シュラハトくん見逃して   作:私貴方私(Y-ou@so-soなフリー)

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【表】常翔の賢姫 ソリテール

『常翔の賢姫 ソリテール』

「1年足らずでこの地方の英傑を殺し尽くした

魔族の異常個体だよ」

【最も有名な魔族とは】

 


 

 

「ニヒツ。今度は何書いてるの?」

 

勇者一行の旅立ちから5年後。

夕食を終え、みんなが寝静まった夜。

 

小腹が空いて目が覚めてしまったフリー レンは、ニヒツが蓄えている保存食を拝借しようとゆっくり起き上がった。

 

そして、焚き火がまだ付いていることに気づく。

 

「うーん。原作にもこんなヤバいやついたのか?こっちは昔倒したな。うーん…中途半端に知ってるせいで、うっかりやばい情報書きそう……」

 

そこには、焚き火の光を頼りに何か書いているニヒツがいた。

いつも私たちを守ってくれる大盾をテーブル代わりに何か書いているようだ。

 

「ああ、起こしちまったか、すまん。お前は朝弱いんだから夜更かししちゃダメだ。ハイターがまたブチ切れるぞ」

 

「それはないよ。今日のハイターは寝る前にこっそりお酒を呑んでいた。だから明日は起きてこないね」

 

「まじかあのクソ生臭坊主。こないだ全部取り上げたと思ったのに! 昨日立ち寄った村で買い足したのかぁ?」

 

ニヒツが頭を抱える。

彼の筆跡を見る限り、魔法に関する何かのようだ。

 

「そんなことより何書いてるの? 魔導書なら読ませてよ」

 

「魔導書じゃねぇよ。この魔導書ジャンキーめ。ざっくり言うと魔族図鑑かな? 出版社から持ち込み絵本出版の交換条件で『魔族史』の共同著作の依頼が来てな。『大魔族全集』の章を書いてる」

 

「へぇー。それも面白そうだね。魔族の情報が広まれば被害も減るだろうね。どこまでできたの?」

 

「書けてるのはまだ数体分だけだな。他の有名な文献からの引用と俺が昔関わった奴らで50ぐらい書こうかと思ってる」

 

「ふーん。少ないね」

 

「寝付けないなら手伝ってくれよ。()()()()()()なんだから、たくさん魔族知ってるだろ。とくに記憶に残った魔族とかいねぇか?」

 

「……ニヒツ。一度目だ。今回は見逃すけど次はないよ」

「え、何そのカウント?怖い」

 

怯えるニヒツを捨て置き、フリーレンは続ける。

 

「でもそうだね。一番記憶に残っている魔族は『ソリテール』だね」

「はぁ?」

 

鎧の軋む音が聞こえる。

『ソリテール』という名前が気になるのだろうか?

フリーレンは普段見ないニヒツの食いつきっぷりを少し疑問に思う。

 

「『常翔の賢姫 ソリテール』だよ。私たちがニヒツに出会う前に()()()()大魔族だ。中央諸国の半数以上の魔法使いがアイツに殺された。私が今まで戦ってきた中でも『黄金郷のマハト』に次ぐ強さの魔族だったよ」

「なんだその大層な二つ名は? 自称臆病なあの魔族が?ん? ちょっと待て、もう討伐済みなのか?」

「そうだね」

「……詳しく聞かせてくれないか?」

 

妙にその魔族に食いつくニヒツ。

フリーレンは違和感を感じながらもゆっくりと語り出した。

 

 

 

 

『常翔の賢姫ソリテール』

 

南の勇者が七崩賢と相打ちになった後、台頭してきた大魔族。

小柄な女性型魔族で、常に空中に浮かんでおり、周囲に展開した武器を舞うように振るう戦い方をしていた。

 

しかし、その異常性は魔法との向き合い方にある。

ソリテールは『1000の魔法を操る賢者』である。

戦うごとに異なる魔法を使い、対策を練った大国の討伐隊をいくつも返り討ちにしてきた。

 

本来、魔族は生涯自身の半身たる魔法を研鑽し続けるものであり、他の魔法を覚えることはあっても積極的に使うことはない。

それだけ自分の魔法にこだわりがある証拠だ。

また、こだわりがないとしても、実践で複数種類の魔法を使いこなすことは不可能に近い。

 

熟達した魔法使いでも、普段から使い慣れていない魔法を1秒を争う戦場で咄嗟の判断で使える人は少ない。

 

ましてや1000種類以上の魔法を習得しているフリーレンですら、戦闘で使う魔法は多くても5種類くらいだ。

戦場では判断速度がものを言う。

いちいち1000種類の魔法の中から1つ1つ精査して使うなんて非効率にも程がある。

 

しかし、『賢姫ソリテール』は違う。

まるで未来が見えているかのように戦う。

そして、彼女の使う特殊な魔法がその不可能を可能にしていた。

 

ゾルトラークを殺す魔法《ゾルディーア》』

 

魔力を圧縮して純粋な魔力塊を作る基本的な魔法技術だ。

しかし、その魔力塊を自由に操り、好きなタイミングで、予め決めておいた魔法に変換できるとしたら?

 

何百個もの魔力塊を縦横無尽に操作し、1000種類の魔法のどれかが視界の外で発動するとしたら?

 

まるで1000年もの間、無数の魔法を掛け合わせ、その共通点を見つけたかのような都合の良過ぎる魔法技術。

 

これはどんなに優秀な魔法使いでも対処しきれない。

その結果、この地方の魔法使いの6割がこの魔法に敗北した。

 

そして、人類はその魔法技術を死に物狂いで研究し始めた。

フリーレンもその1人である。

 

 

 

 

「基本は『圧縮』『操作』『刻印』『解放』の4工程。『圧縮』と『解放』だけでも魔力の大きな魔法使いが使えばヘタな攻撃魔法より効率がいい。とても綺麗な術式だ」

 

「それで弱点は見つけられそうかい、フリーレン」

 

勇者ヒンメルの旅立ちから1年。

ヒンメルたちは中央諸国王都防衛前線基地対策司令部にいた。

 

ここを落とされれば、王都までまともな拠点は残っていない。

つまり、負けられないと言うことである。

 

すでに過半数の魔法使いを失い、国力は地に落ちている。

生き残った魔法使いは全てこの拠点と王都に集結している。

 

他の地方との連絡は()()()

賢姫ソリテールが落とした城塞都市や村はなぜか()()()()()()()

 

ここまで集めた情報をまとめると、賢姫ソリテールは『魔法使い』や『冒険者』のみ襲撃しているようで、魔族の襲撃にしては民間人への被害が異常に少ないことが分かった。

わざわざ自分の情報を残すように立ち回っている。

また、名乗った後に見逃すという意味不明な行動も頻繁に起こっているらしい。

未確認情報だが、リンゴを献上すると見逃されることもあったようだ。

 

だからと言って安心できるものではない。

『魔法使い』や『冒険者』が減ると言うことは、国力の低下に繋がり、魔物や魔族に抵抗できなくなるということでもある。

どちらにしても絶望的な未来しかない。

 

「ヒンメル。勝算は限りなく ゼロに近い(不可能) よ。それでも戦うの?」

 

「それでも ゼロじゃない(可能) んだろ? 僕たちは勇者だからね。ここで逃げるわけには行かないさ」

 

「森を出てすぐにこんなことになるなんてね。600年ぶりの実践が飛んだ荒療治になりそうだ」

 

 

 

 

『賢姫ソリテール』は強かった。

フリーレンにとってトラウマとなっている『黄金郷のマハト』に匹敵する脅威だった。

 

しかし、『ヒンメル』『ハイター』『アイゼン』といった仲間たち。

自分たちの故郷を命懸けで守ろうとする兵士や冒険者たち。

多くの人が力を合わせ、何とか消耗させることに成功していた。

 

『賢姫』が『ゾルトラークを殺す魔法《ゾルディーア》』を放つ動作に入る。

ヒンメルがその初動を潰すために神速の一撃を放つ。

しかし、それはブラフだった。

 

「それはもう見たわ」

 

魔族から放たれた同じ神速の剣撃が勇者の剣を受け止める。

 

「でも、僕だけにかまけて良いのかい?僕らは1人で戦ってるわけじゃない」

 

注意を引こうとする勇者の言葉を聞き流し、『賢姫』は反対の手に生成した斧で、死角から迫った『人類最強の戦士』の一撃をいなす。

 

「あなた達とても強いのね。とっても勉強になるわ。でもね。私はもっと強い『戦士』達と戦って生き残ってきたの」

 

 


模倣する魔法(エアファーゼン)


 

 

ヒンメルとアイゼンが同時に仕掛けるが、『賢姫ソリテール』の左腕と右腕がそれぞれ鏡合わせのように彼らを迎撃する。

 

「何だこの魔法は!? 俺たちの動きを真似ているのか?ここに来てまた新しい魔法か」

「動きを真似る魔法のようだね。だけど、これなら皆で仕掛ければ対処できそうだ。アイゼン、このまま同時に仕掛けるぞ」

 

すでに防衛拠点の設備は壊され、ヒンメルたち以外に動ける状態の者はいない。

 

1人 対 多数。

加えて相手は戦い続けて消耗している。

ヒンメルたちが圧倒的有利な状況だが、楽観視などできるわけがない。

 

この惨状を起こしたのは『魔王軍』ではなく、目の前の『1匹の魔族』なのだから。

 

「ふふ、こういう場面も今まで沢山経験してきたわ。あなた達は私が人ではないことを忘れているようね」

 

人類は魔族のことを何も知らない。

もちろんある程度の情報は戦うことで蓄積されてきた。

しかし、彼らの死体は手に入らない。

彼らは死した時、魔力の塵となり四散する。

つまり、解剖してその構造を知ることができない。

故に魔族の肉体がどのようになっていて、どういうことができるかは未だ人類の預かり知らぬ知識である。

その場合、人は近いものでその知識を代替する。

つまり、見た目が近い人間と同じ構造だと決めつけてしまう。

 

それは大きな誤りだ。

彼らは『魔族』。

『人類』と同じ生命体ではなく、起源を同じくする者でもない。

つまり、人類では不可能な動きが可能なのである。

 

 


模倣する魔法(エアファーゼン)


 

 

『賢姫ソリテール』の目が左右それぞれ敵の動きを追う。

そして、空に浮かぶ魔法剣の動きが変わった。

今までのただ『賢姫』に追従する動きではない。

誰かが剣を握っているような人間味のある動き。

そして、その剣捌きはとても馴染み深いものだった。

 

「この剣、僕の剣を真似ているのか!?」

「どうりで軍が1匹の魔族に壊滅するわけだ」

 

『賢姫ソリテール』の周りには10種の魔法武器が浮かんでいる。

つまり、10人のヒンメル複製体を相手にしないといけないわけだ。

 

 

 

 

魔法で作られた神速の剣がヒンメルとアイゼンを襲う。

しかし、模倣できているのはその動きだけだ。

つまり、

 

「ヒンメル。お前の複製体、一振りごとに腰が入ってないな。鍛え直した方がいいんじゃないか?」

「アイゼン、それは僕のせいじゃないよ。動きだけ真似ても使い手が非力だと意味がないということさ。まあ、自分の影に打ち勝つなんて勇者らしくていいじゃないか」

 

あっさり、10本の魔法剣を砕くヒンメルとアイゼン。

そのまま無防備に魔法発動の準備をしている『賢姫』を斬りつける。

 

「あなた本当に人間?まさかここまで強い英傑が2人もいるなんて驚いたわ」

「へぇ、君には2人に見えるんだね」

 

「なにを……まさか!?」

 

『賢姫』は今まで感じなかった魔力を感知した。

それは彼女のすぐ()()からだ。

 

!?

 

 


破滅の雷を放つ魔法(ジュドラジルム)


 

 

フリーレンの雷魔法が『賢姫』の背中に炸裂する。

回避はできない。

 

「『隠密魔法』。上手くいきましたね。フリーレンにはまだ、パーティーでの連携戦闘はできませんから」

 

フリーレンの背後からハイターが現れる。

 

「勇者の戦い方って感じがしないんだけど。僧侶的にもこれはアリなの?」

「まあ、私たちはまだそこまで強くないですからね。女神様も大目に見てくれますよ」

 

不意打ちによる致命傷。

フリーレンとハイターの参戦。

勝敗は決した。

 

ヒンメルが倒れ込む『賢姫』へ剣を向ける。

 

「終わりだソリテール。お前は戦いにこだわり過ぎた。無理に戦わず撤退していれば僕たちに勝ち目はなかった。だから、お前を倒すのは僕たちだけの力じゃない。今までお前に挑んできたみんなの力だ」

 

『賢姫』は既に身体の大半が魔力の塵と化している。

魔力の流出はもう止まらない。

それでも彼女は『魔法』を行使した。

 

 


魔力を集める魔法(ブレーシエラ)


 

 

予兆は何もなかった。

ずっとその動きを見ていたヒンメルすらその魔法を止められなかった。

 

突如膨大な魔力が『賢姫』を包む。

『賢姫』の崩壊が少し緩やかになる。

ヒンメルが素早く剣を振るうが堅牢な防御魔法に弾かれる。

 

「そう。また夢が覚めるのね。次はどんなことをしようかしら。勇者と戦士の行動パターンは覚えたわ。でも魔法使いと僧侶の行動パターンは見ていないわね。だからそうね。あなた達の全部を見せてちょうだい」

 

『賢姫 ソリテール』の魔力が荒れ狂う。

しかし、崩れた身体を治したわけではない。

これは死に瀕した魔族の最後の抵抗だった。

 

 

 

 

「あの魔法は戦場で使われた魔法の痕跡から魔力の残滓を集める魔法だったみたい。発動すると魔法使い側が耐えられずに破裂するような代物だったよ。だから、あの後ソリテールが耐えられなくなる最後の時まで戦いに付き合わされたんだよね」

 

「なんだそのバトル漫画の戦闘狂みたいな魔族は……」

 

フリーレンの話を聞き終えたニヒツはやはり違和感を覚えていた。

 

知らない魔法。

自己主張の強い振る舞い。

まるで次があるかのような言動。

真反対ともいえる好戦的な性格。

魔法使い以外への関心のなさ。

 

原作とあまりに異なるソリテールの振る舞いにニヒツはたくさんの疑問を浮かべた。

何か見逃している気がする。

しかし、決定的なものは見当たらない。

そして、とある突拍子もない仮説が浮かんだ。

 

「フリーレン。『()()()()』という名前に聞き覚えはないか?」

「ん?ないかな」

「……そうか……俺の勘違いか?」

 

その後もフリーレンの魔族語りは続く。

1000年続く彼女と魔族の物語は一晩中続いた。

ニヒツはそれを黙って聞き続ける。

お互い魔族によって多くを失ってきた身だ。

話のネタに困ることはない。

この語らいはその後も1週間毎晩続き、不審に思ったヒンメルがニヒツを問い詰め、なぜか決闘騒ぎを起こして幕を閉じた。

 

なお完成した『大魔族全集』の章は掲載魔族数が1000種類にも及び、図鑑として単独出版されることになるのであった。




■ 次回
【裏】不敗と常勝
あなたが持つ違和感の正体が明らかになる。
※ 7/24 (水) 公開予定

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