魔王と魔王 作:一般龍人族
魔王という名の獣が、生まれ始める。
◇◇◇◇
冷たい。
水が流れる音がする。
意識が浮上し始める。
「何処だ……ここ……」
目覚めたハジメは身を起こして、周囲を確認。そして、自分は水に浸かってることが分かった。
「確か、橋から落ちた後、壁から噴き出てた水に流されたっけな……途中で気絶してたからよく覚えてないけど……」
頭が痛むので抑える。
「…………あの時、火球が当てられた。そのせいで落ちた…………どうせ、檜山辺りがやったんだろ」
檜山はいつも自分にウザ絡みをしてくる。大方、白崎に話しかけられてるハジメが気に入らないからだろう。男の嫉妬なんて醜いものだ。
その嫉妬が膨れ上がって、今回殺人でもしたというところか?
「とりあえず、さっさとここから脱出しないと…………」
まずはそれが最優先だ。脱出しないと檜山に復讐もできない。
「ま、余裕でしょ。僕、チートだから」
さっきの戦いでチートパワーが覚醒してるのは分かった。何故かベヒモスを拘束する岩を補修できなかったが……まあその辺は気にしなくてもいいか。多分バグ的なやつなんだろう。
南雲ハジメのチート活劇はまだ始まったばかりなのだから。
◇◇◇◇
-数分後-
「ぴぎゃあああああああああああっ!」
南雲ハジメは、左腕を失った。
その無くなった腕は、目の前にいる熊の腹の中だ。
あの後しばらく移動した後、兎の魔物と遭遇した。軽く処理してやろうかと考えて錬成を使うが、何故かベヒモス戦の時のような勢いは出せなかった。
『…………あれ?』
そんな間抜けな声を出してるうちに兎が攻撃してきたので、どうにか避けてもう一度錬成を発動するが兎が攻撃してくる方が先だった。
その攻撃も避けた後、突如兎は身体が切りかれた。
その理由は簡単。別の魔物が現れ兎を狩ったからだ。その魔物の容姿は熊のそれだった。
熊が兎を食べた後、ハジメを視線で捉える。
『ちっ、れ…………』
ザシュンッ。
ふと、左腕が非常に軽くなった。まるで、腕そのものがなくなったかのようで。
『……………………は?』
左腕から、血が吹き出していた。腕がなくなったので、その付け根から。
痛い。痛い。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
痛い。
そして……最初の叫び声を上げた。
「ああだ! ううゥ! うううううっ!」
何でだ? どうしてだ?
僕は、王の筈なんだろ? なのに、どうしてこんな目に?
みっともない声を上げながら、無くなった左腕の付け根を押さえる。それでも、血が止まることはない。
どうして、こんな————。
そんなことを考えてるうちにも、熊はハジメの腕を食べていた。
食べ切った後、怯えるハジメの元に迫り始める。
「来るな……来るなぁ!」
そのあとは、ただ必死だった。
壁を何度も錬成して穴を作って、その中に逃げ込んだ。
クマに壁を破壊されるかもしれないと、恐怖にみっともなく怯え、意識を失った。
◇◇◇◇
目覚めた。
喰われた左腕は痛むものの、出血が止まっていた。
時間が経ったからか? と思ったが、辺りの血が乾いてないのでそんなに時間は経ってないはず。
考えていたら、口元に低い天井から落ちてくる雫が来てそれを飲むと身体に活力が戻り始めた。
「…………これのおかげか?」
これを飲むと魔力も回復するようだ。ハジメは水が流れる方に錬成をする。
やがて、ハジメは水源にたどり着く。そこには、バスケットボールぐらいの大きさの青白い鉱石があった。その鉱石が回復効果のある水を垂らしているのだ。
「…………は、ははっ。ラッキー」
ハジメは水を片手だけでかき集めて飲み始める。痛みは収まらないが、先程言った魔力回復や怪我を治す効果があるようだ。
「………………くそっ、くそおっ…………」
ベヒモスの時に発動していたチートは使えず、ただやられるがままだった。兎に、熊に。
腕も取られてその挙句食われてしまい、ハジメは恐怖に屈服してしまった。
「僕は……王のはずだろ……」
◇◇◇◇
ハジメにとって、今どれくらい経ったのかはもう分からない。
ただ蹲り、鉱石の水を飲んで生きながらえるだけだった。しかし、水は空腹感までは消してくれず、その意味でも苦痛を与える。
(どうして僕がこんな目に?)
今の自分がこうなった原因を問う。大きな力を手に入れ、人にちやほやされる華やかな人生を送るはずだった自分がこうなった理由を。
まずは魔物どもだ。あの兎は蹴ろうとして、次に現れた熊は腕を切った挙句それを食べた。
(元はと言えば全部……檜山のせいだ……)
そもそも檜山がらあの鉱石を触らなければこんなことにはなってないし、檜山が火球を撃ってこなければこんなことには。
もっといえばメルドも悪い。フェアスコープが罠を確認できなかった。つまり、故障でもしてたということ。不確認なメルドのせいだ。
天之河も悪い。あいつがさっさとベヒモスを倒してくれれば。それを言えば、龍太郎や他のクラスメイトもそうだ。女はまだしも、男はちゃんとやれよ無能共が。
そしてここにくる前に聞いた謎の声。あいつも自身を騙したんだ。騙してなかったらこんなことにはなってないはずだ。
もう何もかもがクソに感じる。魔物も、檜山も、メルドも、天之河も、他のクラスメイト共も、あの声も、イシュタルや国の連中も、神も。唯一クソだと感じないのは女くらいだ。
「くそ……くそが……なんで……死にたくないぃぃ……」
そこから3日くらい経った。
一度は落ち着いた飢餓感は更に激しくなって襲い来る。痛みは一向に治まらず、ハジメの精神を苛み続ける。
「くそ……死にたくない……うう……助けてくれよぉ……」
死にたくない。ただそれだけ。
それから更に三日が過ぎた。
食事はただ水だけ。寝床は冷たいこの洞窟。身体の匂いも臭い。風呂に入りたい。
そこから二日たった。
「死ね」
自分がこうなった原因は、死ね。邪魔する奴は、死ね。自分を害する奴は、死ね。そいつらは全員、俺の敵だ。
死ね。
死ね。
死ね。
死ね。
死ね。
なら、どうする。
「俺が、殺す」
◇◇◇◇
地面に開いた穴の中で、一匹の2本の尻尾を持つ狼が捕らわれていた。
「へへへ…………」
その穴をのぞみこむのは南雲ハジメ。片手に自前の槍を持っていた。刃の部分が螺旋状になっている。
「悪いなあ、狼。死んでくれや」
ハジメは穴の中の狼を刺し始める。硬い皮膚をしていて簡単には死なないが、何度も突き刺す。
「グルァアアー!?」
狼が絶叫する。皮膚に槍がめり込む。
「痛てぇか? 謝罪はしねぇぞ? 俺が生きる為だ。お前らも俺を喰うだろう? お互い様さ」
それに、こうやって自分より弱いものを痛ぶるのは快感だ。今狼を刺しているのも、檜山を殺すつもりでやっている。
槍が二尾狼の硬い皮膚を突き破った。そして体内を容赦なく破壊していく。断末魔の絶叫を上げる二尾狼。しばらく叫んでいたが痙攣したかと思うと動かなくなった。
「よし、飯確保」
嗤いながら、片手に不自由しながら毛皮を剥がしていく。
そして、飢餓感に突き動かされるように喰らい始めた。
「あが、ぐぅう、まじぃなクソッ!」
硬い筋ばかりの肉を、血を滴らせながら噛み千切り必死に飲み込んでいく。
酷い匂いと味に涙目になるが、ハジメは腹が満たされるので食うのをやめられない。
どれくらいそうやって喰らっていたのか、ハジメの身体に異変が起こった。
「あ? ――ッ!? アガァ!!!」
突如全身を激しい痛みが襲う。まるで体の内側から何かに侵食されているような感覚。その痛みは、時間が経てば余計に激しくなる。
「アゥうううっ!? な、何がっ、うぎゃあああああ!」
激しい痛みにハジメは地面をのたうち回る。
懐から石製の試験管型容器を取り出し、中身の水を飲み干す。例の癒し効果の水だ。効果を発揮し痛みが引いていくが、しばらくすると再び激痛が襲う。
「ひぃぐがぁぁ!! なんで……なおらなぁ、あがぁぁ! あがうっ、助けてぇ!」
その痛みに思わず助けを求める。
身体に激痛が走り、壊れるような感覚。しかし次の瞬間には、体内の水が効果をあらわし体を修復していく。修復が終わると再び激痛がして、修復する繰り返し。
気絶しようにも、水の効果のせいかすることができない。絶叫を上げ地面をのたうち回り、頭を何度も壁に打ち付ける。
しばらくして、ハジメは倒れ込んで意識を失った。
その後、ゆっくりと意識が浮上を始めた。右手を動かし、閉じていた目を開ける。その目で自分の右手を見る。
「何か線が……?」
自分の右手全体に赤黒い線が何本か走っている。それに身体全体を見ても筋肉が発達しているように思える。
あとはステータスプレートの裏側で自分の容姿を見ようとした。プレートの裏は鏡面仕立てになっているので手鏡代わりに出来る。そこには、白髪になっているハジメが映った。
「なんだこりゃ……」
その後、ステータスプレートの内容を確認してハジメは驚いた。
「ステータスが上昇してる……!」
以前の低かったステータスより大幅に上昇していた。レベルも未だ8なのにだ。それと技能にも"魔力操作"と"纏雷"と"胃酸強化"というものがあった。
そのあと、ハジメは技能を試してみた。
まずは"魔力操作"。これはその名の通り魔力の操作が可能で、試しにやってみたら操作した魔力が錬成用の手袋の魔法陣に宿り、詠唱無しで錬成が出来た。
魔力操作は原則不可能であり、出来るのは魔物だけ。その特性を獲得したのだろう。
次は"纏雷"。これは紅い電気を身体に纏わせたり、伝わせることができる能力だ。飛ばすことは出来なかったが。
"胃酸強化"は文字通り。試しに狼の余った肉を雷で焼いて食べてみたところ、先程の激痛は来なかった。
「…………へ、へへっ…………」
ハジメは思わず笑う。死ぬかと思った自分が、ステータスが上昇し、その上新しい技能まで手にしたからだ。
都合よく癒し効果の水が手に入り、それのおかげで肉を食べても無事ですみ、能力を得た。天が自分に味方をしているとしか思えない。
「やっぱり俺は…………選ばれた王なんだ………」
ここから更に魔物の肉を食べれば、色んな能力を手に入れられるかもしれない。そうすれば、クラスメイト共を超えるチートになれる日もそう遠くない筈だ。そうすれば、クソ共を土下座して詫びさせ、女どもにちやほやされるかもしれない。
ハジメは不適な笑みを浮かべ、拠点へ帰還することにした。
◇◇◇◇
-オルクス大迷宮-
「調子はどうだ?」
ハジメが拠点に戻る途中、声がした。素早く振り返って槍を構える。
そこには、黒いローブに黒いフードで顔を覆っているいかにも不審者と言った感じの人物が壁にもたれていた。
「誰だテメェは。何でこんな所にいる? ここには俺以外居ないはずだ」
「そう身構えるな。お前を襲いに来たわけじゃない。俺の声に聞き覚えはないか?」
ハジメに槍を突きつけられながらも、その……声的に恐らく男と思われる人物は手を掲げながら問いかける。
ハジメは己の記憶を探る。はて、こんな奴と会ったことは————。
————力が欲しいか?
————少年よ、お前は王だ。
「——————」
————全てを手にする世界最強の王だ。
————異世界で待っているぞ。
考え込んで俯いていたハジメは顔を上げた。
「………………ああ、思い出した。ここに来る前に俺を呼んだ声か」
「そうだ、覚えていてくれて光栄だよ」
男の表情は窺い知れないが、声色からして笑っているように思えた。
「お前、ここに俺が転移する前に望めば力が手にできるって言ってたよな? お前の言う通りだったよ。魔物を食ったおかげで新しい力を手にした。この調子でどんどん食えば、チートになれる日も遠くはねぇだろうな」
「ほう…………順調なようでよかった。本題に入ろう。今日はそんなお前に、力を渡しに来た」
「……何で今になってだ?」
純粋に疑問だ。渡すならそれこそあの時のベヒモスの所で渡してくれればいい。明らかにピンチの状況でもあったし。
「お前が王に相応しき者になるまで待っていたのだ。今のお前には、王としての資格がある」
そう言われてハジメは面食らう表情をしたが、すぐに口角を吊り上げた。
「お前に、これを授けよう」
男は懐から掌サイズのものを取り出してハジメに差し出した。
「……何だそれ?」
「これはアナザーウォッチ。これを使えば、仮面ライダーの力を使うことができる」
「……仮面ライダー? 仮面ライダーって、あの?」
仮面ライダー。それは全国の子供や大きなお友達が見てるだろう日曜の朝から放送している特撮番組。
ハジメは仮面ライダーを見てはいないが、記憶の限りではCMで現行なのであろうガッチャードというのを見たことがある。後は最初の仮面ライダーである1号や、テレビでよく見る俳優が演じていたものを何個か知ってるくらいだ。
「ああ、そうだ。あの時見せた景色も、仮面ライダーや怪人のようであっただろう?」
そう言われてハジメは思い返す。あの時浮かんだ異形が戦うビジョン。よく思い出したら、それはライダーと怪人のようだった。
「……確かに、言われてみればそうだな」
「話を戻すが、これを手にすれば仮面ライダーの力を得ることができる……さあ、どうする? 取るか取らぬか、お前の自由だ」
「…………信じていいんだな?」
ハジメは目を鋭くして男を問いただす。しかし、その口は笑みを浮かべている。
「ふっ……ああ。騙す真似はしないさ。お前は、王の資格があるのだからな」
男はそう答えた。ハジメはしばらくアナザーウォッチを見つめて、告げた。
「…………良いぜ。その力、貰ってやる」
「…………お前ならばそう言うと思っていた」
ハジメは男からアナザーウォッチを受け取る。初めて手に取るが、どう使えばいいか何となく分かった。
「さあ、今日からお前は」
男の言葉と同時に、ウォッチのボタンを押して丹田の近くに押し当てる。
「仮面ライダーだ」
ハジメの身体の周りを銀色のリングが回転し囲う。そのリングが弾け飛ぶと、ハジメは異形に姿を変えた。
『Zi-O……』
「…………ふふ、ははは! すげぇ、すげぇな。力がみなぎってくる。これなら、アイツらにも負けねぇ。いや、それどころか蹴散らすこともできる!」
ハジメは高らかに叫ぶ。この湧き上がる高揚感を抑えられない。
「気に入ってもらえて何よりだ。それと、こんなのもあるぞ?」
男が手を翳すと、他にも複数のウォッチが現れて目の前に浮かぶ。
「へえ……他にもウォッチがあんのか」
「これは全てお前のものだ。上手く使うと良い」
そう言うと、ハジメの周りにウォッチが集い、回転しながら浮かぶ。
「俺はこの辺りで去るが……良いことを教えてやる」
男は人差し指を立てる。
「この迷宮の中には、吸血鬼の姫が眠っている。じっくりと探せば何処かにいるだろう。そしてここを攻略した暁には、更なる力を手にすることができる。では……再び会おう。南雲ハジメよ」
そう言って男は霧散した。
「…………くっ、くくくっ…………」
ハジメは身体を震わせて笑う。王としてのこの力に悦びを覚えているからだ。
「俺が……最強の王だ……!」
強いのは勇者の天之河なんかじゃない。あのクソチンピラの檜山なんかじゃない。俺だ、俺が強いのだ。仮面ライダーである、この俺が。
ハジメはその力を試すために、手頃な魔物を探すことにした。
◇◇◇◇
魔王という名の獣が、産まれ落ちた。
それは災厄の始まり。混沌の序章。
獣を討つ希望は、もう一人の魔王と勇者に。
tips:仮面ライダー
1971年4月3日から1973年2月10日までに放送された作品のタイトルであり作中に登場するヒーローの名称。毎週土曜19時30分から20時に放送されていた。
2021年9月5日から2022年8月28日までに放送された仮面ライダーリバイスの時点で生誕50周年を迎え、2023年9月3から放送中の仮面ライダーガッチャードが現行である。現在は毎週日曜の9時から9時半までに放送している。
そろそろソウゴくんの話を見せろって人〜!
-
は〜い!
-
ハジメの話を続けろ〜!