シュラハトくん見逃して   作:私貴方私(Y-ou@so-soなフリー)

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6人目の仲間

「…お母さん…」

【とある少女の呟き】

 


 

 

「フリーレン様。今日は早起きですね。それに花なんて用意して、どうしたんですか?」

 

珍しく異様に早起きなフリーレン。

フェルンすらまだ起きたばかりなのに、既に着替えが済んでいる。

さらに外で摘んできたと思われる薄い桃色の花が机に置かれている。

 

「今度は誰の誕生日ですか?また当日に言うのやめてくださいよ」

 

「これは春風車(ハルフウシャ)だよ。今日は以前、一緒に旅をした仲間に会いに行くんだ」

 

そう言って、フリーレンは普段よく持ち歩いている『押し花の栞』をそっと撫でた。

 

 

 

 

「ここも酷い状況だね」

 

魔族による大規模な被害が出ていると聞き、近隣の村へ急いだヒンメル達。

その場にいた魔族は全て倒したが、既に村からは生き物の気配を感じなかった。

 

村の生存者を探す中、家屋の残骸から、か細い息遣いを感じ取る。

ヒンメルは縋る思いでかつてドアだった木片や机だった木屑を掘り返す。

そこには、2人の少女がいた。

1人は間に合わなかった。食われかけた跡もある。

もう1人は頭に大きな怪我を負っており、予断を許さない状態。

ヒンメルはこの場から動かすことを危険と判断し、急いでハイターを呼ぶ。

 

その間、自分のマントを引き裂き、彼女の出血箇所をキツく縛る。

 

少女の呼吸が止まる。

ヒンメルは慣れた手つきで気道を確保し、心臓マッサージと人工呼吸を試みる。

 

ヒンメルのいた孤児院では、魔法が使えなくても僧侶が来るまでの間、負傷者に応急手当てを行う術を学ばされる。

 

勇者になり、戦場を多く経験したことで、その技術は相応のものになってきていた。

 

小さい頃のヒンメルは、そんなことよりも早く強くなってたくさんの魔物を倒した方が、人々をたくさん助けられると思っていた。

そんな自分に根気強く手当の仕方を教え、捻くれ者のハイターを立派な?僧侶に育ててくれた故郷の神父様には、今でも感謝しきれない。

 

ヒンメルは実感していた。

確かに強くなることで多くの人が救えた。

だが、目の前で死にそうになっている子供達を救えたのは、こういった教会の技術や知識のおかげだった。

 

人の命は数では量れない。1つだってこぼしたくはない。

 

「ヒンメル、代わりますよ。綺麗な水、それとこの子を乗せられそうなものを用意してください」

 

やはり酒のない僧侶は頼りになる。

 

 

 

 

生き残りの女の子を介抱する間、困った事実に直面した。

 

「この子は呪われてるよ。しかもかなり強力な魔法だ。解呪には時間がかかるよ」

 

ヒンメルは呪いの解析をフリーレンに任せ、苦しそうに唸る少女の手を握る。

ハイターは少女の衣服を清め、替えの水を用意しに席を立つ。

アイゼンとニヒツはみんなの食料を確保する為に森へ向かった。

 

幸い少女はすぐに目を覚ました。

しかし、感情が抜け落ちてしまっていた。

 

「いわゆる『心的外傷後ストレス障害』ですね。ショックな出来事を経験すると良く起こります」

 

ハイターの診断が下された。

ニヒツもこの症状と状況から同じ診断を下す。ニヒツの前世で言うPTSDというものだ。

これは自分達の使える魔法でも直すことはできない。

この場に精神魔法のスペシャリストはいない。

ストレスの原因である出来事は、既に起こってしまっている。進んだ刻は戻せない。

 

彼女を護送する為、付近の村へ進路を変更するヒンメル達。

少女もヒンメル達の必死の声かけで、少しずつ動けるようになってきた。

 

ある時、少女は親切にしてくれるヒンメル達の手伝いをしたいと申し出た。

ヒンメル達も何かに興味を持ち出した彼女の行動を良い傾向として受け入れた。

 

それが悲劇を生んだ。

 

「私は何か洗濯を間違えてしまったようですね」

 

フリーレン達の服が縮んだ。

 

少女の洗濯した服はことごとく破損、もしくは縮んで着られなくなった。

 

「仕方がない。これは雑巾に…」

「お気に入りだったのに…」

 

「まあ5年も着てるし、よく持った方じゃない?」

「後80年は着ようと思ってたのに」

「それは…えぇぇ…」

 

他にも不幸は続く。

 

釣りをすれば、針でフリーレンのスカートがまくれ、ヒンメルがぶっ倒れる。

つまずいて、魚を入れたカゴをひっくり返し、ヒンメルが濡れる。

料理は必ず焦げる。

少女に作ってもらった花の首飾りでヒンメルの肌がかぶれる。

木の根に小指をぶつけてひっくり返るフリーレン。

それを目撃して同じくひっくり返って壁に頭を殴打するヒンメル。

寝相で髭が爆発するアイゼン。

それを見て爆笑したニヒツはアイゼンに拳骨を喰らう。

アルコールが飛んで酢に代わっていたハイター。

靴下にドデカい穴が開いたヒンメル。

楽しみにとっておいたメルクーアプリンをニヒツが少女にあげてしまい、ストレスカウントが進むフリーレン。

直接は何も起こらないニヒツ。

 

明らかにおかしい現象の数々。

フリーレンは解析中の情報から1つの推測を話す。

 

彼女にかけられた呪いは、おそらく『不幸にする魔法』。

それも周囲を巻き込むタイプである。

かなり強力な呪いであり、解呪には1年はかかる。

それに周囲を巻き込むため、下手に村へ連れて行けない。

 

やむなく、ヒンメル達は少女を連れたまま先へ進むことにした。

勇者、僧侶、戦士、騎士、魔法使い、『少女』。勇者と5人の仲間達は魔王を討伐する為に北へ向かう。

 

子供向けの歌を歌いながら歩くハイター、彼に手を引かれて歩く無表情な少女。

彼女はだんだん歩き疲れたようで、うとうとし出す。

 

「まったく、仕方のないやつだ」

 

見かねたアイゼンが彼女を背負う。

その手つきは慣れたものであり、とても優しい。

 

少女の起こす様々なハプニングにヒンメル達が慣れ始め、だんだんそれが日常になってきた頃。

しかしフリーレンだけが、今だに彼女とギクシャクしていた。

 

フリーレンも少女も互いを嫌い合っている訳ではない。

ただ、一度フリーレンが怒ってしまった手前、気まずい関係が続いており、中々互いに歩み寄れずにいた。

 

 

 

 

美味しそうな匂いがする。

フリーレンは寝ぼけまなこで、包まっていた布から這い出る。

エルフの鼻は鋭い(当社比)。

メルクーアプリンの匂いを嗅ぎ間違えることはない。

 

そして、匂いの先には少女がいた。

フリーレンは思わず眉を顰めてしまう。

 

「またです。あの日から毎日のように視線を感じました。私は平穏に暮らしたい。ですから用意しました。私が食べてしまったあなたの(メルクーアプリン)の代わりを」

 

…。

 

「その(メルクーアプリン)は君の(メルクーアプリン)だ」

 

「私はもう食べましたよ?」

 

少女の好物はメルクーアプリン。

そして、目の前のエルフの好物もメルクーアプリン。

 

「仲直りがしたいんだってさ。それにしても君達。その喋り方どうにかならないかな」

 

メルクーアプリンを作っていたニヒツが2人を見て呆れる。

 

少女にメルクーアプリンを食べさせてもらい、とろけている寝起きのエルフがそこにいた。

 

甘いもの(好物)が争いを生むことがある。

それでも人類は共感し、分かち合いたいという感情も持ち合わせている。

これは人類と魔族の決定的な違いでもあった。

 

フリーレンは『好きなもの、楽しいものを分かち合う喜び』を知った。

 

 

 

少女がパーティーに加わって半年。

フリーレンに取っては一瞬の出来事だが、生まれて10年も経っていない少女に取っては激動の日々だった。

何もかもが新しく、輝いて見えた。

ただの村娘では経験できないような数々の冒険が、少女の不幸な記憶を楽しい記憶で上書きして行った。

 

『かき氷を出す魔法』。ニヒツのお手製シロップをかけたフワフワのかき氷を頬張り頭が痛くなるハイターと少女。

アイゼンの高い高いに大喜びする少女。

ハイターにお勉強を教わり、知恵熱を出す少女。

フリーレンと押し花を作り、お気に入りの『春風車(ハルフウシャ)の栞』をプレゼントする少女。

ニヒツにメルクーアプリンの作り方を習うも焦がす少女。

ヒンメルに花の冠をあげる少女。

 

だんだん感情が表に出てきて、活発になる女の子。

 

しかし、それも長くは続かなかった。

少女が病に倒れた。

 

 

 

 

ハイターが少女の様子を見る。

 

『僧侶は病を治せない』

 

それは薬師の仕事である。

 

怪我や毒であれば女神の魔法で対応できる。しかし、女神の魔法は病を直接は治せない。

現在、聖典に記されている病気に関する魔法は『病気を判別する女神の魔法』だけだ。

 

もちろん、薬学の知識はハイターももっている。

しかし、常に全ての薬草が手元にある訳ではない。

だから早急に薬草が必要だった。

 

悪いことはそれだけではない、彼女にかかった呪いが病の進行を早めている。

さらに『病気を判別する女神の魔法』の効きが悪く、病名を判別するだけでかなり時間をかけてしまった。

 

フリーレンが床に就いた少女の手を握る。

『手の表面がぽかぽかする魔法』をかけ、間接的に魔法の効果を少女に与える。

 

ちょっと前まで小さな女の子だった。背も私の方がずっと高かった。あっという間だった。今では手のひらの大きさも私と同じだ。

 

「痛い…痛いよ…お母さん…」

 

無意識に漏れる声。

少女は手の中に母を感じた。

 

フリーレンは悩む。

自分は手を握ることでしか苦痛を和らげてあげる方法を知らない。

 

「いや、もう一つあったね」

 

フリーレンは風邪で寝込んだ時、ヒンメルと共にニヒツがしてくれたことを思い出す。

 

「 ホークスポークス ヴェク イスト デア シュメル(痛いの痛いの飛んでいけ)ツ 」

 

「…なに、それ?」

 

「痛みが遠くへ飛んでいく『魔法』だよ」

 

…。

 

「そうなんだ」

 

「まるで魔法のような素敵な言葉」

 

 

 

 

「昔、一緒に旅をしたフェルンよりも小さな女の子がいたんだよ。その子には『周りの人を不幸にする呪い』がかけられていた。そして最後には衰弱していく効果まであったんだ」

 

フェルンは自分が風邪で寝込んだ時、フリーレンが手慣れた手付きで看病をしてくれたことを思い出す。

幼い頃の記憶にあるのは、握ってくれた手の温もりと妙に耳に残る呪文の言葉。

 

「メルクーアプリンを見ると思い出すんだ。よく取り合いをしていたからね。私の方がお姉さんだけど、これだけは譲れないからね」

 

フリーレンは目の前に出されたメルクーアプリンを見つめる。

 

「それが今では王都の一等地に店を構えるメルクーアプリン専門店のオーナーだものね」

 

「姐さん。もう私は引退したんだよ。やっぱり食べる側の方がいいよ」

 

ここは王都の中でも1番繁盛しているスイーツ店『春風車(ハルフウシャ)』。

国王にすら定期的に献上される老舗だ。

 

フェルンは目の前に出された豪華なスイーツに釘付けだ。

 

隣には、フリーレンと楽しそうに笑いながら、メルクーアプリンを食べる老婦人がいた。

 

 

 

春風車(ハルフウシャ)の花言葉は、『あなたと楽しい旅がしたい』

 

 

 


 

■ 実績解除

* 【NEW】ヒンメルとフリーレンのふれあいイベントを加える

 


 

■ 裏話

春風車(ハルフウシャ)

少女が好きな桃色の花。

元となった花は、カザグルマ(和名)

別名:クレマチス。

花言葉は、「策略」「精神の美」「旅人の喜び」。

 

■ 裏話2

【少女にかけられた呪い】

『孤独にする魔法』

対象を起点に周囲を害する事象を起こし、孤立させる。

孤立した獲物はだんだん衰弱し、食べやすくなる。

 

周囲に居続ける者は、次第に精神にまで影響が出始める。

それでも隣に居続けられるのは、真に精神が強いものだけである。




■ 次回予定
靴下

あなたの1番好きな話はどれ?

  • 勇者と氷の姫君
  • 人と魔族
  • 勇者殺しの酒
  • 偽物の勇者
  • ヒンメル像の謎
  • 『蒼月草』
  • 6人目の仲間
  • 今はまだない(様子見)
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