シュラハトくん見逃して   作:私貴方私(Y-ou@so-soなフリー)

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偽物の勇者

「行動と結果がその者を何者にでも変えてくれる。

そこに本物も偽物もありはしない」

【故郷の守護勇者】

 


 

 

「南の勇者様を助けて欲しい?」

 

『剣の里』から旅立ったヒンメル達は、小さな町にたどり着いていた。

そこで彼らの到着を知った町長から『南の勇者救援』を依頼されたのだ。

 

「わかった。詳しく聞かせてくれ」

 

ヒンメルは町長の依頼を二つ返事で了承。

そんなヒンメルの即答に「また始まった」とみんな苦笑いしつつ、詳しい話を聞くことになった。

 

その夜、宿屋に帰り緊急のパーティー会議が行われた。

 

「フリーレン、ニヒツ。君達はどう思う?」

 

「どう考えても偽物だね」

「だよな」

 

南の勇者と面識のある2人の意見は概ね一致した。

 

「ヒンメル。南の勇者様が最後に目撃されたのはもう何年も前ですし、彼が討たれたと言われる北部高原はここからだいぶ遠いですよ。間違いなく偽物です」

 

「俺も同意見だな。噂に聞く強さなら、北部高原からこの辺りへ移動する際、噂にならないわけがない。強いやつの情報には誰もが注目しているもんだ。酒場で話題に上がらないはずないからな。これではまるで突然現れたみたいだ」

 

ハイターとアイゼンの意見も一致。

皆の意見を聞くとヒンメルは満足したように頷く。

 

「そうだね。だから確かめようじゃないか。僕達の先輩……その正体を」

 

 

 

 

翌朝、ヒンメル達は町を発った。途中の村で情報収集しつつ、戦場となっている高原へ急ぐ。

 

「戦地から流れてくる情報によると、ここから北にある大きな街に面する平原、そこに魔族の軍団が陣取っているようだ。大魔族クラスの魔族はいないようだが、数がかなりいるらしい。そのせいで南の勇者と魔族軍団の間で睨み合いの膠着状態が続いているとのことだ」

 

村で聞いた情報を共有するヒンメルたち。

対処方法を議論していたところ、話題が南の勇者の『戦い方』に移った。

フリーレンも彼には会ったことはあるが、戦っている姿を見たことはない。

 

「ニヒツは南の勇者が戦っているところを見たことがあるんだよね。実際、噂ほどの強さはあったの?」

それ以上だな

 

ニヒツの即答にフリーレンは少し驚いた。

南の勇者の逸話は多い。

そして、そのどれもが突拍子もないものばかりだった。

 

曰く、山ほどもある大きな竜を一刀両断した。

曰く、泳いで逃げる魔族を海ごと両断した。

曰く、空を覆い尽くす魔物の大群を一振りで撃退した。

曰く、彼の『髭』は大魔族の一撃を受けても崩れなかった。

 

吟遊詩人が魔法で演出を加えながら歌っていたので、フリーレンもしっかり覚えている。『あの魔法はとても良いものだ』

もう存在しない人物だから言いたい放題の脚色し放題である。

 

事実、『単独で人類の生存権を北部高原まで推し進めた』猛者ではある。

そして、『シュラハトと七崩賢全員同時に相手取って半分を倒している』ので彼にならできそうにも思える。

 

……いややはり全て本当なのかもしれない。

フリーレンは確証がなくなった。

それでも『1つ確信したこと』がある。

 

「じゃあやっぱり偽物だね。そんな人が、数が多いだけの魔族たちに時間をかけるはずがない」

 

そして、その言葉に続くようにフリーレンは心の中でつぶやいた。

『未来が見える能力があったなら尚更だ』

 

 

 

 

「やあ、君が勇者ヒンメルだね。噂はかねがね」

 

「はじめまして、ヒンメルです。こちらから僧侶ハイター、戦士アイゼン、魔法使いフリーレン、騎士ニヒツです」

 

フリーレンは南の勇者を名乗る()()を見る。

 

『やはり偽物だ』

 

本人をひとめ見た人なら、誰でも分かる違いがたくさんあった。

ヒゲ、髪型、マントは本物に寄せている。

シルエットだけは似ていると言えるだろう。

『伝え聞いた南の勇者の特徴を真似ただけの偽物』

それが目の前の青年に対する感想だった。

 

 

それでも、彼が南の勇者と呼ばれる理由にフリーレンは()()()()

 

 

「勇者ヒンメルくん。後で少しいいかい。後そちらの魔法使いフリーレンさんもご一緒に。私の部屋で少し今後の事を話そうじゃないか」

 

「うちの騎士も一緒にいいでしょうか? 以前、貴方が戦っているところを見たことがあり、話したいことがあるようなので」

 

「……分かりました。いや、分かったよ。準備ができたら使いの者が呼びに行く。それまで屋敷で英気を養ってくれたまえ」

 

ニヒツの話を出すと明らかに表情が固くなる自称南の勇者。

ヒンメルは彼の背が見えなくなるまで観察を続けた。

 

「ヒンメル。彼の魔力は覚えた。逃げても見つけられるよ」

「もしかしたら何か仕掛けてくるかもしれません。そっちの警戒は私の方でもしておきますね」

 

「魔導書とお酒が絡まない限り、僕の仲間は本当に頼もしいね」

 

フリーレンとハイターによって偽物による逃走と奇襲の対策は万全。

 

「師匠、やっぱりオレ魔法使いやめようかな。あんなん見せられたら、自信無くすで…」

「いや、お前は騎士が本職だろ」

 

弟子のニヒツを励ます師匠アイゼン。

 

「まあ、お前が魔法を使わなくなったらいよいよ俺とヒンメルの下位互換になるわけだが……」

 

ニヒツは師匠の辛辣な言葉に、「そりゃないぜ師匠」と情けなく返しつつ、先ほどの『()()()()()』を持った偽勇者について考えていた。

 

ニヒツにとって南の勇者は大恩人である。

彼は自分を『服従の呪縛』から救い、命を賭けてその場を離脱させてくれた人だ。

彼の名前に対する想いは他者より強い。

それを偽る者が悪意を持ち、勇者の名前を辱めるなら容赦をするつもりはない。

 

騎士は無意識に剣の柄を撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません。 助けてください。 なんでもしますから!!」

 

 

豪華な部屋。

人払いがなされた後、3人に向けて放たれた偽勇者の第一声である。

 

「えぇぇ…」

 

地べたにうずくまり、プルプル震える男。

ヒンメル、フリーレン、ニヒツの3人は完全に反応に困っていた。

 

「と、取り敢えず事情を話してくれ。なぜ南の勇者を偽っているのか、なぜ魔王軍と膠着状態なのか」

「ははははい、なんでも喋りますんで助けてください」

 

事情はこうだ。

魔王軍が街へ攻めてきたところ、彼が魔法を使って何とか撃退。

その凄まじい状況に、誰かが「南の勇者様だ。間違いない」と発言。

それを皮切りに街では南の勇者ということになってしまった。

魔族たちまで『あのシュラハトと七崩賢を壊滅させた南の勇者』というネームバリューに驚き、攻めあぐねているという。

 

しかし、ヒンメルの表情は険しい。

 

「流石にそれは無理がある。魔族は名前や名声だけでは怯まない。彼らは魔力の大きさや実際の強さを見て力関係を測る。君からは全く強さを感じない。どうやって魔族を撃退したんだ?」

 

目の前の男が全てを話していないことにヒンメルは気付いていた。

 

つい最近、魔族の生態を甘く見積もった結果、痛い目を見たばかりである。

あれからフリーレンに懇願し、魔族について教わった。

その甲斐もあり、ヒンメルは魔族がそんなに生易しい者ではないことを深く学んでいた。

 

「ヒンメル。彼は嘘をついていないよ。彼の魔法なら可能だと思う。私もかなり驚いているけどね」

 

まさか、自分よりも魔族に詳しいフリーレンから反論があるとは思わず、驚くヒンメル。

 

「彼は魔力を偽装している」

 

フリーレンはこちらを見上げる情けない男へ目をやる。

彼を見た時から違和感があった。

いや、違和感がなかった。

自分には劣るものの安定した魔力の流れを再現した魔力偽装。

これがもし揺らいだり、安定し過ぎていたなら、作為的なものを私も疑っただろう。

 

「彼の魔力はハイターすら、優に超えているよ」

 

息を呑むヒンメル。

彼は魔法をあまり知らない。

だから魔力の大きさを測るすべは持たない。

それでもハイターの魔力はフリーレンすら超えていると聞いていた。

ヒンメルが知る最も凄い魔法使いはフリーレンだ。

それよりも魔力が多いハイターをも超える魔力。

 

 

それでも勇者の勘が『()()()()()』ではないと告げていた。

 

 

「フリーレン、君の考察を聞かせてくれ。僕には彼が戦う力を持っているようには見えない」

 

ヒンメルは最も信頼している賢者に教えを求めた。

 

「私もこんな魔法は初めてだ。これは『魔力を()()する魔法』だよ」

 

隣でニヒツが息を呑む音が聞こえる。

彼もこの魔法の可能性に気付いたのだろう。

 

「『魔力を小さく見せる偽装』を行う魔法使いは存在する。魔族の中にも一時的に魔力を制限して潜伏する者達だっている」

 

「それでも『魔力を実際より大きく見せる』魔法使いは今までいなかった。大きく見えたところで魔法が強力になる訳でもないからね。でもこれは画期的な発想だよ、ヒンメル」

 

ヒンメルは確かに凄い技術だと思ったが、フリーレンがここまで興奮する魔法技術だとは思えなかった。

実際に戦った場合、弱いことがすぐに分かってしまうのだから。

 

彼女の説明にニヒツが割って入る。

 

「ヒンメル。魔法使いや魔族は基本的に魔力が大きいやつが格上だ。特に魔族は長期間魔力を制限できないくらい魔力の大きさを強さとして認識している。そして、魔族は基本的に格上との戦闘は避ける傾向にある」

 

「つまり、彼の魔力が膨大だから外の魔王軍は怯えて攻め込めないでいる……と。そう考えると確かに凄まじい魔法だな」

 

魔法使いではないヒンメルも事の重大さに気付いた。

これは魔族の価値観を崩壊させる程の魔法だ。

この魔法技術は『魔族』対『人類』の戦いにおけるブレイクスルーになり得るのだと。

 

「人類は魔力量を多く見せられるが、魔族は自分の魔力に誇りを持っているため、長期間の偽装はできない。それによって、事前情報の段階で一方的に有利な戦闘ができる。もしくは、魔族が敵わないと判断して逃げていくと」

 

ニヒツは『英雄になり得る賢者』の腕を掴み、地べたから這い上がらせる。

 

「アンタ、この魔法教えてくれ。何としても一般化して、普及させてみせる。金なら全財産払ってもいい」

「いえいえいえいえ、お金なんて結構です。魔王軍がずっと目の前にいるこの状況を何とかしてくだされば良いですから!! 魔法も教えますし、魔導書もお渡ししますぅ」

 

「魔導書!!」

 

魔法大好きな2人にもみくちゃにされ、「ひぇぇ」と声を上げる元偽南の勇者。

ヒンメルは若干彼に嫉妬しつつ、既に外の魔王軍をどのようにして撃退するか考え始めていた。

 

 

 

 

「すまない。僕は君が邪な考えで南の勇者を(かた)る悪いやつだと考えていた」

 

「うっ、良いんですよ。実際そんなやつです…」

 

ヒンメルたちが魔王軍を撃退し、街に平和が戻った夜。

この場にはヒンメルと元偽南の勇者のみがいた。

彼らは互いに謝罪し、酒を酌み交わしながらこれまでの境遇を語り合った。

 

『魔力を誇張する魔法』は、元々一族がひっそりと研究していた魔法だったこと。

一族が魔族に根絶やしにされかけたところ、自分だけ南の勇者に救われたこと。

そして、彼に憧れて勇者になろうとしたが挫折し、さまよった結果ここへ辿り着いたこと。

 

ヒンメルも語った。

自分が小さな頃、ハイターに煽られて勇者を目指したこと。

旅立ちの日に王様に処刑されそうになったこと。

冒険の序盤に『とある大魔族』と戦って危うく全滅しかかったこと。

 

 

そして先日、剣の里で()()()()()()()()()()()こと。

 

 

「僕も偽物だ。それでも魔王を倒す。そうすれば、本物だろうが偽物だろうが関係ない」

 

ヒンメルの言葉を聞き、青年は眩しそうに目を細める。

自分の事を『偽物』だと言いながら、それでも魔王を倒すと言い切ったヒンメル。

その姿は、まるで『本物の勇者』のような凄みがあった。

少なくとも青年はそう感じた。

 

 


 

行動と結果。

それが自分を何者にでも変えてくれる。そこに本物も偽物も存在しない。

 


 

 

「僕もなれますかね。本物」

「いや、君は既に本物の勇者だろ」

 

ヒンメルの言葉に驚く青年。

 

「ただの偽物に魔王軍を単身で引き止める力なんてない。実際たくさんの人々がそのおかげで助かった。それにあの魔法が普及すれば、君はそれを生み出した賢者であり『勇者』だ」

 

ヒンメルのまっすぐな言葉は青年の心に深く響いた。

心のモヤモヤがパッと晴れ渡るようだった。

自分のこれまでの頑張りは無駄じゃなかった。

あの日、1人だけ生き残った自分の存在意義。

そして一族の悲願。それらが全て報われた気がした。

 

 

 

 

後世において、『魔力を誇張する魔法』は『一般防衛魔法』として最適化され、広く普及することとなる。

さらに、大規模な魔導具に付与することができたため、町や村などの拠点における魔族避けとして広く普及した。

これにより、後の時代では魔族による被害は激減することになった。

 

また、その開発秘話が後の世に伝わり、『故郷の守護()()』として彼の名前は語り継がれるのであった。

 

 

√m 勇者ヒンメルの死から50年前

 

 


 

■ 実績解除

* 魔族の被害を減らす手段を模索する




■ 次回
銅像




■ 走り書き
* ヒンメルの悩みを吐き出せる相手がパーティーメンバー以外にも欲しかった
* 魔力でなんでも判断する魔族を利用した技術はありそう
* 大魔族や戦闘狂の魔族には通用しない
* フリーレンすら驚く魔法技術を考えたかった
* アニメ剣の里編良かった

貴方が最も記憶に残っているものは何ですか?

  • 学校にあった銅像
  • 子供の頃に読んだ絵本
  • 教育番組で流れていた音楽
  • 子供の頃に見た紙芝居
  • 音楽室に飾ってあった肖像画
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