愛せるようになりたくて   作:あなたの推しは誰?

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12話 恋とは

「いやー、ごめんね。布団まで借りちゃってさ」

 

 敷布団の数は僕と祖父母の分の3枚しか無いので僕が使っているのをアイに貸し出す。

 

 なので、僕は適当に長い座布団2枚を並べてその上にシーツをかけて敷布団変わりにする。

 

 理由としては祖父母のを勝手に使うのも憚られるので。

 

「いいよ。それぐらい。一応お風呂は沸かしてあるし、バスタオルは用意しておくから」

 

「あ、覗いちゃ駄目だからね♪」

 

「アイは僕を犯罪者にしたいのかな?」

 

 バスタオルは風呂に入る前に用意しておくので入ってる途中で用意するなんてことはないのだ。

 

「え? 未成年飲酒の時点で犯罪者じゃないの?」

 

「うぐっ……」

 

 それを言われたらその通りだ。

 

 まさしく後悔先に立たずだ。……ま、まあ、バレなきゃ大丈夫だ。大丈夫だよね?

 

 急に不安になってきた。

 

「所でカナタは何処で寝るの?」

 

「リビングで寝るけど?」

 

 アイには僕の使ってる部屋で寝てもらうつもりだ。貴重品類は置いてないしね。

 

「えぇ~、一緒の部屋で布団に入って寝っ転がりながらダラダラとお話しようよ〜」

 

 アイはそう言うが、果たしてそれは良いのだろうか? 変に意識するのもあれだし、それぐらいなら良いのか? 言ってきた本人もそんな気は無いだろうし。

 

「……ん〜、まあそれぐらいなら」

 

「あ、良いんだ? カナタのことだし断られるかな~って思ってたんだけど」

 

「とりあえず、偽では無くなったからね」

 

「偽だったら?」

 

「……断わってたかなぁ」

 

 多分、そうしてたね。

 

「そっかぁ……じゃあさ、今なら大体のことはOKな感じ?」

 

「多分……ね。そこまで自信があるわけじゃないけど」

 

「なるほど」

 

「え、何か謀ろうとしてる?」

 

 別の意味で危機を感じるんだけど。

 

「ヤダなぁ〜、そんなこと考えてないよ。ちょっと私の事以外を考えさせないようにするにはどうすればいいかなぁって思ってたくらいだし」

 

「……それはそれで謀ろうとしてるんじゃない?」

 

「そんなことないよ〜」

 

 なら、わざとらしいくらいにウインクを決めてくるの何でなのかな?

 

 一応、警戒だけはしておこう。でも、僕の警戒って自分で言うのもアレだけどザルだしなぁ。

 

 

●●

 

 

「上がったよー」

 

 髪をタオルで拭きながら淡い水色のパジャマを来たアイがそう言いながらリビングへとやってきた。

 

「はーい。じゃあ、僕も入ってくるかな。あ、そうそう……テーブルの上にお菓子類あるから好きに食べていいよ。飲み物は冷蔵庫から適当に出していいからね」 

 

「うん。冷蔵庫の中にお酒はあるの?」

 

「無いよ。あったら冷蔵庫から適当に出していいからねとは絶対に言わない」

 

「ちぇー」

 

 わざとらしいくらいに残念そうな反応を返してくるアイ。

 

 「はいはい、少し前にも言ったけど20歳過ぎたら幾らでもつき合うからね。後、ドライヤー使うなら使っていいからね」

 

 20歳ぐらいになれば僕も多少味覚が変わってお酒もそれなりに美味しく飲めるようになっていると思う。……そうなってたらいいなぁ。

 

「じゃあ、遠慮なく借りるね」

 

「どうぞどうぞ」

 

 アイがテーブルの上に置いていたドライヤーを手に持ったのを見てから僕はお風呂場の方へと向かうのであった。

 

 ところで今更なのだが……アイはどう誤魔化しているのだろうか?

 

 それがふと気になった。

 

 まあ、きっと自分でどうにかしてるだろう。

 

 僕が考えた所で何かが変わったりするわけではないし、気にしないでおこう。本人に何か言われるまで……。

 

 

●●

 

 

 お風呂から上がり、またそろそろ髪を染めないとなぁと思いながらリビングの方へと行く。

 

「あ、お帰りー。早かったね」

 

「まあ、僕はそんなに長湯しないからね。それにアイみたいに髪を伸ばしてるわけじゃないしさ」

 

 髪を伸ばしてたらそれだけで手入れとかに時間がかかるし、伸ばしてる人は本当に大変だよね。

 

「そっか。あ、お菓子の追加ってある?」

 

 テーブルに用意しておいたお菓子は半分ほど無くなっていた。

 

「あるよ。ちょっと待ってて」

 

 台所へと行って引き出しから適当にお菓子の袋を取り出して、そのついでにコップと麦茶の入ったペットボトルを持って行く。

 

「冷蔵庫開けなかったんだね」

 

「ん〜、カナタが早く戻って来たからね。後10分ぐらいかかってたら開けてたかもよ」

 

「そう?」

 

「うん。適当に出していいって言ってたからね」

 

 そんなもんかな? 

 

「テレビもチャンネル変えてよかったのに」

 

「一応、変えたよ。でも、特に見ようと思えるものじゃなかったからまた、このチャンネルに戻っただけだよ」

 

「そうなのね」

 

「そうなんだよ。何か映画とかそういうのない?」

 

「祖父の趣味の古いのしか無いよ。戦争モノとか時代劇的なやつとか」

 

 僕自身、そんなに映画とか観ないしね。

 

 演技の上手いって評判のあるのであれば参考のために観ることはあるけど……それぐらいだしなぁ。

 

「そっか……なら、部屋に行って布団に入ってゴロゴロしながらお喋りしよう!」

 

「じゃあ、ガスの確認とか電気消したりしてくから先に行ってて」

 

「うん。持ってるね」

 

 アイが僕の部屋へと移動していく。

 

 その間にテーブルの上を片づけて、台所のガスの元栓を確認する。

 

 お茶はどうしようか? 夜中に喉が乾いた時用に部屋に持って行くか迷う。

 

 うーん……一応、持って行くか。

 

 多少温くなってしまうが、それはしょうがない。

 

 お盆にコップと麦茶の入ったペットボトルを乗せて、リビングの電気を消してから部屋へと向かう。

 

「お待たせ」

 

「うん。お帰り〜」

 

 部屋に来ると既にアイは布団の上にうつ伏せになっていた。

 

 そして、布団の位置が敷いた時よりもズレているのはわざとなのだろう。

 

 それについて言及する前に机の上にコップと麦茶の入ったペットボトルを乗せたお盆を置く。

 

「とりあえず、聞くけどさ」

 

「何かな?」

 

 何を聞かれるのか分かりきっているのにニコニコ笑顔を浮かべるアイはまさしく確信犯と言える。

 

「何で布団を近寄せたの?」

 

「それは勿論、布団に寝っ転がりながらダラダラと話すのに離れてるのって変じゃない? だから近くで話すからいいと思うんだよね。後、近いと意識しやすいでしょ?」

 

「……確かにそうだけどさ」

 

 ガンガン攻めてくるなぁ。

 

 アイがとっとと来るんだとばかりに隣にある敷布団代わりの座布団を叩く。

 

 僕はその敷布団代わりの座布団の上に寝っ転がると掛け布団を被り腕と頭を出してうつ伏せになる。

 

「よし! これで準備OKだね! いやぁ~、学校の修学旅行とかみたいだね」

 

「まあ、分からなくも無いけどね……」

 

 修学旅行であれば同性でって話だけどさ。異性だと違くないかなと思うけど、まあ似てるように思うのだからしょうがない。

 

「で、何を話そっか?」

 

「何か話題があるんじゃないの?」

 

「ん〜……本命はまだ取っときたいから、カナタは何か前座になるような話ない?」

 

 前座になりそうな話ねぇ……。同性だからこそ話せる話は論外だし。

 

「う〜ん……明日の朝ご飯とか?」

 

「……ええぇ。話題それぇ……」

 

 物凄く不満そうなアイ。だが、考えて欲しい。本来であれば明日は僕の分だけの朝食で済んだのに突如としてアイが来たもんだから食べるものについは考えなくてはならないのだから。

 

「だって白米は嫌でしょ?」

 

「……平気だよ。色々と覚悟を決めるけど」

 

「うん。先ず覚悟を決めるのは平気とは言わないよ」

 

 僕だったら覚悟を決める朝ご飯とか普通に嫌である。

 

「でもさ、カナタってご飯作れるの?」

 

 まあ、当然の疑問と言えば疑問である。

 

「出来るよ。上手とは言えないけど多少なりとも」

 

「ほんとに? 見え張ってない?」

 

「うわぁ……すっごい疑われてるね。これでも一応、祖母に仕込まれてはいるんだよ。そんなに遠くない内に一人暮らし出来るようにって。3年なんてあっという間だから」

 

 僕がそう言うとアイはニヤリと笑みを浮べる。

 

「へー……じゃあ、期待してOK?」

 

「程々にね」

 

「ど〜しよっかなぁ♪」

 

 ふりじゃないんだけどなぁ……。

 

「それでだけど……普通にトーストにしたのとそうじゃないのどっちがいい?」

 

「それは勿論……そうじゃない方でしょ!」

 

 やっぱりね。分かってたよ、その答えになるのはね。まあ、問題はないはず。

 

「もう一度言うけど期待し過ぎないでね?」

 

「えー、やだ~」

 

 笑いながらそう言われてしまった。

 

「結構大雑把になるから、その辺りは勘弁してね」

 

「それは味付けかな? それとも硬さかな?」

 

「味付けに関しては僕の感覚になるからね。硬さに関しては……何とも」

 

「ところでさ……何作るの?」

 

 ああ、言ってなかったね。

 

「フレンチトーストと目玉焼きと薄切りのベーコンを焼いたのと今日の夕食の時に作ったほうれん草のお浸し」

 

「フレンチトーストってあれだよね? パンに牛乳と卵と砂糖を混ぜたものを浸して焼いたやつ」

 

「そうそう」

 

「お手軽だね」

 

「朝食を力を入れて作る人なんてそうそういないでしょ」

 

 少なくとも僕はしない。面倒だから。そんな手間暇があれば寝てたいと思う。

 

「それもそうだね。私も朝はお手軽に済ませたいし、変に多くても食べ切れないと思う」

 

「でしょ? とは言えこれで前座の話は終わったけど……」

 

「何かもうちょっと話題は無いの?」

 

「そう言われてもね……」

 

 う~ん、話題ねぇ。

 

 ちょっと身体の向きを変えてアイの方を見る。

 

「……そう言えばさ」

 

「うん」

 

「僕……アイがアイドル活動やってる姿を1回も観てないんだけどこれについてはどう思う?」

 

「……そうなの?」

 

 こてんと首を傾げるアイに僕は無言で頷いた。

 

 ネットに上がってる動画とか観てないし。テレビでも観てないのだ。

 

「興味ない感じなの? メイクとか可愛いらしい衣装着てるしめっちゃキュートな私が見れるよ?」

 

 可愛いとキュートって同じ意味なんじゃね? あ、でもキュートって確か活発な女性を形容するのに用いられてるから問題ないか。

 

「アイが可愛いのは分かりきっているからね。そうじゃなくてさ……観たら絶対にアイから聞いた舞台裏の事を考えちゃうから観る気がね」

 

 頑張ってる姿を観るのは良いのだ。だけど、その裏にある確執とか嫌がらせ等の事を考えると真っ直ぐに観れないと言うか……。

 

 僕の言葉に納得したのか、アイはあぁと小さく口にすると少し考え込む。

 

「そっか……表だって不満をぶつけられたりとかは減ってるんだよ。後、嫌がらせとかも」

 

「それも、アイがそうされないように努力した結果じゃなくて?」

 

「まあ、それはあるかも。社長もマメに楽屋を覗きに来てるのもあるかな」

 

「マメに覗きに来てるんだ」

 

 マメに覗きに来られたら、下手なことは出来ないし抑止力にはなるかな? その分、ウザがられそうではあるけど。

 

 人の服を切り刻んだり、衣装を捨てるような事をする前例があるからしょうがないことではあるね。

 

「そうだよ、だから1回ぐらい観てよ! その感じだとロクに歌も聞いてないでしょ?」

 

「そうだね……」

 

「私はカナタの出たやつとか観たのになぁ〜。てか、カナタってさ役にカナタらしさって言うのかな? そういうのが殆ど出てないよね」

 

「まあ、出さないように気をつけてるからね」

 

 演じた人の癖とかって、演じるキャラによってはいらないと思うから極力そういうのは出さないように気をつけているのだ。

 

 演じるキャラに本来ない要素を持ち込まれるのは観ている側からすれば、そのキャラのイメージを損なうのではないかなと思う。

 

 それは人それぞれだと思うが。

 

「ふ~ん……カナタなりに考えてるんだね」

 

「まあね。じゃあ本命いかない?」

 

「ん〜……まあ、いっか。じゃあ、本命に移ります。本命は恋についてだよ♪」

 

 ………………恋についてか。

 

「恋ねぇ……」

 

「そうだよ。恋とは何かを話したいなって思ってね」

 

「何を持って恋と定義するか……う~ん、難しいね。明確にこれが恋だってのは分からないし」

 

「でしょ。だからこうやって話すことで自分の感じてる思いがどういうものなのかを認識出来るようになるきっかけになればなって思ってね」

 

 なるほどね。確かに話している内にこれはもしかしてってのはあり得ない話ではないし。

 

「そうだね……恋かぁ。とりあえず、恋って片想いって言葉があるから一方通行なものじゃないかな」

 

「一方通行ね。……恋について調べたんだけどさ。恋をすると美意識が上がって来るらしいよ」

 

「偽恋人関係の時からお互いに服装には気をつけたけどあれは何か違くない? 形から入ってみようかって感じだったし」

 

「それもそうだね。となると……相手に良いところを見て欲しい。私を好きになって欲しい。独占欲が出てくるのはどうなのかな?」

 

 ……難しい。今、アイが言ったことは親兄妹感でも他の誰かに対してでも十分にあり得ることだし。

 

「それは自分次第じゃないかな。その思いが誰に向いているのか……親兄妹なのかそれとも他の誰かなのか」

 

「そうだよね。やっぱりその気持ちを向ける相手によるよね。となると私は……」

 

 そこまで口にするとアイはジ〜っと僕を見つめてくる。

 

「どうしたの?」

 

「カナタは……私に対して独占欲とかある?」

 

「……どうだろうか? 正直、偽のまま終わると考えてたから特にその辺りは考えてなかった」

 

 改めて考えてみる。

 

 アイが僕の見知らぬ人や知人と仲よさげに出歩く姿。その時の表情は幸せそうである。

 

 …………特にもやっとはしないな。とりあえず、幸せそうだから何よりとの思いが出てきたのだが。

 

「……無いね。ちょっと想像して考えてみたけど無かった」

 

 そう正直に答えたら……笑顔のままアイに頬を引っ張られた。

 

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