シュラハトくん見逃して 作:私貴方私(Y-ou@so-soなフリー)
あなたの元を旅立ち、随分経ちました。
今では村の長をやってます。
あなたに会いたいです。愛してます。
今までも、これからも」
「マァマ、私は旅を再開するよ」
「………そう」
久しぶりに自室から出てきた娘に一瞬笑顔になるが、その口から告げられた言葉にマァマは再び悲しい表情を見せる。
「分かったわ。でも最後にお茶だけでも飲んで行きなさいな。ちょうど焼きたてのお菓子もあるわ」
静かにいつもの席へ座るフリーレン。
マァマはすぐにお茶と焼き菓子を持って戻ってきた。
「私にはね、息子がいたの。どこに出しても胸を張って自慢の子だと言える立派な子よ。でもちょっとした喧嘩をしてしまったわ。初めは寧ろ喜んだわ。聞き分けの良いあの子が初めて自分の意思を見せてくれた。噂に聞く反抗期という物だと思ってあの子の成長を感じられたの。そして、あの子がこの家を出て行って以来会えてないわ。だから、あなたが来てとても嬉しかったわ」
「でも、私はあなたの子供じゃないよ」
2人の間を沈黙が漂う。
フリーレンは彼女と
だから、彼女の考えていることがある程度分かる。
マァマに悪意はない。寂しさや悲しさを感じる。
嘘ではないのだろう。
そして、フリーレンとの日々を楽しんでいたのも事実だった。
「あの子が出て行ったのはつい最近。まだ近くにいるだろうと思って近くの村へ探しにも行ったわ。でも見つからない。あの子が帰ってくるかもしれないから、家を長い間空けるわけにも行かない。そんな時に来たのがあなただった。何かあの子の手掛かりを聞けたらと思って、話を聞いていたらそのまま楽しくなってしまったのよ」
「でも、私からみんなの記憶を奪っていくのは良くないよ」
「ん!? そんなことはしていないわ。私はただ…いえ、結界の影響ね。私のせいだわ、本当にごめんなさい。エルフだった夫が私のために作ってくれた特別な結界なの。『必要とされなくなったものが流れ着く結界』。他の子達と同じようにあなたも流れ着いたのだと思っていたけど、おそらくエルフのあなただからこそ通れてしまったのね」
フリーレンは執事から聞いた話を思い出した。
『各地で迫害や口減しで追放された者たちがある日突然、都市の前に現れるんですよ』
もしかしたら長い年月を経て、『結界』が呼び込んだ者達の届ける座標はズレていったのかもしれない。
いつのまにか大量の野菜や魚介類が現れるのも同じ原理だろうか?
「ああ、それは私がお裾分けしたものよ。あの都市には息子に良く似た子達がたくさんいるからね」
「妖精の正体はマァマだったんだね…」
城塞都市ムッティの謎。その大半が解き明かされていく。
あとは、当初の目的だった『エルフ』の正体だけである。
「マァマはムッティ領主の館に忍び込んだことがあるね」
「えっ! なんでそれを知ってるの? 『身隠』で見えなくしていたのだけど…」
やはり、犯人はマァマだった。
ただ、マァマは優れた魔法使いだ。
長年近くでその魔法を見続けたフリーレンですら、現代魔法と原理が違い過ぎてついぞ習得できなかった。
ゼーリエとどちらが優れているかはフリーレンには判断できないが、比較対象になる時点でとてつもない術者であることは確かだろう。
その魔法使いが本気で隠れた場合、ただの一般人に見つけることなどできはしない。
現に領主一族以外に見つかったことはなさそうだった。
つまり、領主一族側に何か秘密がある可能性が高い。
「なんでそんなことを?」
「あの子に似ていたのよ。だから、新しい子が生まれた時には必ず見に行ったし、最後のお別れも必ず見届けていたわ。迷子になった時なんて必死になって探したもの。危ないから山の魔物は全て退治したわ」
全てのピースが揃った。
揃ってしまった。
しかし、フリーレンは真実を告げることを少し躊躇ってしまう。
それはとても残酷なことだった。
「フリーレン、あなたに2つお願いがあるの。あなたの時間をたくさんもらってしまった私を許せないかもしれない。でも、お願い。あの子を探してくれないかしら」
「………それはできない」
フリーレンの口から告げられる言葉にマァマは驚き、そして悲しんだ。
その表情はそのまま諦めに変わる。
フリーレンも胸を締め付けられる感覚に陥るが、その理由をゆっくり話し始めた。
「マァマはその子に『加護』を与えていたんじゃない? 過保護なあなたが簡単に息子を危険な外の世界へ向かわせるわけがない。その加護は世代を経て変質していった。おそらくあなたの魔法を部分的に跳ね除けたんだ。だから、領主一族にはあなたが歪な形で見えていた」
マァマはフリーレンの話を困惑の表情で聞いていた。
反論しない様子から、『加護』を与えて守っていた推測は当たりらしい。
「初代はどこからともなくやってきた男だった。その人はたくさんの村人に慕われた。だから、『結界』を通って帰ってくることができなくなった。村の人々に『必要とされる存在』になったから」
マァマは黙って話を聞いている。
「初代はエルフを探していたと聞いている。立派になった姿を母親に見せたかったんだ。あなたは彼を愛し、彼に愛されていた」
おそらく、その息子は養子であり、エルフではなかったのだろう。
長命種である彼女の時間感覚のズレが悲劇を起こしたといって良い。
ただ、ここにはもう一つカラクリがある。
これは長年『結界』を解析して分かったことだが、この結界は中の時間をループさせている。
この結界内にいる限り、同じ時間が永遠に続くのだ。
だから、人間であったマァマの息子も5000年以上生きてしまった。
その感覚が人生経験の豊富な彼女を錯覚させ、長命種の時間感覚で接してしまった理由なのだろう。
そして、話を聞く限り何度かマァマは結界の外に出て息子を探しに行っている。
それも
探している間に時間は過ぎて行ったのだろう。
もしかしたら不在の間に、息子は母に会いに来ていたかもしれない。
だが、これはマァマに知らせる必要がない話だ。
この件でマァマはこれ以上苦しむ必要はない。
「時間感覚のズレによる悲劇。そんなよくある話は自分には起こらないと思っていたわ。こんな…こんな簡単に起こることなのね…」
マァマはもう何も喋らない。
「…」
フリーレンはそんなマァマをそっと抱きしめる。
偽りの親子関係だったとは言え、マァマと過ごした時間はフリーレンの大切な思い出になった。
エルフという、自分より年上の存在がほとんどいない種族にとって、保護者として接してくれる存在は希少だ。
特にフリーレンの場合、大人になる前に村を焼かれ、他のエルフと過ごす時間が極端に短かった。
その経験は彼女の成長を歪にするには十分な出来事だった。
だからフリーレンはこの『第二の母』を愛し、故にひとり立ちをする。
「愛してくれてありがとう。だから、私も魔王を倒してマァマが自慢できる娘になるよ」
マァマから抱擁が返ってくる。
「……いってらっしゃい、
「フリーレン、結界はどんな具合だ?」
気付くとフリーレンは森の中に立っていた。
後ろからはヒンメルの声が聞こえる。
それは何百年も会っていない相手への態度ではない。
「ヒンメル…」
フリーレンは振り返り、すたすたとヒンメルの近くまで歩いてくる。
そして、その顔を掴んで覗き込んだ。
「えっ? 何?何これ?」
戸惑うヒンメルの顔を見つめる。
若干血流が良くなっているようだが、異常と言うほどではない。
「髪の毛はまだある。髭も生えてない。身長も縮んでないね……よかったぁ」
フリーレンが手を離し、何かに安堵する様子を見て、ヒンメルもハイター達も不思議がる。
「もうここに用はないよ。もう『エルフ』は現れない」
「はぁ? どう言うことだよフリーレン。お前は結界を反復横跳びするだけで怪物を退治する超能力者だったのか?」
ちょっと煽り口調なニヒツの話を無視して、フリーレンは1人で来た道を辿り始めた。
「帰りながら話すよ。数100年分くらいの話をね」
慌てて追いかけてくるヒンメル達に軽く返す。
そして、すぐに歩みを止めた。
「私達ってどこから来たっけ?」
「認知症の症状だな。ハイター治せる魔法ある?」
「いつものことでしょう。フリーレンは魔法のこと以外興味がないですからね。まだ私たちの足跡すら消えてないですよ。私が先導します。代わりにしっかり何があったか話してくださいね」
4人はフリーレンの話を疑いつつも、鞄から出て来た証拠の『焼き菓子』と『未知の魔導書』に納得するしかなかった。
「そういえばフリーレン。その『指輪』付けてくれてるんだね」
「…まあね。そう言う気分だったんだよ」
何故か嬉しそうにしているヒンメルをハイターとニヒツがからかっていたが、フリーレンには何の話をしているか聞き取れなかった。
「フリーレン様、起きてください。朝から出発しないと今日中に山を越えられないんですからね」
何か懐かしい夢を見ていた気がする。
そんな余韻に浸ることも出来ず、フェルンがテキパキフリーレンの服装を着替えさせていく。
そうして、あっという間に辿り着いた城塞都市ムッティの門。
今日は長く滞在した都市からの旅立ちの日である。
城塞都市ムッティに辿り着いた初日。
マァマに会えるかもしれないと森の中を彷徨ったのだが、ついぞあの家にたどり着くことはできなかった。
「私達は姉弟ですからね。これくらいはさせてください」
「…ん?」
領主自らどころか、一族総出でフリーレン達の旅立ちを見送る超高待遇。
以前訪れた時から随分時間が経ったこともあり、領主を含めて使用人もほとんどが代替わりしている。
それでも一族にかかった呪いを解いた英雄として、今回もとても歓迎されていた。
いつもは先を急がすフェルンも『ドーナツバイキング』や『世界各地の物産展』、『露天風呂付き旅館』など、全て領主負担で歓迎してくれる都市に気を緩めてしまい、フリーレン達は1週間ほどここに滞在してしまっていた。
しかし、ようやく名残惜しみながらも出発することにしたのである。
「フリーレン様、私はフリーレン様の弟子で良かったです」
「俺もフリーレンと一緒に旅していて良かったぜ」
「むふぅー。なんてったって私は凄い魔法使いだからね」
少々互いの認識に齟齬がありそうだが、
フリーレン達はみんな満足して、城塞都市ムッティを後にしたのだった。
「お仕事お疲れ様。みんな疲れたでしょう?」
フリーレン達一向が見えなくなるまで見送った領主。
その後ろに1人の女性が歩み寄る。
「今日はもうお休みにしちゃいましょう。みんなのお弁当を作ったのよ。良いお天気ですし、ピクニックにしましょう。さっき日当たりの良い丘を作ったの。一面花畑の力作よ。もちろん貴方の好きな緑華草もたくさん咲いているわ。それに貴方の大好きなバジルとチーズが入ったクッキーも用意してあるわ。最近作った特製の乳牛で作ったミルクもあるわ。お着替えも持ってきたの。そのお洋服だとピクニックで汚れてしまうわよ。ほら、早くしないとピクニックが逃げちゃうわよ。ちゃんと手も洗っていらっしゃい。ダメよ、好き嫌いしちゃあ。玉ねぎもニンジンも身体にいいのよ。大丈夫、貴方が食べやすいように甘い味付けにしてみたわ。しっかり栄養を摂らないと大きくなれないわよ。立派にならなくても良い。辛いことがあったら逃げても良い。だから、少しでも長く健康でいてね。今度こそ私が最後まで守ってあげるから」
「いや、自分でできるからいいよ。いつも通り見守ってて」
「…そう…残念」
しょんぼりしている女性の手を領主が握る。
領主の娘や息子が彼女に慰めの言葉をかけ、抱きしめ合う。
沢山の子供達に囲まれた『その女性』は笑顔になった。
「フリーレン様。あのゼーリエ様に匹敵しそうな魔力のメイドさん、お知り合いだったんですか?」
「驚いた。フェルンも気付けたんだね。大丈夫だよ。彼女はただの寂しがり屋な『エルフ』だ。今はたくさん友達がいるみたいだからね」
意味深な笑みを浮かべるフリーレン。
フェルンは顔を傾げる。
「いえ、あの方に会うためにあの都市へ行ったんですよね。結局一言も話してないんですが…」
「………まあ、100年後にまた様子を見に行けば良いよ」
「100年後には、ドーナツだけじゃなくてハンバーグも食べ放題になってるかもな」
「もっとドーナツの種類が増えるのも良いですね」
フリーレンはすっかり忘れていた当初の目的を誤魔化しつつ、100年後はどんな素敵な場所になっているのか、みんなで話しながら次の町へ向かうのであった。
■ おまけ1
キャラ名:マァマ
・ 出典:エルフに呪われた一族
・ 種族:エルフ?(不明)
・ 属性:混沌・善
・ 住処:フォーゲルケーフィヒ盆地の中にある城塞都市ムッティ近郊の森に住んでいる
・ 性格:温厚で子供が大好き。世話焼きで過剰に甘やかしたがる。やたらご飯を勧めてくる。フリーレンを子供扱いする。
・ 得意魔法:不明
・ あらゆる魔法を呼吸のように使える。
・ 戦闘は得意ではない。
・ ディズニーの魔法使いのような魔法。
・ 説明:森に住んでいるエルフ?の女性。ゼーリエのことは知らないが、ミリアルデのことは知っている。クラフトにも会ったことがある。見た目からは分からないが、フリーレンよりも遥かに歳を取った大人のエルフ?。森の中から都市を見守っている土地神のような存在。追放された者や行く宛がなくなった者を森へ誘い込み、そこを経由してムッティへ送っている。心配性で関わったムッティにいるすべての人々を常に見守り陰ながら助けている。外との関わりがないはずのムッティが都市にまで拡大しているのはそのため。あるはずの無い大量の海産物や鉱石などが住民の知らない間に補充されたりする。客を招くのも大好き、沢山の手料理を作って食べさせる。相手には自分のことをマァマと呼ばせる癖がある。本名は不明。ムッティの初代村長は彼女の子供。ただ、彼女が子供と夫を亡くして絶望した時に拾った人間の子供。彼女は我が子のように大切に育てたが、甘やかされ過ぎて反抗期で家出してしまった。それから村を発展させて母を呼ぼうとしたが、見つけられず捜索を次代に託した。母はいつも素直な我が子が初めてヤンチャをしたことが嬉しくなり、彼の成長のため100年ほど様子を見ることにした。しかし、不幸なことに森を脱出する事はできても侵入することができなかった息子。結界の影響でエルフ並の寿命を生きていたが、外に出たことで人間の時間で老いていった。マァマが気付いた頃には、息子は亡くなり、曾孫の代になっていた。その時には初代村長の母がエルフである事は伝わっておらず。マァマはムッティに息子がいると思い、『身隠』で村を訪れるが息子は見つからなかった。息子にそっくりな曾孫を見つけたので声をかけようとするととても怖がられ、ショックで100年ほど引きこもってしまう。原因は魔法のバグ。マァマは息子にかけた加護の魔法で、息子には普通に見えると考えていたが、加護の魔法が曾孫にまで正しく継承されるわけもなく、不完全に不可視化が解けて見える事で黒く塗りつぶされた化け物のように見えてしまっていた。それから森に住んでいるエルフと化け物を結びつけてしまい、初代村長がエルフを探していた理由はそれを討伐しようとしていたのだと勘違いし、曾孫によるエルフ討伐の依頼が出てしまう。ただ、誰もそんな化け物を見ておらず、時が過ぎて怪談話になってしまった
・ 裏話:ムッティ周辺の魔物を定期的に駆除しているマァマだが、
■ おまけ2
フリーレンからマァマの話とその顛末を聞いた後、ヒンメルは悩んでいた。
「ヒンメル、それは間違っているぞ」
「なんだよ。唐突だな」
ニヒツが声をかけてきた。
「フリーレンを諦めようとしてるんだろ」
相変わらず鋭い直感だ。
「そんなことは…ない…。しかし、こんなに悲しい思いをするなら…とは考えたさ」
マァマとその息子の物語。
それはありふれた悲劇だ。
エルフと人間が一緒に生活したとして、先に亡くなるのは必ず人間側だ。
「それは余計なお世話だろうよ。フリーレンなら乗り越える。俺よりもお前の方がそこんとこ詳しいだろ」
「……」
ニヒツの知ったような口調に腹が立つ。
僕の方がフリーレンを良く知っているし、信頼している。
フリーレンは強い人だ。
「それに今更俺たちがフリーレンと疎遠になったところで、彼女が傷付かない訳ないだろ。中途半端は良くない。やるならとことんだ。俺たち人間は関わった時点で、彼女を悲しませることが決まってるんだ。なら満足するまで、フリーレンとたくさん思い出を作ってやろうぜ。いつものカッコつけたお前ならそう言うだろ? ナイーブになってんじゃないよ勇者様」
「はっ、それもそうだな」
相変わらずニヒツは発破をかけるのが上手い。
いつも彼のおかげで僕のイケメン度は3%くらい上がっている。
仲間がこれだけ信頼してくれているんだ。
それに応えないのは勇者じゃないな。
「僕は魔王を倒して最後の勇者になるんだ。カッコ悪い生き方は見せられないな」
「そうだぜ、勇者と言えばヒンメル。ヒンメルと言えば好きな子に思いも告げられなかったやつ。つまり、勇者とは好きな子にすら振り向いてもらえない可哀想な奴ってことになったら、南の勇者様達に顔向けできなくなるぜ」
ちょっと腹が立つが、それも僕の原動力になる。
「ハハッ、それは嫌だなぁ」
「だろ、だったら好きな子にも勇ましくぶつかってこい。フラれたらハイターと師匠も誘って酒でも飲みに行こう。
相変わらず性格が悪い。
そうなれば怒りで失恋の悲しみも吹き飛びそうだ。
「えぇぇ、それは最悪だな。そうならないようにカッコよく魔王を倒さないとな」
「ふふっ、それは楽しみだ。よりカッコよく脚色して絵本として売り出してやるぜ」
なら笑われないように飛びっきりの冒険譚を見せないとな。
ありがとう、
次回予告
葬送の
フリーレン
〜〇〇の魔法〜
あなたは月の初めに咲いて、月の終わりに枯れる花を真の意味で生涯愛せますか?
-
愛せる
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愛せる…かも
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たくさん花を愛でる
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辛すぎて無理
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花は嫌い