もしも某漫画のテロリストがONE PIECEのあの人に憑依転生したら。

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正義と悪魔

 

「やれやれ、休む暇もありませんねえ……」

 

「黄昏れとる暇があれば手を動かさんか、アーロン!」

 

「これは失敬。お体に触りますよ、人間さん」

 

 偉大なる航路(グランドライン)

 

 この世界は、レッドラインという巨大な大陸によって海は四つに分断されている。

 王たちとヴァイキングによって秩序ある戦争と略奪が繰り返される北の海(ノースブルー)

 

 ギャングたちが支配する西の海(ウエストブルー)

 

 マフィアによる麻薬や汚職が蔓延する南の海(サウスブルー)

 

 そして、比較的安定した平和の象徴、もとい悪党たちにとっては最弱の海、東の海(イーストブルー)

 

 この四つの海のいずれにも属さない魔境。四つの海に属さぬ悪党どもの巣窟。それが、偉大なる航路。

 

 その偉大なる航路において、海賊と、そして海賊を捕縛し世界の治安を守る海兵たちが激闘を繰り広げていた。と言っても、戦闘は小一時間もしないうちに終結を見せた。

 

 海賊船を追跡していた軍艦。鋼鉄の鎧に覆われた、世界最高峰の船が海へと沈んでいく。一方で、悪魔の旗を掲げる海賊船は荒れ狂う荒波をものともせずにその存在を確かなものとしていた。

 

 常識で考えれば、海賊が正規軍に敵うはずがない。働き手になれず故郷を追われた『悪党』の群れが、『正義』に勝てるはずもない。

 

 しかし、海の上は常識が存在しない。海は無慈悲で、ただ力だけがものを言う世界。一般論など通用しないほどに非常識なものだったのである。

 

「……くっ……離せっ!海賊に命を救われるなどあってなるものかっ!!!」

 

「別にあなたを助けたくて助けている訳ではありませんよ。船長の方針でしてね」

 

「ニュー!!俺たちゃ死にたい人間に構うほど暇じゃあねぇっ!アーロンさん!手を貸してくれ!!」

 

「ええ。いきますよハチ。しっかり受け取って下さいね」

 

 海に沈んだ海兵たちを救助しているのは海賊たちだ。しかし、海賊たちの容姿は海兵たちとは異なる。

 

 青い肌に、ノコギリのような特徴的な鼻と鮫のような牙を持つ巨漢が、セーラー服を着た海兵たちを海中から引き上げる。鮫のような巨漢は文句を言う海兵たちを意に介さず、服でも運ぶように海面から船の上へと放り投げていく。彼の容姿は、一般的な種族である『人間』とはかけはなれていた。

 

 それを受け取る巨漢たちもまた、一般的な人間のそれとは異なる。彼らには普通の『人間』であればあり得ない身体的な特徴を有していた。たとえばアーロンと呼ばれた男と会話したハチという男は、吸盤のついた奇妙な腕が八本もある。よくよく周囲を観察すれば、大きな男たちはいずれも『同じ』ような身体的特徴ではない。一人として、全く同じ身体機能であると断言できるものはいない。

 

 海賊旗を掲げる異様な集団に引き上げられた海兵たちは、戦意を喪失したように縮こまっていた。武器であるマスケット銃は海水に浸かり使い物にならず、所持していた刀はアーロンという男に奪われている。

 

 

 

「くっ……海賊風情に……!!」

 

 それでも、女海兵の顔には戦意があった。その背中には、『正義』の二文字がある。海賊から市民を護るという使命を帯びた海兵が、海賊相手に虜囚の辱しめを受けるなどあってはならない。ましてや助けられるなど論外の極み。

 

 鍛え上げた指先にすべての筋力を集中し、一人でも多くの海賊を道連れにせんと立ち上がろうとした女海兵はしかし、それを見かねた海賊の一人によって、その指先を跳ね返された。

 

「うっ……ああっ!!指があっ!!」

 

 人体を貫通するほどの勢いと、そして威力を持った必殺の一撃。それは青肌の巨漢容易く受け止められた。青肌の巨漢は、女海兵がやったことを己の掌で再現してみせた。つまりは鍛え上げた筋力を掌の一点に集中し、女海兵の一撃に対して完璧に合わせてみせたのである。

 

 助走をつけて加速した女海兵の一撃を、その金髪の男は容易く受け止めてみせた。金髪の男が武術に関して深い見識があることは間違いない。二人の間には隔絶した差があった。

 

「指銃か。全身の筋力を一点に集中するのは見事じゃが、指ではなく拳でええと思うがのう」

 

「流石はジンベエさんですねえ。海軍士官を瞬殺とは」

 

「お主ものう、アーロン。軍艦を沈められたのは大きいわい。無駄な戦闘でタイのお頭を困らせるわけにもいかんしのう」

 

 特徴的な鼻を持つ男と、金髪の男は女海兵を含めた海兵たちに手錠をかけていく。指を折られてなお女海兵の顔には戦意があったが、その部下は心が折れていた。自分達の中で有数の力を持つ士官が敗北したことは、すなわち今の自分達では海賊に勝てるはずもないということだからだ。この時代、特に軍人は強者ほど高い階級を持つことがほとんどだった。

 

「命乞いはしない。いっそ一思いに殺せっ海賊め!!」

 

「おやおやいけませんよ暴れては。お体に障りますし、医者の手間も増えてしまいます。施しを受けることが気に食わないのであれば、我々より強くなってからにして頂きたいものです。ねぇ、ジンベエさん」

 

「海賊が海兵から施しを受けるなどあり得んがのう。アーロン、タイのお頭に代わってお主が話をせえ。わしはコアラの様子を見てくる」

 

「ええ。この騒ぎで起こしてしまったかもしれませんねえ……」

 

 軍艦から救助できた海兵たちを見渡し、腕を組んだまま動かない大頭に代わり女海兵と話をつけたのは、アーロンと呼ばれた方の男だった。

 

「はじめまして海兵の皆様。よろしければ、あなた方の名前を教えていただけますか?最寄りの島につき次第あなた方は解放させて頂きますが、名を知らぬというのも不便でしょう」

 

 アーロンの問いに、海兵たちは階級が上の女海兵に視線を集中する。まともな軍隊ならばこう言った場面で下士官や一兵士に発言は許可されない。それはその場の最高責任者である女海兵の役目なのだ。

 

 なおも口を開かない海兵たちに対して、勝者の側である男はさらに歩み寄った。それは敗者である海兵たちにとってこの上ない屈辱であっただろうが。

 

「……ああ、これは失敬。私としたことが、自己紹介が遅れていました。私の名を知らずに名を名乗れというのもおかしな話ですしね」

 

「海賊に名乗る名などない……!」

 

「我々を魚類と呼ばず、海賊と呼んでいただけることに感謝いたしますよ。申し遅れましたが私、『アーロン』と申します。以後、私のことはアーロンとお呼びください」

 

 青い肌を持ち、ノコギリのような特徴的な鼻を持つ男は、そう言って丁寧に腰を折った。海賊らしからぬ丁寧な礼に何人かの海兵たちは思わず礼で返しそうになり、女海兵から叱責を受けていた。そんな様子を見て、甲板に上がった海賊たちは朗らかに笑っていた。

 

 



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