シュラハトくん見逃して   作:私貴方私(Y-ou@so-soなフリー)

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葬送

 

勇者ヒンメルの死から1日後。

 

葬儀は簡素なものだった。

他所から見れば、辺境の村でよくある形だけの葬儀に見えたことだろう。

現在各地で祝われている平和を築いた勇者の葬式とは、誰も思わない。

 

実際、手伝いをしている村の住人にも誰の葬式か伝えていないのだから当然である。

 

遺体はない。

これには訳があった。

 

当初、勇者の遺体を王都まで運ぶ予定だった。

しかし、そこに魔王軍残党の急襲があったのだ。

当然、フリーレン達によって脅威は取り除かれた。

ただ、このまま同じことが繰り返されるようでは、勇者の遺体を守りながら旅をすることはとてもできなかった。

 

遺体を魔族に奪われるわけにはいかない。

しかし、下手に墓地など作ればそこが魔族に襲われる危険すらある。

 

フリーレンはヒンメルの遺体がどこに行ったか知らない。

お別れの後、ハイターが誰にも知らせず隠したのだ。

 


 

ハイターがこっそりヒンメルを蘇生し、今から襲撃者に奇襲を仕掛けようとしている。

 


 

なんて都合の良い妄想は存在しない。

女神の魔法では人間の蘇生はできない。

 

1000年間集めた魔法の中にも『蘇生』に関するものはなかった。

 

空が淀んでいる。

 

形だけの葬儀は静かに終わった。

フリーレンは泣かなかった。

 

 

 

空を雲が覆っている。

じきに雨が降るだろう。

 

大きな石ころがある。

 

これがヒンメルらしい。

ハイターから聞いた。

 

そこへフリーレンが用意した花が添えられる。

これはヒンメルの故郷に咲く蒼月草()()()()

 

それがどんな花か知らないのだから。

 

フリーレンは知らない。

フリーレンはヒンメルのことを知らない。

知ろうとしなかったのだから。

 

蒼月草を知らない。好物を知らない。故郷の景色を知らない。孤児院の場所を知らない。好きな色を知らない。いつも何を見ていたのか知らない。何について悩んでいたのか知らない。

そして、誰に殺されたのかも知らない。

 

フリーレンは知らない。

 

「こんな時に、ニヒツはどこへ行ったの?」

「え?」「ん?あいつなら…」

 

フリーレンの言葉に驚いたハイターとアイゼン。

アイゼンが何か言い出すところへ被せる形で、フリーレンが玄関を開ける。

 

「しょうがないなぁ。私が探しに行ってくるよ」

「おい、待て」「ちょっとフリーレン?」

 

2人が止める間もなく、フリーレンは飛び出した。

目的地はすでに捉えている。

10年も共にいたのだ。

すでに彼の魔力は寝ていても気付ける。

 

 

「ニヒツ」

 

 

その声に込められた感情をフリーレンはまだ知らない。

 

 

 

 

「アイゼン?」

「なんだ?」

 

部屋にポツンと残された僧侶と戦士。

魔法使いはあっという間に出ていってしまったのだ。

彼らが止める間もなく。

 

「今回の作戦について、アイゼンからフリーレンに伝えてくれたんですよね?」

「いや、俺はてっきりハイターが伝えたもんだとばかり…」

 

お互いに顔を見合わせるハイターとアイゼン。

そこには致命的なミスをし、動揺を隠せていない戦友の顔があった。

 

「…」

 

互いに相手を責める視線を少し向けた後、同時に責任を取るべき最適な人物を思い浮かべるのだった。

 

「これって私たちの責任でしょうか?」

「……いや、こんな無茶な作戦を立てたあいつの自業自得だろ。たぶんな」

 

被害者も責任者も同一人物であれば、ミスはミスでなくなる。

アイゼンもハイターもハッピーである。

 

「あの様子だとニヒツは……」

「まあ、蝶番でも残ってれば埋葬してやるとしよう」

 

フリーレンの静かな怒りを感じた2人は、ここにいない騎士の無惨な姿が思い浮かんだ。

 

「それよりもです。私たちは任された仕事をさっさと終えてしまいましょう」

 

「それもそうだ。そっちは任せたぞハイター。俺の方はニヒツが作り置きしてくれた物を食えるように準備しておく。フリーレンはお腹を空かせて帰ってくるだろうからな」

 

 

 

 

夜の草原に1つの影がある。

それは地を這い、月光を忍ぶ様に進んでいる。

 

木を隠すなら森の中、魔力を隠すなら魔力が豊富な土地の中。

至って単純なことである。

それ故に見つけることなど普通できない。

 

しかし、追跡者は普通ではない。

彼女の探知は木々を抜け、枝を抜け、葉を抜け、隠密の布を抜け、その先にある見知った金属の魔力を射抜く。

 

その地の生態系は一変した。

 

一瞬の出来事だった。

夜は穿け、三日分の朝が降り注いだ。

千里先の針に糸を通す繊細な魔力操作とは裏腹に、その『魔法?』は暴力的に夜の全てを暴き出した。

 

「おいおい、随分余裕がねぇな……フリーレン」

 

()()()()()したこの土地に、場違いなほど黒い外套を被った大男が1人呟く。

 

「ひゅー、おっかねぇな。ハイターのバカ野郎やっぱり伝え忘れてやがる。いや、この場合は…」

 

 

そして、その元凶は舞い降りる。

雨に濡れ、髪は解けており、表情は冷たい。

まだ人類が手にしていないはずの『飛行魔法』を強引に制御している影響か、風と魔力があたりに吹き荒れている。

 

それはまるで死神の様な姿だった。

 

 

「でもよぉ。そんな体調で俺と戦えんのか? ひでぇ顔だぜ。奥の手まで初手で使い切るなんてバカだぞフリーレン。ここまでなりふり構わず全力で追ってきたんだな。それにお前、晩飯も食ってないな。食事を怠るなんて、年の功はどうした?」

「……」

 

何もない地に、沈黙だけが続く。

風もないことを考えると、逃走阻止の結界まで張られているらしい。

この短時間でそこまでやる。

これこそが魔王を倒した魔法使いの本気なのだろう。

 

「ねぇ、ニヒツ」

 

「なんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでヒンメルを殺したの?」




次回、ニヒツ死す

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