「…これでどう?」
「ッ……弾幕が多い…!」
私が宣戦布告して、幾ばくかの時間が経った。かと言え、そこまで多大な時間が経過している訳でも無いが。
それまであまり気にならなかった外野が、やたらと連携し出した。その連携は、やけに洗練されている。外野同士の意思疎通もあるだろうが、やはり”先生”の指揮の恩恵があるのだろう。
ホシノは、指示を受けている感じがしない。恐らく、ホシノは自由にして、他に指示を送っているのだろう。
さっきまでは外野にホシノを含めて指示を送っていた。最前線を貼っているホシノ達の指揮は、”先生”にとっては困難を極める事だろう。その内の1人の指揮を必要としなくなったのは、あちらの状況としては良好と言える。
対してこちらは、思いっきり覆って不利だ。圧倒的に集中力を持っていかれるホシノがいて、その他も無視出来ない連携度合い。あちらが自分達のやる事に集中出来ている反面で、こっちは見る範囲が広過ぎる。
圧倒的な一の束。私が相対しているのは、そういう表現が相応しいだろう。
その差は、一向に埋まる気配がしない。
「そっちばっかり夢中になったら……こっちがガラ空きだよ?」
「…ッ!こんの、怪力持ちめ…………!」
「ヒッドイなぁ〜」
鉛玉の雨あられをどうにか封殺した所で、待ち構えている第二第三の攻撃。
それに、トリニティの最高戦力の一人である聖園ミカが厄介極まりない。何を隠そうコイツは、隙を見ては殴ろうとしてくる。ヘイローがあるからといって、あんな剛力で殴打を喰らってみろ。まずもって無事では済まない事だろう。
それに、銃撃と比べて精度が良いのも難点。銃はあくまでも持ってるモノを扱う訳だからこそ、そこまでの精度は担保されていない。だが、それが身体の一部となれば、話は変わる。腕を扱うなんて、およそ子どもでも出来る。
それが最終的にどんな結論を齎すのか。それは、もう言う必要もないだろう。
「煩わ……しい!」
「わわっ……凄いね、私の拳にカウンターを打つなんてさ」
それはどうも、なんて言う余裕は最早無い。
思考を巡らせるので手一杯。この人数から集中的に観る相手を絞って、対処するだけで精一杯。いつものような煽り文句でその場を乱す事なんて、出来やしなかった。
戦闘において、重要な事とは何か。
力?確かにそうだ。力無き者が戦闘に身を委ねれば、どの様な結末を迎えるか。
だが、それよりも。
知恵?いや確かに、知恵は戦闘を大きく揺さぶる要素たりうる。1つの知恵が逆転を齎す事は、決して少なくない。
だが、それよりも。
”自分達が有利だ”と知った時の者は、主に2つに別れる。
1つが、油断を起こすタイプ。このタイプであれば、幾らでも対処のしようはある。が、問題はもう1つの方だ。
それが、士気が上がるタイプ。このタイプを相手する場合、相手は”このまま勝てる”という意識が根底に根付く。こうなった相手は、中々に手強い。油断しない慎重な立ち回りをしながら、隙なく完封。1番最悪の想定。
彼女らは恐らく、後者。私は、これを相手取らないといけない訳だ。
「ッ!……スナイパーですか!」
散々体力を削られてきた私には、いよいよ考えを回す余裕すら無くなってきた。聖園ミカならまだしも、遠距離の支援射撃にまで気を配れる程、私に気力は残っていない。
今私の身体を動かしているのは、気合いと意地、そして心の昂りだけ。形の無いソレらが、私の身体を突き動かす。
精神論やオカルトは、余程の根拠が無い限り信じない私だったが、こんな所で身に染みて味わう事になるとは。
まったく、人生とは予想がつかないものだ。
「私を忘れたら困る……よっ!」
「…忘れるものですか……!」
意識外から、ホシノが高速で近付いてくる。ショットガンで攻撃してくるかと思えば、まさかまさかの盾でのタックル。
……どうやら私の友は、知らず知らずのうちに武闘派になっていたようだ。
その一撃を、私は常備しているダマスカスナイフで止める。
……重い。この一撃、生身で喰らっていたらどうなっていた事か。現に、受け止めた右腕が悲鳴を上げている。生身でも受けきれるだろうと思った過去の私を、どうかぶん殴りたいものだ。
さて。ここからどうするか。
盾とホシノをどうにか弾き飛ばし、一定の距離が空いたこの時間で、私は試行錯誤を繰り返す。そのどれもが、中々の苦戦に繋がるという事実を突き付けられるばかりで、辟易してしまいそうだ。
一体一であれば、何とかなる。が、それを許してはくれないだろう。それは、ホシノ側だって理解していると思う。
負けても良いと思っておきながら、ここまで勝ちに執着している自分が、大層矛盾していて奇妙な事だ。
……心の底では、まだ諦めきれてないのだろうか。そんな感情は捨てたと思ったのに、私は存外子供だったみたいだ。やはり、慣れない背伸びはするべきじゃないな。
…………いや、待て。
いけるか?
賭けにこそなるが、この状況を打破出来るであろう手段。が、身体が保つかは分からない。もしかしたら、崩れ落ちるかもしれない。
でも。やるしかない。
「チェックメイトだよ、カタリ」
銃を私の額に突き付けるホシノ。どうやら、私が考えにふけっているうちに、私の目の前にまで詰めてきたらしい。
詰み、ね。
「……ッ!?」
「馬鹿な…!?」
私の神秘。”看破”だと思っていたそれは、全く別のモノだった。だが、今の私は
とどのつまり。
「カタリが……!」
神の力添えで成しえたあの野望。独りでは届かなかった、膨大な力。
しかし、それは
私は、
私の足元に、魔法陣の様な何かが浮かび上がる。それは、次第に巨大化していく。
それに反比例する様に。
私の身体から力が抜けていく。
私の意識が、次第に霞んでいく。
私の命が、ポロポロと、崩れていく。
「カタ─!──リ!!」
遠くから、声が聞こえる。が、途切れ途切れ。
何と言っているのか、およそ鮮明ではなかった。
地面が、揺れている。空気が、揺れている。
「先─!!こ───で─、キ──トスが──しま─!!」
私は、ここで死ぬだろう。
でも。
これで、いい。
私の最期の我が儘は、大体満足いく物だったのだから。
──ごめん、カタリ。
─ドンッ!!
その一言と銃声は、やけに鮮明に聞こえた。