シュラハトくん見逃して   作:私貴方私(Y-ou@so-soなフリー)

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【前回までのあらすじ】
ニヒツは裏切っていなかった。
ヒンメルは元気にプリン焼いてる。
フリーレンはニヒツをボコってスッキリ。

一方、勇者暗殺を企てた王国では…


勇者の花嫁

「ご報告いたします。勇者ヒンメルが七崩賢を討伐したようです」

「そうか。報告ご苦労、下がってよい」

 

それは久方ぶりに聞く嬉しい知らせであった。

"七崩賢の討伐"

『南の勇者』が戦死して以来の快挙。

人類はまだ終わっていないと魔族共に知らしめる大きな前進だ。

今の人類はかつて南の勇者が率いていた頃に勝るとも劣らない勢いがある。

 

王様は勇者ヒンメルの顔を思い浮かべる。

……。

 

「宰相。勇者ヒンメルとは誰のことだ?」

「陛下が『勇者の称号』を与え、送り出した青年でございます」

 

伝令の言葉を共に聞いていた宰相へ問いを投げる。

しかし、帰ってきた答えは満足のいくものではなかったらしい。

王様の表情からそれが読み取れる。

 

「そんなことは分かっている。その内の ()()() と聞いている」

 

記録があるだけでも500年前から、王国は『勇者』という称号を将来有望な冒険者へ与え続けてきた。

しかし、その500年間で一度も本物の勇者は現れていない。

あいもからわず、魔王は健在である。

 

『南の勇者』と呼ばれた他国の冒険者も、所詮は魔王を倒せなかった『 ()()()()()() 』であった。

人類存続という建前のため、勇者を支援する制度が王国にもあるが、所詮体裁を整えただけのものに過ぎない。

勇者の称号を与え、いくばくかの金を握らせて魔王討伐という死出の旅に送り出す。

道半ばで倒れて死ぬだけの存在に、金をかけるなど馬鹿馬鹿しい。

王国も金が無限にあるわけではない。

各国と取り決めたルールの人数分だけ勇者を輩出すれば、それをいくら支援するかは各国の裁量次第だ。

それでも『勇者』という称号を求め、国王への謁見を願う冒険者は後をたたない。

それだけ国家公認という建前が欲しいのだろう。

 

そんな掃いて捨てるほどやってくる冒険者の顔など、覚えきれるはずがない。

"勇者を名乗るなら魔王を倒してからにして欲しい"

国王として、勇者を名乗る権利を与える者として、『勇者の紛い物』達にはウンザリだった。

 

「勇者ヒンメルはですね。陛下が『旅立ちの日』に処刑しようとした青年ですよ」

 

「ああ、あの無礼な青髪か……。なるほど、危うく貴重な人材を失うところであったな。どうせ死ぬなら、もう一人くらい七崩賢を倒した後に死んでくれると良いんだがな」

 

 

 

 

「ご報告いたします。勇者ヒンメル様が再び七崩賢を討伐したようです」

「おお!そうかそうか。報告ご苦労。それで、ヒンメルはどうなった。相打ちか?生きているなら騎士団の顧問として雇っても良いぞ」

「いえ、勇者パーティは全員ご無事なようです。後遺症になりそうな怪我もないとのことです」

「まことか?それが誠なら真の意味で南の勇者に次ぐ快挙だな」

 

人類史において、七崩賢を討った人間はごく僅かながら過去にも存在している。

また近い事例として、王国でも過去に大魔族や将軍を討伐した功績で王族へ迎え入れられた者の記録が存在している。

しかし、そのどれもが相打ちに近い形で勝利しており、七崩賢を二人も討伐した者は存在していない。

そのことからも『南の勇者』がどれだけ異常だったかが伺い知れる。

 

「これは娘を嫁に出す準備をしなくてはならないな」

 

王様は部下に勇者凱旋の準備を進めるように指令を出した。

七崩賢を2人も倒した英雄である。

仲間も含め、王国内で生涯何不自由なく暮らせる金品を褒美として授ける気でいた。

王様の思考は至って普通である。

勇者と言えど、元は冒険者。

金儲けの手段として、戦うことを選んだ存在である。

当然、大戦果を出した時点で故郷へ帰還すると誰でも考える。

500年以上も王国を脅威に晒し続けている魔王を本当に倒せるとは、誰も思っていない。

 

でも、そうはならなかった。

 

()()()()()()()()()()()なのだから。

 

 

 

 

「ご報告いたします。勇者ヒンメル様が皇獄竜を討伐されたようです」

「なに!」

「ご報告いたします。勇者ヒンメル様が七崩賢ゲシヒテを討伐されたようです」

「なに!?」

「ご報告いたします。勇者ヒンメル様が大魔族 常翔の賢姫を討伐されたようです」

「なに!??」

「ご報告いたします。勇者ヒンメル様が将軍 ゲネラールを討伐されたようです」

「なに!???」

「ご報告いたします。勇者ヒンメル様が大迷宮 千鏡の塔を攻略されたようです」

「なに!?」

 

 

勇者ヒンメルが成した功績。

七崩賢3名討伐。

大魔族5名討伐。

将軍12名討伐。

迷宮21個踏破。

二つ名付き魔物43匹討伐。

魔族討伐数不明。

王国が把握しているだけでも、これだけの数である。

 

その功績に応えるには、王国が5つあっても足りないことだろう。

 

「陛下どうされるおつもりですか?処刑しようとした挙句、報酬も出さないとあっては王国の威信に関わりますよ」

 

「分かっておるわ」

 

王国は優れた冒険者を見出すため、迷宮攻略や強力な魔族の首に賞金をかけている。

それらを討伐し、王国へ帰還した後、英雄として国を上げて手厚く囲うことで国力増加に繋げているのである。

しかし、これは10数年で1つでも達成されれば良い難易度のミッションである。

つまり、10年程度で全ての目標を達成し、同時期に賞金を請求される事は想定にない。

これはある意味借金である。

国を売り払ってなお、払いきれない借金。

 

 

「陛下。実は賞金を払わなくても良くなる唯一の方法がございます」

 

 

 

 

「ご報告…いたします。うう、勇者ヒンメルさまぁが、ヒンメルさまが!」

 

伝令が執務室のドアを破って部屋へ転がり込む。

ドアの外では衛兵が倒れているのが見える。

 

「今度はなんだ。また迷宮攻略か?残りの七崩賢を討ち取ったのか?もう大魔族やら将軍程度の討伐報告などせんで良いぞ」

 

「ご報告…いたします。うう、勇者ヒンメルさまが、()()を討伐されました!!」

 

「そうか。報告ご苦労、下がってよい」

 

歓喜のあまり、泣きながら報告してくる伝令を執務室の外へ追いやり、王様はため息をついた。

 

「あの伝令。『高速移動魔法』の使い手としては優秀な男だが、近頃仕事が雑で叶わんな。配置転換させるか。今更ヒンメルが ()()() を倒したからなんだというのだ」

 

王様は乱れてしまった仕事のペースを取り戻すため、執事に茶の支度を命じた。

紅茶のすっきりとした香りと温かさが内臓に染み渡る。

 

「陛下、本日はおめでとうございます」

「なんのことだ?」

 

王様はいつの間にかやってきた宰相の問いかけに適当な返事を返す。

 

「いえ、勇者ヒンメルが魔王を討伐したとお聞きしましたので」

「宰相。お前は働き過ぎだ。魔王を倒せるはずがないだろう。魔王がヒンメルに倒されれば、ワシの王座を10や20ヤツに開け渡しても褒美にならん。そういう心臓に悪い冗談はやめてくれ」

 

王様はせっかくの良い気分を害され、苦い表情になる。

この宰相はとても優秀だが、掴みどころがなく嘘が下手な人物である。

彼が初めて吐くジョークはとても聞けたものではなかった。

王様の口から長いため息が出る。

 

そんな王様の態度に宰相は肩をすくめ、テーブルに置かれた紅茶へ手をつけた。

 

 

バタンッ

 

 

執務室のドアが再び勢いよく開け放たれる。

 

「お父様! ヒンメル様がついに魔王を倒されたのですね。彼の方はいつ頃王都にお戻りになられるのですか」

 

愛娘の言葉に答えようと席を立ち上がった途端、王様の中で情報が追いついた。

 

 

 

『魔王が倒された』

 

 

 

 

王様の脳は自ら眼を閉じた。

 

 

 

「きゃああ、お父様。誰か!僧侶様を呼んでください。お父様が急に床で」

 

 




■ 次回 欺く者たち
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