シュラハトくん見逃して 作:私貴方私(Y-ou@so-soなフリー)
【前編】ふたりはフリーレン
以前私が負けた6人の人間について話したよね。
そのうちの1人はね。
「ヒンメル、私はついに本気で女神様に見捨てられたようです」
「なぜ?」
絶望に立ち尽くす僧侶が指をさす。
その指は震えている。
「お酒も飲んでないのにフリーレンが2人に見えます」
「それなら俺も酔ってるようだ」
「僕もだ」
世界には、同じ顔の人間が3人いるらしい。
しかし、それはあくまで顔だけの話だ。
背格好まで同じ人物が偶然出会うなんてあり得るだろうか?
『ドッペルゲンガー』
自分と人種や体型、仕草から記憶まで同じ存在。
この世界でもそういったモノがいるとすれば、魔物か魔族の類だろう。
「
ニヒツは既に色褪せた
その記憶では、形や行動は同じでも見た目が明らかに偽物だったはずだ。
「オイサーストでダンジョンが見つかったという話は聞きませんが?」
「なに? ダンジョンだって? 今から向かおうじゃないか、オイサーストはすぐ近くだぞ」
ニヒツは急いで口を塞ぐがもう遅い。
ダンジョン
あれよあれよとダンジョン探索の約束を取り付けられてしまう。
「それでどっちが本物なんだ?」
「分からんな」
無言で見つめ合う2人のフリーレン。
ヒンメルは悩む。
本人は秘密にしているつもりだが、彼はフリーレンのことが好きだ。
別に結婚したいとか恋人になりたいという話ではない。
幼い頃に森で迷子になり、心が折れかけた時に出会った『お姉さん』。
『花畑を出す魔法』で彼を元気づけ、家まで案内してくれた優しい人。
あの時の『安心感』は今も覚えている。
あの人のような『誰かを安心させる人』になりたい。
それはヒンメルが勇者を目指すきっかけの一つだったかもしれない。
「だから、僕が見分けられないわけがない」
「いや、耳が尖ってない方が偽物だろ」
!!?
ヒンメル痛恨のミス。
「………」
「ヒンメル、俺は分かっているよ。お前はエルフが好きというわけではなく、フリーレンだから好きなんだよな。耳より足が好きだもんな、お前は…ボソボソ」
ヒンメルは
フリーレン
「そっちが最近噂になってる偽物でしょ。迷惑してんのよ。私が倒した魔物や魔族の実績も名声もみんな何故か『ユンケル』だか『ヒンケツ』だか言う勇者気取りにかすめ取られて、やってられないわよ」
…。
「フリーレン。おまえのそっくりさん、喋るとぜんぜん似てないな」
「そんなの知らないわよ。こいつ喋ってないじゃない」
「ん? いや、俺はフリーレンに話しかけているのであって、あんたに話しかけてるわけじゃねぇよ?」
「はぁ? フリーレンって呼んだでしょ。それなら
ニヒツは混乱した。
このフリーレン(偽)が喋りだすと余計に話が噛み合わなくなる。
フリーレン(偽)も含め、この場にいる全員の頭が混乱していた。
「ああ、なるほど。あなたの名前もフリーレンというのですね」
実は地頭が一番良いハイターがいち早く何かに納得する。
ヒンメルとアイゼンは『説明しろ』と視線でハイターを問い詰める。
ハイターは少し笑ってしまいそうになるのを堪え、簡潔に説明した。
「つまり、この『人間のフリーレン』は『フリーレン』なんですよ」
「だから、さっきからそう言ってるでしょ!」
「わからん。もっと簡潔に説明しろ」
要領を得ないハイターの説明にフリーレン(偽)とニヒツがヤジを飛ばす。
ハイターは咳払いをし、少し間を置いてから改めて簡潔に伝えた。
「『人間のフリーレンさん』も、『エルフのフリーレン』もどちらも
その場は余計に混乱した。
「ニヒツ、それはどういうテンションなんだ?」
同じ顔、同じ体型、同じ名前の二人が、同じ時、同じ場所で出会う。
彼女達が己のアイデンティティをかけて戦うことは、必然だったのかもしれない。
つまり、『短気な方のフリーレン』が魔法の決闘を申し込み、なぜか戦いが始まってしまったというわけである。
「そうは言ってもね。君が生まれる前から私はこの姿で、フリーレンという名前で、魔族を倒してきたからね。今更変えられないよ」
「そんな名前の人知らないわよ。1000年も魔族と戦っているエルフなんて名前が残らない方がおかしいわ」
「まあ、ここ500年くらい引きこもっていたからね。知名度はほとんどないよ」
「じゃあ、私が本物のフリーレンよ。私は『人類の魔法史1000年の重みを背負う大魔法使い』フリーレン!! 私以外の『フリーレン』はいらないわ」
「私が勝ったらあんたは名前を改名する。私が負けたらあんたの言うことをなんでも聞いてあげる」
「…私にメリットないじゃん…」
『ふたりのフリーレン』。
彼女達がこの戦いにかけるモチベーションには雲泥の差があった。
しかし、それはこの戦いにおいてなんのアドバンテージにもならない。
それでも戦いは意外に均衡していた。
『ツンデーレン(ニヒツ命名)』の恥ずかしい名乗りもあながち嘘ではないようだ。
「おかしい。明らかに人間が生涯をかけて習得できる魔法の数を超えてるぞ」
「こりゃあ、まずいな。フリーレン、負けるんじゃないのか?」
……。
「いや、信じよう。僕たちのフリーレンを」
『
『
『
『
『
『
『
『
ツンデーレンの魔法はどれも殺意が強く、観戦しているこちらも武器を構えておかないと消し炭になるほどのものだった。
「町の近くじゃなくて良かった」
「七崩賢と戦った時より、派手な戦闘になってますね…」
ツンデーレンは間違いなく、ヒンメル達が出会った魔法使いの中でも5本の指に入る実力者だった。
だが、そんなに魔力を使い続けて長く持つはずもない。
「気は済んだ?」
「まだよ。私はまだ負けてない」
既に立つのもやっとなツンデーレン。
傍目に見ても徐々に魔法の火力が落ちてきていた。
対するフリーレン。
物語のラスボスのようにゆったりと歩みよる。
ツンデーレンは確かに強い。
魔力の差がこれだけあってもフリーレンにここまで食いついてきた。
だが、彼女は未熟だった。
「そんな燃費が悪い魔法ばかりじゃ実戦では使い物にならないよ。だから、私の勝ちだ」
「終わってないもん。私が負けるわけにはいかないんだもん!」
明らかに命に関わる魔法を放つ気配を感じ、ヒンメルが割り込む。
あまりに必死な形相で戦うツンデーレンを気絶させ、彼女を優しく抱きかかえる。
「また早くなったなヒンメル。南の勇者様の足元くらいには強くなったんじゃないか?」
「ありがとうニヒツ。君が南の勇者を比較に出すなんて相当だね。このまま行けば、僕は最強で最イケメンな勇者になっちゃうだろうね」
ニヒツとハイターがすぐに手当の準備へ取り掛かる。
「フリーレン。君は大丈夫かい?」
「うーん。ちょっとしんどいかも。見た目ほど余裕ではなかったよ。彼女、すごい魔法使いだね」
フリーレンのツンデーレンに対する眼差しは優しい。
この年齢でこれだけの魔法技術がある人間だ。
相当努力してきたのだろう。
フリーレン達はハイターにその場を任せ、手分けして野営の準備を始めるのであった。
「ヒンメル様、私と結婚してください」
「なにこの子、怖い」
野営地に戻ったフリーレンが見たものは、
■ おまけ:ツンデーレンが使用した魔法
『
詳細:高火力の熱線魔法。原理は異なるが結果だけ見るとかなりゾルトラークに近い魔法。
『
詳細:指定した範囲の重力を10倍にする魔法。行動阻害魔法としては最高位の魔法。
『
詳細:指定した範囲を氷雪気候に変える魔法。副次効果で吹雪も吹き荒れる。
『
詳細:無数の雷を降らせる魔法。指定して範囲にランダムで落雷な落ちる。範囲を絞ることで命中精度が上がる。
■ 裏話
「ヒンメル、受ければいいじゃないか」
「なにを?」
「求婚だよ。お前の大好きなフリーレンにそっくりな子だろ。お前がいつも気にしていた年齢差も同じ人間だから問題ない。なによりフリーレンと違ってお前へ明確に好意がある。フリーレンはまだお前のことどうとも思ってないぞ。鈍感娘だからな」
「そういう言い方はよせ。ちゃんと自覚しているよ。わざわざ嫌われるような言い方はしなくていい」
「はぁ、それならいいけどな」
ニヒツがヒンメルの背中を軽く小突く。
「先達からの意見だ。そういう思いを温めるのは良いが、期限があることは自覚しておけよ。自覚した時には『もうその人はいませんでした』なんてのは、この時代ありふれたお話だからな。エルフだって殺されれば死ぬんだぜ」
「…分かっているさ」
ニヒツは「ほんとかねぇ」とつぶやきながらみんながいる野営地へ戻っていく。
ヒンメルはその姿を見送ったあと、ひとりで空を見上げた。
ニヒツの言葉には、明らかに経験者特有の
「先達…ね…」
ニヒツは南の勇者様と出会う前の話はしてくれない。
人の悩みは相談に乗ってくれるくせに、自分の悩みは話してくれない
ヒンメルは不満と寂しさを感じていた。
■ 次回予告
【後編】ライバル
もし、生まれた時から余命が決まっていたとしたら、あなたは知りたいですか?
-
YES
-
NO