どうも、Cross Alcannaです。
この作品を手掛けてまだ日は浅いですが、多くの人から評価を頂けている事が、今でも驚きです。中には、実際に小説を執筆している方まで。
評価や読まれている数、ここ好きなどは全部励みになります。コメント1つ1つにも、目を通させて頂いてます。
未だ拙い小説家ではありますが、ご愛読を続けてくださると、幸いです。
では、どうぞ。
「貴方が、先生ですか」
たった一言。目の前の彼女は、そう言う。
見た事も聞いた事も無い子だ。背丈だけを見ればどこかの生徒にも見える。でも、制服を着ている訳では無い。
長めの黒のコートを着ており、生徒がよく着ているスカートの類いではなく、ズボンを身につけている。ヘイローは、何らかの文字っぽい文様と鍵みたいな模様があしらわれている。
それらをどうでもいいと一蹴してしまうのは、その瞳。ハイライトはあるというのに、昏い。詩的に言ってしまうと、”深淵を覗いている”ような心持ちになる。
目を離そうとしても、どこか引き込まれるような。それでいて、常に見続けられているような。……いや、今は見られ続けているんだけど。
「…そうだよ、私は先生。……君は、どの学園の生徒かな?」
なるべく、刺激しないように話し掛ける。学生と断定して話す事も一種の地雷かもしれないとは思ったけど、先生と彼女が呼んだ以上、先生として接するのがいいと思った。
地雷を踏んだとしたら、その時はその時だ。
「学園……いや、私は学園に籍を置いていません」
まさかまさか。その口から告げられたのは、彼女が生徒では無い事を示す言葉だった。
どうりで、分からない訳だ。
「名前は……何て呼べばいいかな」
「名前…………あぁ、自己紹介をしていませんでしたね。これは失礼しました」
その言葉に一瞬、身体が反応する。
何故だろうと振り返ると、理由は割とすぐに浮かんできた。
条件反射とはいえ、彼女には申し訳ない事をしてしまった。
「ヨグ、と呼ばれています。どうぞ、お見知りおきを」
ヨグ、彼女はそう言った。
名前にしては違和感がある気もするけど、態々言う必要もないだろう。
……恐らく、ヨグは子どもなのだろう。その前提で話を進めると、彼女は異常に子どもらしさが無い。子どもが抱える、無邪気さや夢。マナーや礼節を崩した態度に、光を宿した目。そのどれもが、無い。
どうしても、奇妙に映る。ここまで子どもらしくない子どもを私は知らないし、会った事も無い。責任を背負って、時に苦しく生きていた生徒は、見てきた。ただ、ヨグは
誰かに言う事の出来ない事情があるのだろうか。それを聞く勇気は、なかった。
「話を進めましょう。私が貴方の元にきた理由です」
逸れた話題の軌道を、ヨグが修正する。
ヨグが、私の元に訪れた理由。何だろう。学園に所属していない事から、学園支援の依頼とかでは無いだろうし……個人的に助力が欲しいとかだろうか?
私の拙い脳では、ここまでが限界だ。
「貴方に、聞きたい事があります。……
投げられた問いは、存外哲学的なソレだった。
大人とは。確かに、私に聞くのが1番な質問だ。何せ、私が”大人”の1人だから。
それに、ヨグが隠しているだけで、私が先生だからという理由も含まれているように思う。ヨグの思考が、少しだけ読めるようになった気がする。
……気の所為であって欲しくないな。
「そうだね……」
とはいえ、直ぐに解答が出る訳ではない。大人とは何か、そんな事を考えた事なんて、今の今まで一度もなかったのだから。
先生とは何か、こういう質問だったらすぐに答えられたかもしれないが。
「……良くも悪くも狡くて、難しいモノ…………かな?」
モノっていう言い方は良くなかったかもね、と付け足しておく。私から出せる結論としては、これが精一杯。何分、私は黒服ほど知見が深い訳では無いから。
”大人は狡い”とはよく言うが、確かに的を射ていると思う。何せ、幼い頃の私もそう思ったのだから。
門限もなく、夜遅くに出掛けても誰からも何も言われない。
免許を持っていれば、車やバイクを乗り回しても何も言われない。
自分の好きな物を買えるし、子どもよりもずっと沢山の物を買う事が出来る。
ダメだと言われている事を、ルールの抜け穴を突いて行える。
これ以外にも、出来るであろうアレコレ。小さな子が羨ましいと言うのも、頷ける。
「難しいとは……貴方から出る解答にしては、少し意外ですね」
そんなに私らしくなかったろうか。……いや、私の噂の数々を知ってるとなれば、そう感じるのも無理はないかもしれない。
私としては、苦笑いものだけど。
「では、私はこれで」
「…えっ?他に用事は無いの?」
「はい、これが聞きたかっただけですので」
そうだったのか。他に何を聞かれるのかと思っていたので、変な声な出た気もする。
それはそうとして、銃も持たずに1人でここらをふらつくのは、かなり危ないはずだけど。……いや、キヴォトスで安全と言える場所も、中々ない訳だけど。
「よければ、シャーレに来ないかな?」
嗚呼、言ってしまった。「安易に誰彼構うと、後で痛い目を見ますよ!?」とは誰かに言われた事。けれど、あんな昏い目をしてる子を、放っておけない。
……あんなに不安定な子を放った先は、きっと暗い未来が待ってる気がして。だから私は、手を伸ばす。
「……魅力的、ではありますが。いいえ、その案には乗れません。今の私には、帰る場所がありますから」
「そう……なんだ。そっか、それなら仕方ないね」
断られたという寂しさより、彼女に居場所がある事への安堵の方が大きかった。よかった、彼女にも居場所があったのなら。
…………いや、何処に?学校じゃないなら、何処なんだ?
ブラックマーケット?……ゲマトリア?
聞かないと。
「ヨグ!」
「また、どこかで」
ヨグの一言だけが、この場に残っていた。
────────
「良くも悪くも狡く、難しい……ですか」
言い得て妙だと、拠点に戻ってから考える。
まさか、あの大人がこのような結論をはじき出すとは。この解は、黒服やベアトリーチェ辺りから聞くものだと思っていたので、私らしくもなく驚いてしまった。
大人は狡い。大人からそれを言ってしまうのは、何という皮肉の効いた事か。
ズルと理解して、ルールの穴を突く。子供は出来ない事を知りながら、平然と子供の前でソレをやってのける。自覚があってのコト。
理解していた。強く実感していた。……と言うのに、業腹で仕方ない。何故を反響させても、マトモな解は返らない。
嗚呼、腹立たしい。
「……止めましょう。これ以上は、水掛け論になりかねませんし」
これ以上の思考は、無駄を浪費する事になりかねない。寧ろ、無駄でないモノを摩耗する事になりかねない。
それよりも。
「この鍵……」
黒服から借りた、例の鍵。あれから解析を試みてはいるものの、僅かの結果も得られずじまい。
理外の技術が使われている可能性がある事が、せいぜい分かった位か。それも、この世界では凡そ役に立たない。何せ、無名の司祭とかいう連中がいるのだから。
大層、面倒なモノを遺したものだ。疫病神よりも、余程疫病神らしく在る。
「……アプローチを変えてみますか」
目には目を、歯には歯を。理外には、理外を。
神という概念が存在するなら、最早空想と嗤われるモノですらも存在しうる……いや、存在する余地がありうる訳だ。でなくば、”色彩”なんて言う巫山戯た概念は存在しない筈。
……いや、待てよ?
「理外、色彩、鍵………」
もしかしたら。
……そういう事なのか?