「弱さ、ですか」
「はい。実際に先生やキヴォトスの生徒と強く関わった貴方であれば、面白い見解が得られると思ったので」
「ふむ……簡単なようで難しい問いですね」
今日も私は、問いを投げる。
目の前の彼が、
定義を理解し、それを操る無頭の紳士が、
それらと、私が行っている問い掛けは、元来の目的としては同じ事。ただ、ゲマトリアが行う事にしては、少しだけ可愛い事だという違いがあるだけ。
知識は、他者に聞く事でしか得られない見解もある。確かに不明瞭で事実と食い違う事も少なくはない。が、この集団の人間……いや、人外と呼んだ方が良いだろうか。
兎に角、彼らは理知的だ。それも、人間として欠陥を抱いていると思われる程には。だが、だからこそ得られる見解がある。この
私は、それを有益だと位置付けている。でなければこんな集団、とっくのとうに辞めている。私の行動指針は、あくまで有益な知識。ただそれだけだ。
「……その問いを抱いた経緯をお伺いしても?」
「”大人は強く、子供は弱い”。この世界ではそうはいかないかもしれない。けど、
「成程……貴女は既に、外側を理解していたのですか」
それに関しては、最たる例がいるだろう。
シャーレの顧問である、”先生”。
巷では有能な指揮官と、別の場所では変態と、また別の場所では生徒第一の馬鹿正直な”先生”。あの人間の”先生”としての人間性、あれは恐らくこの世界に落ちてから
でなくば、噂に聞く変態と思わしき行動のアレコレとの整合性が取れない。
…………話が逸れてしまった。軌道修正するとしよう。
外側を理解するキッカケは、冷静に考えてみれば決して少ない訳ではない。「子供が銃を持たない世界線は、果たして存在しないのか」という疑問を紐解く事でも理解に近付けるだろうし、
ゲマトリアにはまだ言っていないが、私は色彩を識っている。宛もなくどこかを彷徨い、訪れた場所を
あれが意識や命を持つ何かであれば、色彩が生きる世界が存在する訳で。仮にそうでなくとも、色彩の存在はキヴォトス以外の世界の存在を証明するには、根拠としてはそれなりの有効性を持つだろう。
そんな事はいいのだ。今は、黒服の解を聞く事が最優先なのだから。
「私の意見を申し上げますと……弱さとは、無知でしょうか」
「その心は?」
……興味深い。
「貴女もご存知の通り、私は”契約”を用いる機会が多いです。私が持ち掛けた者の中で、”契約”の内容を事細かに理解出来ていない者は大抵、私の思うがままの行動を取ります。」
一呼吸置いて、彼は続ける。
「そうした結果、相手は自分の思うような結果を得られる事は少ない。対して私は、望む程の結果を得られないにしろ、損害と言えるダメージを負う事は殆どありません」
「……」
「ここまで言ってしまえば貴女であれば理解していると思いますが、一応。こうして、自身のより良い未来を掴む為には、相応の知識が必要です。時には、相手に勝る程の。それを備えていない状態を、私は弱さと考えています」
「…………そうですか」
どうやら、貴方は私と同じ人間なのでしょうね。
「この解答で、満足頂けましたか?」
「えぇ、とても」
「良かったです。途中から顔色が険しくなっていましたので、寝首でも掻かれるかとヒヤヒヤしていましたよ」
それは、申し訳ない。
真新しい事を得られたかと言われれば、正直首を傾げる事にはなるかもしれない。が、今回はもとより新たな知識を得ようとしていた訳ではない。強いて言うならば、”意見が聞きたかった”というやつだろうか。
彼らと近い距離でいる以上、およその見解は理解出来る。それで言うと、ベアトリーチェ辺りも似た解答を言うかもしれないだろうし。
こういう明確な解を決めるのが困難な問いは、多くの
「私を、機嫌を損ねたモノを食い殺す獣か何かと思ってません?」
「…………いえいえ、そんな事は微塵も」
有識者だというのに。言葉までの間が全てを語っている事に、気付いていないのだろうか。
……まぁ、そう思われても仕方ない言動をしている私にも非がある以上、野暮に突く事はしないが。
「この問いですが、他のメンバーにもしたので?」
「いえ、それぞれに会った時に、忘れなかったら聞こうかと思ってるくらいです。そこまで重要な事案でもありませんし」
正直、他のメンツにこの質問をするかも怪しいが。まぁ、しない事も無いかもしれない訳だし、嘘ではあるまい。
「……あぁそうでした。ヨグ、少し伝えておきたい事がありまして」
話題が少し変わり、黒服から何か尋ねられる。
何かと思い返事を促すと、黒服はポケットから何か黒いモノを取り出す。よく目を凝らして見てると、何かの鍵に見える。
黒服曰く、アビドスの寂れた裏路地に落ちていたとの事。……それにしては、随分と凝ったデザインの物ではあるが。それこそ、芸術品の類いのような。
少し解析をしたらしく、しかし目ぼしい結果は得られていないと。一応キヴォトスで使われている鍵とも照合したらしいが、一致するものが無かったらしい。
とするならば、使う為に作られた訳では無さそうではある。それこそ、芸術品としての鍵という可能性が高い。黒服らも、そこに気付いていない事はないと思うが。
「貴女から見て、コレの感想などはありませんか?或いは、何か分かる事ですとか……」
「流石に、分からないですね。それこそ、解析を深めない限りは」
「ふむ、そうですか……」
……何だか、釈然としない。
知識を深めたはずなのに、この鍵について見当がつかないとは。
……悔しい。何故、私がコレを理解出来ないのか。許せない、私に理解出来ないコトがあるのが。
「……黒服、ソレを貸して貰えませんか?」
「随分と急ですね、貴女が解析するので?」
「はい、分からないのは癪なので」
「……あぁ、貴女はそういう人でしたね」
そうして、あっさりと鍵を手渡してきた。私はそれを確かに受け取り、ポケットにしまう。
「気を付けて下さいね。その鍵、ただのガラクタでは無い事だけは確かなので」
……呪物の類いか?だとしたら、手渡す前に言って欲しかったが。
いや、いい。帰って調べるとしよう。もしかしたら、私の記憶不足だっただけで、何かに引っ掛かる可能性がある。
……楽しくなりそうだ。
「…………考え事をしてる時の貴女、不気味ですよ」
…一言余計ですね、黒服。