シュラハトくん見逃して   作:私貴方私(Y-ou@so-soなフリー)

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【前編】聖夜を祝う魔法

Frohe FrieHim(フローエ フリーヒン)

【北側諸国聖夜の挨拶】

 


 

 

「フローエ フリーヒン。フリーレン様、お誕生日おめでとうございます」

 

朝食を取るため宿屋の食堂へ降りてきたフリーレン。開口一番にかけられた女将からの挨拶がこれである。フリーレンが何か返す間もなく女将は調理場へ下がっていく。

 

「えっ、フリーレン様。今日誕生日だったんですか?おめでとうございます。そういう大事なことは、もっと早く言ってくださいよ。ハイター様のところにいた頃も言ってくださらないからてっきり…」

 

「マジか、おめでとうフリーレン。俺が師匠直伝のハンバーグ作ってやるよ。俺のハンバーグは美味いぜ。なにせハンバーグだけは、師匠から免許皆伝もらったからな。震えるほど喜んでくれたぜ」

 

食堂で待っていたフェルンとシュタルクからも祝いの言葉が贈られる。

しかし、驚いていたのは二人だけではなかった。

 

「えっ、私も初耳なんだけど…」

 

…ん?

その場にいた全員の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。

 

「なんだなんだぁ?揃いも揃ってアホずら晒してまぁ」

 

ちょうどそこへ、あくびをしながら破戒僧ザインがやってくる。

昨夜も遅くまでギャンブルをしてきたらしい。

 

「今日はフリーレン様の誕生日だそうです」

 

「ん? あぁ、そう言えば今日だったな」

 

!?

フリーレンを含めた全員がなんとも言えない表情でザインを見る。

 

「ねぇ、そんな目で見ないで? そんなのここらの人間はみんな知ってるぜ」

 

「俺が好きなのはお姉さんであって、こんなお子様じゃねえっての…」というザインの言葉は誰にも届かず、フェルン達はどういうことかとザインを問いただした。

 

真相はこうである。

今日はヒンメルとフリーレンの誕生祭である。

夜には勇者ヒンメル像の周りをライトアップし、村のみんなで超巨大なハンバーグやメルクーアプリンを食べたり、子供達にプレゼントを贈るというお祭りを行う。

これは北側諸国を中心に普及している祭りだったためザインは知っており、中央諸国出身のフェルンとシュタルクは知らなかったのである。

 

「むしろ、なんで本人が知らないんだよ」

 

「んんぅ?」

 

みんなの視線に晒され、頭を捻るフリーレン。彼女はヒンメル達と北側諸国を旅していた頃を思い返していた。

 

 

 

 

呪われた少女の解呪を試しながら旅を続けて半年、フリーレンはハイターと協力してなんとか呪いを緩和することに成功していた。

 

無差別に周囲へ不幸を撒き散らすのではなく、ある程度影響範囲を絞ることに成功したのである。

 

『呪いを勇者に押し付ける魔法』

 

勇者パーティーの魔法使いと僧侶、ついでに魔法が使える騎士がなんとか捻り出した次善策である。

 

正確に言うと『呪いによる周囲への影響に指向性を持たせる魔法』なのだが、何故か呪いがヒンメルを気に入ったようで、パーティー全員に対象が分散せず、不幸な出来事が全てヒンメルに引き寄せられていた。

 

それでもその効果は大きく、周りの人々へ無作為に不幸をばら撒く効果は見られなくなった。

 

もちろんヒンメルは魔法の使用を快諾。

少女の瞳から申し訳なさと嬉しさの混ざった涙が溢れる。それを優しく受け止め、勇者は微笑む。

 

その姿は鳥のフンにまみれていた。

 

 

 

 

ヒンメル達は少女が村に入れるようになったため、近場の村を探していた。

半年の間、呪いを抑えるために野宿が続いていたので少女もフリーレンも柔らかい寝床を欲していたのだ。

 

「勇者様方、ありがとうございます。私も家内も生き残ることができました。是非、うちの村で歓迎させてください」

 

そこへ偶然、鳥の魔物に襲われている村人を助け、村長の家に招待されることになった。

 

どうやら先ほど倒した鳥の魔物はここら一帯の主だったようで、頻繁に田畑や家畜に被害が出ており、村人まで犠牲になるところだったらしい。

ヒンメル達は渡りに船だと村長の招待を快く受け、村の手伝いを対価にしばらく滞在することにした。

 

「ふぅ、ようやく銅像の設置完了。これであの鳥レベルなら寄り付かなくなるぜ」

 

いつものようにヒンメル達の銅像を設置するニヒツ。

 

「ふふっ、今回のポーズも完璧だね。そして、こんなイケメンの僕を86%再現できるニヒツの腕も相当なものだ」

 

ヒンメルは108つある勇者ポーズの67番を今回選んだ。鳥の魔物を倒した村に相応しい荒ぶる勇者のポーズである。

ニヒツはため息をつく。

 

「ふぁぁあ。こちとら、もはやお前の顔が夢にまで出てくるようになったんだが…。最近は作るもの全てヒンメルに似てくるんだよなぁ。もはやヒンメルの呪いなんだけど…」

 

瞼を閉じても目に浮かぶイケメンから目を逸らし、ひと仕事終えたためその場に座り込むニヒツ。

その横で次の銅像のポーズをどうしようか悩むヒンメル。

もちろん他のみんなは飽きてこの場にはいない。

 

「ありがとうございます。騎士様に勇者様。好きなだけ村に滞在してください。あまり食料の備蓄はないので豪勢にはできませんが、歓迎の宴も用意します」

 

ニヒツ達が勇者パーティーの銅像を設置し終えると、村長が話しかけてきた。

遠巻きに銅像ができる様を見ていた村長も村人も少し痩せているが、皆明るい表情をしている。

子供達も朝日を浴びてピカピカ光る勇者達の銅像に目を輝かせている。

その光景にヒンメルもニヒツも嬉しくなった。

 

「なら俺らも料理を提供しないとな。ヒンメル、ちょっくら師匠と一狩りして宴に豪華な肉を添える準備をしてくるぜ。ここらにはどデカい肉の塊になる猪みたいなやつがいたはずだ。めっちゃ美味いから期待してろよ。後、あの子のこともよろしくな」

 

「分かった。あの子は僕の方で見ておくよ。また美味いやつを頼む」

 

「もちろん、任せろ」と答え、ニヒツはアイゼンを探しに広場へ向かった。

 

ヒンメルは村長達と宴の細かい擦り合わせを行い、宿へ帰る。

途中、マントを踏んづけて転んだが、誰も見ていないので問題ない。

 

宿に着くとハイターが少女と遊んでおり、フリーレンは変わらず解呪の研究を進めていた。

帰ってきたヒンメルを見つけ、少女が笑顔で抱きつく。

 

「おかえりなさい、ヒンメル。今回のポーズ決めは早かったみたいですね。ニヒツはどうしましたか?」

 

ハイターが聖典を机に置き、ヒンメルに抱きつく少女を剥がして優しく抱える。

 

「んっ!? 大丈夫、夜の宴に出す肉を取りに行ったよ。うん、大丈夫。村の人にも分けられるから普段狩らずにいたデカい獲物を取りに行ったみたいだ。大丈夫ダイジョウブ…」

 

ヒンメルはドアの金具にぶつけた足の小指を震えながら抑える。

フリーレンは不憫なヒンメルをなんとも言えない表情で見つめる。

ハイターも同じ気持ちだったが、不意にあることを思い出して笑顔になった。

 

「そうです。ここのところ色々あって忘れていましたが、今日はヒンメルの誕生日でしたね。お金は出すので、フリーレンと一緒に好きなもの買ってきてください。後、お酒もお願いしますね。私はこの子を見ているので」

 

何かを企んでいる表情の悪友に少し訝しむヒンメル。

 

「フリーレン、お願いします。この様子だと1人でヒンメルが外を出歩くのはかなりマズい」

 

ハイターの頼みに「仕方ないか…」と呟き、杖とスクロールを脇に寄せるフリーレン。

彼女は息抜きもしたかったしちょうど良いかと考え、出かける準備をした。

 

 

 

 

村の店を眺めるフリーレンとヒンメル。

そんなに大きくない村なので、店はそんなに多くない。

おもむろにフリーレンが店頭にあったショッキングピンクの靴下を手に取り、そのまま購入した。

ヒンメルはフリーレンが予想以上に派手な靴下を好むことに驚いて固まる。

フリーレンが支払いを終えて帰ってくる。

 

「はい、ヒンメル」

 

フリーレンは何故か先程購入した靴下を渡してくる。

 

「前に指輪をプレゼントしてくれたでしょ。これはお返しだよ。誕生日はプレゼントを贈るものだってニヒツが言ってた」

 

フリーレンから渡された靴下を受け取るヒンメル。

 

「う、うん。ありがとう…。でも何故靴下なんだい?」

 

「だってこの間、呪いで靴下が使い物にならなくなったでしょ。ヒンメルの戦闘スタイル的にも足に負担が掛かりやすいんだから、ちゃんと足は労わらないとね」

 

受け取った靴下をよく見るヒンメル。派手だがしっかり底が補強されている特殊なものだった。

 

ヒンメルは驚いていた。

フリーレンが靴下のことを覚えていただけでなく、他人の戦闘スタイルに興味を持ち始めたことに対してだ。

フリーレンはすごい魔法使いだ。そして長い間1人で戦って来たため、チームワークというものに対する理解度が皆無であった。

そんな彼女がここまで他人の状態を把握している。

これは間違いなく成長であった。

 

ヒンメルはフリーレンの成長にそっと頬を濡らした。

そして、頬どころか全身びしょ濡れになった。

 

店の上階から慌てた人々の声が聞こえる。足元には桶が転がる。周囲の村人もあたふたしている。

目の前のフリーレンは呆然と立ち尽くしている。

でもそんなことは関係ない。

 

勇者ヒンメルは、全身で嬉し泣きをしたのだった。

 

 

 

 

フリーレンに『衣服を乾かす魔法』と『暖かい風を出す魔法』をかけてもらい、謝り倒す村人に大丈夫だと伝えるヒンメル。

その手には汚れひとつないピンクの靴下がある。

 

「そう言えば、フリーレンの誕生日はいつなんだい?お返しのプレゼントを用意するよ」

 

「これは指輪のお返しなんだからいいよ。それにお返しされたらまた返さないといけないし」

 

「良いじゃないか、そうやってずっと毎年プレゼントを交換しよう。きっと楽しいはずさ」

 

嬉しそうに提案するヒンメルを見て、フリーレンはそういうものかと飲み込む。

ただ誕生日に関して、フリーレンは回答に困っていた。

 

「エルフは寿命が長いからね。誕生日を祝う習慣はないよ。私もいつ生まれたかなんて覚えてない」

 

…。

 

これには少し語弊がある。確かにエルフはあまり自分達の誕生日を重視しない。

それでも自分が誕生した日を忘れることはない。

フリーレンが誕生日を忘れてしまった理由は、エルフ換算でも長い間ひとりぼっちだったからだ。

1000年もひとりぼっちである状態は、エルフという種族としても正常とは言えない。

共に祝ってくれる人がいないと、人はそれが重要なことだと忘れてしまうものだ。

ただ、緩やかに絶滅へと向かっている彼女達としては、これが通常の状態であるとも言えた。

 

「それは…悲しいな…」

 

ヒンメルもなんとなくそのことを理解していた。

ヒンメル達の時代においても、エルフはすでに滅んだ伝説の種族扱いである。

エルフに出会えず一生を終える人間が大半だ。

 

「誕生日が必要なら年初めでいいよ。分かりやすいし…

『いやフリーレン、今日が君の誕生日だ!!』

 

…?」

 

 

 

 

 

 

「なんだよ。今日2人とも誕生日だったのか? そういうのは早く言ってくれよな。師匠、ステーキから師匠特製ハンバーグに変更しましょう。誕生日2人分なんで超どデカいやつで!!」

 

「フン!! 腕がなる。ここからは戦士の戦場だ。ニヒツ、お前も仕込み手伝え」

 

「了解、師匠。でも俺は戦士じゃないぜ」と返事をし、アイゼン達ハンバーグコンビが急いで厨房に戻っていく。

 

現在ヒンメル達は買い物を終え、ハイター達が待つ小屋に戻っていた。

 

「まさか、フリーレンも今日誕生日だったとは思いませんでした。誕生日が被っているなんて珍しいですね」

 

「それは…」となにか言いかけるフリーレンを遮り、ヒンメルがハイターに答える。

 

「良いだろ。運命の仲間って感じで」

 

「それだと私達はどうなるんですかね? 誕生日別々ですが?」

 

ヒンメルの様子からなんとなく察したハイターが軽口を返す。

幼馴染の絆は伊達ではない。

 

「ずっと一緒にいる私は運命の仲間じゃないのですかね」グイグイ。

「いやいや、ハイター(生臭坊主)も立派な仲間だから勘弁してくれ」グイグイ。

 

「今は私よりもあなたの方が生臭いですけどね。今度は何を被ったんですか…」

 

「発酵した魚介の詰まった桶…」

 

ヒンメルには相変わらずハプニングが起こっており、帰り道でもフリーレンのサポートすらすり抜けて大変な目に遭っていた。

 

「うわぁぁ、近寄らないでくださいよ。あの子にも匂いがついちゃいます」とドン引きの僧侶が、急いで女神の魔法を使ってヒンメルを清める。

その後少女が事情を察し、持ってきてくれた水浴びセットを受け取り、水浴びへ向かうヒンメル。

 

「流石に今日の主役がこれでは不味いですね。フリーレン、例の魔法をヒンメルが帰ってきたら試しましょう」

 

ヒンメルの惨状を見かねたハイターは、フリーレンに開発中の解呪魔法を試す提案をする。

今日のヒンメルは、幼い頃から付き合いのあるハイターですら見たことがない史上最悪の誕生日だった。

 

「いいの? これかけてる間ハイター動けないから、お酒飲めないよ?」

 

…。

 

「…」

 

「…」

 

「………………はい」

 

長い葛藤の末、僧侶は酒と友情を天秤にかけ、友情を選んだ。

 

 

 

 

『呪いを退ける魔法(仮)』

 

フリーレンとハイターによる未完成の儀式魔法。

僧侶の()と引き換えに、勇者は一時の自由を得た。

 

「女神様、どうか私が死んだら天国で好きなだけお酒を飲ませてください…」

 

女神様は静かに微笑んだ。

 




■ 次回予定
【後編】明日投稿

ヒンメルとフリーレンが結ばれるための1番の障害は?

  • ヒンメルの諦め
  • フリーレンの精神的成長
  • 何も知らない魔王
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