シュラハトくん見逃して 作:私貴方私(Y-ou@so-soなフリー)
勇者と氷の姫君
「ほんとに受けてもらえた……。ありがとうございます。報酬の魔導書です。あと、これにサインを貰えないですか?」
フリーレンはいつものように依頼を受け、魔導書を報酬にもらっていた。
そこで依頼人から変わったお願いをされる。
「『勇者と氷の姫君』?」
それは本だった。
魔導書ではないただの本。
念の為魔法の反応を探ったが、なにも問題は見つからない。
フリーレンは疑問に思いつつも、本に依頼完了のサインを書く。
「フリーレン様、ありがとうございます。私、この本一生大事にします!!」
依頼人の女性は満面の笑みで本を抱きしめ、帰って行った。
「うん? ……まあいっか」
依頼人の不思議な反応を少し不思議におもったが、フリーレンは考えるのを辞めた。
今はそれよりも早く『3歩進んで2歩下がりたくなる魔法』の魔導書を読みたかったのだ。
「大きな本屋ですね。フリーレン様が散財しそう……」
フェルンは買い物帰りにたまたま大きな本屋を見つけた。
フリーレンが気づけば、魔導書探しに入り浸りそうなので、少しゲンナリする。
そこでふと、店先に積まれた本に目が留まる。
『勇者と愉快な仲間達 -ラブ&ピース-』
勇者達の冒険を、君は再び目撃する
気になり過ぎるタイトル。
吸い込まれるように、フェルンの足はその本へ向いた。
本を手に取りページを捲る。
「これは……」
何かに気付いたフェルンは、店主に代金を支払って急いで宿屋へ戻った。
部屋には誰もいない。
フリーレンはまだ依頼から帰ってきていないようだ。
フェルンは自分のベッドへ座り、再び本を開く。
そのまま食い入るように本を読み進め、日が傾き始める頃、ようやく手を止めた。
「やっぱり……」
その時、ドアを叩く音が聞こえた。
「おーい、飯にしようぜ。腹が減って背中にくっついちまいそうだぜ」
すでに夕食の時間。
宿屋の自室からなかなか出てこないフェルンたちに痺れを切らしたシュタルクが呼びに来たのだ。
「シュタルク、これ見てください」
「ん?本かぁ?それがどうかしたのかよ」
いつになく真剣な表情で本を押し付けてくるフェルン。
その様子に戸惑いつつも本を手に取るシュタルク。
「なんかこの絵。すごく見覚えがあるような……」
「ですよね」
その本には、鮮やかな挿絵が描かれていた。
それだけでも目を引くのだが、そこに書かれている人物が問題だった。
「というか、今まさに瓜二つのやつが横のベッドで魔導書に齧り付いてるわけだしな」
「あ、フリーレン様。お戻りになっていたんですね。一声かけていただければ良かったのに」
フェルンはフリーレンが帰ってきていることにようやく気付いた。
エルフは横のベッドで寝転がって魔導書を読んでいる。
「だってフェルン、その本に齧り付いて全く反応がなかったからね」
魔導書の影で顔は見えないが、はみ出した耳がぴょこぴょこ動いている。
「私も気になった魔導書を読む時、同じ状態になるからおあいこだよ」
「流石師弟だな」とシュタルクがからかう。
余計な言葉を言う彼の硬い腹筋を杖でつつき「ヤメテヨォ」、フェルンは「これは仕方ないでしょう」とあるページを指差しながら反論する。
開いたページでは、
『長く尖った耳と特徴的なツインテールの女の子が、ひざまづいた青い髪の青年から指輪を受け取る』挿絵が描かれていた。
「これってフリーレン様ですよね」
「だな」
「という事は、この青髪の方はヒンメル様?」
「おそらくそうじゃないかな。めちゃくちゃ若いし、魔王討伐前の話なんじゃないか?」
フェルンはドキドキしながら、その挿絵を見る。
挿絵だけ見ると勇者が魔法使いの女の子に告白しているシーンに見える。
フェルンはドキドキしながら次のページをめくる。
「結ばれた2人が愛のパワーで魔王を倒し、世界に平和が訪れました。2人は48人の子供達と末長く幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし……」
最後のページには密着した2人の手からビームが飛び出し、魔王が爆散する挿絵が描かれていた。
「ないな」
「ないですね」
ふたりは満場一致でこの物語を創作だと断定した。
この物語が正しいなら、自分達はこんな旅に出ていないはずなのだから。
「ですが実際のところ、どこまでが本当にあった話なのでしょうか?」
「愛のパワーで魔王を倒したってところ以外は割とそれっぽい内容だよな」
「著者はニヒツ。監修はヒンメルと書かれてますね」
フェルンたちがこの物語の全てを嘘だと断言できない理由がひとつあった。
この物語はヒロインとの恋愛部分以外、しっかり読み応えのある冒険をしており、かなり面白いのだ。
それこそ『実際に体験したことを書いているのでは』と感じるほどである。
「フリーレン様。ヒンメル様との冒険中、指輪をもらったりしませんでしたか?」
隣ではシュタルクが『えっ、聞いちゃうのそれ!?』という驚きの表情を浮かべている。
フェルンは一番気になるところを直球で確認してみることにした。
めちゃくちゃ気になったのだから仕方ない。
「うん、もらったよ。確かこのあたりにあったような」
フリーレンは魔導書を枕元に寄せ、ベッドを降りてトランクを漁り始めた。
シュタルクの口からは「マジかよぉ」と声が漏れる中、フェルンも驚きが隠せなかった。
「あった」
そう言ってフリーレンは1つの指輪を取り出した。
フェルンはそれを知っている。
先ほどの物語で解説されていたのだ。
この指輪についているのは『鏡蓮華』。
花言葉は『久遠の愛情』。
そして、左手の薬指に指輪を嵌める意味は……。
後日、フェルンは花言葉なんて知らないシュタルクから『とあるプレゼント』をもらう未来があるわけだが……。
『プレゼント』を受け取った彼女はその意味を語らず、すぐに顔を背けてしまった。
シュタルクはまた機嫌を損ねてしまったのかと慌てるが、次の日からフェルンが欠かさず身に付けている様子を見て、安堵するのであった。
√m 勇者ヒンメルの死から38年後。
■ 実績解除
* なし
■ 裏話
【勇者と氷の姫君】
ヒンメルとフリーレンのラブロマンス。その凍った心を勇者は溶かせるのだろうか…。
※ 舞台化済み
【新訳 『勇者と愉快な仲間達 -ラブ&ピース-』】
40年以上みんなから愛された超名作。リメイクされたことで少しチープ感が増して旧約ほどの人気はない。
2000年後まで残り、後に映画化やゲームも発売された。
【葬送】
近年見つかった騎士ニヒツの手帳。未公開の物語が書かれている。【詳細不明】
【人と魔族】
子供向けの絵本。
どこまで人に近づけば、魔族は人になるのだろうか?
言葉?容姿?食事?趣向?感情?すべて人に近づけた時、もはやそれは魔族といえるのだろうか?
■ 次回
絵本
魔族の肉体に人間の魂が宿るとどうなるか?
-
肉体に精神が侵され魔族になる
-
精神が勝って人間になる
-
衝突事故で全く別の生命になる
-
問題なくそのまま安定する
-
破裂する
-
興味ないね