魔王と魔王 作:一般龍人族
ハジメ・イズ・マオウ2019 ①
何でだ? どうしてだ?
僕は、王の筈なんだろ? なのに、どうしてこんな目に?
みっともない声を上げながら、無くなった左腕の付け根を押さえる。それでも、血が止まることはない。
どうして、こんな————。
◇
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ」
瞑っていた目を開いて、周りを見渡していた時、突如老人が現れてそう告げた。
「あ、貴方は……」
「私は聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、よろしくお願いいたしますぞ」
「よ、よろしくお願いします……」
天之河光輝からの質問に対しイシュタルと名乗る老人。
「突然のことで混乱しておられるでしょう。私に付いてきてくだされ」
イシュタルがそう言って歩き出し、ハジメ達は彼に付いていくことになった。着いた先は長テーブルと幾つもの椅子が置かれた部屋であった。
その後、席についたハジメ達の前にメイドが現れて、飲み物を運んできた。礼を言った後、何人かはそれを飲む。警戒をしてる人に対しては、メイドが「毒などは入っていませんので、ご安心を」と言っていた。それで半信半疑ながらも飲んだ。
「さて、少しは落ち着いていただかれたでしょうか? それでは、事情を説明致しましょう」
それから、説明は始まった。
この世界、トータスには人間族、魔人族、亜人族なる三つの種族が存在していた。人間族は北一帯、魔人族は南一帯、亜人族は東にある樹海の中で暮らしていた。
このうち、人間族と魔人族は長い間争い続けていた。魔人族は個々が持つ強い力で、人間族は数によって対抗していた。
戦力は拮抗し、大規模な戦争はここ数十年起きていない。しかし、魔人族が魔物を使役し始めたのだ。魔物は動物が魔力をその身に取り入れ変化したもの、らしい。様々な能力を使い、厄介な害獣だという。
本来、魔物は使役できても1、2匹だという。しかし、その常識が覆されてしまった。
今まで数で対抗していた人間族に同じく数で対抗しはじめた魔人族。人間族のアドバンテージが崩され、危機に陥ってるという。
「あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間族が————」
「ふざけないでください! 結局、この子達に戦争を————」
「俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が————」
イシュタルと愛子が何かを話しているようで、その後に生徒達のざわめく声や光輝が何かを言う声もあったが、ハジメの耳にそれは届いてなかった。
(これって……僕がやってたゲームの世界にそっくりじゃないか?)
この世界は自身がやっていたゲームに似ている。イシュタルの話を聞いてそう思っていた。
やっていたのはコンシューマーゲームで、タイトルは『ブレイブ&キング』だった。勇者の視点で遊ぶブレイブモード、魔王の視点で遊ぶキングモードが内臓されている。
そのブレイブモードのストーリーの流れと今の状況が似ていたのだ。
ちなみにキングモードの方は、とある村の少年がひょんなことから力を手に入れ世界を支配する魔王となるストーリーだった。
つまり、自分はキングモード、もしくはブレイブモードの主人公枠なのかもしれない。王になると言われたが、勇者でも悪くはない。
色々話が纏まったのか、他の面々が立ち上がり移動を始めた。ハジメもそれに気づいてひとまず移動することになった。
◇
その日は色々な所を案内された。
自分達が召喚されたのは"神山"なる場所で、聖教教会本山らしい。で、山の麓に"ハイリヒ王国"が存在する。
移動してハイリヒ王国に着いた時、まず案内されたのは王宮だった。そこで国王と王妃と王子と王女とあった。
王妃はルルアリアで、王女はリリアーナというらしい。国王と王子と名前は興味が無かったので覚えていない。後は騎士団長とか宰相とか高位の人物を紹介された。
更にその後は晩餐となった。ご飯を食べてる時に、王子が香織に話しかけていた。それにハジメは軽く舌打ちをした。
(クソガキが……)
後は衣食住が保証されてることと訓練をしてくれる教官達の紹介があった。
ご飯を終えた後は、各自に用意された一室で就寝することに。ハジメはベットに横たわった。
ついに明日は訓練だ。
(大体こういうのは、僕がチートパワーを発揮してクラスの奴らを驚かせるパターンだ。僕に王の素質があることを気づかない間抜けどもに力を見せつけてやらなきゃ)
口角が吊り上がって行くのを感じる。
もしも自身の力に檜山とかが嫉妬してきたら、その時はチートパワーで軽く絞めあげてやろう。この世界の主人公の偉大な踏み台or肥やしになってもらわないとね。
その後、今日の疲れと夜ご飯を食べたこともあり、眠気に襲われてそのまま目を閉じて睡眠に入った。
◇
翌日、訓練が始まった。
訓練用の服に着替えたハジメ達は訓練所に集まっていた。
「改めて自己紹介だ。俺はメルド・ロギンス。王国の騎士団の団長を務めている。よろしくな。ああ、団長だからといって固い感じで接する必要はないぞ? 気楽に接してくれ」
自己紹介なんてクソどうでもいいから早く訓練を始めろよ〜僕のチートパワーを皆に見せつけたいんだよ〜、なんてことをハジメは考えていた。
ハジメは昨日の話を思い出し、どうやら自分達は大きな力を手にしているらしい。ということは、自分はチートパワーを持ってることは確定してるのだ。
「よし、配り終わったな? それはステータスプレート。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」
ハジメはメルドの部下から配られた銀色のプレートを見つめていた。
プレートの一面には魔法陣が刻まれており、そこに血を垂らすことで所持者の登録が完了。ステータスオープンと念じれば表に自身のステータスが表示されるという。
その後の説明によれば、プレートはアーティファクトという魔道具らしい。
アーティファクトとはかつて神やその眷属達が地上にいた神代に作られた強力な力を持つ物らしい。現代では再現が難しく、このステータスプレートも量産はされているが、それも別のアーティファクトのおかげだという。
説明を受けて、ハジメを含めた生徒達は指先に針を刺して浮かび上がった血を魔法陣に擦り付ける。
すると、プレートに文字が浮かび上がった。
自身の名前と年齢と性別とレベルが一番上に。レベルは1だ。
その下には"天職"という文字の横に"錬成師"と書いてあった。
"技能"の欄に錬成・言語理解があった。
他の欄には文字の横に数値が書いてあった。
(…………なんか、低くないか?)
しかし、結構低めのように思える。いや、低めに見えてこの世界基準では高い方なのかもしれない。多分そこはゲームと仕様が違うんだ。王になる自分が低いはずがあるまい。
その後、レベルやステータスについて説明があった。
レベルはステータスの上昇と共に上がるらしく、経験値制ではない。
ステータスというのは日々の訓練で上昇し、魔法や魔道具で上昇もできる。魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなるという。魔力が身体の能力を補助してるのではないかと考えられてるらしい。
次に天職の話があった。曰く、それは才能であるらしく、書かれている技能と連動していてその領分では大きな力を発揮するらしい。
天職は戦闘系と非戦系に分かれていて、どちらも持っている者は希少らしい。生産職は持っている者が多いのだとか。
とにかく、自分は錬成という能力の才能があるらしい。
(錬成は……多分アレだな。あの漫画みたいに武器を作ったり地形を操るやつだな。あの漫画の主人公よりも強い感じかもしれない)
あの漫画を見ていて思っていたが、わざわざ敵の目前でしゃがみ込んで地面に手を当てるなんて、隙を作る自殺行為だろう。間抜けなやつだなあと読んでいて思ったことがある。多分、自分がやるとしたら例の主人公の父親みたいに足でトンとやるだけで錬成とかできるのかもしれない。
「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は————くらいだ。まぁ、お前達ならその倍は高いだろうな! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」
(…………は?)
メルドのステータスの平均を聞いて、目を見開いた。何せ、自分のステータスの数値はその平均のそれだったからだ。
呆然としてるうちに光輝がメルドへ報告に行っていた。
「ほお~、流石勇者様だな。レベル1でこれか。頼もしい限りだ!」
「いや~、あはは……」
光輝のステータスは自分よりもかなり上だった。褒められていた本人は照れていた。
その後、他のクラスの連中も報告に行き、皆高めのステータスで、戦闘系の天職だった。
(…………なんで、僕だけこんな低スペックなんだ? は? 僕には、力が手に入るはずじゃ……)
「最後はお前だ! さ、見せてみろ!」
汗をかきながら焦るハジメ。その時に、メルドがやってきた。
「あ、いや…………その…………」
ハジメはしどろもどろとなるだけで、プレートを見せようとしない。
「? どうしたんだ。何かあったのか?」
メルドは首を傾げる。
「あ……何でも……何でもないです……」
ハジメはおずおずとプレートをメルドに渡した。
(いや……大丈夫だ……数値は低いけど天職自体はすごいのかもしれない……)
プレートを確認したメルドは、直後に眉を顰めていた。
「ああ、その、なんだ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶するときに便利だ。言うなれば非戦闘系……生産職だな」
歯切れ悪そうに説明し、プレートを返すメルド。非戦闘? 戦うことが、出来ない?
その時、後ろから檜山がニヤつきながら歩いてきた。やめろ、来るな。気色悪い。今お前とは話したくもないんだよ。さっさと消えろよ。
「おいおい、南雲。非戦系か? メルドさん、その錬成師って珍しいんっすか?」
「……いや、鍛治職の大体は持っている。国お抱えの職人は全員持っているな」
「おいおい、南雲~。お前、完全にお荷物じゃねぇの〜? ちょっとステータス見せてみろよ。天職がショボイ分ステータスは高いんだよなぁ~?」
檜山は完全に脱力状態のハジメからプレートを取り、その内容を見た。
「ぷっ! お前平均じゃねーか! 完全にお荷物確定だなこりゃ!」
「異世界に来てまで寝る気かよ〜? 何処までやる気ねェんだ〜?」
檜山と取り巻きどもがバカみたいに笑い出す。頼むからこの場から消えてくれ。
「檜山くん! 人のことを笑っちゃダメですよ!? プレートを返してあげなさい!」
「ええ? ……ああ、はいはい」
彼らの教師である愛子から注意されて、檜山は未だニヤつきながらもハジメにプレートを返した。
「ま、低スペックなのも日頃からだらけてるツケが回ってきたんだろ。だとしたら自業自得だな」
龍太郎が呆れたような視線を向ける。自分が高スペックだからって良い気になりやがって。
「気になったんですけどメルドさん。南雲くんは非戦闘ですけど戦闘訓練に参加しないといけないんですか?」
「……参加はしてもらう。ここじゃ危険な場所や人間も存在する。最低限、身を守るためにも護身術を身につけたり、ステータスを上げるべきではあるからな」
「そうですか……」
香織からの質問にメルドはそう答えていた。
「まあ……南雲くん。ステータスが低くてもそう落ち込まないで、一緒に頑張ろう?」
「香織の言う通りだ。今までのようにだらけずに真面目に訓練して、身体を鍛えるべきだ」
香織はまだしも天之河、お前は黙れ。見下すような目線で僕のことを見てくるなよ。
(……焦るな、僕。今はまだそういう覚醒の時期じゃないんだ。多分良い感じのイベントが起こって、その時に僕のチートパワーが覚醒するんだ。そうに違いない)
その時は今に見ていろ。見下した奴らを全員ボコして笑い者にしてやる。
tips:『ブレイブ&キング』
ハジメの世界に存在するコンシューマーゲーム。勇者視点のブレイブモード、魔王視点のキングモードが存在する。それぞれのモードで育てたキャラクターでオンライン対戦も可能。
ブレイブモードは異世界に召喚された少年が世界を救う勇者として戦うストーリー。最終的に魔王を討ち倒す。
キングモードは少年がひょんなことから力を手にし、世界を支配する魔王となるストーリー。最終的に勇者を打ち倒す。
そろそろソウゴくんの話を見せろって人〜!
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は〜い!
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ハジメの話を続けろ〜!