シュラハトくん見逃して   作:私貴方私(Y-ou@so-soなフリー)

16 / 42
【第三幕】仕掛け絵本

「未来の人間の想像力はすごいな。

まさか、あのアウラちゃんがこんなことに…ね。

うん、これも試してみようか」

【とある監督】

 


 

 

 

昔々、人類と魔族は戦争をしていた。

 

人との共存を模索していた魔王。

 

平和な時代を築きたい勇者。

 

互いに同じ望みを持ちながら、いつまでも戦い合う人類と魔族。

 

そんな時代、ある少女が立ち上がる。

 

 

『魔族少女 アウラ』

「私の天秤がその望みを叶えるじゃない」

 

 

アウラは『マジカルパワー(アゼリューぜ)』を使い、人類と魔族の溝を次々と埋めていく。

 

彼女の前では人も魔族も等しくハッピー(下僕)に成り果てる。

 

ハッピー(下僕)達は共に暮らす。

 

同じものを食べ、同じ景色に感動し、冗談を言い合って大いに笑う。

 

猛獣としての本能も、他人を妬む嫉妬も争いの心も、『マジカルパワー(アゼリューゼ)』で魂ごと浄化(服従)される。

 

いつしか互いの価値観や感情が溶け合い、それが当たり前になった。

 

そして10年後、魔王と勇者が手を取り合い平和協定が結ばれた。

 

 

 

役目を終えた魔族少女アウラは天秤を捨て、再びただの女の子に戻った。

 

そんな彼女も今や妙齢の女性(500歳)

 

念願の宿屋(自分の城)を手に入れた彼女は、今日もどこかの街で楽しそうに料理を振る舞う。

 

 

 

 

 

ここは人類と魔族の共存が実現した世界。

 

 

 

 

 

 

「杖なんて出してどうしたの? 早く席取らないと埋まっちゃうじゃない」

「…」

「今日の朝食はいつものハーフルフオムレツとサラダよ。まだ目が覚めてないなら手洗いで顔を洗ってきなさいよ」

「…」

 

言うだけ言って、魔族の女将は調理場へ戻っていく。

その間もフリーレンの杖は彼女を捉え続ける。

魔法を放とうとしたとき、杖に誰かの手が触れる。

 

「フリーレン、抑えて。ここで騒ぎを起こすとまずい。早急にフェルン達を回収して此処を脱出しよう」

 

そこにいたのはレンゲだった。

途端に昨日の記憶が戻る。

しかし、宿屋に辿り着いてからの記憶がない。

 

「急に君達の宿の辺りでゲシヒテの魔法を感知したから、様子を見に来たんだ」

「私達と離れて何時間経った?」

「大丈夫。数時間だよ。日を跨いでいるわけじゃない」

 

失態だ。

フリーレンは急いでフェルンを起こしに部屋へ向かう。

七崩賢を侮っていたわけではない。

それでもここまで理解できない魔法だとは予想できなかった。

魔法にかかっている今でも、これがおそらく『幻影魔法』ではないことしか分からない。

 

フリーレンは窓の配置も階段の数も変わってしまった内装を一瞥する。

初日に見たとき、この建物は二階建てだったはずだ。

しかし、フリーレンが目覚めた部屋は4階である。

 

手すりに触れる。知らない触感。

私も知らない木材で作られている。

触れられている時点でただの『幻影魔法』ではない。

 

フリーレンが知っている中でこれを実現できそうな魔法は『奇跡のグラオザーム』が使う『楽園へと導く魔法(アンシレーシエラ)』くらいだ。

しかし、あれは『精神魔法』の派生である。

基本的に『精神魔法』は対象の記憶を素材として、まぼろしを構築する。

術者は見せたいまぼろしの傾向を指示するだけであり、自動的にその内容は決まる。

つまり、私が知らないものや事象は『精神魔法』派生の魔法では見せられないのだ。

 

「この魔法は…なに?…」

 

認識が『現実』と『実体のあるまぼろし』の間を行き来し、情報が一致しない。

レンゲの話を聞く限り、今も私達を照らしているこの陽の光すら、本物ではないだろう。

 

フリーレンは足を動かしながら考える。

この少ない考察材料から判断すると、おそらく『幻想魔法』の類だ。

ただ、それはおかしい。

 

『幻想魔法』はフリーレンも使える。

ヒンメルの銅像を作るとき、嫌と言うほどかけた魔法だ。

その最大の特徴は、『限定的とはいえ、まぼろしに実体を与えられること』にある。

また、込められた意思や想いに効果が左右される不安定さも持っている。

 

他にもデメリットは沢山あるが、まとめると『複雑で大規模な使い方をすると失敗(拠点用儀式型魔法)する欠陥魔法』なのだ。

もちろん『速さ』と『臨機応変さ』が求められる戦闘で使えるわけもない。

 

しかし、これを実戦レベルで使えるとなると話が変わってくる。

幻想を操り、戦闘中でも『地形』や『武器』を作り変えることができるかもしれない。

それが例え一時的な変化だとしても、恐るべき脅威となるだろう。

早急に対策を練らなければいけない。

 

「フェルン!!」

「ひゃい、おかあさん!」

 

急いで支度を整え、シュタルクもそこへ合流する。

魔法に詳しくない彼では難しい理論を説明されても分からない。

 

「つまり、これは魔法ってことか?」

 

「たぶん…そうだと思う。『幻想魔法』をベースにしたよく分からない呪いだ。『幻想魔法』って言うのは簡単に言うと、実体を伴った幻影魔法だよ。フェルンならこの意味分かるよね」

 

「…」

 

フェルンは苦い記憶を思い出す。

 

幻影鬼(アインザーム)

 

フェルンがフリーレンの身長を超え始めた頃、出会った凶悪な魔物。

つまり、場合によっては『実体を持ったハイター様を攻撃(親しいひとが敵になる)しないといけない』と言うことだろう。

状況は思ったより最悪である。

 

バタンッ

 

勢いよく部屋の扉が開かれる。

こちらへ飛び込んできたのはレンゲだった。

急いで扉を閉め、鍵をかける。

彼女はタンスやベットを重しにし、ドアの前に即席のバリケードを構築した。

 

「急いで窓から脱出して! ここがバレた」

 

同時に何かがドアへぶつかる音が聞こえる。

「ドンドンドンドンッ!!」複数の手がドアを叩く。

さらに、何かがドアへ体当たりしているようだ。

 

ふりーれんどこ?

フリーレンドコ?

ふりーれんどこ?

フリーレントコ??

ふりーれんどこ?

 

フリーレンは迷わず部屋の壁を破壊し、外へ飛び出した。

フェルンとシュタルクもそこへ続く。

 

ここは宿屋の4階。

戦士はともかく、落ちたら大怪我は間違いない。

もちろん、フリーレンもフェルンも飛行魔法を準備していた。

 

しかし、それは不発に終わる。

()()()()()()()()のだ。

 

目の前に広がる景色は、宿の4階から見える芸術都市の景色ではなかった。

振り返るものの、今しがた出てきたはずの宿屋は影も形もない。

 

『見知らぬ素材でできた硬い道』

『道の端にたくさん並ぶ謎の柱と柱を繋ぐ黒い紐』

『塀に囲まれた沢山の白い建造物』

『大きな音を立てて煙を出しながら走る箱』

 

シャーデンフロイデとはまた違った見知らぬオブジェの数々。

それらに驚きながらフリーレン達は先へ進む。

 

曲がり角へフリーレンが立ち入った瞬間。

なにかが視界を遮る。

咄嗟に飛び退き、杖を構えるフリーレン。

そこで彼女は信じられないものを見た。

 

 

 

 

 

僕はどこにでもいるただのイケメン高校生。

 

今日は勇者高校の入学式だ。

 

初日から遅刻はまずい。

 

母が用意してくれたトーストを咥えて家を出る。

 

急いでいた僕は、曲がり角から出てきた人影に気付かなかった。

 

「ヤバっ」

 

つんのめりながら相手にぶつかってしまう。

 

しかし、彼女は蝶のように舞い、華麗に僕を回避した。

 

咥えていたトーストが頭の上に落ちる。

 

 

 

 

 

 

それが彼女、氷の姫君(フリーレン)と僕の出会いだった。

 

 

 

 

 

「ヒン…メル…」

 

フリーレンの表情は険しい。

フェルンはフリーレンにぶつかりそうになった青髪の青年へ視線を向ける。

 

「彼が勇者ヒンメル様ですか?」

「おおぉ、あの挿絵のまんまだな」

 

シュタルクも本物を見るのは初めてだ。

彼が生まれた頃には、もうこの世にいない偉人だった。

しかし、沢山の銅像や絵本で彼の姿を見ているため、すぐに容姿が一致する。

ただ、その姿は伝説にうたわれるよりも若く見えた。

 

「ん? なんで僕の名前を知ってるんだい? 僕がイケメンだから隣町まで名前が知れ渡ってるのかな?」

 

「うん、これはヒンメルの幻想体だね」

 

突然立ち上がってかっこいいポーズをとり始める青年。

なにかに納得するフリーレン。

ただ、杖はおろさない。

 

「君の名前を教えてくれないかい、氷のように冷たくて可憐なお姫様。君だけ名前を知っているのは不公平だろう」

 

「………フリーレン」

 

「そうか、君にピッタリの良い名前だ。良かったら一緒に行かないか? 君も勇者高校の制服ってことは、新入生なんだろ?」

 

フリーレンはヒンメルからの指摘で自分の服に目を向ける。

すると、いつの間にか見たこともない服装に変わっている。

もちろん彼女は着替えた覚えはない。

 

「驚いた。装備の耐性を貫通して、服装まで書き換えられるなんて…。うん? でもこれは上から幻想魔法を被せているだけかな? それとも見た目だけ変わっているのかも…」

 

「フリーレン様、早く脱出しないと不味そうです。このままだと装備も全て変えられてしまいますよ」

 

振り向くとフェルンとシュタルクも見知らぬ服装に変わっている。

この魔法から脱すれば戻るという保証もない。

このままだと杖や斧まで取り替えられてしまうだろう。

そうなると、実質的に武器を破壊されたも同然だ。

いよいよ私達の手に負えなくなってくる。

 

「仕方ないか…」

 

破滅の雷を放つ魔法(ジュドラジルム)

 

フリーレンは少し迷った後、空に向けて魔法を放つ。

すると空がひび割れ、見知った空が現れる。

 

「君と一緒に過ご…」

 

「ヒンメル…またね…」

 

大規模な魔法を放っても特に反応せず、たんたんと次のセリフを話すヒンメル。

その声が最後まで紡がれることはない。

 

一緒に砕けていく彼のまぼろしを見ながら別れを告げるフリーレン。

このまぼろしは、私の知っているヒンメルじゃない。

彼との思い出はもう十分私の中にあるのだから。

 

「急ごう。今の音と魔力で相手に場所がバレた」

 

 

 

 

ドゴォォン

 

「次から次へと何か起こるね…」

 

「昨日の劇場の近くですね。誰か戦っているようです。レンゲ様かもしれません」

「行ってみるか?」

「そうだね」

 


『とある未来の伝説』


 

音の発生源へ向かったフリーレン達。

そこで見たものに既視感を感じる。

 

「これはあの時の…」

紅鏡竜(こうきょうりゅう)皇獄竜(こうごくりゅう)だね」

 

フェルンは少し安堵する。

皇獄竜は知らないが、紅鏡竜はシュタルクが過去に単独討伐した竜だ。

今のシュタルクなら手こずらないだろう。

フェルンが彼に視線を向ける。

 

シュタルクの手は震えていた。

フェルンがその手を静かに包む。

2人は向き合った。

いつまでも手のかかる弟だ。

 

「シュタルクならできます」

「…そう…だな」

 

斧を握りしめるシュタルク。

臆病な弟(シュタルク)の背をしっかり者の姉(フェルン)が押してやる。

 

「よしッ、もう1匹の方は任せたぜ」

 

シュタルクは勢いよく飛び出し、紅き竜へ急速に距離を詰めていく。

これまでの旅で、竜を含めた大型魔物ともたくさん戦ってきた。

戦い方は熟知している。

 

「ここ、見えてないよなぁ。図体がデカいやつは死角が多くて助かるぜ」

 

大斧から放たれた渾身の一撃が、紅く輝く鱗を砕く。

不意を突かれてよろけた紅鏡竜。

 

「助太刀感謝するぞ。若いの」

「あれ? レンゲじゃない?」

 

2匹の竜と戦っていたのはドワーフの戦士だった。

 

「俺はフォルじゃ。お前の名は?」

「ん?」

 

シュタルクは竜への警戒を残したまま、横目でドワーフを見る。

 

「フォル爺かよ!」

「馬鹿者、俺はまだ150歳じゃ。老いぼれ扱いすな」

「ワカイィ!?」

 

蘇る1年前の記憶。

足をすくわれ、岩を運ばされ、巨大な獣の討伐を行う日々。

その間、常にドワーフの老戦士から行われる不意打ち。

流石に大物が釣れたときの不意打ちはこたえた。

それを見ていたフリーレンも、デカい魚を逃してしょんぼりしていた。

警戒続きの過酷な1週間。

忘れるはずもない。

 

「そっちの赤いのは任せたぞ。おまえさん、何やら因縁がありそうだからな」

「ああ、任せてくれ。さっさと倒して手伝いに行くよ」

 

「ふはっ、そらまた大きく出たな。じゃあそれまでに、俺もこのトカゲを三枚おろしにしねぇとなぁ」

 

そう言うと皇獄竜へ向け、かっ飛んでいくフォル。

器用に振り下ろされた前足の間をすり抜け、鱗の合間をぬった一閃をお見舞いする。

 

「すげぇ…」

 

若い頃でもこれだけの技量があったのかと、その剣技に見惚れるシュタルク。

そこへ紅鏡竜の放つ視界外からの不意打ち。

それを難なく回避し、彼も己の敵と対峙する。

 

「いっちょやるか!」

 

家を野菜みたいに輪切りにする爪を斧で弾く。

濁流の如く木々を薙ぎ倒す尻尾を受け止める。

 

「あれ? 軽いな…」

 

2年前に戦った紅鏡竜はこんなにも『かるい相手』だっただろうか?

その一撃は師匠に及ばず、技は『神技のレヴォルテ』に劣り、不意打ちもフォル爺より分かり易い。

そして、その硬さはフェルン以下だ。

 

「アレ、試してみるか」

 

地を蹴り、空へ飛び上がることで、わざと隙を作ってやる。

こちらが空中で身動きできないと思ったのか、紅き竜は口を開き向かってくる。

 

シュタルクはこれを待っていた。

 

「おまえを倒した後も竜とは散々戦ってきたんだ。それでもな。初めて倒したお前のことを一度も忘れたことはないぜ。だからッ!」

 

 

――― 『墜竜撃(ついりゅうげき)』 ―――

 

 

シュタルクは飛び込んできた竜の顎を蹴り上げる。

掲げた足で逆さまのまま喉元を駆け上がり一回転する。

回転した遠心力で斧を逆鱗に引っ掛け、そのまま背負い投げの要領で斧を振り抜く。

竜は突進した勢いを利用され、その傲慢さと共に天から地に落ちる。

そこに遅れてきた斬撃が加わり、竜の顎(あぎと)が吹き飛ぶ。

 

 

これが、2年の間に成長したシュタルクの力であった。

 

 

 

 

「本当にやりおるとはな。うむ、ひよっこ扱いは失礼だな。素晴らしい一撃だったぞ、シュタルク殿」

 

「まあ、師匠が良かったからな。シュタルクで良いよ。うぅ、フォルさんに言われるとなんかむず痒いな」

 

皇獄竜を難なく討伐したフォルがシュタルクの腰を叩く。

第二の師匠とも言えるフォル爺に褒められるとなんだか気恥ずかしい。

 

「妻がこの先の村で待ってるんでな。俺はこのまま帰る。お前さんも寄ってくか? 歓迎するぞ。妻のハンバーグは絶品でな。新たな戦友の話をすれば喜んで作ってくれるだろうよ」

 

「いや、遠慮しとくよ。先を急いでるんだ」

 

その答えに少し寂しそうなフォル爺。

しかし、彼は再びシュタルクの腰を叩き、笑顔で彼を送り出す。

 

「シュタルク。お前はいい戦士だ。きっとお前のようなやつが魔王を討伐するのだろう。今度会ったときにでも、旅の話を語り合い会おうぞ」

 

「…そうだな。また会おう。元気でなフォルさん」

 

戦士の別れ。

フォルは片手を突き上げ、村へ帰っていく。

それを見送るとともにあたりの景色が元へ戻っていく。

 

そこへフリーレンとフェルンが合流する。

 

「凄いですね。援護する暇さえありませんでした」

 

「私の長寿友達だからね、ムフぅ」

 

何故か自慢げなフリーレン。

何はともあれ、景色は再びシャーデンフロイデの街並みに戻っている。

3人は再び先を急いだ。

 

 

 

 

何故か人っ子一人いない街。

芸術的な街並みも、今ではただただ不気味に感じる。

ある地点でフリーレンが歩みを止めた。

レンゲからもらった紙と辺りを見比べ、彼女は確信する。

 

「ここだ」

 

フリーレン達は紙に書かれた住所にようやく辿り着いたのだ。

 

「結界が張ってある。これは対魔族結界かな」

 

結果に触れるとフリーレンが持っていた紙は燃え上がり、扉が開いた。

 

「入って来いと言うことでしょうか?」

「ええぇ、怖い…」

 

杖を構えるフェルン。

すり足になりつつも斧を構えるシュタルク。

中々前へ進まない戦士を引っ張り、先に扉へ入る魔法使い。

最後にフリーレンが中へ入ると、扉は自動で閉まった。

 

中は通路になっていた。

地下へ続く人が1人ようやく通れる狭い道だ。

それも長くはなく、じきに書斎のような部屋へ辿り着く。

中には大きなテーブルが一つと、それを囲うようにして存在する多数の本棚。

そして、目当ての人物もそこにいた。

 

「ああ、ようやく辿り着いたんだね。いらっしゃい。その様子だと、あちこちで色々巻き込まれたようだ」

 

部屋の中ではレンゲが待っていた。

彼女に促されるまま席につき、フェルン達は彼女の用意したココアをいただく。

 

「取り敢えず、ここは安全と言っていいよ。もう数十年はゲシヒテに見つかってないからね」

 

「全部話してくれる…と言うことでいいかな?」

 

頷くレンゲ。

 

「初めに謝っておくよ。ごめん、君たちを少し試した。正直ゲシヒテの魔法は説明しても理解できる類のものじゃないからね」

 

フェルンは『試された』と言う事実に引っ掛かるものがあった。しかし、理解もできた。

これだけゲシヒテの魔法を受けても、私達は未だにその全容を掴めていない。

フリーレンがここにたどり着くまで考えていた仮説を話す。

 

「ゲシヒテの魔法は、人類が理解できないレベルで行使可能な『幻想魔法』…だと…思う」

 

「『幻想魔法』か。確かにとても珍しい魔法だね。でも僕の見解は違う」

 

レンゲは部屋に積まれていたいくつかの資料と数冊の本を机に置く。

 

「これが今まで僕が体験したゲシヒテの魔法。そして、こっちがそれに酷似した内容の絵本や童話」

 

確かにどちらも内容が酷似している。

登場した人物との会話もかなり似ている。

 

「『物語』ですか…」

「確かに、俺たちが体験した謎の空間も何かの『物語』だったと言われると納得できるような…できないような…」

 

「君達がここに辿り着くまで体験した『物語』はどんなものだった?」

 

3人は各々、目撃した事実と感じたことを語り合う。

それをレンゲが机に書き留め、まとめていく。

 

「前者2つは僕も分からない。ただ、おそらく最後の一つは、『討竜伝説』に出てきた竜狩りの物語だと思う。ドワーフの竜狩りが、生贄にされそうになった人間の女性を守る為、二頭の竜に挑む物語だよ。大体250年前の実話に基づいた伝説だから、君達が出会ったフォルお爺さんのことで間違い無いと思う」

 

まさかの1年越しに判明したフォル爺の武勇伝。

おそらく既に本人すら覚えていない伝説だろう。

フリーレンも初耳だった。

彼女がフォル爺に初めて出会ったとき、既に彼はフォル爺と呼ばれる歳になっていた。

旧知の仲の知らないお話。

 

『この記憶も未来へ持っていこう』フリーレンはそう思った。

『旅の帰りにあの村へ立ち寄り、一緒に戦ったことを話そう』シュタルクはそう考えた。

 

2人は今も村の入り口で待っている、あの老戦士に会いたくなった。

 

 

 

 

その後も情報共有とゲシヒテに関する考察を進める4人。

ここでフリーレンは、この状況の根底をなす話題に触れた。

 

「何故、レンゲはここまでゲシヒテに詳しいの?」

 

…。

レンゲの筆が止まる。

 

「簡単な話だよ。やつは()の家族の仇だから…」

 

再び筆が動く。

 

「劇場で起こった騒動は覚えているかい?」

忘れるはずもない。

フェルンはあの景色をフラッシュバックする。

今までもたくさんの争いに巻き込まれてきた。

それでもフリーレン様やシュタルク達と協力することで、被害を最小限にできていた。

 

「はい…」「ああ」「…」

 

魔族の被害にあった村や街は、ここだけではない。

それでも、さっきまで話していた人を、手の届く範囲にいる人を、助けられなかったのは初めてだった。

その光景は、今でも少女の脳裏に焼き付いている。

 

「あの騒動に被害者はいない」

 

「ん? どういうことでしょうか」

 

「公式な記録として、この都市で魔族が暴れた記録も、被害に遭った人も誰もいないことになっている。だって何も壊れておらず、誰も傷ついていないからね」

 

フェルンはそれを理解できなかった。

確かに騒動の後、全員施設から無傷で出てきていた。

あの場で怪我をしてない人は誰もいなかったはずだ。

そして、もう助からないだろうと思われた人も…いた。

だから余計に混乱している。

観客が元から幻影で、私達は人ではない何かと話していたのだろうか?

 

フェルンは考える。

そして1つの仮説を立てる。

それは信じがたいものだった。

できれば外れて欲しい。

 

「ゲシヒテの魔法は、生前の人間と全く同じ姿の人間を『幻想魔法』で再現している? でも…それは…」

 

フェルンの回答を聞き、フリーレンも今まで自分が得た情報を思い返す。

 

『目撃情報が1番多い』

『被害がゼロ』

『魔法の記録がない』

『神話という二つ名』

 

そのどれもがその可能性が高いことを示していた。

 

「やっぱり、魔族の魔法はとんでもないね。人類の魔法技術では想像もつかない高みだ…」

 

フリーレンはゲシヒテの魔法を『趣味の悪い魔法』と言おうとした。

でも思い直す。

 

ヒンメル像の周りで楽しく笑う村人達。

ハイターのまぼろしに手を振るフェルン。

アイゼンのまぼろしと自分のちからこぶを見比べるシュタルク。

 

この魔法は、『幻想魔法』は、みんなに望まれた良い魔法だ。

だから、この魔法が悪いわけじゃない。

何よりその使い手の1人である私が否定してはいけない。

 

「でも最低に趣味の悪い使い方だ。反吐が出る」

 

フリーレンが知る中で、最も卑劣な使い方と言っていい。

 

「まとめると、ゲシヒテの魔法は『再現する魔法』。それで『殺した人』や『想像上の人や物』を再現している。これがあなたの見解?」

 

フリーレンの瞳から冷たい殺気が放たれる。

レンゲもこの殺気が自分に向けられたものではないと分かっている。

それでも、その凍てつくような視線に尻込みする。

 

「……は、はい。いえ、僕もそう思うよ…。これが同じ魔法なのかすら、僕達人類には推し量ることができない。ただ、事実として、やつに喰われた人々がいる。それでも、人類はそれを知ることすらできない。その被害も痕跡も人類では見つけられない。被害者はただ誰にも知られぬままこの世を去り、再現されたナニモノかが変わらぬ日常を続ける。それが僕には許せない」

 

無意識なのだろう。

レンゲの握った拳に力が入る。

爪が食い込み赤みが増す。

 

まだ隠し事はあるだろうが、彼女の言葉が嘘には思えない。

フリーレンはそう判断した。

 

「分かった。取り敢えず信用するよ。ただ、レンゲは一級魔法使いでしょ? ゼーリエにこの事を伝えられなかったの?」

 

これはフェルンも考えていた違和感だ。

あの大魔法使いであれば、ゲシヒテさえも倒す事は可能だろう。

フリーレンの問いに、レンゲは首を振って答える。

 

「ゼーリエ様には話せなかった。話さなかったわけではないんだ。()()()()()()んだよ。僕は生まれも育ちもこの都市だ。どうやらこの都市出身の人々にも、ゲシヒテが何か制約のような魔法をかけているらしい。今の話も君達がシャーデンフロイデへ入ってくれたから、ようやく伝えることができたんだ」

 

レンゲも色々な手段を試し、外部へ助けを求めていた時期があった。

しかし、全て不発に終わっている。

最終手段として、レンゲは自身が直接ゼーリエに会う為、一級魔法使いになった。

結局ゼーリエには事態を伝えられなかったが、特権を使い『ある魔導具』を手に入れた。

 

「フリーレン、ゲシヒテの不死性は前回実感してくれたと思う。でも僕にはそれを解決する切り札がある。だから、奴を弱らせる手伝いをお願いしたい」

 

レンゲが握手を求める。

 

「全てが終わったら、あなたが使ってる魔法の魔導書を読ませて欲しい」

「いいとも。ゲシヒテを倒せれば、後に残った魔導書は全部譲るよ。君ならここの魔法を悪用しないだろうしね」

 

フリーレンはそれに応えた。

フェルンがため息を吐く。

 

「フリーレン様、3つまでですからね」

「………ワカッテルヨ」

 

 

 

 

「勇者レンゲとヒロインが出会ったようだね」

「そして友人枠には…驚いた…後の『創世の魔女』と『竜狩りの武神』だね」

「あの子の運命力は本当に凄いね」

「流石は魔王を討ち滅ぼした()()()()()()()()だ」

 

 

 

 


 

■ 実績解除

* 【DOING】ヒンメルとフリーレンのふれあいイベントを加える

* 【DOING】原作にいない七崩賢との戦い

* 【DOING】最弱の七崩賢

 

 


 

■ 裏話

 

『魔族少女 マジカルアウラ ドミネーション』

 

どこにでもいる魔族の少女がみんなの夢と希望を一身に受け、様々な問題に立ち向かう話。

既に魔族は存在しないとされる未来で作られたお話。

魔族最盛期、なんとか凄惨な記録を残そうとさまざまな試みが行われた。その一つが写真技術である。

物語だけではなく、映像や音声、写真技術の発展に大きく貢献した『ある人物』によって、当時の写真が数多く残された。

その写真は出来が良く、何千年もの間、芸術品としても高い価値を持っていた。

未来の世界、それらが一般公開されることになる。

その際、既に表舞台では絶滅したとされる魔族達の写真が多数公開された。

見た目は可憐で優美なものが多い種族である。

凄惨な歴史はおいておいて、一部の国で爆発的に人気が出た。

そうしてできたものの1つが、この作品である。

一時期一世を風靡した『魔法少女 まじかるぜーりえ』に影響を受け、敵役である魔族を主人公にすると言う斬新な発想と、「〇〇はもういないじゃない」と言う決め台詞が受け、一気に全世界へ広がった。

たくさんの二次創作やコスプレが流行ったこともあり、おそらく人類史上最も有名な魔族となった。

 

【あらすじ】

昔々、人類と魔族は戦争をしていた。

人との共存を模索していた魔王。

平和な時代を築きたい勇者。

互いに同じ望みを持ちながら、いつまでも戦い合う人類と魔族。

そんな時代、ある少女が立ち上がる。

 

『魔族少女 アウラ』

「私の天秤がその望みを叶えるじゃない」

 

アウラは『マジカルパワー(アゼリューぜ)』を使い、人類と魔族の溝を次々と埋めていく。

彼女の前では人も魔族も等しくハッピー(下僕)に成り果てる。

ハッピー(下僕)達は共に暮らす。

同じものを食べ、同じ景色に感動し、冗談を言い合って大いに笑う。

猛獣としての本能も、他人を妬む嫉妬も争いの心も『マジカルパワー(アゼリューゼ)』で魂ごと浄化(服従)される。

いつしか互いの価値観や感情が溶け合い、それが当たり前になった。

そして10年後、魔王と勇者が手を取り合い平和協定が結ばれた。

 

役目を終えた魔族少女アウラは天秤を捨て、再びただの女の子に戻った。

そんな彼女も今や妙齢の女性(500歳)

念願の宿屋(自分の城)を手に入れた彼女は、今日もどこかの街で楽しそうに料理を振る舞う。

 

 

ここは人類と魔族の共存が実現した世界。

 

 

『イケメンの僕が本気で好きになった女の子が鈍感過ぎて1000年経っても振り向いてもらえないかもしれないから、来世に期待しようかなと思い始めた件について 〜 魔王を倒して平和も手に入れたけど好きな子が振り向いてくれないから悩んでます 〜 』

 

2000年前、一世を風靡したラブロマンス『勇者と氷の姫君』をベースとした現代パロディ作品。

物語としてはありふれたラブコメなのだが、あまりに鈍感なヒロインに読者一同ツッコミを入れるドタバタラブコメディ。

現代において、世界史上最も高齢とされるエルフ『ゼーリエ』氏監修で行われた現代風のアレンジ。

この加筆によって、よりリアルな価値観のエルフが再現されているという謳い文句である。

叶わぬ恋をしている貴方、エルフの女子を口説きたい貴方には必読の逸品。

 

【あらすじ】

僕はどこにでもいるただのイケメン高校生。

今日は勇者高校の入学式だ。

初日から遅刻はまずい。

母親が用意してくれたトーストを咥えて家を出る。

急いでいた僕は、曲がり角から出てきた人影に気付かなかった。

 

「ヤバっ」

つんのめりながら相手にぶつかってしまう。

しかし、彼女は蝶のように舞い、華麗に僕を回避した。

咥えていたトーストが頭の上に落ちる。

 

 

それが彼女、氷の姫君(フリーレン)と僕の出会いだった。

 

 

『討竜伝説』

 

様々な時代、様々な地域に残された竜と呼ばれる中でも強力な個体の討伐記録をまとめた物語。

ところどころ不足した情報を補完するため、複数の逸話が1人の偉業に集約されたと考えられている。

 

『- 竜狩戦士の章 - 』

 

竜狩りで有名になったドワーフの戦士だったが、ある村の村娘に一目惚れ。

嫁にもらおうとするが、村娘は『双竜王』と呼ばれている魔物の生贄に選ばれてしまう。

それを快く思わなかったドワーフの戦士。

意気揚々と竜に挑む。

しかし、竜は2匹おり、息の合ったコンビネーションにドワーフの戦士は防戦一方になってしまう。

そこへふらりと現れた謎の戦士。

彼の力を借り、見事双竜王を討伐する。

その後、謎の戦士はふらりと姿を消し、二度と会うことはなかった。

ドワーフの英雄は、謎の戦士のことをこう評した「その斧術、天を穿ち、山を崩す。彼の者、天下一の竜狩戦士なり」

 

『後の世の考察』

 

双竜伝説と謎の竜狩戦士は、別の伝説である説が有力である。

謎の竜狩りは、あるとき紅鏡竜が暴れる村にふらりと現れ、一撃でそれを粉砕したと言われている。

伝承の発生時期から、後の『竜狩りの武神』と呼ばれた戦士である説が濃厚。

 

 

『熱血エルフ烈伝 シーズン2 - アイムユアマスター -』

 

世は世紀末。

女神は聖典を捨て、拳を握り、魔族も杖を捨て、拳を握った。

魔族と人類による血で血を争う魔法()の争いが続く世界。

覇王ゼーリエが全ての魔法()を手中に収めるべく魔族狩りを開始。

師匠を止めるべくゼーリエのいる覇王城に向かった『師フランメ』は行方をくらませる。

1000年が経ち、少女フリーレンが哀れな『魔族の少女アウラ』を拾う。

魔王はゼーリエのビンタで粉微塵になり、七崩賢もゼーリエの配下である一級魔法使い(拳使い)達のキン肉バスターによって、今も土の中。

二人は悪逆非道の限りを尽くす覇王ゼーリエの治世に否と唱えるため立ち上がる。

 

『シーズン2』

 

自害させられたアウラを復活させるため、オレオールへ向かうフリーレン。

そこに漂う不穏な影。

不意打ちを喰らい、動揺するフリーレン。

そこに現れた黒いマントと奇妙なマスクをした謎の人物『ダース黒仮面』。

苛烈を極める宿敵ダース黒仮面との戦い。

その最後に放たれた衝撃の一言とは!?

 




◽️次回
劇場版葬送のフリーレン『最弱の七崩賢』

ふりーれんどこ?

  • ふーりれんとこ?
  • ふりーれんどこ?
  • ふりれーんどこ?
  • ここ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。