シュラハトくん見逃して   作:私貴方私(Y-ou@so-soなフリー)

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【蛇足】アイゼンハンバーグ 開店

師匠、前を向いてくれ

過去に囚われないでくれ

残りの人生を精一杯楽しんでくれ

引退するには あんたはまだ若過ぎるよ

【弟子の遺言】

 


 

七崩賢の大半が討伐され、魔王討伐が現実味を帯びてきた頃。

 

アイゼンとニヒツが野営の準備をしていた。

ヒンメルたちは周囲の探索に出ており、この場には2人しかいない。

 

「師匠は魔王討伐後どうするんだ?」

「……考えたこともなかったな。隠居して静かに暮らすさ」

 

「冗談だろ師匠、それはもったいないぜ。『人生ってやつは衰えてからの方が案外長い』って、俺が尊敬する人は言ってたぞ」

 

「そうか」

 

アイゼンは復讐者だった。

愛する家族を、仲間を、故郷を奪った魔族を許せない。

なによりあの時逃げるしかなかった自分が許せなかった。

彼らと向き合うためにも元凶である魔王を倒す。

そのためにここまで歩んできた。

 

『嘘だ』

 

それは嘘だ。

本当に魔王を倒せるとは思っていない。

 

相手は1000年以上人類を脅かし続けている魔王だ。

倒せることをイメージできる人の方が異常だろう。

だから、これは遠回しな()()だった。

あの時逃げてしまった自分を罰したい。

本当は自分ではなくアイツら(妻と子)に生きていて欲しかった。

でも意味もなく死ねない。

それではアイツら(故郷の皆)の死が無駄だったようではないか。

だから、少しでも魔族を討伐し、魔王に挑んだという『意味のある死』を求めて彷徨った。

 

『アイゼン。僕達と一緒に魔王を倒そう』

 

そんな時に出会ったのがヒンメルたちだった。

当時はナルシスト(勇者)サケシスト(僧侶)だけのパーティーとすら呼べない自称勇者コンビだった。

それでもその強さは本物だった。

何度も断るアイゼンをその熱意と力で口説き落とした。

 

ヒンメルなら本当に魔王を倒せるかもしれない。

ひとりぼっちの臆病なドワーフ。

彼の『妄想(魔王討伐)』は『(魔王討伐)』に変わった。

そして、今は『夢』を追いかける仲間たちがいる。

 

『夢の先。そんなものは考えたこともなかった』

 

魔王を討伐するという不可能な目標。

アイゼンは生きて叶えられるとは思っていなかった。

だから、その後など想像したこともない。

 

「なんか趣味とかないの?」

「趣味か……ないな」

 

「じゃあ、ハンバーグ屋をやるなんてどうだ? アイゼン印のハンバーグを広めていこうぜ。それで天国にいる奥さんとお子さんにうんと美味いハンバーグを振る舞うんだよ!」

「……ああ、それもいいかもしれんな」

 

弟子のニヒツは不思議なやつだ。

強くはない。

しかし、アイゼンが本気を出しても数日は粘れるだろう。

優秀な勇者パーティーの盾だ。

そして、この盾はアイゼンたちの心も守ろうとしている。

 

「ok!! 言質とったぜ師匠。ツンデーレンのやつも巻き込んで新しいレシピ考えよう。そのためにもサクッと魔王倒さないとな」

「それじゃあ、お前の修行ももっとキツくしないとな。お前の一撃は軽過ぎる」

 

「ははっ、ほどほどにお願いします……」

「無理な相談だな」

 

アイゼンは顔を上げて()()()()()

 

「取り敢えず、腹を空かせて帰ってきたヒンメルたちに腹一杯食わせてやらないとな」

 

 


 

■ アイゼンハンバーグ

 

「まさか本当に店を持つことになるとはな」

 

魔王の死から1年後。

『アイゼンハンバーグ』王都店 開店。

 

仲間たちの協力もあり、ついに王都で店を出すことに成功した。

ここに来るまでたくさんの困難があった。

店の経営というのは、料理が美味いだけでは成り立たない。

その辺がからっきしな勇者パーティは、なぜか経営に詳しい『ツンデーレン』 が知識面でサポートし、共に冒険をした『とある少女』が店の手伝いをしてくれた。

困難も多かったがなんとか本日、開店までこぎつけた。

 

「マスター、もうすぐ開店ですよ。まだ仕込み終わってないので手伝ってください」

「わかった。すぐに向かう」

 

アイゼンは気合を入れる。

 

「ここからは『料理人(戦士)』の戦場だ」

 

 


 

■ 師弟

 

「お疲れ様、今日の昼時も大変だったな」

「ですね。『三代目』の包丁さばきがなかったら、料理の提供全然間に合わないですよ。厨房、人増やした方がいいんじゃないですか?」

 

アイゼンハンバーグが王都で開店し、70年が経った。

アイゼンもマスターの座を弟子に譲り、現在は『三代目』マスターが店を仕切っている。

 

「今度、兄妹店のスイーツ『春風車(ハルフウシャ)』とオイサーストの『パン屋デレデーレン』と連携して、新商品を出す話が出ている。何かいい案を考えておいてくれ」

「良いですね。あそこのメルクーアプリンめっちゃ美味いんすよね。でも三代目、なんでその2店舗とうちが兄妹店なんすか?まったくジャンル違いますよね」

 

「なんでもアイゼン師匠の古い友人の店らしい」

「おおぉ、やっぱり初代マスターは凄い人っすね。あ、もうこんな時間だ。お先に失礼します」

「おう、気を付けてな」

 

誰もいなくなった店の最後の片付けをする三代目。

全てを終え、店の鍵を閉めて帰路に着く。

 

「あ、兄貴やっと出てきたぜ。義姉ちゃんが絶対残業させずに帰ってこさせてくれってさ」

「シュタルク、ありがとな。今日は結婚記念日だからだろうな。いいか、シュタルク。好きな人ができたら絶対に記念日を忘れちゃダメだぞ。俺みたいに最初の結婚記念日を忘れると一生恨まれるからな」

 

「ははっ、わかったよ。まあ、親父はこういうこと教えてくれなかったもんなぁ」

「ハッ、親父は口下手だからな。俺の失敗から学んでくれ。お前に教えてやれることは、もうこのくらいしかないからな。だから、早くお前も良い人見つけろよ」

 

シュトルツはシュタルクの背中を軽く叩き、帰路に着く。

ふたりは楽しそうに今日の出来事を話し合った。

 

 


 

■ 入れ違い

 

「アイゼン。うちのパーティー前衛が足りないんだよね。弟子たくさんいるんでしょ?誰か良い人紹介してよ」

「うちは仕事の斡旋所じゃないぞ。皆ハンバーグ焼くのに忙しいから無理だな」

「……」

 

旅の途中、アイゼンの家に遊びに来たフリーレンたち。

現在彼女は『とある目的』のため、戦士を欲していた。

 

「戦士と言えばアイゼンだからね」

「まあ、ひとり手が空いていた奴はいたがな」

「……」

 

「フェルン。さっきから何を探してるの?アイゼンの家を探索してもハンバーグと戦士しか出てこないよ」

「葡萄も出てくるぞ」

 

「あの、すみません。シュタルク……様はどちらに……」

「シュタルクならもういないぞ」

 

「えっ」

 

驚きのあまり、手からこぼれる杖を慌てて掴むフェルン。

フリーレンは小さな頃から見ていた彼女の初めて見る表情に驚いた。

 

「アイツは旅に出たからな。俺もアイツをフリーレンに紹介しようとしていたんだが、()()()()()()()()とか言って断られた」

「……そうですか」

 

言葉の意味を理解したフェルン。

彼女の頬は少し緩んだ。

 

 

『いつか師匠みたいな『凄い戦士』になる。そん時は一緒に旅をしようぜ』

 

 


 

■ 裏話

シュトルツ

アイゼンハンバーグの弟子。

現在はケガが元で戦士を引退している。

ハンバーグ屋で修行中、先輩店員と結婚。

現在は二児の父である。

アイゼンハンバーグ王都本店の三代目マスター。

ちなみに初代はアイゼンで、二代目マスターは現奥さん。

 

シュタルク父

アイゼンハンバーグ クレ地方支店マスター。

戦士の村復興のため邁進中。

強い戦士(シュトルツ)』の才を見抜く目はあったが、『負けない戦士(シュタルク)』の才を見抜く目はなかった。

シュタルクの成長に内心喜んでいる。

 

フリーレン

今回は何も知らないフリーレン。

 

 


 

■ おまけ

 

「フリーレン。ちょっと新しい『物語』を作ったから見てくれないか?」

 

「良いけど、どんな話なの? 私としては魔導書を探す冒険話が良いんだけど」

 

「まあ、()()()()作品ではあるな。ちなみに先に読んだヒンメルは向こうでぶっ倒れてる」

「なんで?」

 

「まあ、読んでみれば分かるさ」

 

 

 

 

『第26話 ふたりはフリーレン』に出てくるフリーレンのそっくりさん。実家が商家である。また、パン屋を夫と開くために知識を集めていた。

『第9話 6人目の仲間』に出てきた呪われた少女。アイゼンの店できたツテで『春風車(ハルフウシャ)』というメルクーアプリン専門店を作り、王都で流行らせた。

あなたが知っている人類ってなんですか?

  • 人を食わない
  • 悪意や正義の概念が分かる
  • ツノが生えていない
  • 人に危害を加えない
  • 死んでも塵にならない
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