シュラハトくん見逃して   作:私貴方私(Y-ou@so-soなフリー)

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勇者殺しの酒

「それでも君達と旅をしたい。

だからできる努力は全て試す」

【とある器用貧乏】

 


 

 

「ねえ、何でニヒツは物語ばかり作ってるの?」

 

久しぶりに辿り着いた村。そこにあった今は使われなくなり、放置されていた鍛冶場。

斧を研磨しているニヒツの後ろ姿にフリーレンは声をかけた。

 

金属が同士がスルスルと触れ合う音が止まる。

鎧がブルリと震える。

 

「えぇとお? それは俺の物語がつまらんということか? アンチなのか?」

 

「いや、そうは言ってないけど…。ん? あんちってなに?」

 

フリーレンは少し疑問に思ったことを聞いてみただけだが、食い気味に反応が返ってくる。

 

「物語ってのは、魔族には絶対理解できないものなんだよ。魔導書はただ文字を読んで内容を理解すればそれで済む。でも物語はそれと同じように読んでも何も得られない。物語とは、他人の人生を擬似的に体験できるものだ。人類に対して『共感』することができない魔族に、これの価値は分からない。魔族は文化を持たないし、記録も残さない種族だ。これは魔族よりも人類が種族的に優位に立てる唯一の手段なんだよ。そこに沢山の情報を残して行けば、魔族に知られず魔族に対抗できる知識を残せるかもしれないって寸法」

 

「うぅん。それも一理あるけど、建前でしょ」

 

フリーレンは一部納得する内容だったが、ニヒツが本当のことを話していないように感じた。

 

「…昔、幼馴染に褒められたんだよ。『面白い、続きが読みたい』ってな。それが嬉しかった。それだけだ」

 

「そう」

 

ニヒツは持っていた斧を作業台に置き、フリーレンに向き合う。フリーレンは開いていた魔導書を閉じた。

 

「自分が作ったものに対する他人からの評価っていうのは、良くも悪くも気になるもんだ。ヒンメル達は良く感想とかくれるから大好きだぜ!」

 

フリーレンは聞いてもないことまで語り出したニヒツに少し呆れつつ、話を本題に移す。

 

「ニヒツは魔導書も書けるんだから、そっちを専業にするべき。うん、向いてない騎士を廃業して魔導書作家になるべき」

 

「いやあんた、俺が使える魔法全部使えるじゃんか。魔導書まで欲しがるのかよ。というか魔導書作家ってなんだよ」

 

「うん、魔導書集めは私の趣味だからね」

 

ニヒツは「趣味人め」と呟きながら、魔導書の話題で食い気味にジョブチェンジを勧めてくるエルフを押しのける。

 

「俺も騎士向いてないとは思うけど、色々工夫して頑張ってるの。物書きも魔導書作りもあくまで趣味だからな」

 

ニヒツは再び振り返って作業台の斧を手に取り、布で仕上げの磨き作業に入ってしまった。

フリーレンはまだ言いたいことがあったが、背後から聞こえる足音でそちらに意識を向ける。

 

「戦士より柔らかい騎士だがな」

 

「調子はどうだ」と声をかけながらアイゼンが鍛冶場に入ってくる。

 

「アイゼンさん、それは言わない約束だろ。俺もあんたの次くらいに固くなるため、修行頑張ってるし」

 

「師匠が硬過ぎるんだよ」とボヤきつつ、ニヒツは近づいてきたアイゼンに今しがた手入れの終わった斧を返す。

 

「それにしてもお前は多芸だな。物書きだけじゃなく、炊事や魔法、武器のメンテナンスまでできるんだからな」

 

アイゼンは受け取った斧を握って具合を確かめる。鍛冶場の炎が放つ光でピカピカに磨き上がった斧の刃が煌めく。

 

「1パーティに1人は欲しいよね」

 

フリーレンもアイゼンの言葉に頷く。

先ほど自分の杖も磨いてもらったため、言葉に実感が籠る。

 

「いや、器用貧乏なだけだよ。どれも死ぬほど努力すれば1流程度ならいける。でもそれ止まりなら勇者パーティーじゃお荷物だろ」

 

ニヒツは俯きながら手の平を見つめ、ゆっくりと握りしめる。

 

「今やっている武器のメンテナンスも、しばらく世話になった街の鍛冶屋で教えてもらった付け焼き刃だ」

 

元々ニヒツの戦闘スタイルは、複数の武器を使用する。

ハルバードやエストック、果ては弓まで彼の常備武器である。

自分で武器をメンテナンスできるようになるのは必然だった。

 

「そんなことないだろ。この長い旅の中、お前のおかげでヒンメルの剣も俺の斧も摩耗は許容範囲で済んでいる。ドワーフの俺から見てもお前の腕は大したもんだ」

 

「アイゼンさん…。ちょっと泣いていい?」

 

うおーんと大人泣きするニヒツ。

突然泣き出してどうすればいいか分からずオロオロするアイゼン。

興味をなくして魔導書を読み始めるフリーレン。

そこへ現れた『酔っ払い』と『勇者』。

 

「これどういう状況?」

 

 

 

 

「なるほど。まあ、戦力という意味ではそうかもしれない。でも僕が君を誘ったのはそれが理由じゃないからね」

 

ニヒツの肩をポンポン叩くヒンメル。鎧がコツコツと音を立てる。

 

やっぱりこいつは良いやつだ。何としてもフリーレンといい感じになってもらいたい。ニヒツは改めてそう思った。

 

「ヒンメルよ。お前に何があっても俺は味方だからな」

 

ギシッ。

 

「え、それは僕に何か起こるってことなの? 君の直感も僕と同じくらい当たるからね。怖いんだけど」

 

全身鎧に抱き締められたヒンメルは、若干不穏なニヒツの話に冷や汗をかく。

 

実際、ニヒツの予言とも呼べる直感はかなり当たる。

南の勇者は未来が見えたという噂があったが、彼もその類の異能を持っているのかもしれないとヒンメル達は考えていた。

 

「でも、戦闘力は必要だよ。特に魔法を放出できないのは魔法使いとしては致命的な弱点だ」

 

フリーレンの言葉に、再びニヒツは項垂れる。彼は確かに魔法が使えるが、そこには大きな制約があった。

 

「ういっ、自己を対象にした魔法しか使えないんでしたっけ? 女神様の魔法まで覚えているのに、使えないのは勿体無いですねぇ」

 

酔っ払いからの追い討ちまでもらい、ニヒツはよろける。

「やっぱり器用貧乏だね」と呟くフリーレンを見て、再び目頭が熱くなるニヒツ。

 

「ひ、人の心とかないんか…」

 

「大袈裟だなぁ。私は本当のことしか言ってないよ」

 

その名の通り、冷たいフリーレン。

 

ニヒツは少し仕返しをすることにした。

 

「なあ、ハイターさんやぁ」

 

「なんですぅ。ニヒツさん」

 

『酔っ払い』は流れが変わったことを察知して、ニヒツの言葉に反応する。

 

「実は俺、ある酒の作り方を知っているんだよ。しかも旅をしながら作れるやつ」

 

「な、なななんと!?是非作りましょう。それはどんなお酒なんですか?」

 

酔っ払いは衝撃的な話に酔いが抜け、ハイターになった。

ヒンメルもアイゼンもなんだか雲行きが怪しくなり出したことを感じ、ハイターを止めようとする。フリーレンはもちろん興味を持たない。

 

「その名も世界最古の酒。口噛み酒!!」

 

「おおお!!」

 

「作り方は簡単。穀物や木の実を口に入れて噛む。そして吐き出したものを溜めて発酵させるだけ」

 

「お? おお…」

 

作り方を聞いたハイターは若干引き気味だ。

もちろん他の2人もドン引きである。なお、フリーレンは以下略。

 

「流石に、あなたのゲロを飲みたくはないのですが」

 

「違う。これは若い未婚の女性が作るものなんだ。以前見かけた街の古文書には、エルフが作ったとされる最古の記録が残って『ちょっと待て』ん?気づいたかヒンメル」

 

ニヒツが歴史の話をする最中。遮るようにヒンメルが割って入る。

 

そ、それはカンセツキ…

 

「間接というより、モロに近いかもしれんな」

 

バタッ。

勇者は死んだ。

 

「ヒンメ〜ル!!」

 

ハイターは倒れたヒンメルを抱えながら叫ぶ。フリーレンをからかおうと思ったニヒツだったが、思わぬ流れ弾でヒンメルが死んだ。

 

「流石に刺激が強すぎたか…。惜しいヤツを亡くした」

 

「やり過ぎだ馬鹿者」

 

人が出てはいけない音の出る愛の拳骨をくらい、ニヒツはノックアウト。

こうして勇者パーティーは一瞬の内に半壊してしまったのだった。

 

 

√m 勇者ヒンメルの死から50年前

 

 


 

■ 実績解除

* 【NEW】長所と短所が明確に書かれる

 


 

■ 裏話

ニヒツは、既にバランスの取れた超人集団だった勇者パーティーに入った後、スランプに陥っていた。

彼自身はその時代でも上澄に近い実力者だったが、他のメンバーが各分野の人類トップクラスだったため、相対的に見ると勇者パーティー最弱に甘んじていた。

その為、他のパーティーメンバーが出来ないことや不得意な分野をどんどん学び、サポート分野では人類トップクラスになることとなる。

それは彼と勇者パーティーの誰か1人が組んだだけでも、七崩賢を撤退まで追い込めるほどであった。

 

■ 裏話2

古文書「世界最古の酒『エルフ口噛み酒』」(著)ミリアルデ




■ 次回
偽物の勇者

読みたい順番(最終的には全部書く予定)

  • 1. ヒンメルパーティー時代(短編)
  • 2. フェルン達の時代(長編)
  • 3. 未来編(現在伏線不足のため非推奨)
  • 4. 全部書くなら何でも良い
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