった反動もあって、さっきまでの理不尽さが無くなって、ここまでの大喧嘩。
それが、どこか嬉しいのだ。たまらなく。
「……貴女の信念は、それまでですか」
突然、煽る様に言い放つカタリ。
何を言うかと思えば、突拍子もない、会話の繋がりを無視した言葉。
「貴女の信念は、貴女の神秘を揺るがさない程度なのですか?」
……そういう事。
自分が己の全てを投げうってまで闘いに臨んでいる一方で、お前はどうなのかと。
……私だって、神秘を扱いきれてる訳じゃないのになぁ。
─
私の信念を、そんなものかと言ったカタリには。
お灸を据えないと、ね。
「─私の信念、見せてやる」
────────
私がホシノを煽って、それは起きた。
ホシノの眼は輝きを放ちながら煌めき、片手に持つショットガンは、緋色に染まる。対する盾は、蒼と淡い黄色に。髪は、煌めきを宿して。
感じ取れる神秘も、さっきまでとは比べ物にならない。
あれが、”暁のホルス”。別なる世界で太陽の神と崇められた、砂漠と空の化身。アビドスの責務を背負って生き続ける、
勝てるのだろうか。
過去の遺物が、あれ程までに煌めく神に。
過去に縋る
─
きっと、きっと。私は、膝をつく事となるのでしょう。私は、この世界の主人公では無いのだから。私の輝きは、一瞬だけのモノだから。
でも。それでも。
私は闘う。
何故か。誰の為か。
認めよう。私の夢は、間違っていると。私の道の先は、無いと。
でも。だからこそ。
最期ぐらい、我が儘を言っても許されるだろう。
ホシノと最期にドンパチやる事くらい。
ホシノに今までの苛立ちをぶつけるくらい。
─ホシノに、アビドスを託すくらい。
私は今、
私の道は、ここで終わらなければならない。厄災のタネは、摘み取るべきなのだから。
やり直す機会なんて、要らない。
でも、最期まで自分の味方でいたい。頑張って闘って、精一杯を出し切って。無駄じゃなかったんだと、貴女なりに頑張れたんだと。胸を張って、そう言える様に。
だから、闘う。
”世界を守る為”なんていう大層な理由では無いけれど。”他人の為に”なんて言えない、自分よがりな動機だけれども。
「─聞け!世界を救う箱庭の英雄達よ!」
自分に誇りを持って、道を走り切ったと言う為に。
私の生き様が、他者の心に残る様に。
ふと振り返って、笑える様に。
「私の名は、言魂カタリ!過去に想いを馳せ、過去に生きる者!」
高らかに、気高く。
ちょっとだけの臆病を、胸の奥にしまって。
最期は、笑え。
「お前達が、未来を歩むというなら!お前達が、明日を夢見るというのなら!」
最後に笑うのは、きっとホシノ達だろう。
その時、私は既に地に足をつけていないかもしれない。
けれど。けれど。
「─私を、超えてみせろ」
─最期に私は、笑ってやるとも。