愛せるようになりたくて   作:あなたの推しは誰?

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13話 ハグ

「もう……そこはちゃんと嘘でも良いからあるって言わないと」

 

 そう言うとアイは僕の頬から手を離した。

 

「いや、嘘ついてどうするのさ」

 

 僕はアイに引っ張られた所を擦りながら抗議の目で見つめる。

 

「そしたら、勿論カナタの頬が引っ張られるよ!」

 

「それどっち道、僕は頬を引っ張られるよね!」

 

「そうだよ?」

 

 詰んでるじゃん。それ……。

 

 そのことに地味にげんなりしつつ、溜息を吐く。

 

「まあ、いいや」

 

「いいんだ。ところでさ、カナタは頬を引っ張られても抵抗しないよね。何で?」

 

「別に痛くないから」

 

「それだけ?」

 

「そんだけだよ」

 

 頷き、答える。

 

 痛ければとっくに抵抗ているが、痛くないからなされるがままにしているのだ。

 

 するとアイの手が伸びて来て僕の頭に触れる。

 

 そして、特に反応せずになされるがままにしてると納得したように頷いた。

 

「……もう少し反応した方が良いと思うよ」

 

「そう? まあ、考えとくよ」 

 

「それ考えるだけで実行しないパターンだよね」

 

 僕はそっと目を逸らした。

 

「……話を戻そうか」

 

「あ、逃げた。まあ、いつでも追求出来るからいっか」

 

 そのうちに追求されるのか……忘れてくれないかな。

 

「んんっ! 恋についてだけど……って何をしてるの?」

 

 話そうとしたらアイが僕に人差し指を向けてクルクルと円を描くように回していた。

 

「催眠術的な? カナタは私に恋をする! みたいなやつ」

 

「それ……蜻蛉の目を回すためにやるやつじゃない?」

 

 僕は蜻蛉か何かなのだろうか? 蜻蛉人間……明らかにB級映画を超えた何かの臭いがプンプンするね。

 

「まあ、冗談というかおふざけはここまでにして……実際さカナタって私のこと好きだけど恋愛的な意味じゃないってのは何処で判断してるの?」

 

「ざっくり言うと、執着心や独占欲があるか無いかかな」

 

「それだと私はカナタに恋をしてることになるんだけど……ああ、なるほどね。うんうん。そっかそっか……」

 

 話してる途中で1人、疑問が氷解したかのように頷き、自分に言い聞かせるような仕草を見せるアイ。

 

 数秒ほど黙って様子を見ているとアイはビシッ! と僕を指差した。

 

「私がカナタを堕とせば問題ないね!」

 

「……まあ、うん……」

 

 僕はそんな返事しか返せなかった。

 

「とりあえず、どうやったら堕とせると思う?」

 

「それ本人に聞く?」

 

「聞くよ。だって自覚が無いだけの可能性もあるからね。こう話している間に自覚出来るかもしれないしさ」

 

 うう~ん……自覚出来てないだけかぁ。

 

「好きは恋の一歩手前な状態らしいし……そうなのかな?」

 

「……いっそのことネットで調べてみる?」

 

「そうしてみようか」

 

 アイの提案に僕は即座に頷いた。

 

 スマホを使って恋について検索してみる。

 

 そして、出てきた検索結果を読む。

 

「………ええと、恋とは、相手のことをもっと知りたいと思う気持ち。他には相手と触れ合いたいという気持ち……」

 

「これだと……カナタって結構前から私に恋してるよね」

 

「だよね。とりあえず、僕は色々とおかしいということになるね」

 

 確かにアイのことを知りたいと思っていたけどさ。何かこれじゃない感がある。

 

 なので他にも調べながらアイとああでもないこうでもないと話を続けていく。

 

 そして、時間は瞬く間に過ぎて行き、0時近くになってしまっていた。

 

「とりあえず、現状……調べれば当てはまることは多々あるものの、本人が実感を持てないので恋をしてないという判定で」

 

「…………えぇ〜」

 

 不満げな声を出すアイ。

 

 こういうのって本人の自覚が一番大切だと思うんだよね。

 

「恋人同士、2人で過ごす夜、同じ部屋、この状況でドキドキしないの?」

 

「ドキドキはするけど……ごめん、普通に眠い」  

 

 大体この時間には既に寝ているので、結構眠いのだ。

 

「寝たら悪戯しちゃうよ?」

 

「………とりあえず、明日にしない?」

 

 結構ぼーっとしてきたので頭が上手く働かない。

 

「悪戯はいいの?」

 

「……出来れば止めて」

 

 本格的にうとうとしてきた。

 

「ど〜しよっかな〜♪」

 

「…………寝る」

 

 とりあえず、もう悪戯されててもいいやと開き直ったのでそのまま目を閉じる。

 

 何か言われているようだが、それについて考えることなくすぐに睡魔に身を委ねた。

 

 

●●

 

 

 安心するような音と心地良い柔らかさと温もりを感じる。

 

 同時に何となく良い匂いが鼻腔をくすぐった。 

 

 微睡みの中、それらを手放したくないと無意識に強く抱きしめる。

 

「……んぅ……」

 

 何か聞き覚えのある声が聞こえてきたが大して気にしなかった。

 

 それよりも……いつぶりだろうかというぐらいに安らかに寝れてる感じがするのだ。

 

 目を開けることなく、そのままもう一度眠る。

 

 いつになく安らかな気持ちであった。  

 

 

●●

 

 

「………………マジかぁ」

 

 朝、目が覚めて完全に意識が覚醒すると今、自分がしていることとかを理解してしまい。

 

 真っ先に今の言葉が口から出てしまった。

 

 思いっきりアイの身体を抱きしめつつ、その胸元に顔を押しつけているのだ。

 

 離れたくないとかそんなことを思ってしまった自分に驚きつつも離れる。

 

 そして、ゆっくりとアイの表情を伺うべく頭を上げる。

 

 困ったような笑みを浮かべながら、若干頬を赤くしているアイの姿があった。

 

「……えっと、その……」

 

 この場合は何と言えばいいのだろうか? 

 

 何て言えばいいのか全くわからない。どうしよう、どうしようと内心焦りしか生まれない。

 

 こんな時は言葉よりも行動。例えばであるが引っ叩かれたりしたほうが案外すんなりと言葉を出せそうだと思ってしまった。

 

 そんなことを考えるよりも、今この場で真っ先に言う言葉は何だと考えるも……全くわからない。

 

 謝る? それは当たり前だとしてもどう謝ればいいのだ。

 

 やってしまったことを口にしてだろうか? ただ謝るよりもその方が断然マシかと思う。

 

 僕は身体を起こしてその場で正座をする。

 

 するとアイも身体を起こして、僕の方を向く。

 

「………思いっきり抱きしめた挙げ句、胸に顔を押しつけたまま寝ていて、ごめんなさい」

 

 言い終わると同時に頭を下げる。

 

「……いや〜、うん。……恥ずかしかったけど……まあ、寝てただけだし……」

 

 チラリと時計を確認すると朝の8時を過ぎた辺りであった。

 

 少なくとも数時間はアイの身体を抱きしめつつ、彼女の胸に顔を押しつけて寝ていたと思われる。

 

 …………恥ずかしさと申し訳無さとか色々とごっちゃになりつつもアイからの言葉を待つ。

 

「……今、私のことを意識してるよね」

 

「寧ろこの仕出かしで意識しない方が無理なんだけど」

 

 してなかったら余っ程その手のことに手慣れた人なんだろうなと思う。少なくとも僕には無理だ。

 

「……何度も起こそうとしたんだけどさ……その度に強く抱きついてくるし、やっ! て言うし」

 

 ……そんなこと言ってたの僕!? 

 

「大変ご迷惑をおかけしました」

 

 それしか言葉に出来ない。

 

「……流石に抱き枕みたいにされるとは思わなかったよ」

 

 いや、本当にごめん。

 

「流石に引っ叩いて起こしても良かったのに」

 

「……安らかに寝てるのを起こすのも可哀想かなって思ってね」

 

「その心遣いは大変ありがたいんだけどさ、そういう時は普通に起こしてくれて良かったんだよ」

 

「ああ、うん……まあ、今回は確かめたいこともあったからね。次はそうするよ」

 

 え……あの、次とか今回とかちょっと気になるワードが出たんだけど。

 

 そこをつついたら藪蛇になりそうで怖いのだが……。

 

「…………一応、確認したいんだけど……僕は他には何かしたりしてた?」

 

「それは……うん、無かったよ」 

 

 ふぅ……良かった。安心した。更に何かやらかしてたらと思うと、気が気でなかった。

 

「……とりあえずさ」

 

「うん」

 

「朝ご飯にしない?」

 

「……そうだね」

 

 とりあえず、朝ご飯を作りながら考えよう。時間があれば少しは好転するような考えが浮かぶかもしれない。

 

 

●●

 

 

 朝食後、僕とアイはテーブルを挟んで向かい合っていた。

 

 正直に言おう、気まずい。

 

 特にやらかしてしまった手前、余計にそう感じる。

 

「もう……恋人同士なんだし、そんなに気にしなくていいと思うんだけど」 

 

「うう~ん……そう言われてもね。無意識にやってしまったことだからこそ開き直ってしまうのも変な感じが」

 

「そう? なら、いつか私のお願いを聞いてくれる? それを今日あったことの免罪符にしてあげるからさ」

 

「ん、分かった。でも、そのお願いって僕が叶えられる範囲だよね?」

 

 ボクに叶えられる範囲の願いであることを願う。

 

「勿論、そうだよ! まあ、楽しみにしててよ♪」

 

「ん? 僕も楽しみに?」

 

 どういうことだろうか? お願いをする側が楽しみなのは分かるけど、お願いをされる側も楽しみとか謎である。

 

「そうだよ。色々と準備もあるからね!」

 

 一体何をお願いされるのだろうか? 

 

 ……とりあえず、覚悟というか動揺しないようにだけはしようと思う。

 

「そうなんだ」

 

「うん。そうだよ。だから、カナタにはその時までにもっともーっと私を好きになってもらわないとね」

 

「それってどれぐらい?」

 

 何となく聞いてみる。

 

「うーん……公衆の面前で平然とディープキス出来るぐらい?」

 

「思っきしベタ惚れレベルだね」

 

「でしょ! カナタって執着心が薄いから深く執着心を芽生えさせたら後は勝手に堕ちるところまで堕ちていきそうな感じがするんだよね」

 

 僕ってそんな感じに見えるのね。

 

「僕ってそんなに執着心薄い?」

 

「うん。薄いと思うよ。昨日さ変化が怖いって言ってたでしょ」

 

「……言ったね」

 

「それが原因じゃないのかなって思うんだよね。一定以上、好きにならない、執着しないって線引して変化しないように抑えてるって感じかな」

 

 なるほど。アイの言うことは結構合ってるのかもしれない。

 

 必要最低限の関わりしかしないのであれば、変化なんてほぼない。変わることのない日常を送れる。

 

「……誰かを愛したいならそれは変えないと駄目だね。はぁ……」

 

 溜息が出る。

 

「頑張ってね」

 

「そうだね。自分で頑張るしかないよね」

 

「私はいつでもウェルカムだよ♪ アイドルのアイじゃなくて、星野アイを愛してくれるならね」

 

「……だろうね」

 

 早速、行動に移すべきなんだろうけど……どうすれば良いのだろうか?

 

 やってみたいと思うことをやってみれば良いのだろうか? それとも……亡き両親のように性行為……うん、それは止めよう。

 

 そこは後々に色々な問題が発生しそうだから。

 

 ふとヒントになりそうなことはないかと思い、アイを見つめる。

 

「どうしたの?」

 

 キョトンとした目で僕のことを見つめ返してくる。

 

 ……無意識ながら抱きしめてたんだよね。あれ? 思い返してみると何度か抱きしめてない?

 

「ん〜……ちょっとさお願いがあるんだけどいい?」

 

「何かな? それにカナタからお願いって珍しいね」

 

「だよね。それでさお願いについてなんだけど……抱きしめていい?」

 

「…………いいよ」

 

 少し考え込むような様子を見せた後にアイは返事をした。

 

 アイの返事を聞いてから、席を立ち、アイの傍へと歩いていき、抱き上げる。

 

「…………これ抱っこだよ」

 

「……だね。でも抱きしめてるよ」

 

 その状態のまま移動して床にある座布団に座る。

 

 抱きしめてることで、確かな温もりを感じると同時にドキドキするけど、何か落ち着く。

 

「………ねぇ、カナタってさ結構寂しかったりする? 前はいたんでしょ? 親愛の情を向ける人が」

 

 アイに言われて本格的に自覚してしまう。

 

 僕は前世の家族と2度と会うことが出来なくなってしまい寂しいのだと。

 

「……うん。そうだね。きっと寂しいんだと思うよ」

 

「私で代わりにしようとは思わないの?」

 

「思わないよ。代わりにしちゃいけないんだ」

 

 その方が精神的に楽であってもね。そうすることでいずれ後悔するのは僕だろうから。

 

「ふ~ん……じゃあさ、今こうやって私を抱きしめててどう思ってるの?」

 

「安心してるのかな? 人と触れ合うことで感じられる温もりを感じられて」

 

「そっか……ドキドキしてるけど安心するのって変だよね」

 

「うん。分かる……でもさ変だけど安心するんだからしょうがないよね」

 

 そうなってるんだからしょうがない。

 

「……癖になりそう」

 

「……私を抱きしめるのが? それともハグという行為? どっちのことかなぁ〜♪」

 

「……一応、恋人だからアイを抱きしめることかな」

 

「一応はいらないよ、一応は。100点満点だったらそれだけで3割減点だよ!」

 

 アイはクスクスと笑う。

 

 それに釣られるようにして僕も小さく笑ってしまった。

 

「そうだね……いらないことを言っちゃったね」

 

「そうだよ、もう……」

 

「それじゃあ、もう暫く抱きしめてていい?」

 

「しょうがないなぁ〜、この寂しんぼめ! あ、そうだ。折角だからこのままB小町の歌を聞かせてあげるよ」

 

「私のとは言わないんだね」

 

「ソロじゃないからねー」

 

 それもそうだね。

 

 アイがスマホを取り出して動画サイトを開くとそこにアップされているB小町の動画を選択する。

 

「ほら、ちゃんと観て、聞いてよ。アイドルとしての私をさ。何ならライブに来てもいいんだよ」

 

「ライブか……大舞台に立つなら観に行くのも有りかな」

 

「それは期待されてると受け取って良いのかな?」

 

「うん。だって、生で観るなら1番凄いのを観たいと思うのは変かな?」

 

 どうせなら普通のよりも特別な大舞台での晴れ姿を観たい。普段のライブとはまた違う演出とかもあるだろう。それと比べるのなら普段のライブも観た方がいいんだろうけどもね。

 

 

 

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