シュラハトくん見逃して 作:私貴方私(Y-ou@so-soなフリー)
勇者ですら見栄を張りたがるものだ」
「なあ、ヒンメルはどうしてこんなに銅像を建てたがるんだ?」
ニヒツは悩ましげにポーズを探るヒンメルへ声をかける。
久しぶりの2人きりの空間。
他のみんなはヒンメルのポーズ決めに飽きて、外へ出かけてしまっている。
職人さんも「決まったら声かけてください。昼飯食べてきます」と小屋を出て行ってしまった。
フリーレン以外のみんなが、ガッツリ気付いているその答え。
ニヒツは久々に2人きりになったこの機会で、ヒンメルの口から聞き出そうとしていた。
「皆に覚えておいて欲しいと思っ『フリーレン』…」
「…」
ヒンメルがニヒツへ目線を向ける。
有無を言わさない表情の彼。
ヒンメルは諦めたように息を吐いた。
「フリーレンが未来でひとりぼっちにならないようにするためかな」
「それも嘘だな」
ニヒツは否定の言葉を返す。
ヒンメルは眉をひそめる。
「嘘じゃない」と答えるヒンメルに、「それだけじゃないだろう」とニヒツが追い打ちをかける。
ヒンメルは少しムスッと顔をしかめ、考える素振りを見せる。
それは大魔族を何体も屠ってきた勇者の姿ではなく、好きな女の子について悩む18歳の男の子の姿だった。
ニヒツは語り出す。
「フリーレンはエルフだ。そしていい奴だ。」
「何が言いたい」
「俺達が死んでも、フリーレンには俺達のような新しい仲間ができるということだ。それこそ俺達以上に良い仲間ができるかもしれん。ひとりぼっちになることはない」
「…」
「確かにあの1000歳児は、情緒が幼くて幼児レベルだ。それでも、旅の中で少しずつ成長している。特にヒンメル、お前が彼女へ積極的に語りかけるからな」
…。
ニヒツはヒンメルの悩む姿を眺める。
こいつは良い奴だ。
ナルシストで恥ずかしいところもあるが、1番フリーレンのことを気にかけている。
一般的な感性からズレているフリーレンが他者と衝突しそうになる時、必ずコイツが間に入って緩衝材になっている。
何がダメだったか後でフリーレンに教えてフォローも欠かさない。
コイツほどフリーレンの成長に必要な人材はいないだろう。
「俺達が老衰する頃には、反抗期の娘くらいになるかもしれん。おそらく。そうすれば、今後彼女の周りには人が増えていく。そして、俺達は彼女の1番古い記憶の中で、数ある友人の1人として記憶の隅に埋もれていく」
エルフと人間の時間感覚は隔絶している。
親が子供の情操教育のために、子犬を飼って看取るまで育てるように、ヒンメルが死なないとフリーレンが成長しないなんて報われない結末はオレが嫌だ。
ヒンメルはただの成長アイテムじゃない。舞台装置でもない。
勇者も1人の人間だ。
フリーレンのために、自分の幸せを諦めて欲しくない。
何より未来でフリーレンは泣いていた。
物語において、悲劇はスパイスだ。読者を惹きつけ、物語に深みを持たせるキーアイテムだ。
それを取り除くという行為は、物語に対する冒涜かもしれない。
傲慢だろうが、冒涜的だろうが、彼らの幸せな姿を見たいとオレは思った。
彼らと過ごした年月は、オレの中でそれだけの重みを持っている。
「死んだ後、天国へ行けなくてもいい」
天国でみんなと再会できなくてもいいから、魔王討伐後も続く彼らの笑顔が見たくなったんだ。
ニヒツは友人として、ヒンメルに自覚させたかった。
そして、フリーレンにもこの時間が有限であることを自覚して欲しかった。
「お前は彼女にずっと覚えていてもらいたくて、銅像を作っている」
「それは…良いだろ別に…」
ヒンメルの声に焦りと羞恥の感情が見える。カッコいい言葉の内に隠していた願望。ヒンメルは確かにフリーレンに覚えていて欲しかった。
「良い」
ニヒツはヒンメルの答えを肯定する。ヒンメルの願望は何も恥ずべきことではない。
ニヒツ自身も、自分達との冒険がフリーレンの中で大切な思い出として残って欲しいという願望はある。
「いやだろ? 1万年生きた中で、5年だけ一緒に旅した友人と記憶されるの。人間換算だと2週間程度一緒にいた知り合いくらいの感覚だぜ?」
「確かに数字にするとほんとに一瞬だな僕達のここまでの旅。フリーレンが1ヶ月前の話を『ついこの間』と言うわけだ…」
ヒンメルは改めてエルフの時間感覚に驚愕していた。
「俺もヒンメルの考えに賛成だが、ただ銅像を建てるだけだと良くて数100年程度だろ。戦争でも起きればもっと早く忘れ去られる」
「戦争とは穏やかじゃないね。でも魔王がいなくなった後、今でも睨み合いを続けている北側諸国が何もしないとは思えないか…。何か対策を考えておく必要がありそうだ」
ヒンメルの思考が、また勇者モードに切り替わってしまう。
ただ、今重要なのは1万年後のフリーレンであって、数十年後の戦争ではない。
そっちは後で議論しようとヒンメルに提案して話を戻す。
「銅像に付加価値を付けれてやればいい。魔王の脅威がなくなり、みんなが勇者への感謝を忘れるほど時間が経っても、無視できない価値を」
ニヒツは悪どい笑みを浮かべ、フフフッと声をもらす。ヒンメルは若干引きつつも先を促す。
「この間見かけた2人組の英雄像は来歴が忘れ去られていた。では女神様は何故忘れ去られていない? 教会という組織があることも大きいだろうが、聖典という量産できる記憶媒体と実際に恩恵がある女神の魔法があるからだろう」
「おぉ。お前がよく物書きをしているのはそういうことだったのか! なるほど、確かに書物が残れば、後の世で物語としてフリーレンに再会できるかもしれないということだね」
「面白ければなお良し。もしかしたら映画やゲームになるかも。歌もいいな」
「ん? えぃが? げぇむぅ? よく分からないが、歌ならこの間、吟遊詩人が歌っていたものがあったな。それに最近だと演劇というのが帝国で流行り出したらしいぞ」
まだ何も始まっていないのに、妄想が膨らむ男子2人。
「もしかしたら1000年後、自分の子供に『お母さんはこの人達と冒険したんだよ』『嘘だぁ』とか言うやりとりがあるかもしれないな」
「それは…」
ヒンメルの絶妙に納得が行ってない顔。
フリーレンの子供の話はちょっとヒンメルには刺激が強かったかなと、ニヒツは心の中で謝罪した。
「ともかく、物語を作るのは1つのアプローチとして、もう一方の付加価値についてだ」
「新しい教会でも建てるとか? ヒンメル教というのはなんだか嫌だなぁ」
女神様に申し訳なさそうな顔をするヒンメル。孤児院育ちの彼としては、あまり率先してやろうとは思えないのだろう。
「いや、流石にそれは面倒なので、銅像自体に絞って価値を加えよう。例えば、台座にその時代にあった大きな出来事を記録するとか」
ヒンメルの頭に疑問符が浮かぶ。先の話と全く結びつかないのだ。
「意味が分からないという顔だな。歴史ってのは結構重要なもんだ。帝都の博物館にも、1000年前の民の日記や石盤が保管されている。そこに書いてあるものは不確かなものが大半だが、勇者パーティーが書き残した当時の歴史や冒険の記録だったら信憑性は高くなるだろう。それだけで後の世に価値があると思わせて保護させることができるかもしれん」
ニヒツの言うことは分からなくもないが、大きな問題があることをヒンメルは気付く。
「それは大きな都の話だろ? それがただの村にあっても意味はないと思うけどね。それに魔王との戦争が続いているせいで、どこも文化保護を主張できる余裕はないと思う」
「そこでもう一つの策だ。銅像に魔法をかける」
√m 勇者ヒンメルの死から50年前。
■ 実績解除
* 【NEW】ヒンメル達の物語をおとぎ話にしない
* フリーレンとヒンメルの恋を進める
■ 裏話
銅像にかけた魔法は、無限に続くわけではない。
そこでニヒツは1つの魔法を試すことにした。
『想いの続く限り未来へ繋ぐ魔法』
対象者の込めた想いが強ければ強いほど、魔法が続く呪いに近い曖昧な魔法だ。
村を守るために勇者はどれだけの想いを込められるだろうか。
長くてもそれは100年程度だろう。
ならばヒンメルはどれだけの想いを込められるだろうか。
ヒンメルの想いは、1万年経ってもあの人の記憶に残り続けること。
勇者の想いとヒンメルという男の想い、どちらが未来まで届くのかは、1万年後のエルフだけが知っている。
■ 次回
蒼月草と銅像
前書きと後書きは見ていますか?(本作、前書きや後書きに物語を置くことがあるため)
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