弟の頭が可笑しくて草   作:首の皮1枚

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あふれるりびどーをおさえきれなかった


スタートダッシュキャンペーン!

 僕ことシド・カゲノ―は陰の実力者を目指すにあたり、念願かなって魔力を手に入れた。そのついでに異世界に転生して新しい生を受けることにもなった。それはつまり、新しい家族ができたということでもある。

 日本では父と母に飼い犬が家族だったけれど、ここミドガル王国カゲノ―男爵領では飼い犬が姉と()()()()に生え変わっている。あっちでは一人っ子だったから何だか新鮮だ。

 父オトン・カゲノ―、ハゲ。

 母オカン・カゲノ―、父の飼い主。

 姉クレア・カゲノ―、優秀。

 兄シン・カゲノ―、優秀。

 僕シド・カゲノ―、平凡。

 これがこの世界での自慢の家族だ。

 家は代々魔剣士と呼ばれる魔力を扱う騎士を輩出している家系であり、姉さんと兄の優秀という寸評はこれを指している。2人はまだ5歳と3歳だが才能の片鱗が見えており、父さんはいつもニコニコ笑顔(スマイル)。ハゲの輝きが増して鬱陶しいことこの上ない。

 僕はそんな2人と比べるといたって平凡、のフリをしている。前世からの夢である陰の実力者は、必要な時にしかその力を振るわないのだ……!

 

「しっかしふたごか~。けっこうめずらしいんじゃない?」

 

 この世界の文明はおおよそ中世レベル。特定の分野ではとびぬけて発達しているものもあるが、だいたいそんなもんだ。だからこの世界では出生率が低い。100万人都市が王都しか存在しないと言えば伝わるだろう。

 

 母数が少ないのだから双子も当然、珍しいものになってくる。

 

「うーん、うまくつかえないものか……」

 

 珍しい双子属性、これを使った良い陰の実力者ムーブか……。

 優秀兄、平凡弟、陰に隠れる、実は優秀、日向兄、日陰弟―――

 

「―――ンハァ……ッ!

 

 電流が走る。あまりの鮮烈なイメージに体がビクンビクンと痺れる。

 そうだ、そうだよ!

 (シン)は優秀なんだ! 魔物とか英雄とかがいる世界で! 魔剣士として!

 つまり、つまり……っ!

 

「しゅじんこうとそのおとうと! へいぼんなおとうとだがじつは!」

 

 いいじゃん、いいじゃん! メチャクチャ陰の実力者っぽいじゃん!

 そうと決まれば話は早い。シンには主人公になってもらおう。

 才能はあるが、それだけじゃ本当なれるか不安が残る。

 だが僕がいる! 陰の実力者になるために、前世から特訓してきたこの僕が!

 才能ある兄を陰ながら鍛えていたとか、それっぽい!

 

「こうしちゃいられねぇ! いまいくぞしん!」

 

 僕が丹精込めて主人公にしてあげるからね!

 

 

 ■◆■◆

 

 

「ひゃあぁぁあ!がまんできねぇ!」

「うわびっくりした」

 

 ドアを蹴り開けた先にシンはいた。双子なだけあって僕とそっくりだ。違うとすれば吊り目か垂れ目かぐらいのものだ。

 

「しん! いまからきみはしゅじんこうになるんだ!」

「とうとつなうえにいみふめいでくさ」

 

 いやくさってなんやねん、とシンは首をかしげる。そう、期待の3歳児シン君の欠点がコレだ。時々日本のスラングを無意識で使うことがあるのだ。

 胎児のときに僕がそばにいたからか、シンはたまに毒電波を受信してしまう。僕的には主人公ポイント減点だが、まぁこういう主人公もいるだろう。誤差だよ誤差。

 

「しゅじんこうになりたくないか?」

「そんなにっすねぇ……」

「かぁ! しけたやろうだ!」

「なぐるぞかす」

 

 男の子なんだから少しぐらいは憧れていろよ。

 しょうがない、一から教育するか。

 Lesson1(流暢)

 思想を植え付けよう!

 

「しゅじんこうになるまえに、どういったものかりかいするひつようがある。すこしながくなるぞ」

「おまえがごろくつかうんかい」

 

 そうして僕は語りだす。主人公の物語を。

 毒電波少年といっても相手は3歳児、言葉の説明より物語の読み聞かせた方が理解は早いはずだ。

 語るのは日本の漫画やアニメをごちゃ混ぜにしたオリジナルストーリー。主人公の良いとこ取りで波状攻撃をかますのだ。これで相手はもう主人公にメロメロって寸法よ!

 朝日に輝く部屋が夕日に暮れる頃には、冷たい目をしていたシンも姿勢を正し瞳を輝かせていた。ふふふ、巧みな話術をもつ僕にかかればこの程度容易い……。

 

「か、かっこいい!」

「そうでしょ~」

「もういっかい! あのばめんもういっかい!」

「もちろんいいよ、どれ?」

「じん・しゅこーたいごり・だるまーのとこ!」

「おお! わかってるねぇ!」

 

 ご所望は圧倒的な筋肉をもつゴリ・ダルマ―伯爵令嬢に苦戦しつつも、鍛え上げた技術で対抗し勝利するシーンだ。フィジカルに勝り力任せなゴリラと柔よく剛を制す剣士。これは僕からのメッセージ。シン、お前はブンブン丸になるな。

 この話がたいそう気に入ったのかアンコールが凄まじい。挙句の果てに2人の設定にまで興味が出てきたようだ。

 ぶっちゃけそこまで考えてない。ここらで切り上げよう。

 

「どうしん、なりたくなったでしょ」

「うん!」

「よっしゃ! じゃあこれからはがんばってね! ぼくもちからをかすからさ!」

「ありがとうぶらざー! さっそくいってくる!」

 

 そう言って部屋を飛び出していく。今から鍛えに行くのだろう。懐かしい、僕にもあんな時期があった。考えるより先に動く時期が。

 悪いことではないが効率は悪い。僕がそれとなく助言して立派な主人公になってもらおう。

 あぁ、シンが主人公になったらどんな事しようか。どんな主人公になるかは決まっていない、故に無限の可能性を秘めている。

 

「ゆめがひろがりんぐ」

 

 将来的にわかる事だが、ニヤニヤが止まらない僕はここでミスを犯した。

 

「だきょうはゆるされない……」

 

 恍惚のあまり聞き逃してしまった言葉、いつもなら絶対に聞き逃さなかった言葉。 

 

「あいにーどもあぱわー……」

 

 走り去るシンの決意の雄たけびを。

 

「かならずたどりついてみせる」

 

 聞き逃して、しまったのだ。

 

のうきんに!

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