愛せるようになりたくて 作:あなたの推しは誰?
あの日から暫し、月日が経過した。
先ず、祖父母への2泊3日の温泉旅行のプレゼントは上手くいった。ちゃんと受け取って貰えたので良かった。アイにも電話で結果はどうなったのか聞かれたのでちゃんと受け取って貰えたのは伝えている。
またアイとの電話ではこの間の件を度々蒸し返されては悩まされている。そして、僕の反応を楽しんでいるのか声が弾んでいるのだ。
この悩み事の相談は他者には絶対に出来ないし、他の誰かに例えて相談しても粗が出そうなので、僕1人で答えを出すしかない。
そして、僕が困らせられているのは僕がアイを困らせている結果なのだろう。
僕が中々能動的に動かないから、逃げ腰傾向にあるから。
アイのように自分から動かなければ、知ることも手に入れる事も出来ない。なのに動けない。いや、動かないのは……。
「はぁ……」
いっそのこと余計なことは何も考えずに馬鹿になれば良いのだろうか?
そう言えば……能動的に動きづらくなったのっていつ頃からだったっけ? 確か始まりは前世の学生時代だったかな。
良かれと思ってやったことが何度も裏目に出たのを始まりにして、そうならないようにしようと思って始めから指示を仰いで、淡々と指示されたこと以上のことはやらない様になって行ったんだよね。
それから僕個人でしか影響を受けない事に関して以外では余計に能動的に動きづらくなって来たんだよね……。うん、逃げた結果、逃げ腰になった。ある意味では順当な結果である。
思い返してみれば、前世では結構自分の生活含めて人付き合いの変化にも臆病になっていた。
引っ越しも慣れた場所から動きたくなかったし、人間関係も新しく作るのが苦手で挨拶とか仕事で必要なこと以外は自分から話しかけることは少なかったし、結構付き合い難い上に何を考えてるのか分かりにくい人間だったのではと思う。とりあえず、悪い人ではない程度の認識だったんじゃないかな。趣味に関しても新しく何かをするのが凄く億劫になってたし。
「あぁ〜……」
実はアイって結構ご立腹だったりしてるのかな? 本人も嘘つきだって言ってるし、怒ってないって嘘をついてる可能性は高い。
自己分析するほど……自分の駄目さが浮き彫りになってくるのだが……。今の僕に1番足りないのって……最初に踏み出す1歩という名の勇気なのでは?
この間のアイとの時だって考えただけで1歩踏み出すことなく、すぐに頓挫させてたし。
これは困らされて当然なのでは? 寧ろ、アイなりの発破なのかな、もっとちゃんと自分で動きなよっていう。
次に会う時には……何とか自分から能動的に動けるように頑張ろう。
行動あるのみだ。
座して手に入るものは無し。欲するならば何であれ自分から動かなくてはならない。
当たり前のことである。そんな当たり前のことをしていないのに知りたいとか欲しがるのは滑稽と言うかお笑い草というか……。
自覚すると……ちょっとどころではなく恥ずかしくなってきた。
ま、まあ、これ以上恥を晒さずに済むようになったと考えれば……。それでも、少し思うことがあるけど、僕自身が変わらなければならないのだから必要経費として受け入れるべきなのだ。
●●
変わろうと思い、なるべく能動的に動けるように心がけながら生活を送る。
すると少しだけど自分が変わったような感じがした。気のせいかもしれないけど……。
ただ、劇団でのウケは前よりも良くなったような感じがある。前よりも意欲的で元気があるように見えるとのこと。
カミキ君には怪しまれたけどね。
何か隠し事でもあるのじゃないか? って。
とりあえず、白を切っておいたけど……まあ、疑われてるんだろうなと思う。
明らかに観察されてるように見られてたし。ボロは出してないから、今の所はバレてないだろうけど……。
そんなこんなしながらも、更に1月ほどの時が経過していた。
祖父母は本日から温泉旅行へと行っているので僕1人で家でテレビを観ていると……。
ピンポーン!
インターホンが鳴った。
時間は夜の8時を過ぎた所である。こんな時間に来客? 誰だろうか?
「はーい? どちら様で」
ドアチェーンをかけてから玄関の扉を開ける。
「やっほー! こんばんわ、来ちゃった♪」
「…………何でいるのさ」
つば付きの帽子を被り、フード付きのパーカーを着て、リュックサックを背負ったアイがそこにいたのだ。
「それは勿論、遊びに来たんだよ!」
ぐっと親指を立ててアイはそう言う。
こんな時間に来るとは全く思ってなかったよ。色々と言いたいことはあるけど、いつまでもここで話てると人目についてしまうので中に入れるとしよう。
「チェーン外すから一旦、閉じるよ」
「はーい」
アイの返事を聞きながら、一旦扉を閉じてチェーンを外して扉を開ける。
「おっじゃましまーす!」
入ってと言う前にアイが家に入ってきた。
「……はぁ」
溜息を吐きつつ、玄関の扉を閉める。
その頃にはアイは既に靴を脱いでリビングの方へと行っていた。
早いなと思いつつ、鍵を閉めて、チェーンをかける。
とりあえず、お茶を用意してからリビングの方へと行くとアイはテレビを観ていた。
「……とりあえず、お茶を持ってきたけど。どうしたの急に来て?」
「サプライズってやつだよ! 会う機会も減ってるからさ。ちなみに今日はレッスン後に家に寄ってから来たんだよね。明日は休みだからね」
「……そうなのね」
「後、今日は泊まってくからよろしくね♪」
…………マジかぁ。
「……マジかぁ」
思っていたことがそのまま口に出てしまった。
「そうだよ。カナタの祖父母が温泉旅行に行くのは分かってたからね。狙って来たんだよ」
「もし、行かなかったらどうするつもりだったの?」
「え? それは勿論、彼女です♪ って挨拶するつもりだったよ」
「……そうなのね」
祖父母が温泉旅行に行ってて良かった。
両親の事もあるし、異性関係はあんまり話題に出そうと思えないからね。
「恋人同士で夜に2人きりだよ♪」
そう言って、後は分かるよねと言わんばかりにニヤリと笑うアイ。
…………何かこのままでいると前回の二の舞いになりそうだから、いけないことだけど……祖父の日本酒を少し貰うことにする。
素面だとまた逃げ腰になるかもだし、そうならないように酒の力を借りることにした。
「そうだね……ちょっと待ってて」
僕はそう言うとキッチンの方へと行き、戸棚の下に置いてある度数25の日本酒の入った瓶を取り出すとコップに一口分それ注いで持って行く。
「あ、お帰り」
「うん」
とりあえず、座って一気に飲む。
……うん。くっそ不味い……。吐き出したいけど勿体ないのでこのまま飲み込む。
独特の感覚が余計に気持ち悪く感じ、表情が歪むのが自分でも分かる。
「……え、何飲んだの?」
アイが怪訝そうな目で見てくる。
「……祖父の日本酒」
「どうしたの、急にそんなことしてんの? 法律違反だよ」
「色々グダグダと考えないようにするため」
「えぇ……とりあえず、何か悩みでもあるの? 私でよかったら聞くよ?」
今、深く悩まないで済むようにするために飲んだので大丈夫。
「それは大丈夫。寧ろ悩まないようにするために飲んだようなものだし……それにしても口に合わないからくっそ不味い!」
「……そ、そう」
「そうだよ。逃げ腰のヘタレ野郎だから、これぐらいで良いんだよ」
「う~ん、酔っ払うと自虐するタイプかな?」
「普段より素直になってるだけだよ」
「へー……そうなんだ」
そうそう。前世の僕はアルコールが入ると口が軽くなってたからね。今生もそうじゃないのかなって思う。
「じゃあさ、聞くけど……私のことは好き?」
「好き。恋愛的な意味ではないけど。目的のためにしっかりと能動的に動けるは凄いよね。嫌がらせとかにも負けずにさ。個人的に好感度は本当に高いね」
「そ、そっか……即答だね。そして思ったよりも好感度高いのかな?」
「高いよ。少なくとも、こうして家の中に入れるくらいはね。低かったら、帰れって追い返してるから」
そうじゃなきゃ、家に入れるって選択を素面の時に迷わずに選ばなかったし。
「じゃあさ~、私と本当に恋人になるのは嫌?」
「嫌ではないけど……恋をしてないのに恋人になるのはなぁとか、偽だからこそしてなかったことが出来るようになることが怖かったりはするかな。矛盾してるけど変化を求めてるのに変わることが怖かったりするんだよね」
「ふ~ん、どうして?」
「未知を知るのは楽しいし、出来ることが増えるのも同様だよ。でもさ、それが原因で無くしてしまうことが多くあるんじゃないかなってね。後悔先に立たずって言うのにさ、選んでもないのに……その先のことを悲観的に考えて、良い面を上手く考えられないんだよね。全部が全部上手く行くはずないってのは当たり前のことだけどさ、得るものよりも失うものが多いんじゃないかってね」
「……かなり悲観的だね」
そうなんだよね。
「でしょ? 直してかなきゃいけないとは思うんだけどね」
「そうだね。まあ、カナタは社長のように色々と上手く行ってないわけじゃないから大丈夫だよ」
「その引き合いに出される社長が如何に苦労してるのか気になるところではあるけど……」
社長なのにそういわれるなんて何をやってるんだろうか……。
「聞きたい?」
「いや、良いよ。別に何となく気になる程度だし」
「そう? 聞きたくなったらいつでも教えてあげるよ」
そんな簡単に話ていい内容なのだろうか?
「必要になったら教えて」
そんな機会は無いと思うけど。
「良いよ。それよりもさ……私にもちょ~だい!」
「あげません!」
断固拒否である。
「えぇ~、カナタだけずるい〜。私にもちょびっとくらい、いいじゃん!」
「駄目です。違反者は僕だけで十分です!」
飲ませたらもっと駄目じゃん! ただでさえ、僕が飲んでるだけでもアウトなのに同じ未成年に飲ませるとか……ないわぁ。
「ええ〜、いいじゃんケチ。社長とか美味しそうに飲むから気になってるのに。お願い!」
手が届くような近い距離で両手を合わせて、可愛らしく首を傾げながら頼んでくるアイ。
「可愛らしく頼んでも駄目です! お酒は20歳になってからね! その時なら幾らでも付き合うからさ」
「むぅ……仕方が無いなぁ」
どうやら、この場では諦めてくれたらしい。
「……ふぅ」
安堵の溜息が漏れる。
「隙あり!」
そう言って飛び込んでくるアイ。
「ぁ……」
当然、避けられなかった僕はアイによって押し倒される。
「……あはは、酒臭いね」
「度数25の日本酒だからね」
「どんな気分?」
「ん〜……度数がある影響か未成年だからか分からないけど、少しふわっとした感じだね」
答えてから起き上がろうとすると両肩を摑まれて起き上がるのを邪魔された。
「ここでカナタに選択肢を与えます!」
「なんのかな?」
「それは勿論、私と付き合うか付き合わないかだよ♪」
そう言いながらアイの顔が近づいてくる。
「……酒臭いのに近づいて平気なの?」
「うん。飲んでる時の社長の方が酒臭いからね。これぐらいなら全然平気だよ」
「そうなんだ」
「そうだよ」
社長さん……あなたは一体、どんな姿をアイに見せているのだろうか? こう尊敬されるような格好いい姿を見せたりはしてないのだろうか? まあ、僕には関係の無いことなんだけどね。
「それで返事を聞きたいなぁ」
そうだよね。言葉にするか行動で示すか……もう少し飲んで、もっと怖気づくようなことがないようにするべきだったかなと思うが……そうすると、うえってなりそう何だよね。
流石にまだお酒は味覚的にも早すぎたと思う。
「…………じゃあ、返事はコレで」
僕は身体を起こして、アイの身体を抱きしめながらキスをした。
「……ぇ!?」
キスと言っても唇ではなく頬にである。
唇にしなかったのは……まあ、僕に勇気が無かったのと、お酒臭いのにするのは個人的にはばかられたからだ。
「………ヘタれてるねぇ」
そう言うアイであったが頬が若干赤くなっている様に見える。
「いやぁ~、うん……お酒の力を使ってこれだからねぇ」
「やーい、ヘタレ〜」
アイはそう言いながら僕の両頬を両手で摘んでグニグニと伸び縮みさせる。
僕は依然としてアイの身体を抱きしめてるので、されるがままであった。
「言葉にしてくれないと分からないから、言葉にして欲しいなぁ?」
「……そっかぁ」
「そうだよ。勇気の足りないキミには私から勇気をプレゼントして上げる!」
そう言うとアイは僕の頬にキスをした。
チュッ! と分かりやすい様に音を立てながら。
「現役アイドルからのキスだぞ♪」
「……そうだね。これで勇気が出なかったら駄目だよね。こんな僕でよろしければ、改めて関係だけは本物の恋人としてよろしくお願いします」
「うん。今はまだ形だけのものだけど……いつか全部が本当になることを願って……これからもよろしくね。あ、そうそう……浮気は駄目だからね」
「する気は無いし、出来る気がしないんだけど……」
それよりも先にキミに恋を出来たら良いと思うのだ。
明けましておめでとうございます。