私は問う   作:Cross Alcanna

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どうも、Cross Alcannaです。

今回は、思っていたより短いです。想定していたよりも、いつの間にか短くなっていました。次回からもう少し長めになるよう調整します。

では、どうぞ。



芸術とは

 

「時にカタリ。お前に聞きたい事があるのだが……時間はあるか?」

 

 

「時間はありますが……何です?」

 

 

「お前は、芸術に対してどのような感想を抱いている?」

 

 

ゲマトリアの基地で調べ物をしようかと思っていた時。後ろから話しかけてきたその声の主は、双頭の木人形(マネキン)こと、マエストロ。

 

芸術を以て”崇高”に至ろうと試みる、ゲマトリアの一員。芸術に精通している事もあってか、職人肌というか何というか。……感性が変、という言葉が1番合っているようにも思う。

 

私がゲマトリア所属になってまだ日は浅いけれど、マエストロとベアトリーチェが何かを言い合っている所を、何度か見かけた事がある。

 

性格の反りが合わない以上、仕方ないのかもしれないけれど……もう少し静かに言い合ってもらえないものか。平行線な話を何度もするなんて、無駄極まりないだろうに。

 

そんな彼が、私に芸術の事を聞きに来るとは。

 

……とはいえ、そこまで難しい事でもない。

 

 

「一定の形を持たない……概念に近いモノ、と」

 

「…………ほう、概念ときたか」

 

 

興味深そうな声を上げるのが、分かる。

 

……これ、長くなりそうな気がする。

 

 

「概念と言うが、形にはなっているではないか。そこはどう説明するというのだ?」

 

「説明も何も、()()()()()()()()()()()()でしょう?カラスだって、大雑把に言えば”鳥”という概念に当てはまるでしょう?」

 

 

概念はなにも、実体として存在していない事を前提としない。身も蓋もない事を言うのであれば、概念なんて()()()()()()に過ぎない。

 

仮にこの世界の最上位の存在が概念を定義したという説が真実だったとして、だから何だという話でもある。

 

概念は、とある特徴を持った何かのジャンルの呼称。突き詰めてしまえば、なんて事ない結論に辿り着く。

 

心が落ち着かず、特定の人を見ると胸がドキドキする。我々はそれを、”恋”と定義付ける。その者を見ると無性に殺したくなってしまう衝動。我々はそれを、殺意と定義付ける。

 

芸術も、そんなものの1つに過ぎない。

 

 

「……あぁ、でも。”人の心情の現れ”と言った方が適切かもしれませんね」

 

 

芸術とは、概念だ。が、人の心情そのものとも言えるか。

 

自分が美しいと思うものを描き、見える形で表現する。この美しいと思うものというのは何も、世の中に訴えたいものでも良いだろうし、好きだと思うものでも良いだろう。

 

自身の心情という形の無いモノを表現したモノ、それを芸術と呼ぶのかもしれない。

 

…………その方が、妥当か。

 

 

「やはり、お前との会話は新鮮だ。黒服達との会話では得られない何かを、得る事が出来る」

 

「それはどうも」

 

 

……自身の心情を、形にする。

 

…………ふむ。

 

 

「……もしかして」

 

「…?」

 

 

自身の強い願いを、事象として現実に発現させる。この世界ではそれを、()()と呼ぶのだろう。

 

芸術とは案外、この世界の真理に近付く効果的なアプローチなのかもしれない。

 

よく上がる話として、”魔術や魔法を極めた者は深淵を見る”とは有名だ。魔術や魔法の類いは、その世界の真理に近しい根源とも言われる。……この世界における”崇高”は、もしやその手のモノなのか?

 

だとすれば、”何かを極める”事が”崇高”に繋がる?でも、それだと”神秘”は大した関係性を持たない事になる。……調べるべき事が、また増えたかもしれない。

 

 

「……助かります、マエストロ。おかげで調べるべき事が1つ増えました」

 

「…その飽くなき探究心、私も見習いたいものだ」

 

 

……どうぞご勝手に。

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

「カタリさん、ちょっとした相談なのですが……」

 

「…?何でしょう、黒服」

 

 

あれから調べ物をある程度済ませた私は、この拠点を後にしようと廊下を歩いていた時。先程とは別の声が、私を呼び止めた。

 

何用かと思って言葉を待っていると、続けて言葉が放たれる。

 

 

「そろそろ、ゲマトリアらしい偽名を決めた方がよろしいのではと思いまして」

 

「……確かに、名前を偽った方が動きやすいかもしれませんね」

 

 

曰く、ゲマトリアとしての新たな名前を使わないか、との案。そこまで日は経ってないにしろ、それなりの日数はゲマトリアとして過ごした訳だけど。

 

どうして名前について何も思わなかったのだろう、私は。

 

……どうでも良かったのか。或いは、他と比べて大した優先物じゃなかったか。

 

思えば、この世界では様々な”定義付け”が重要だった。”名前”はその最たる例だろうし、ゴルコンダの言う”テクスト”だってそれを示す論拠でもある。

 

あの先生とやらも、キヴォトスの生徒も。私が新たな”定義”を得たのなら、少なくともその新たな定義(フィルター)によって、かつての私の存在が薄まる事だろう。

 

 

「黒服が名付けてくれる、という事で宜しいので?」

 

「本当は他のメンバーとも相談して決めようかと思ったのですが……如何せんあのメンツなので……」

 

 

そんな事にかまけている時間は無い、なんて一蹴する未来が見えている。彼ら彼女といるのが短い私とはいえど、それくらいは分かる。逆に、ここまで世話焼きな黒服が異質なのかもしれない。

 

…………仮説が正しければ……いや、確証も無い仮説を検証しても無駄か。

 

 

「それで、どんな名前を考えてきたんです?」

 

「期待されても困りますよ。名付けの機会など、そこまで多くなかったのですし」

 

 

とはいえ、そこまで趣味の悪い命名はしないと思うけれど。どこぞの生徒会長とかならまだしも。

 

そうですね、と一呼吸置いて彼は私の名前を紡いだ。

 

 

─求識の洗礼者 ヨグ=ハ。

 

 

「…良いじゃないですか、卑下する事も無いと思いますよ」

 

「それは何よりです」

 

 

洗礼者。……私、何を洗礼したのだろう。思い当たる節がないのだが。

 

ともかく、黒服から貰った名前を使っていく事にしよう。

 

……さて、お礼は菓子折りでいいのかな。

 

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