F級テイマーは数の暴力で世界を裏から支配する   作:ゆーき@書籍発売中

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第二十七話 宿に泊まろう

「ここかな……?」

 

 俺の目の前にあるのは、まあどこにでもあるような、いたって普通の宿だ。

 でも、そこがいい。

 この宿には、ここがいい!と思うような要素はない。だが、文句が出るような要素も無いのだ。

 

「入るか」

 

 まだ日は高めの位置にあるが、ここは俺が目をつけただけあってか、そこそこ人気だ。

 故に、早めに部屋を取っておかないと、満室になってしまう可能性が非常に高い。

 俺はドアを開けると、中へ入った。

 中は落ち着いた雰囲気が漂っていた。そして、静かだ。

 昼間の宿だから、当たり前と言えば当たり前だが……

 すると、俺の姿に気付いた宿の女将がこっちへ来る。

 

「おや? 見ない顔だね。木漏れ日亭へようこそ。泊りに来たのかい?」

 

 女将は元気そうな笑みを浮かべながらそう言う。

 

「ああ。家が無いからな。暫く泊まらせてもらおうかと思ってね。取りあえず、30日分取りたいと思う」

 

 こういう人気宿は、こうやって何十日分の予約をしておいた方が良い。

 金はだいぶ減ってしまうが、その分稼ぐことは可能だということが今日証明されたので、問題はない。

 想定外の事故で稼げなくなるなんてこともあるが……そうなったら、また別の稼ぎプランが残っている。

 もちろんそうならないことに越したことは無いが、何事も万が一は考えておくべきだよな。

 

「ああ、1か月かい。分かったよ。それで、30日は確か6万セルだったね。でもまあ、特別に5万セルに負けてやるよ」

 

 女将は気前よくそう言った。

 

「え、いいんですか!?」

 

 俺は思わず目を輝かせる。

 流石に宿代を負けてもらえるなんて、思ってもみなかった。

 

「ああ。苦労している子供から、大金は取りたくないからね。それに、うちはそこそこ儲かっているから、それくらい大したことないさ」

 

 そう言って、女将は元気よく笑う。

 すげー……俺もこんなこと言ってみてぇ……!

 

「ありがとうございます。では、銀貨5枚を――」

 

 俺はリュクサックから小銀貨5枚を取り出すと、女将さんに手渡す。

 女将は暖かくて力強い手でそれを受け取ると、ニコリと笑った。

 

「毎度あり。2階の5号室を使いな。あと、ここでは朝と夜に食堂をやってる。君もここで食べていくといい」

 

 そうそう。ここの1階は食堂になっているんだよね。

 それで、夜になると、依頼を終えて帰って来た冒険者たちで、いい賑わいを見せるという。

 

「分かりました。夕食の時間になったら、また来ます」

 

 そう言って、俺は小さく欠伸をすると、頭を掻きながら階段を上り、2階へと向かった。

 そして、2階に着いた俺は、ドアに書かれている番号を1つ1つ確認していき、やがて5号室を見つける。

 

「ここか……」

 

 そう呟くと共に、俺はギィっとドアを開けて、中に入った。

 六畳二間程のこじんまりとした部屋だ。

 小さな小窓が1つと、簡素なベッドが1つ。そして、その横には小さな丸テーブルと椅子が置かれていた。

 小さめのタンスも部屋の隅にあり、そこに荷物等を置いておくことが出来るだろう。

 部屋に入った俺は、ガチャリと部屋に鍵をかけると、よろよろとベッドに近づく。

 

「あー色々あったなー!」

 

 そして、どかりとベッドの淵に座った。

 いやー本当に今日は色々あった。お陰で疲れちゃったよ。

 

「きゅきゅきゅ!」

 

 肩でじっとしていたネムが、俺の胸元にやってきて、しきりに”構って!”っと言ってくる。

 

「はいはい。今日はありがとな」

 

 そう言って、俺はネムを抱きしめた。

 ひんやりとした肌触りが、俺の頬や腕に伝わる。

 

「よしよし……ああ、リュック下ろしとかないと」

 

 俺は名残惜しさを感じつつも、ネムをベッドの上に置くと、リュックを肩から下ろし、床にドサッと置いた。

 

「はーあ。一応休憩タイムだし、体、綺麗にするか」

 

 ふと、思い出したかのようにそう呟くと、俺は詠唱を紡ぐ。

 

「魔力よ。光り輝き浄化せよ」

 

 直後、俺の服と体が淡い光に包まれたかと思えば、汚れを落としていく。

 光属性魔法は魔力効率の観点であまり使わないが、これだけは例外。

 浄化(クリーン)は俺でも簡単に使えるし、それでいてめっちゃ便利だからね。

 ちょっと体を綺麗にしたい時とかに、手軽に使える。

 まあ、それでも無駄遣いは絶対にしない……と言うよりは出来ないね。

 

「ふあぁ……流石に休むか。今日は心の休憩が必要だ」

 

 そう言って、俺は再びネムを胸に抱きかかえると、ゴロリとベッドに寝転がった。

 寝心地は、流石に屋敷のものと比べると悪い。

 だが、別に気にならない。これぐらいでどうこう言うようだったら、俺は死ぬ気で勘当されないように努力していたはずだ。

 

「きゅきゅ~」

 

 ネムもどこかご満悦といった様子で、俺に身を預ける。

 あーこのまま眠っちゃいたいぐらいだな。

 今の時間……はさっきシュレインの中心部にある時計塔を見たから覚えている。

 確か、午後の2時45分だ。

 

「……昼寝には、丁度良さそうだな」

 

 そう呟くと、俺は念のため、ここに数体、警戒用のスライムを呼んだ。

 もし、誰かが部屋に入ろうとすれば、”繋がり”を通して俺を起こすよう言ってある。あと、時計塔にいるスライムにも連絡し、6時になったら起こすようにも言った。

 これで、夕食を寝過ごしてしまう心配もない。

 

「ん……寝よ……」

 

「きゅ……きゅ」

 

 そして、俺は意識を手放した。

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