魔王と魔王   作:一般龍人族

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ショボボボン!


ハジメ・イズ・マオウ2019②

 約二週間の時が経った。

 

 訓練してもステータスは周りと比べて少ししか上がらず、チートパワーが手に入るようなそれらしいイベントも起きない。その上、魔法の適性もないのだという。

 

 例の錬成も鉱物の形を変えたりくっつけたり加工できるくらい。後は例の漫画のように落とし穴や出っ張りを作ることは出来るし規模も大きくなっているが、生成の速度は遅いので攻撃に転用できる気がしない。作ってる隙を狙われて死ぬのがオチだ。

 

貰ったのもアーティファクトではなく錬成の魔法陣が刻まれた手袋だけ。

 

 そう言うわけだから、訓練をサボって図書館で暇つぶしに本を読んでいた。やってたゲームとマップが一緒なのかとか、ゲームに登場していた種族がいるかとかを確認するためだ。

 

(……ま、ほぼ一緒だね。チートパワーを手にして亜人ハーレムとかも作ってみたいんだけど……)

 

ハジメは自身の手を見る。

 

(クソッ……こんなはずじゃないだろ……早くこいよチートパワー……)

 

自身が雑魚なおかげで檜山からは馬鹿にされる日々。それを香織や雫、愛子が咎めるなら良いが、天之河が咎めるのは屈辱であった。あんな奴に助けられるなんて真っ平ごめんだ。

 

 そんなこんなで、ハジメは光輝や檜山に対する愚痴、自分の待遇に対する不満を脳内でグダグダと垂れ流しながら、図書館を出た後に行った訓練も適当に済ましていた。

 

 そんな彼にとって、吉報が入った。

 

「明日から、実戦訓練の一環としてオルクス大迷宮へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まぁ、要するに気合入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! では、解散!」

 

 訓練を終えた後、メルド団長がそう告げた。

 

 「非戦闘ではあるが、魔物との戦闘にも慣れてもらいたい」、というメルドの言葉からハジメも王都外での魔物との戦闘訓練を行なっている。好戦績を上げられてはいないが。

 

 話を戻すが、オルクス大迷宮。それは数多の階層からなるとされる文字通り迷宮である。階層が深くなるにつれ、強力な魔物が出現していく。冒険者や兵士の訓練としても使用されている。

 

(これは……チャンスだな)

 

 ハジメの記憶の限りだと、オルクス大迷宮に相当するステージには確か"ベヒモス"という魔物がいた筈。そのベヒモス戦でもしかしたら……チートパワーが発揮するかもしれない。

 

 そんな期待に彼は胸を躍らせる。皆が強力な魔物の脅威に打ちひしがれ、あの天之河も腰を抜かして情けない姿を晒してる時に僕のチートパワーが発揮……うん、最高のシチュエーションだな。

 

「ハジメ、一応お前にも行ってもらう。安心しろ、強い魔物達は俺やコウキが相手をする。お前は弱めの魔物と戦えば良い。俺の部下達も援護につけておくからな」

 

 メルドが不要な気遣いをする。そんな心配をしなくても、魔物なんて僕が全員蹴散らしてやりますよーっと。

 

◇◇◇◇

 

 その日のうちにハジメ達は宿場町"ホルアド"へ着いた。ここはオルクス大迷宮へ挑む者達が拠点にする場所である。王国直営の宿へ泊まることになる。

 

 夜、ハジメは自分の部屋のベットに寝転がっていた。遂に明日、チートパワーが覚醒するかもしれないと思うとニヤつきが隠せずにいた。ちなみに、部屋は基本的に二人用であるのだがハジメは一人だけであった。本人的には気楽でいいが。

 

 メルド曰く、明日行く迷宮は二十階層まで進むらしい。そこで何もなかったら覚醒イベントはもう少し先ということなのだろう。

 

◇◇◇◇

 

「〜♩」

 

 白崎香織が鼻歌を歌いながら廊下を歩いていた。部屋に戻ろうとしているのだろう。

 

「ご機嫌だな」

 

後ろから声をかけられて振り返った瞬間————頭を掴まれた。

 

「ひっ!? あ、貴方、誰…………」

 

「悪いが、魔王様の側室になってもらうぞ?」

 

「う!?」

 

 掴んでいる手から何か黒いエネルギーを白崎の脳に流し込まれる。

 

 脳が作り変えられるような痛み。自分が自分でなくなるような感覚。何故か、こんな時に南雲ハジメのことが思い浮かぶが、ただのクラスメイトでしか無いはずの彼を考えると胸が熱くなるような————。

 

「終わりだ」

 

「………………ぁ」

 

「道化の盛り上げ役になってくれよ? ヒロインサマ」

 

 目の前にいる人物はあっという間に消えた。

 

 意識が途切れていた白崎は……覚醒した。

 

「あれ? 何だっけ………………」

 

 さっきまで何があったか思い出すことができない。まるで、その部分だけハサミで切り取られたような。

 

「……………………でも」

 

南雲ハジメのことが、頭に浮かんだ。

 

「…………好き…………」

 

 南雲ハジメのことが愛しくて愛しくて堪らない。彼の仕草の一つ一つ、一挙手一投足にドキドキする。

 

「会いにいかなきゃ……」

 

 今すぐハジメに会いに行きたい。そう思うと居ても立っても居られず、彼の部屋へ向かった。

 

◇◇◇◇

 

こんこん、と扉から音が鳴る。

 

「ん?」

 

 誰だろうかと、ハジメは起き上がる。まさか、檜山……。

 

「な、南雲くん。起きてる? 白崎です、ちょっと良いかな?」

 

 良いですよー! すごい良いですよー!

 

 ハジメは扉を開いて、冷静を装いながら言った。

 

「良いよ、入って」

 

 あれだね! これはあれだね! 実は好きでした! お付き合い! そしてベッドイン! しゃあっ! 完全にエロゲの展開キタァ!

 

 て言うかぁ? 白崎の格好も純白なネグリジェにカーディガン羽織っただけだし? 完全にそれじゃん!

 

「それで……何のようかな?」

 

「少し、南雲くんと話したくて……迷惑だったかな?」

 

「全然。大丈夫だよ?」

 

「良かった……」

 

 と、僕はお茶を淹れ始める。媚薬効果のやつがないかなと思ったがない。

 

 白崎は紅茶を礼を言って受け取り、そのまま口につけた。飲んだ後、ちょっと唇が艶っぽい。思わず唾を飲み込む。

 

「それで……話って何かな?」

 

 告白ですよねー! 実は好きだったんですよねー! さ、早く言え!

 

「え、えっとね……その……明日の迷宮だけど、南雲くんには待ってて欲しいの」

 

「…………はあ」

 

 ちっ。

 

 ちげぇのかよ。ベッドイン出来ないのかよ。クソ。

 

「メルドさんは私が説得してみるから!」

 

「いやー……僕一人だけ留守番ってのは……」

 

 チートパワー覚醒するかもだし。

 

「…………何だかね、嫌な予感がするの。実はさっき少し寝て、夢を見たんだけど……夢の中で、南雲くんが暗闇の中に消えちゃう夢を見たの」

 

「そうなんだ……」

 

 夢の中に出てくるくらい好きってことなのか? 遠回しな告白か? これは? それだったらそれでストレートにそう言えよ。

 

 いや、ここで好感度貯めとかないと後に響くかもしれないし、話してやらなければ。

 

「夢は夢だよ、白崎さん。今回はメルド団長達がついているし。僕は弱いからそんな夢を見たんじゃないかな? 不安にならなくても、僕は生きて帰るさ。でも、それでも不安だというのなら……」

 

「…………なら?」

 

「守ってくれないかな?」

 

「え?」

 

 よし、ここからええ感じのことを言うぞ。何かのゲームのセリフのパクリだけど。

 

「白崎さんは〝治癒師〟だよね? 治癒系魔法に天性の才を示す天職。何があってもさ……たとえ、僕が大怪我することがあっても、白崎さんなら治せるよね。その力で守ってもらえるかな? それなら、絶対僕は大丈夫だよ」

 

 と、白崎はしばらくハジメを見つめる。今好感度アップの最中だろうな。

 

 しばらくして、香織は頬を赤らめて微笑を浮かべた。

 

「……そうだね。分かった。私が南雲くんを守るよ」

 

 よし、好感度アップ確定ィ。このまま上げてけば確実にヤレるわ。

 

「それと…………じ、実はね、南雲くん…………私、前から南雲くんと仲良くなりたくて、もっと知りたくて、いつも色々話し掛けたりしてたんだ。南雲くん直ぐに寝ちゃうけど……」

 

「あはは、ごめんね」

 

 ほーらやっぱり僕のこと好きだったんじゃん?

 

 それからしばらく雑談した後、香織は部屋に帰っていった。それから僕はベッドに横になった。明日、チートパワーが覚醒するのが余計に楽しみになりながら就寝した。

 

◇◇◇◇

 

「あ〜……恥ずかしくてつい嘘言っちゃった」

 

 本当は「ただ話したかっただけ」って言おうとしたけど、恥ずかしくなり、つい迷宮に行くのをやめて待ってて欲しい、という嘘をついた。

 

 いや、嘘とは言ったが全部が嘘では無い。行ってほしく無い思いはあった。大好きな彼が危険に冒されるなんて耐えられない。結果、止められず行くことになったが……彼からあんな言葉を貰ったのだから仕方がない。

 

 それに、結果的に色々話せたからまあ良いだろう。

 

「これで仲良くなったら……告白、とか」

 

 それでお付き合いを始め、男女の交わりをし、ゆくゆくは結婚————。考え出すと止まらない。

 

「…………えへ、えへへへ」

 

 白崎香織は、非常に幸せそうな笑みを浮かべた。

 

 その好意が植え付けられた偽物だと、知ることもなく。

 

◇◇◇◇

 

 翌朝、ハジメ達はオルクス大迷宮の中にいた。

 

 メルドを先頭に隊列を組んで歩いていると広間に出た。やがて、壁の隙間から毛玉の魔物達が現れた。

 

 その魔物はネズミのような姿で、二足歩行のタイプだが上半身は筋骨隆々といった感じで発達した筋肉が備わっていた。その姿に、主に女子は生理的嫌悪感を抱いているのか顔を引き攣らせていた。

 

「あれはラットマン。すばしっこいが大した敵ではない。油断は禁物ではあるがな。まずはコウキ、シズク、リュウタロウが前に出ろ。カオリとエリとスズは魔法による援護を。他は下がっているんだ」

 

 まあ、言ってしまえば彼らの勝利だった。前衛である光輝達は敵を蹴散らし、魔法を使う香織達は残りの魔物を焼き尽くす。魔物が全滅するのはあっという間だった。

 

 それからも階層を進めてゆき、チームも決めて戦闘を繰り返していった。騎士団達のサポートもあり、サクサクと進んでいった。まるで流れ作業のようだった。

 

 一方でハジメは、騎士団のサポートを受けながら敵を倒していた。しかし騎士団が弱らせてるとこを倒すのが殆どで、ハジメの活躍は少しだけである。

 

やがて一行は二十階層に到達した。そこから先の二十一階層に辿り着けば今回の訓練は終了。

 

 その階層にもやはりというべきか魔物がいた、ゴリラっぽくてしかも大きめ。そいつも天之河が倒した。以上。

 

 何が好きでアイツが活躍してるのを見なきゃならないんだろう。僕が欲しいのは自分の活躍なんだ。

 

「あれ、何かな? キラキラしてる」

 

 香織が視線を向けた方に、一行も視線を向けた。壁の上の方に青白い鉱石が出ていたのだ。

 

「ほう、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ、珍しい」

 

 グランツ鉱石とは宝石の原石となるものである。何かしらの効能はないが、その美しさから貴族の婦人や令嬢に人気で加工してアクセサリーとして送ると喜ばれるという。求婚の際にも選ばれるという。

 

「フェアスコープで確認しましたが、罠は見受けられません」

 

 フェアスコープとは、簡単に言えば迷宮に仕掛けられた罠を確認する為のアーティファクトである。

 

「じゃ、回収しても大丈夫だよな!」

 

 自分が回収して女子からの好感度を高めようかと考えていた時、そう言った檜山が崩れた壁を登っていく。

 

 邪魔しようにも檜山は軽戦士の天職ゆえから素早く、メルドが後ろで「気をつけろよ〜」と言っているうちに鉱石の元へ辿り着きそれに触れていた。

 

 しかしその時だ。

 

「は?」

 

 グランツ鉱石から魔法陣が出現した。檜山が間抜けな声を出している。

 

「なっ……まさか、トラップか!? そんな馬鹿な……いやそれより! 皆、撤退だ! ここから逃げるぞ! ダイスケも!」

 

 そう言われてハジメを含む生徒達が逃げ出し、檜山も慌てて鉱石から離れて駆け出すが……間に合わなかった。

 

 ハジメ達は光に包まれた。それが晴れたのはすぐのことで、その時には先程とは別の場所にいた。

 

 そこは巨大な石造りの橋の上だった。罠によって転移させられたようだ。橋の下には底の見えない闇だけが見え、落ちたらひとたまりもないだろう。そして、ハジメ達は橋の中間辺りにいる。

 

「くっ……! お前達、立ち上がったらあの階段まで行くんだ! 急げ!」

 

 その号令によって一同は動き始めるが、事態はそう上手く行かない。橋の両端に、魔法陣が現れた。やがてそこから魔物達が出現した。

 

 階段側の方には、人型だが骸骨だけで動いてる魔物の大群がいた。魔物の名はトラウムソルジャー。剣を携え、ワラワラと増えている。

 

 もう片方の方は、巨大な黒い魔物がいた。体長は十メートルほどはあり、見た目はかつて存在したトリケラトプスを思わせる。

 

「まさか……ベヒモスなのか!」

 

 メルドが目を見開き驚愕する。他の生徒達も同じように驚愕、もしくは怯えるような目をしていたが……ハジメだけは違った。

 

(キタキタキタキタァ〜…………! ついにここで僕のチートパワーが発揮する時が来た……!)

 

 考えた通り、ここにはベヒモスがいた。やはりゲームと同じだ。ついに出番がやってきたのだ。これはイベント戦なのだろう。

 

 周りは完全に混乱していて、ベヒモスの突進を騎士達が魔法を使って障壁を張って防いでおり、生徒達は逃げる為にトラウムソルジャーと戦っていた。

 

「光輝! 早く撤退するんだ!」

 

「そんな! メルドさん達を置いてはいけません!」

 

「気持ちは嬉しいがな! しかし見ろ! 他の者達が完全に混乱状態だ! お前が彼らを纏め上げて率いるんだ!」

 

「…………分かりました。すいません、行きます!」

 

 光輝と雫と龍太郎はトラウムソルジャーの下へ走り出し、戦闘を始めた。

 

「ぐっ!」

 

 しかし、その後ろでベヒモスが障壁を破ってしまった。その余波で、メルドと数人の騎士達が吹き飛ぶ。ベヒモスはその間に彼らに攻撃しようと動く。

 

(チャーンス)

 

 それを見たハジメはメルド達の下へ走り出す。

 

 そして、彼らの前に出た。

 

「!? 小僧、下がれェ!」

 

「錬成!」

 

 ハジメは手を付いて叫ぶ。そして……橋が錬成によってベヒモスの足を拘束する岩となった。

 

「なっ……」

 

 メルドはその光景に驚いていた。当然だ、メンバーの中で弱かった男がこんな芸当をやり遂げたのだから。

 

(ここでチートパワー覚醒キタァ! これで帰ったら立場が昇進すること間違いなしだ!)

 

と、足止めしてるハジメはそんなことを考えていた。

 

「さ、団長さん達は今のうちに下がってどうぞ! 足止めしとくんで!」

 

「え? あ、ああ……」

 

 メルドは未だ驚きながらも、光輝の下へ合流する。

 

「コウキ!」

 

「メルドさん! どうにか数を減らせました!」

 

「よし! 今はハジメがベヒモスを足止めしている! 階段前を安全地帯にして魔法で撃つぞ!」

 

 ハジメはチラッと後ろを見る。遠めではあるが、クラスメイト達は驚いている。

 

(ふっ……これで僕の価値をあいつらも理解出来たでしょ)

 

そんなことを考えてる時……ピシッ、と音がした。

 

「え?」

 

 見上げると、ベヒモスを拘束する土にヒビが入っていた。錬成をしてみるが、何故か補修できない。その間にもヒビは広がる。

 

「すぅぅぅぅぅぅっ…………逃げよ」

 

 と、深呼吸したハジメが走り出してちょっと経った後、完全に割れる音がした。それで、クラスメイト達が魔法を撃ち始めた。

 

(くっ……美味しいとこは持っていかれるが仕方ない。昇進は間違いないだろうし)

 

 そうだ。帰ったら檜山はボコってやろう。罠は確認できなかったらしいけど、実質アイツのせいじゃん? だから責任は取らせ————。

 

「がっ!」

 

 と、考えてたら腹に何かが殴るようにぶつかって吹っ飛んだ。

 

(は? え?)

 

飛んできたのは確か火魔法。てことは、クラスメイトの誰かが撃った? クソ、一体誰…………。

 

 とか考えてたら、橋が大きく揺れて崩壊を始めた。そして、それに巻き込まれた。ベヒモスの悲鳴が聞こえる。

 

 思わず手を伸ばしながら対岸を見ていると、クラスメイトやメルド達は悲痛な表情でハジメを見ていた。

 

◇◇◇◇

 

 とある人物は、浮遊しながらその光景を見ていた。

 

「さて……お膳立てはこれでいいか……。精々、道化の魔王になるために頑張れよ? 南雲ハジメ」

 

 男は、そう言って霧散した。




白崎氏が同人誌で見かけるような展開に遭っている……! 

本人と彼女のファンに!

ごめんね!!!!!

そろそろソウゴくんの話を見せろって人〜!

  • は〜い!
  • ハジメの話を続けろ〜!
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