愛せるようになりたくて   作:あなたの推しは誰?

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1話 邂逅

 う~ん……先ずはなんと言えば良いのだろうか? とりあえず、今に至るまでを軽く振り返ってみる。

 

 えぇ~と、先ず……僕は転生者である。今生の名前は……蘇芳 哉汰(すおう かなた)。前世の名前は……また、ホームシックみたいになるので思い出さない。……今も少し思い出しただけで気分が落ち込んだ。

 

 はぁ……女々しい自分が嫌になってくる。自己嫌悪してるとあっという間に時間が無くなってしまうので……。

 

 あ~、ダメダメ……はい、カット! カット、ねと自分に言い聞かせる。

 

 ……え〜と、気を取り直して現在、年齢は14歳。今生の両親は事故で帰らぬ人になり、母方の祖父母に養育してもらってる。父方の祖父母は持病と認知面の問題で施設へと行っているので両親の死後は会ってない。

 

 あとまあ、何と言うか……今生の家族よりも前世の家族のほうが好きだし、愛してると言える。だからこそ、事あるごとに比べてしまっていた……料理、箸の持ち方、使い方、酒癖の悪さ、八つ当たり地味た説教等等。

 

 僕がおかしいことに亡き両親も薄々と気がついていたのだろうと思うが、それを確信する前に逝ってしまった。生きていたら今頃はまた別の結果になっていただろうと思う。ただ、僕は今生の両親のことを家族として愛することが出来なかったし、両親もそうだったと思うのだ。

 

 亡き両親は役者であった。ただし、2流と頭に付くが……。そんな両親の影響もあって僕は生まれた時から役者の道を歩まされていた。……なお、赤ちゃんモデルからのデビューである。

 

 両親の死後は一応、フリーではなく……両親と縁があったララライという劇団に籍を置かせもらっている。

 

 演技の上手い先輩や後輩がいるので、ためになることが多い。そう言う意味では恵まれていると言えるだろう。

 

 幸も不幸も合ってこその人生だと思うので、ある意味では釣り合いが取れているのではなかろうかと思う。誰だって幸せではいたいし、不幸についても笑える程度のちょっとした不幸程度でいたいだろう。

 

 買い物に行ったら、その帰りに俄か雨に当たってしまうとかみたいな……そんな程度の。

 

 まあ、何で振り返っていたかというとだ……単純に悩んでいるのだ。……というか、逃避に近い。

 

 というのも……。

 

「あ! 今日はよろしくね、アイです! アイドルやってまーす♪」

 

「あ、どうも……蘇芳哉汰です。今日はよろしくお願いします」

 

 同年齢のアイドルのワークショップの担当なんて聞いてないんですけど!! 助けて! 後輩のカミキ君! あ、いや、ごめん……やっぱり、今の無しで。君が来たら来たで一悶着ありそうだから……何かそんな予感がする。

 

 

●●

 

 

 本格的に始める前に同年齢ということもあって……他の参加者と合わせる前に僕が彼女の指導をすることになった。

 

 てか、結構小柄である。僕の方が頭1つ分背が高い。まあ、それはさて置き……。

 

 アイドルのアイねぇ……顔は……うん、可愛いと思う。将来は美人になりそうだ。売れるかは知らんけど……売れる人は売れるし、売れない人は全く売れない世界だからね。

 

 同年齢のアイドルの担当ということに対して抗議の視線を金田一さんに送ったら、無言でお前なら出来る! って感じのジェスチャーを返された

 

 マジか……。いや、まあ……教えることも勉強になるけどさぁ。同性の方が良かったんじゃないかなあと思うんだよね。少し歳上だけどさ……。もしかして、同性だと当たりが強くなるから別姓が担当なのかなと思ったけど、他を見るけど全くそんなことは無かった。

 

「どうしたの? カナメ君」

 

「惜しい! 哉汰ね。最後の1文字が違った」

 

「あ、ごめんね。私って人の名前と顔を覚えるのが苦手なんだよね」

 

 アハハ、と笑いながら言うアイさん。とりあえず、初対面だし、さん付けで呼ぶようにしよう。声に出す時にも呼び捨てしないように内心でもさん付けを心がける。

 

 それはともかくだ……アイさんの人の名前と顔を覚えるのが苦てってのは、何とも不便なことだと思う。

 

「……大変だね」

 

「あり? 君はそう言うんだ……頑張って覚えろとかは言われた事あるけど。大変だなってのは初めて言われたよ」

 

 思ったことをそのまま言ったらアイさんは不思議そうな感じで僕を見てくる。

 

「まあ、僕も似たようなことあるし。人の名前ではないけど漢字の読み方を教えてもらったのにすぐに忘れちゃって、あれ? ってなったりね」

 

「なるほどね~」

 

「そっちはアイドルだし、歌詞に使われてる漢字が読めなかったら不便でしょ?」

 

「そうだね。かんた君の言う通りだね!」

 

「早速、また間違えてるぞぉ〜。My Name Is 哉汰。OK?」

 

「いや~、ごめんごめん」

 

 てへっ、と可愛いらしくウインクしながら謝ってくるのだが、何と言うか……こう、あれだ、計算された何かがあるように感じられる。アイさんがアイドルだからであろうか?

 

 まあ、良いか……気軽に会話出来てるし、これなら普通に話す分には問題無さそうかな? 無いよね? 今一、自信が無いけど……。当たって砕けろの精神で頑張りたいと思う。

 

 転生してても、どうにもならないことのほうが多いんだし。とりあえず、これも得難い経験だと思おう。……現役アイドルの担当をするだけでも十分に得難い経験なのでは? 今更ながらそう思った。

 

「じゃあ、気を取り直して……始めようか」

 

「はい、お願いします!」

 

「こちらこそ、何か説明でわからないことがあれば都度聞いてね」

 

「はーい!」

 

 何とも緩い感じで僕のワークショップが始まった。

 

 

●●

 

 

 アイドルだし、演技に関わる機会はそんなに多くないと思い専門用語とかは緩っと説明してから、実演に入る事にしたのだが……。

 

「…………え~と、駄目だった?」

 

「いやいや、演技は初心者だから別にいいとして……あれだね。見せるのが上手いね! ライブとかでステージの上に立った経験があるし、アイドルだからかな? 表情の作り方が上手いよね。これで演技力が上がれば女優にもなれるんじゃないのかな」

 

「……そんなに良かった?」

 

「良かったよ。嘘ついてどうするのさ? 良いものは良い……それでいいじゃん。アイドルとしての経験がここで役立ったんだしさ」

 

 いや、ほんとにね……。

 

「……そっか。いや~、私って才能あるのかぁ〜♪」

 

 僕は褒めて伸ばすタイプ(自称)だからね。褒めるべき所は褒める。誰だって、駄目なことを言うよりも褒めるほうが気楽に言えるでしょ? 少なくとも僕はそう思う。特に相手が目の前にいるのならね。

 

 面と向かって批判とか駄目だしとかは余っ程酷くないと言えないと思う。

 

 というか、相手を萎縮させたり、精神的に落ち込んだ状態で良いパフォーマンスが出来るのかと言われたら無理だと思うのだが……。それなら、褒めてやる気を出してもらったほうがいい。駄目なら何が駄目なのか伝えてアドバイス出来れば尚良し。落ち込み過ぎないように気をつけないといけない。

 

 折角来てくれたんだし……出来るだけ為になる経験を積んで帰って欲しい。それが劇団の評判にも繋がるだろうし。

 

「その調子でどんどんやってこう!」

 

「はーい!」

 

 何かノリがいいね、このアイドル様は……てか、アイさんってソロ? それともグループで活動してるアイドル? どっちなのだろうか……。

 

 アイドルとかそっち方面は疎いから……余っ程有名どころじゃないと知らないんだよね。

 

 まあ、聞けそうなら本人に聞いてみるかな。

 

 そんなことを思っていたが、結局聞きそびれてしまった。

 

 だって……乾いた土が水を吸うように、物凄い勢いでものにしていくんだもの。しょうがないじゃないか!

 

 相変わらず、名前は間違えられるけどね……それはもう、愛嬌だと考えることにしたよ。

 

 わざとじゃないし、悪意は感じられないしね。

 

 そんなこんなしながら、他の人達と合流し、お題として出されている作品の役を決めつつ、台詞の読み合わせをしてると、あっという間に時間が来てしまった。

 

 本日はここまでのようだ。

 

「お疲れ様。今日は慣れないことが多かったから疲れたんじゃない?」

 

「ん〜……そうかも? でも、思ってたよりも楽しかったよ」

 

「それなら良かった」

 

 これで悪印象だったら、来なくなるかもしれないし。仮に来たとしても苦痛なだけになってしまう。そうじゃないと分かっただけで十分である。

 

「蘇芳! 10分後にミーティングやるから、今のうちに水分補給とか確りしとけ」

 

 金田一さんが部屋の入口部分から顔だけ覗かせて、そう言うと去っていった。

 

 多分、ミーティングの前にタバコでも吸いに行くつもりなのだろう。よく、休憩中はタバコを吸いに行ってるのを見るし。

 

「はーい! それじゃ、帰りは気をつけてね。何事も無ければまた来週かな?」

 

 金田一さんに返事を返してから、アイさんへと視線を戻す。

 

「うん。そうだね」

 

「それじゃ、またね」

 

 僕はそう返事をすると水分補給とかトイレを済ませに向かった。

 

 

●●

 

 

 水分補給とかトイレを済ませて、普段ミーティングを行う部屋で始まるのを待つ。部屋には既に先輩である、みたさんだけでなく、後輩であるカミキ君などが席について書き物をしていた。今日のワークショップについての所感を書いているらしい。

 

 僕は後で書くので椅子に座って金田一さんが来るの待つ。そして、1分もしないうちに数枚のプリントを持って部屋へと入って来た。

 

「おう、全員いるな? なら、これからミーティングを始めるぞ」

 

 金田一さんは部屋にいるメンバー全員の顔を確認してからそう言うと席に座り、持っているプリントを机の上に置いた。

 

「先ずは口頭でいい、今日のワークショップで気になったことや疑問があれば言ってくれ。とりあえず、みた……お前から順に時計回りでだ」

 

 金田一さんに指名されたみたさんは答える前にメガネをクイッと人差し指で上げて、位置を調整してから話し始めた。

 

「では────」

 

 そして、時計回りで順々に今日のワークショップで気になったことや疑問を次々と言っていく。それを金田一さんは手書きでプリントに記入していく。

 

 多分、次回のワークショップのために使うのだろう。

 

 そんなことを思っているうちに僕の番になった。

 

「最後に蘇芳……何かあるか?」

 

「何で僕がアイさんの担当だったんですか?」

 

 これが今日1番の疑問である。みたさんや金田一さんという選択肢もあったはずなのだが……。

 

「ああ、それはな……あのアイドルは俺の知人からの紹介でな。他の参加者よりも前情報は多かったんだ。その前情報から色々と問題になりそうだったんで……団員の性格からして合わないやつを除外して、担当者を消去法で決めていったわけだ。みたはともかく俺は怒鳴ったりする可能性があったから除外して、みたにはカミキの教育も兼ねて大きなグループを担当してもらうので除外。同性は同性だからこそ許せないこともあるだろうし、除外。そんで、残ったのは男性陣。そん中で同じ年齢で、まあ多少のことなら気にしないお前が選ばれたわけだ」

 

 な、なるほど……アイさんは金田一さんの知り合いの人からの紹介だったのね。まあ、確かに名前を間違えられたりするのは人によっては結構気にするし、しょうがないと言えばしょうがないのかな?

 

「哉汰さんは貧乏くじを引かされたんですね」

 

 カミキ君……中々なこと言うね。

 

「まあ、どんなのが来るのか予め教えなかったのは今後のためだな。一応、今後もワークショップを行っていけば前情報のない相手が来るんだ。前情報を教えなかったのは、その時の為だと思っていてくれ」

 

 金田一さんはそう締め括る。

 

 いや、まあ分かるには分かるけどね……。

 

「だね。少なくとも私だったらきつく当たってたね。そこは金田一さんの采配が上手くいった感じね。所で蘇芳君は結構仲良く話せてたみたいだけど……そのアイドルちゃんはどんな感じだった」

 

 先輩の女優は真剣な面持ちでそう聞いてきた。

 

「そうですね。演技力に関しては素人なので答える意味がないので省きますね。アイドルだからか表情を作るのと見せるのは上手ですね。ライブとかでステージに立ってる経験があるので舞台に上がっても緊張から動きが悪くなったりすることはないんじゃないかと。性格に関しても悪くはないかと。自己申告で顔と名前を覚えるのが苦手って言ってましたし、名前を間違えたことを指摘したら、すぐに謝れる娘だったので……」

 

 名前の間違いとかを変に気にしなければ普通に会話する分には問題はないんじゃないかと思う。今日の様子を見る限りではだけど……。まあ、ワークショップ期間の間だけであるということを前提にだが。

 

 付き合いが長くなればなるほど駄目な部分や受け入れられない部分とかも出て来る思うので。

 

「まあ、見た感じ蘇芳との相性は悪くはなかったから、アイドルの担当は続投だな。そんで他のグループの参加者は何人か移動だな。理解度がなるべく同じぐらいになるように調整する」

 

 まあ、そうだよね。そうなるとは思ったよ。そんなことを思ってるとカミキ君に声をかけられた。

 

「……哉汰さん。次回のワークショップの時には僕のことを例のアイドルの子に紹介してくれませんか? 歳も近いですし、アイドル故の表情の作り方とか気になりますので」

 

「……そうだね。歳も近いっていうか1つしか離れてないから話もしやすいだろうし。いい刺激になるかもね」

 

 ただなぁ……何と言うかこう、雰囲気的な意味でアカン組み合わせのような気がするんだよね。

 

 表向きな性格的には大丈夫だとは思うんだけど……考えすぎかなぁ? 

 

 

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